--誰がために農薬を撒く--

■ 農業は死の床か。再生の時か。       

-- 誰がために農薬を撒く --              濱田 幸生

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 先日の続きだ。この問題は、農業のある意味根幹で、リキが入った言い方を
すれば、哲学や自然観にも触れる問題だからだ。ああ、いかん、肩に力が入って
いるゾ。穏やか~に、穏やか~に、アダージョでいきましょうぞ。 なぜ、農民
がこんな危険なクロピクを使用しているのか、あるいは、逆に私の住む有機農業
の世界では使用していないのか。一方はJAの半強制的な防除暦(*防除の日取
り、農薬の種類を記した暦のようなもの)があり、一方はJAS有機認証がある
から・・・違う。そのようなことは表面的な事柄でしかない。 

 自然観が違うからだ。いきなりエラソーな大上段な言い方で、このタヌキ如き
がと思われるので恐縮だが、そうとしか言えないのだ。抽象的に言っても理解が
難しいだろうから、例を上げるとしよう。 そうだな、今の季節の有機のキャベ
ツ畑にいらっしゃい。モンシチョウのお姉さんが実に嬉しげに舞っている。ただ
食べて青い小さな糞をするだけなら可愛いものだが、恩を仇で返すというか、卵
を大量に生んで頂けるのが困る。卵は孵って青虫となり、しっかりと食い散らす
。震えるほどうれしい光景である。キャベツの芯に達するまで深く掘削する。こ
いつらは前世は炭鉱夫だったのだろうか。 慣行農法(*通常の化学農法のこと
)では予防防除ということをする。つまり、「食べられる前にやる」のだ。モン
シロチョウのお姉さんがやって来る前に、あらかじめ化学農薬をブン撒いておく

 するとお姉さん方は来たくても、行ったら死ぬのでいかないという寸法だ。こ
れは化学農薬半減の、いわゆるエコ農法の減農薬栽培でもまったく一緒。モンシ
ロチョウはそんな畑に行ったら確実に死ぬ。 しかし、天はよくしてくれたこと
に、ここに面白い昆虫を与えてくれたもうた。アオムシコマユバチさん、こちら
にどうぞ。皆さん拍手を、パチパチ!ご紹介しましょう、このアオムシコマユバ
チ氏は、その名のとおりアオムシの体内に寄生する。気味悪がらないでほしい。
そのような昆虫はいっぱいある。体内ほど心地よい、暖かで栄養豊富な孵化する
場所はないからだ。 そして体内で生まれたアオムシコガユバチ(舌を?みそう
な名)は、アオムシの体内から生まれて空に飛んでく。映画のエーリアンみたい
だが、これが正しい彼らの生き方なのである。当然出ていかれたほうのアオムシ
は死ぬことになる。 

 これが天敵関係というやつだ。このような天敵関係こそが、天が地球という惑
星の自然界に与えたもうた恩寵なのだ。つまり一種類の種のみが自然界を支配し
ないように、天敵を使わしその個体数を制限するメカニズムです。これを私たち
は自然界のバランスと呼んでいる。 天敵は、敵対関係にある種を完全に抹殺す
ることはしない。もしそのようなことをしてしまったら自分の自然界からの「取
り分」、つまりは餌がなくなってしまうからだ。だから、食べ尽くさずに、寸止
めをかける。一定枠で敵を残し、一定程度の繁殖は許す。増えたらそのぶんだけ
を食べる。人間の作り出したまがまがしいジェノサイドのクロピク野郎などと違
って、実に紳士的なのだ。このような天敵関係は地表のみならず、土中でも行わ
れている。 また、天敵関係は共生関係ともつながる。ええっ、真逆じゃないか
と思われるだろうか。これも例を上げよう。このモンシロチョウやハスモンヨト
ウ、シンクイムシが跋扈するのを避けるために防虫ネットなどを張るとする。こ
れは有機農業でもよくやる技術だが、実はこれも微妙な自然界の共生関係を壊し
ているのである。

 というのは、モンシロチョウは単なる悪玉のお姉さんではないからだ。このよ
うな鱗翅目にはこれに共生する有用な微生物が存在するのである。この菌類によ
って植物は活性化したり防御力をつけたりもする。だから単に殺すだけでは解決
にならないと有機農業のお百姓は言ってきたのである。 有機農業はJAS有機
認証のために殺虫剤や、土壌燻蒸などの化学農薬をつかわないのではない。語弊
があるが、消費者の健康が第一義ですらない。それは自らの責任を持つ畑という
自然界の中の天敵・共生関係という神の与えた恩寵を大事にしているからだ。こ
こが理解できないと、慣行農法と有機農業が本質的に別な自然観や哲学を有して
いることに気がつかないまま終わってしまうだろう。

              (筆者は茨城県有機農業推進フォーラム代表)

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