~正念場に差し掛かった民主党~

■ 歴史的分岐点に立つ日本        榎  彰

~正念場に差し掛かった民主党~

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 世紀のチェンジ(変革)を標榜して米国のオバマ政権が発足してから一年有余、
日本では鳩山政権が歴史的な政権交代を果たしてから半年。ともに政権を掌握
して画期的な改革を試みてから、旧体制側からの執拗な抵抗にぶつかり、国民の
支持率も低迷し、足踏み状態を続けている。全般的な資本主義の行き詰まり、
近代的国民国家の破綻といった包括的な体制全般の危機も反映しているだけ
に、無理もないと思われるが、底流として国際政治のシステムの全般的な、と
いうより思想的な大転換も絡み、複雑な様相を呈している。

 いよいよ新体制初の試練とも見られる米国の中間選挙(11月)、日本の参院
選挙(7月)を控えた今春ごろから、第二弾というべき次の具体的な政策が登場し
てこよう。「具体的な政策にとどまるか、あるいはチエンジ(変革)をさらに前
進させる本質的な改革の第2歩となるかでオバマさらに鳩山が、歴史に名を残す
人物となるか、ピエロとして終るかの別れ道となる」。

 現在の国際政治のシステムとして、米中の対決、協調、あるいは各国間の思惑
の衝突といった国民国家同士の旧態依然とした駆け引きを主軸に、地域主義や非
国家行為体など新たな政治的統合体の国際舞台への出現が絡み、新旧を代表する
要素が輻輳する局面を見せることとになるだろう。

 特に日本の場合は、日米中の三国関係が、地理的な因縁も絡む、東西の価値観
の対立といった様相も見せるだけに、深刻な「文明の衝突」的な様相を見せてい
る。 「特に、米国に次ぐ第二の大国として中国が登場してきたことは、西欧に
始まる国民国家の時代が、終わりを告げたことを意味するのかどうかという深刻
な問いを、多くの政治指導者がいだきはじめている」。いずれにせよ日本では参
院選、米国では中間選挙が、今世紀の両国の運命を決する重大な転機となりそう
だ。


■日米関係の不透明さ


 日本で、民主党の人気が低迷し、支持率が上がらない理由については、党指導
部のリーダーシップがかけている、なにをしようとしているか不明であるーなど
党の指導性の欠陥が挙げられるとともに、改革に伴う反動として、政治と金に関
連する検察の追及、マスメデイアの悪乗り、普天間問題に絞られる日米関係の悪
化などの集中的結果だろうといわれているが一番の理由は、実は、米国でオバマ
人気の低迷と関連があるのではないかという説がある。あまり取り上げられない
が、米国の外交全般にわたる抜本的な見直しが近いのではないかという、一方か
ら見れば、期待感、他方から見れば危機感というか、漠然とした、不透明な未来
への見通しが日本の政局を覆っているのである。

 普天間問題をめぐっても、東アジアをめぐる国際情勢が激変しそうな雲行きが
ないわけはない。場合によっては、六カ国協議を舞台とした国際協議が大きく動
き、北朝鮮の非核化を中心とする集団的安全保障体制が動き出す可能性もある。

そうした場合、東アジアにおける、硬直した冷戦体制が、にわかに溶け出すこ
とも考えられる。事実上米国と北朝鮮との間の二国関係は、煮詰まっていると
も考えられる。そういった東アジアの国際情勢に対するオバマ政権の当面の政
策の不透明さが日米関係の現状の基本にある。

 いくつものシナリオが、ここ一年くらいの間に想定され、抑止力(海兵隊だけ
ではなく在日米軍さらに日米安保)、核の傘の有効性、日米安保の効力などをめ
ぐって、根底から問い直す機会が訪れている。もうすぐ公になるシナリオが読め
ないから対応策も打ちだしようがないというのが、鳩山首相の本音であろう。

鳩山内閣の不人気もひょっとしたら、そのへんにあるのかもしれないし、改革
を期待しながら、方向が読めない有権者の不満もあるのかも知れない。米国の
オバマ政権が、この11月の中間選挙華を前に、国内的には、健康保険制度の
改正とともに、外交面でも、中国対策を中心に、乾坤一滴の大勝負に出てくる
のではないか、という観測が日本の政局の底流にある。

 ブッシュ政権の新自由主義というより市場原理主義、単独行動主義等よりは新
たな「帝国」への衝動、つまりブッシュの暴走が、アメリカ政治史上かつてない
大きな破局を産んだ後だけに、ブッシュにとどまらず、レーガン以来の新自由主
義が構築した資本主義経済の改革にかかわるだけに、後始末には慎重な行動が不
可欠だった。でも中間選挙を前に、慎重な姿勢を清算、積極的に攻勢をかけなく
てはならない局面に差し掛かっている。

 その決断が、基本的には、核戦略を中心とする世界戦略の大転換、米中関係の
再構築、直接的には、イラクからの撤退、アフガニスタン問題の適切な処理にあ
ることは明らかである。日本のこれからの針路を左右しかねない米国の進路決定
がもたついているから、鳩山内閣の方針も定まらないというより、決めかねてい
たずらに右往左往したり、旧体制の方針をただ暫定的に踏襲したりしていること
が、不人気の原因なのではないかという見方である。そのもっともよい例が核密
約問題であろう。

 暫定的に処理した有識者委員会なるものは、旧体制の中で国連の政府代表を
務めた外交の中核だった人が、中心だった。この問題の核心は、第二次世界大
戦後の、日本政治史への反省でもあり、日米安保の信頼性、絶対性への反省で
あった。それを支える明治維新以来の「国家の無謬性」への信仰だった。マス
メディアが、ことさらに無視しているにもかかわらず、国民国家が意図的に過
ちを犯す、ということを、今度の場合は、認めたわけである。
第二次世界大戦敗北の際は、占領軍の政策によるものであり、それを東京裁判
が具現化した。

 それを修正しようと、東京裁判史観を敵視する運動を、森内閣以来、とくに小
泉内閣、安倍内閣が率先して展開した。国家無謬説を再建しようとしたわけであ
る。旧体制部内でも反発がないわけもなく、核密約説は、外務省OB内部から明る
みに出された。国家無謬説は、二重の「過誤」であることが、核密約暴露で再確
認された。55年体制のごまかしが、明るみに出された形であり、いまこそ、か
つての「国体」と化した「日米安保体制」を根本から見直し、当時、いくつもの
選択肢があり、日本国民は「選択肢として安保を選んだ」ということを認識すべ
きだとする見方が強くなってもおかしくはない。

 しかし、鳩山内閣は、踏み込まなかった。最近、鳩山首相周辺を取り巻くブレ
ーンには、官僚や官僚的体質の人が多く、特に外交の分野では、激変を避けるべ
きだという見方が多いことを考えると納得がいく。しかしロシア革命の際、帝国
外交の暗部を明るみに出した数々の密約の中、英仏の密約として「サイクス・ピ
コの密約」が特に有名だが、外交史上、おおむねは、ボルシェビキの英断だとし
て好評だ。何でもかんでも前政権の責任だとして、オープンにするのではなく、
むしろ無謬説を象徴するような出来事は、洗いざらいさらけ出すべきであろう。
 
  オバマ大統領は、9年のチェコでの演説で、「核なき世界」を強調し、核戦略
の抜本的見直しを宣言した。核兵器がなくとも、通常兵器で十分抑止力を準備す
ることができるという趣旨だが、世界でただ一カ国だけ核被害を受けた国として
は歓迎すべきだろう。世界はオバマ演説を高く評価し、いち早くノーベル賞を授
与した。

 それが具体的にどういう政策に結実するは、まだ明らかになってはいな
いのに、である。朝鮮半島における非核武装地帯の実現、あるいはイランの核問
題の平和的処理など、六カ国協議を通じた集団的安全保障あるいは中東和平にも
つながる包括的安全保障にもつながる大問題でもあり、容易には解決につながる
道を発見しそうもない。しかしいずれの道をとるにせよ米国には、ただ一つしか
道はない。中国との対決のはらんだ協調への道だ。


■今後の道は、米中両極体制しかない


 実際の数字から、経済的には、いまや世界を動かしているのは、米中の両極で
あることは否定できない。あらゆる意味で、米国に次ぐ世界の二番目の国が中国
でありつつあることは自明であり、また長い目で見れば、米国がトップの座から
滑り落ちつつあるという傾向も否定できない。冷戦時代とは違って、イデオロギ
ーの面で見れば、ソ連型イデオロギーが、米国を席捲、支配するというようなこ
とが想像できるわけもない。

 双方とも、多民族国家であり、多文化国家になりつつあるから、民族問題、宗
教問題に対しては、比較的柔軟である。中国の場合、チベット、ウィグル問題に
ついては、センシチブであるが、仏教、イスラム教とも米国には宗教的関心は乏
しく、米国との関係に、共通点は見られない。チベット、新疆のウィグル族と中
国との関係には、紀元前からの歴史的いきさつがあり、長期的には、中国の領土
保全には、米国は関係がないとも思われる。

 米国は、新自由主義が崩壊して以来、中国の社会主義市場経済のアメリカ化に
は興味を示していない。また中国の人権問題にも、必要以上に関心を示してはい
ない。中国の近代化、西欧化には、ほとんど関心がない。冷戦時のソ連とは、ま
ったく違う。同じような発達状態を続けたソ連とは、用語も違うし、構造も状況
も異なる。違った次元での対立は やむを得ないかもしれないが、対決は避けら
れる。

 9年5月、中国を訪問したゲーツ米国防長官は、「アジアにおける米国の役割
は、保護者からパートナーへと転換」と語った。米国はオバマ当選を機に、イラ
クからの撤兵を既成事実とし、アフガニスタン戦争を、NATO(北大西洋機構)軍
に引き渡そうとしていた。それと同時に、中国にもアフガニスタン戦線に参戦し
てもらうようと試みていた。オバマ政権は、イラク、アフガニスタンからの撤兵
をベトナムからの撤兵と同様に大事業と見ており、そのためにゲーツ長官を留任
させ、撤兵に関する発言には、軍に対する配慮を含め、極力慎重な姿勢を貫いて
きている。

 アフガニスタンへの中国の協力要請もその一環であり、あらゆる手を尽くすこ
とも止むを得ないという心構えだった。ゲーツ長官は、席上、率直に「アフガニ
スタン戦争の失敗の可能性」に触れるとともに、米中共通の敵としてアルカイダ
を挙げた。ゲーツ長官に先立ち、4月にもホルブルック特別代表が訪中しており
、全面介入、国境の開放、さらに人道支援。アフガン警察の訓練、教育、軍と警
察の派遣まで要請したといわれる。米国は、アフガニスタン戦争への中国の介入
の見返りに中国の台湾統一への米国の協力という戦後史上かつてない交換条件を
ほのめかしたものと思われる。

 中国は、9年末から、「環球時報」はじめ、国内でアフガニスタン戦争に関す
る国内工作を開始した。いまのところ反対論が多い。反対の趣旨は、台湾問題は
、米国の介入するものではないという筋論から、米国がせっかく泥沼におぼれよ
うとしているのにそれを助けるべきではいないというものから中国がイスラム諸
国の民衆と関係が悪くなるという点を上げるなどしている。イラク作戦では、3
月の選挙をどうやら乗り越え、撤兵工作はスケジュール通りに進んでいる。

 イラク南部の油田、キルクークなど北部の油田などの確保は、果たしたものの
、事実上、イラクはシーア派、スンニ派、クルド民族の2宗派、アラブ、クルド
2民族の派閥に分割され、あまつさえ武装集団が割拠し、イラクという国家その
ものは一応存在するものの、国家の体をなしていない。形だけはイラクという国
家が辛うじて存在するものの、米国という圧力がなくなったら、どうなることや
らわからない。中国だってイラクに手を出す気はまったくない。

 アフガニスタンという存在はまた別である。テロリスト集団アルカイダが、タ
リバン政権の保護を受け、存在していた国でもあり、国連が決議で介入を認めた
国でもある。米国が中国に支援を求めるのもそこに理由がある。かつて武力介入
して苦い目を見たロシアにも、肩代わりを求めてきたとも言われる。最近中国は
中央アジアに目を向け、特に国境を隔てたアフガニスタンにもアイナク銅山など
に投資し、注目を集めている。米中が、今年いっぱいかけて交渉をつめ、アフガ
ニスタンの治安安定に協力したら、国際情勢は、激変するだろう。


■揺れる国際情勢の中での日米中関係


 鳩山内閣発足に先立ち、鳩山首相、小沢民主党幹事長に会った中国の高官は、
せっかく落ち着いた日中関係、表面上は安定の要素を見せる米中関係を、鳩山内
閣の対米対等方針でぶち壊しにしないようやんわりと要請したという。複数の親
中国派のジャーナリストなども、そういう趣旨の姿勢を示されたようで、ある学
者などは、日米安保条約による在日米軍は、中国や韓国など周辺諸国に及ぼす危
険を防ぐためのものだという「ビンのふた」論を改めて聞かされ、うんざりした
と語っているほどである。

 いまさら日本脅威論を振り回すほど対日強硬論が高まっているとは思えない。
米国のネオコンみたいな対中強硬派が、日米のタカ派が、結束して、対中攻撃を
仕掛けてくると理解したほうが耳に気持ちいいから、国内世論を統一するために
も好都合といえよう。しかしそれだけではあるまい。日米中の三角関係に激変を
予想したからこそ、日本には、しばらく静観して欲しいというメッセージだった
のだろう。中国が米中両極体制への準備が整うまで待っていて欲しいということ
だったのではあるまいか。

 2002年のピョンヤン宣言当時、中国は日本の独自外交に期待を賭け、裏切られ
たことがある。「戦後、日本政権が初めて自主外交を展開した」といい、当時の
小泉首相は、日米安保体制に独自の解釈を示すものと、中国側は期待したが、そ
の後の小泉首相は、急速に対米接近に舵を切り、ブッシュ支持に傾いてしまう。
当時ブッシュ大統領の対日工作はすさまじいものがあった。同じような急転換を
見せ、対米協調に全力を挙げた英国でも、いま、なにがあったのか、を探る公式
の政策点検が始まっているという。

 鳩山首相が、対米政策に対等といったところで、具体的な行動を見せて欲しい
というのが中国側の本音だったのだろう。3月の中国の全国人民代表大会(全人
大)で、中国は、これまでの二桁以上の伸びを見せてきた国防費の拡大を抑え、
前年度実績より7・5%にとどまり、21年続いた二桁の伸びを鈍化させた。もち
ろん世界的な不景気のせいもあるが、この兆候は際立っている。一方、国連工業
開発機関(UNIDO)の発表によると、9年の世界の工業生産のうち、19%が米国、
15・6%が中国で二位を占め、三位の日本の15・4%を抜いた。

 米国債の保有高を見ると、ここ2,3ヶ月、日本と中国は、2位、3位を争うよ
うに、なっており、中国と日本が、世界最大の大国、米国を事実上支えている状
況が見えてくる。いよいよアジアを中心とする国際情勢の新局面に即応する体制
を整えたと見るべきだろう。

 小泉首相を支えた新自由主義に傾斜、その後、自らの不明を謝罪した中谷巌氏
は、現代中中国が共産主義が主導権を握る社会主義国家である上、近年は軍備の
急速な拡大によって周辺諸国との緊張感を増幅させているとし、「国家」対「国
家」の次元で見れば、ここしばらくの間は、日米同盟が重要な意味を持つだろう
としている。

 しかし半面、歴史的にみれば、日本は中国と文化的基盤を共有し、欧米諸国よ
りはるかに親和性のある関係のうえに立った「民族」や「文化」の次元で見れば
、つい百五十年ほど前までは、非常に近しい関係にあったのだとし、日中の二面
性を踏まえた上、歴史や将来の可能性を探るべきだとしている。別に卓見だとも
思わないが、そういうものの見方を忘れ去っていた日本の知識人の見識のなさの
方が、驚くべきなのだろう。


■東アジア共同体への覚悟


 2010年は、東アジアにとっては、中国がG2へとのし上がろうとする勢いに周
辺諸国が巻き込まれ、大変な年となりそうだ。米国および欧州連合(EU)などは、
アフガニスタンへの全面介入を要請し、世界の大国として責任を果たすべきだと
しているが、中国は冷戦の解消を要求、駆け引きが続いている。G2-米中の両
極支配までまだまだ道は遠いけれど、具体的に道程は見えている。中国はまだま
だ開発途上国であるという言い訳はそろそろ通用しなくなってきたし、冷戦の残
滓が残っているという第二次世界大戦の後遺症の解消という過程も、台湾および
北朝鮮問題が前進、具体的な日程に上ろうとしている。

 「国家の安全保障」を何者にも優先する国家同士の権力争いが後退し、非国家
行為体などが前面に出てくるようになり、環境、経済、疫病、テロ、社会保障な
どの脅威が、人々の安全を脅かしている。「人間の安全保障」が最優先する時代
が、到達し始めている。国民国家と同じレベルで、EUなどの地域統合が、政治的
共同体として、国民国家が解決不可能だった課題に果敢に挑戦しようとしている。

 また機能ごとに各種の非国家行為体が、国際組織、NPO、宗教組織などが、国
民国家が、できなかった課題に取り組み、実勢を挙げている。そういう時代の要
請の中で、すべてのテーマに、これまでとは違った意味がもたされる。アフガニ
スタンの全面介入もアルカイダなどのテロに対する全面戦争と捉えれば、国家の
国益と絡んでも、違ったアプローチが、可能になろう。北朝鮮の非核化を狙った
東アジアの核非武装地帯も、そうである。台湾問題の解決、東アジア共同体にし
ても、個々の国民国家の国益が優先する個々の国民国家の外交という次元から離
れた全体の人間の利益という観点から捉えれば、別の視点が得られよう。

 そういった兆候が、見え始めたとき、日本の平和憲法問題もまったくこれまで
とは違った視点から捉えることが可能になる。国際法と国内法が、どちらが優先
するかという問題も真剣に議論されよう。国際貢献は、まったく違った平面で論
議されよう。早ければ、来年の国連総会あたりで、そういう問題が、具体的に日
程に上ってくるものと思われる。

 最近出版された著書「資本主義の妖怪」の中で、アンドルー・ギャンブルは、
現在、資本主義社会が襲われている脅威として、デフレ、核拡散の危機、地球温
暖化など環境の三つを挙げた。いずれも資本主義とか近代化とはかけ離れたテー
マであるのだが、考えれば考えるほど、資本主義、社会主義とか、国民国家など
いった、深い思想的な点にぶつかる。いま、人類は政治的、経済的、文化的とい
ったもろもろの危機に際会しているのかもしれない。

(筆者は 元東海大学教授、元共同通信社論説委員長)

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