【編集後記】 

○突然の安倍辞任に国民は唖然とした。ある人は、「試験があるので急にお腹が痛くなり学校にいかなくなった子供」と言い、外電の論評では「飛べなかった翼の短いタカ」というのがあった。いずれもその「幼児性」を衝いて、「宰相」の退陣を論ずるものではない。このレベルの人間を「首相」とした自民党の責任は重い。また「日本会議」「教科書を作る会」など「タカ」仲間のお友達や安倍ブレーンとして世論を「国家主義」に誘導した論客の岡崎久彦・中西輝政・桜井よし子氏などは少し恥じ入って貰いたい。  
自民党は事あるごとに『政権担当能力』がないと民主党をなじるが、このお粗末さは自らの『担当能力』の衰弱を示している。その中で、福田首相が生まれる成り行きだが、アジア外交重視、靖国不参拝などの主張は小泉・安倍・麻生ラインよりはましのようだ。しかし政権の基本方向はコイズミ路線の継承であり、1日も早く解散し民意を問うべきであろう。 

○農業特集としてまず、先の参院選挙で民主党農業政策の立案者篠原孝氏の『日本型農業は、一ヘクタール営農にあり』を載せた。これは「オルタ」のために書かれたものでなく、「季刊あっと」6号(大田出版)の原稿の一部を著者および出版社のご承諾を得て転載したものである。去る6月、国会に篠原議員をお訪ねし「オルタ」への執筆を快諾して頂いた。しかし、この時期は7月の参議院選挙、8月の外国出張、選挙区行事と続く中で9月10日の歴史的な臨時国会を迎えるという議員にとって超多忙の時期であった。別の機会にとも考えたが『日本型農業は、一ヘクタール営農にあり』は民主党
農業政策の基礎になる基本文献の一つと考え、この号にした。関係者のお力添えに感謝したい。「オルタ」共同代表富田昌宏氏の『苦悩の農村でのたゆまぬ挑戦』と併せ読まれると日本農業の実像が分かると思う。私たち「オルタ」も日本を循環型社会に変える基本は農業にありと認識し、勉強を進めたい。
  篠原議員は自他共に認める農政の専門家で年金の長島昭議員とともに今回の参議院選挙で民主党を勝利に導いた功労者と言われている。私は篠原氏が議員になる前から生活クラブ生協の理論誌『社会運動』などでの発言を知っていた。たしか肩書きは「農林省農林水産政策研究所長」だったと思う。
また「オルタ」を毎号お読み頂いているとのことなので、これを機会に日本の農業・世界の農業について折に触れご寄稿を願いたいと思う。

○「オルタ」43号から始まった「海外情報短評」は「海外論潮短評」と改題し、ロシア語メデイアから、年に数回、石郷岡建日本大学教授にご執筆頂くことになった。石郷岡教授は「オルタ」43号『プーチン政権のロシア』で、『ロシアは長い視線でしきりに考えている。戦略的な考え方をめぐらすことに慣れていない日本が、このようなロシアの考え方についていくのは無理かもしれない。しかし、ロシアが主張していることや考えていることを、突飛なことと考えない方がいい。ロシアは悪者で、世界の鼻つまみ者だと考えていると思わぬところで判断を誤る』と指摘されている。まさにロシアが長い視線で何を考えているのかを紹介して頂きたいと思う。なお、石郷岡教授は雑誌『世界』の「海外論壇月評」でロシア語メデイアを担当され毎月健筆を振るわれている。是非、「オルタ」での視点と併せ読まれることをお奨めしたい。

○今月の「北から南から」は深センの佐藤美和子さん、北海道の南忠男さんとも休載となった。「オルタのこだま」では、まず、三重県津市「九条の会」事務局長として活発に活動されている高木さんから佐藤学教授の『憲法九条についての極私的考察』を読んでという感想が寄せられた。将来、「オルタ」紙上で、議論がより深まることを期待したい。ついで今井さんからは西村先生が「オルタ」44号の臆子妄論でNHKスペシャル『硫黄島 玉砕戦~生還者61年目の証言』を取り上げられたことに関連し、守備隊作戦主任参謀中根中佐がご自分の血縁者であったことの顛末が寄せられた。牛島兵団長およびその参謀たちの最後については誰も見てはいないので諸説がある。しかし『硫黄島の戦い』の本質は、兵団長と参謀の確執などにはなく、大戦略を欠いた戦争では、いかに数万の精鋭が勇戦奮闘しても所詮は無駄死になるという教えである。

○戦争の最終局面では、硫黄島・サイパン島・沖縄島と陥落し、悪夢のヒロシマ・ナガサキに続く。最近、当時の帝国陸海軍による戦争指導体制がいかにお粗末であったかが明らかにされつつある。少年期からエリート教育を受けた将軍や参謀たちが無謀な戦争を始め、日本を亡国の淵に立たせたのである。先週、米国映画『ヒロシマ・ナガサキ』を見た。この映画は日本が戦争を始めた背景から原爆投下にいたる史実を被爆者と爆弾を投下した兵士の証言を日米両国の側から画いたドキメンタリーである。
戦争終結のためには原爆投下が必要だったとする米国民が多数の中で、米国人監督ステイーヴン・オカザキ氏によって製作されたことに深い意義がある。是非、世界の「戦争を知らない」世代の人たちに一人でも多く観てもらいたいと思う。

                        (加藤 宣幸 記)

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