大阪100年の社会労働運動資料を守り伝える

〜逆境に抗し働く人々の「今」を支え、歴史を未来に伝えるエル・ライブラリー〜

谷合 佳代子

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1.嵐の中を船出
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 「日本一貧乏な図書館」を自称するエル・ライブラリーは、「官が捨てた図書館を民の力で再生させる」という、日本図書館史上前例のない難事業に期せずして乗り出すことになった、閲覧座席数8席の小さな図書館である。わたしはその館長兼雑用係。エル・ライブラリーの歴史は5年しかないが、そこには30年以上に及ぶ前史が存在する。

 2008年2月に橋下徹氏が大阪府知事に就任して「橋下改革」を断行、最初に廃止した施設が「大阪府労働情報総合プラザ」である。年度途中の7月に廃止という憂き目を見たその図書室は、わたしたち財団法人大阪社会運動協会(社運協)が運営を受託していた。大阪府の直営時代に比べて利用者を4倍に増やすという成果を生みながら図書室は廃止、社運協への補助金も全廃となった。

 年間総予算の7割を失うという極度の財政難に陥りながらも、プラザ廃止の翌日である8月1日に「エル・ライブラリー」という新たな図書館を自力で立ち上げることを宣言し、設立の趣旨を公表すると同時にサポート会員の募集を呼びかけた。4人いた正職員のうち1人を解雇、残る職員には大幅な賃金カットを断行し、以来5年間、極端な緊縮財政のもと、職員はさらに減員して2名になったがそれでも縮み志向に陥ることなく、いっそう幅広く活発な図書館運営を続けている。

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2.MLA融合型図書館
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 エル・ライブラリーは社会・労働専門図書館であり、その資料の核は『大阪社会労働運動史』(既刊9巻)編纂のために1978年以来30年以上にわたって収集した、書架延長170メートルの文書資料である。専門図書館には、Museum(博物館)、Library(図書館)、Archives(文書館)すべての資料が集まることがしばしばある。収集範囲から意図的に除外するのでなければ、専門性の高い資料というものは資料種別を問わずに集まってくるものであり、ある程度蔵書の核が確定すれば、あとは資料が資料を呼び込んでコレクションが大きくなっていく。例を挙げれば、

 1921年の労働争議の墨書請願書
 戦前のメーデーの写真アルバム
 昭和戦前期の労働組合旗
 友愛会の大会記章
 第1回メーデーの総指揮者が被っていた帽子
 三池争議のホッパーパイプ(棍棒)
 労働組合の周年記念時計
 上海総工会から贈られた花瓶
 昭和初期のミシン
 大正時代のロクロ旋盤用の手作り工具
 昭和初期の青焼き製図
 戦時中の「国民労務手帳」

などなど、品目だけをみれば図書館資料とは思えないものが並ぶ。古くは100年近く前のものから、最近のモノ資料まで。数はそれほど多くないとはいえ三次元の博物資料があることで、労働運動や社会運動・市民運動といった、一見堅苦しく思われがちな主題にも親しみがわき、展示会でも好評を博することができる。

 また、大阪総評と大阪同盟が解散して連合大阪が結成された1989年に、解散した二つの組合事務所にあったすべての資料を引き取った。結成直後の全電通大阪中央電報局の組合日誌はまさに手書き、世界で一点しか存在しない資料だ。そのほかにも、全電通が電電公社と交わした秘密協定、松下電器の仕事別賃金表、近江絹糸争議(1954年)を闘った労組のガリ版職場新聞や手書きの文芸サークル誌など、ほかでは閲覧できない資料も数多い。

 図書・雑誌について述べると、新刊書を購入し続けることが困難になったが、最新情報へのニーズを満たすため、苦しい会計の中からも労務専門雑誌の購入は続けており、サポート会員のリクエストに応えて新たなタイトルの購入も実施している。
 このように、エル・ライブラリーはMLAすべての資料を所蔵するMLA融合型図書館と呼ぶことができる。これらの資料を縦横に使ったレファレンスサービスが当館の専門図書館としての強みである。労働運動、働くこと、道具、市民活動、歴史、といったキーワードを立体的にとらえることができるよう、今後もMLA融合型図書館としての機能を継続発展させていきたい。

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3.がむしゃらな資金集め
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 年間3200万円あった予算のうち、2200万円を失うことがはっきりした2008年。その年度はまだしも途中までは公的資金があったが、ほんとうに苦しくなったのは2009年度からだった。2000万円以上集めなければ、どれだけ切りつめても家賃を払うこともままならない。2000万円では家賃、光熱費、通信費などの固定費を除けば、わたしたち職員には最低賃金ラインの給与しか払えない。しかも、人は減っているのに仕事は何倍にも増えている。寄付を集めるための広報や営業活動に忙しいからだ。黙って図書館に座っていてはお金は集まらない。ではどうするのか。次々と企画を打って寄付を集め、原稿執筆、講演、組合史編集の受託、バザー、古本市の開催等々によってなんとか運営費を捻出するが、その先には無制限の長時間労働が待つ。ライブラリー宣伝のために大阪マラソンにも出走した。53歳で突然マラソンを始めて、いきなりフルマラソンに挑戦。エル・ライブラリーの宣伝文句を背に大書してなんとか6時間44分かかって完走したが、広報活動も骨が折れるものだと実感した。全国から Twitter やメールなどで声援を受け、沿道からエル・ライブラリーの応援団に励ましてもらったことが楽しい思い出になっている。

 救世主も現れるもので、窮状を見るに見かねて手を差し伸べてくれる人たちが後を絶たない。無償労働かつ寄付金付きでボランティアをしてくださるシニアの方たちがエル・ライブラリー設立直後からわたしたちを支えてくれている。縁の下の力持ちはボランティアスタッフだけではない。給料を払えるかどうかもわからない状態なのに、わたしについてきてくれた館長補佐千本沢子(ちもと・さわこ)はエル・ライブラリーを支える大番頭だ。週2回勤務のアルバイトスタッフYも、すでに20年以上勤続で、英語が堪能、ポスターなどのデザインもできるマルチタレントぶりなのに、能力に見合わない低賃金で働き続けてくれている。彼らの献身と貢献にはどんなに感謝してもしきれない。

 毎年寄付を続けてくれる全国のサポート会員の励ましと、優秀な職員とボランティアスタッフに支えられていることが、わたしにとって何よりのエネルギー源だ。だが、世代交代という悩みの種も尽きない。今のままでは若い世代を雇うことができないのだ。「持参金500万円持ってきたら館長にしてあげます」という求人広告を出したら誰か来るかなぁなどと笑っているしかないのが現状だ。

 日常的に職員の数が足りないことも大きな悩みだ。社運協が資金を失うとわかったときに、事務局長を兼任していた赤本忠司理事長は私財を投げ打って運営を支えた。しかし、心労がたたって病に倒れ、退職を余儀なくされた。以来、法人業務を担える職員がいないため、ライブラリーの運営と法人業務とを谷合・千本のコンビで回している。一時は電話代が払えず電話を止められたこともあったし、ついに賃金不払いが現実化するのでは、という危機もあったが、どうにかこうにか運営も6年目に入っている。

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4.図書館サポートフォーラム賞を受賞——支え合う社会をめざして
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 大阪マラソンでは自館の宣伝とともに saveMLAK ——東日本大震災で被災したM(ミュージアム)、L(ライブラリー)、A(アーカイブズ)、K(公民館)の復興支援活動——の活動を広報することが目的であった。「助けられたら助ける。支え合う社会の実現をめざす」をモットーにして、当館は文化施設の復興支援のボランティア活動に3年間取り組んできた。

 そして働く人々のために、地域の人々のために、「社運協に資料を預けたら永久保存してくれる」とわたしたちを信じて資料を託してくれた人々への責任を果たすために、お金がなくても労働時間が激増しても、歯を食いしばって5年間、頑張ってきた。これらの努力が評価され、2013年4月に、「第15回図書館サポートフォーラム賞」を受賞することができた。これもひとえに大勢の人々から支援をいただけたおかげだ。

 支援に報いるためにもわたしたちは常に自分たちの活動を明らかにし、サポート会員を初めとする多くの人々に対して情報を発信しつづけている。寄付に対してはその使途を明らかにし、活動内容をメールマガジンや年次報告書(郵送)によってサポート会員に届けている。

 ライブラリーを支える精神的エネルギーも物理的基盤も、ネットワークの力によってもたらされる。そしてそれは、互いが支え合うことを理想としてこそ効果を発揮するネットワークである。「支え合う、助け合う」ことと「依存しあう、もたれあう」ことは違う。このことを肝に銘じつつ、受けた支援には図書館サービスの実践でお返しすることを忘れず、これからも精進したい。

★みなさまのご支援をお願いします。
1.サポート会員(年会費1口5千円)になって活動を支えてください。
 寄付金は税額控除の対象です。お申込みは lib@shaunkyo.jp まで。
2.古本市用の本や、バザー用品を寄付してください(送料はご負担ください)。
3.書き損じ葉書を送ってください。

詳細は http://shaunkyo.jp/support.html
送付先、お問い合わせ先
 〒540−0031 大阪市中央区北浜東3-14 府立労働センター4階
 電話:06-6947-7722 メール:lib@shaunkyo.jp

 (筆者は大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)館長)


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