~「安全」への偏執からイスラエルが繰り返す暴挙~

■宗教・民族から見た同時代世界

~「安全」への偏執からイスラエルが繰り返す暴挙~  荒木 重雄

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  パレスチナのガザでは、昨年暮れからの3週間余り、イスラエル軍の暴力が吹
き荒れた。パレスチナ人の死者1300人以上、負傷者5300人余り。犠牲者の70%は
民間人で三分の一は子供とされる。避難民が身を寄せあう国連施設を砲撃したり
、非人道的な白リン弾を使用したり、病院や救急車まで狙い撃ちする、潘基文国
連事務総長をして「強い怒りと抗議」をもって「過剰な武器使用」と断ぜしめた
国際法違反の無差別攻撃であった。
  因みにこの間のイスラエル側の死者は兵士10人に民間人3人である。
  マスコミ報道では片隅や裏に押しやられながらじつはことの本質を示す事柄の
幾つかを振り返っておきたい。


◇◇先に手を出したのは誰だ


  まずは開戦の理由である。
  イスラエルは、ガザを統治するイスラム過激派ハマスが停戦を破ってイスラエ
ル領内へロケット弾攻撃を開始したことへの報復と主張している。
  殆ど実害をもたらさない「抵抗の象徴」ほどのロケット弾発射へのあまりに度
を越した報復であったが、しかし、そもそもハマスがロケット弾攻撃再開に踏み
切ったのは、イスラエル軍がガザに侵入してハマスの戦闘員6人を殺害したから
ある。停戦破りはイスラエルの方であった。
 
  じつは、イスラエル国防省は6ヶ月以上前からガザ攻撃の準備をすすめていた
、と暴露したのは当のイスラエルの有力紙ハアレツである。同紙が報じるところ
によると、すでに昨夏、バラク国防相は軍にガザ攻撃の準備を指示し、ハマスの
拠点の情報収集を命じたという。「長期にわたる準備、慎重な情報収集、秘密の
協議、偽情報による世論誘導、それがガザ攻撃の背後にある」と同紙は指摘して
いる(朝日新聞1/17)。
  この「偽情報による世論誘導」に惑わされ、イスラエル国民も国際社会の私た
ちも「最初に手を出したのはハマス」と信じ、イスラエル軍の攻撃を支持したり
、非難しながらも半ば容認したのである。


◇◇ハマスは過激派組織か?


  事態を見誤らせる要因のもうひとつに、マスコミが常套句とする「イスラム過
激派ハマス」という表現がある。「過激派」とのレッテル貼りで、アルカイダな
どと一括りにされ、「テロとの戦い」で根絶されるべき邪悪な存在とイメージさ
れるのである。が、実態はどうか?

 2006年1月、パレスチナ全土(ヨルダン川西岸とガザ)で行われた総選挙でハ
マスは過半数を獲得し多数派を制した。これは国際的な監視の下で実施された公
正・民主的な選挙の結果である。人々は、汚職にまみれて統治能力を失い、しか
もイスラエルに追従的なファタハの自治政府を見限り、地道な福祉・社会奉仕活
動に加えイスラエルの占領に対して毅然たる抵抗の姿勢を示すハマスに期待を寄
せたのである。
  自らの意に副わないこの勢力の台頭を目にしたイスラエルと欧米諸国(とりわ
けブッシュ政権の米国)は、選挙によって民意を得た政権党たるハマスに「過激
派」のレッテルを貼り、その排除を策して、海外援助を凍結し兵糧攻めを企てた

 これにより、ハマスとファタハの抗争は過熱し、ついに07年6月、パレスチナ
はガザ(ハマス)とヨルダン川西岸(ファタハ)に分裂した。以来、イスラエル
はガザを封鎖して住民の生活を一層の窮地に陥れ、他方、西岸には欧米諸国が援
助を再開して、ガザ住民のハマスからの離反を策したが、その思惑が実りそうも
ないことを知って、ハマスを一挙に殲滅しようと企んだのが今回のガザ攻撃であ
った。

 しかもそのタイミングが、イスラエルの総選挙を控えた与党の人気取りであり
、オバマ新政権に予想される米国の政策変更前の駆け込み攻撃というのだから、
犠牲者の無念もひとしおであろう。


◇◇大局を見失ったイスラエル


  イスラエル国民は自国軍のガザ攻撃を90%が支持したといわれる。慄然とする
数字だが、それは、ナチスのホロコーストを経験し、また、パレスチナ人の土地
を奪って自らの国を造っている事実からの、「安全」についての強いこだわりか
らであろう。しかし、力を振るうことがはたしてこの国の安全につながるのか?

 理不尽な封鎖や暴力で生活や家族を奪われた者の怒りが高まるのは当然のこと
。今、ガザの若者や子供たちの間ではハマス戦闘員の志願者が急増しているとい
われる。イスラエル側の思惑とは裏腹に、悲惨な体験をへたガザ住民の民意は、
ハマスから離れるどころか一層ハマスとの結束を強め、ハマス支持を広げている
のである。
  ファタハ支配の西岸においても、ガザ住民とハマスへの連帯意識が強まり、イ
スラエルや欧米諸国が協力的な交渉相手とするアッバス議長が率いるファタハの
影響力は低下している。

 強硬姿勢への反作用はパレスチナだけではない。ガザ攻撃の間、周辺のイスラ
ム諸国をはじめ世界各地でイスラエルを糾弾する市民の抗議行動が広がっていた
。フランスではシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)が相次いで襲撃され、放火された
り、壁にナチス・ドイツの紋章ハーケンクロイツ(鉤十字)が描かれたりして、
反ユダヤ主義の台頭さえ懸念されたのである。
  イスラエルは「安全」への大局を見失っているといわざるをえまい。
               (社会環境フオーラム21代表)

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