【沖縄の地鳴り】

「くさり、やまとぅ」島尻安伊子惨敗の沖縄と一名区での野党勝利

仲井 富


<はしがき>
 参院選投票日の5日前の火曜日、国会図書館からの帰途、参議院会館の前で、キレイな女性の歌声がする。近づいてみると長年にわたって辺野古反対の座り込みをしている女性数人の方々だった。もう10年以上、ここで辺野古新基地反対の座り込みをしている。歌声の主は車椅子の老女だった。「きれいな声だね」と言って500円玉をカンパした。最高齢は90歳を超えて、腰も曲がっている。沖縄の選挙の話をして「あの島売り安伊子を何としても落とさなければ」と言うと、おばさんの一人は「うん、あれはいま、しくじり安伊子と言うんだよ」と言った。そしておばさんはこともなげに「もう結果は分かっている。6・3で伊波洋一が勝つよ」と言った。私はえっと思った。そんなに楽観できる相手ではないと思ったからだ。

◆菅官房長官が送り込んだオール沖縄打倒の仕掛け人

 この3年間、沖縄自民党と仲井真前知事の辺野古回帰をリードしたのは島尻安伊子だった。権力欲の塊で、010年の参院選では「辺野古県外移設」を掲げて当選。012年末の自民党政権復帰後はまっさきに「辺野古移設」に変身した。そして沖縄の4人の国会議員全員を「辺野古移設反対」から「移設賛成」に変えさせた。しかも最後には仲井真前知事を「辺野古移設賛成」に転向させた張本人だ。
 沖縄では島尻のことを「くさり、やまとぅ」(腐った大和人)と呼ぶ。「くさり、やまとぅ」とは、「沖縄に居ながら、自らの地位を守るため、あるいは自らの出世のために、沖縄を裏切り、踏み台にして、のし上がろうとする者」のことだ。沖縄人ではなく宮城県出身の「やまとぅ」だからこそ、非情な背信行為を平然としてやってのける。その論功行賞で安倍首相と菅官房長官のお覚えめでたく、ついに沖縄・北方領土担当相という役目を手に入れた。

 今年の参院選挙でオール沖縄の翁長知事の体制を打破するために、なりふり構わぬ菅官房長官お得意の利権、金権を最大限に駆使しての選挙対策だった。私の心は不安でいっぱいだった。08年の沖縄県議選の野党勝利以降、参院選、総選挙、名護市長選、県知事選と辺野古問題を追究してきた。08年の沖縄県議選で野党過半数以降、すべての全県的選挙で11回にわたり、辺野古移設反対の政党と政治家が勝利してきたと書いて来た。そして今回の参院選こそ、その最後の選挙だった。いままでの流れで行けば島尻落選は目に見えているが、今回はそう簡単ではないと思ったからだ。あの「人寄せパンダ」小泉進次郎を宜野湾市長選に登場させ現職を大差で勝利させた。今回も終盤近く那覇市内で小泉と島尻をドッキングさせた。6月26日には、菅官房長官が直々に県内の保守9市長会や、町村長などを招集して「島尻支持を」の号令をかけている。島尻が大臣としている限り、沖縄県市町村の面倒は見るというわけだ。

 今まで辺野古県外国外移設の公約を破った政治家はすべて敗北している。まず民主党政権の鳩山、菅によって日米合意容認に回帰し、日米地位協定改定、対等な日米関係と言うマニフェストも消えた。したがって民主党は菅直人首相の010年参院選で敗北した。この時島尻は民主党が投げ捨てた「辺野古県外国外移設」の旗を掲げて当選した。その後014年11月に辺野古移設に転じた仲井真知事は翁長知事の「オール沖縄」に10万票の大差で敗北。同年12月には背信の自民党議員4人全員が落選、オール沖縄が議席を奪還した。
 自民党の4人は比例区復活をとげたが、残るは背信の首謀者「島売り安伊子」の議席のみとなった。これを死守することが自民党政権の至上命題となった。島尻こそ、安倍首相と菅官房長官が、オール沖縄勢力打倒の必殺仕掛人として「沖縄・北方領土担当相」として送り込んだ本土側の悪代官だった。しかし結果、予想以上の大差で「島売り安伊子」は敗退した。私は、開票速報と同時に「伊波当選確実」との報に驚いた。まさに国会前の80代から90代のおばさん達の「もう6・3で勝つよ」と言う予言が当たっていたのだ。
 私は個人的には民主党政権以降の裏切り本土政党に愛想を尽かしたから、最後の裏切り仕掛け人の敗北を見届けるまでは死ねないと思っていた。いまは実に爽快な気分でこの原稿を書いている。以下は琉球新報記事の要約である。

◆伊波氏が大勝、沖縄相・島尻氏に10万6000票差
 <琉球新報 016・7・11>

 第24回参院選は10日、投開票が行われ、沖縄選挙区は無所属新人で元宜野湾市長の伊波洋一氏(64)が35万6355票を獲得し、初当選した。24万9955票だった自民現職で沖縄担当相の島尻安伊子氏(51)=公明推薦=に10万6400票の大差をつけた。伊波氏の勝利により、参院沖縄選挙区の非改選1議席と衆院小選挙区の4議席を含め、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する「オール沖縄」勢力が国会の沖縄選挙区の全議席を独占する形となった。全国的に自民党が躍進する中、辺野古移設や憲法改正を推し進める安倍政権に対し、県内有権者は厳しい審判を下した。

 伊波氏は「基地のない平和な沖縄を」をキャッチフレーズに辺野古の新基地建設断念を前面に押し出し、支持を広げた。県政与党、那覇市議会会派の新風会、労組、一部経済界などでまとまる「オール沖縄」の全面支援を受けたほか、高い支持率を維持する翁長雄志知事との連携姿勢を打ち出したことで、保守層の一部も取り込んだ。宜野湾市長時代に取り組んだ福祉政策や県政が掲げる経済振興策への協調姿勢も訴え、無党派層にも浸透した。

 島尻氏は保守の県議や首長、経済界などを中心に運動を広げたが、2期目の当選を果たした2010年選挙で公約に掲げた普天間飛行場の県外移設を撤回したことに対する反発が強く、序盤から苦戦した。選挙戦では経済振興や子どもの貧困解消に向けた予算確保など現職閣僚としての実績を強調したが、4月に発生した米軍属女性暴行殺人事件も県民の反基地感情を強め、保守層の一部も離れた。

 投票率は前回の13年参院選の53・43%から1・03ポイント上がり、54・46%となった。当日有権者(在外含む)は115万806人(男性56万368人、女性59万438人)だった。

◆島尻惨敗だが比例区票ではオール沖縄を超える自公維新票

 今回の島尻惨敗は、まず得票差に表れた。伊波は翁長知事が014年に仲井真との知事選で約10万票、正確には9万9,745票差だったが、それを上回る10万6,400票の大差だった。沖縄の戦後政治史でも日本の戦後政治史においても、現職閣僚としては歴史に残る屈辱的大敗であった。
 同じく現職閣僚が敗退した福島県でも自民の現職閣僚が敗れたがその差3万票程度、沖縄・北方領土担当の島尻大臣の惨敗は、安倍政権の菅官房長官が直々沖縄現地に赴いてあらゆる業界、市町村長を招集して予算配分や振興計画、さらに辺野古現地の誘致派に交付金を配る法律まで作るというバラマキをやりまくった末の惨敗だった。目玉の東北5県、新潟などでも敗北し頭を抱えている菅官房長官の顔が浮かぶようだ。

 さらに沖縄の比例区票で奇妙なことを発見した。過去3回の沖縄参議院選の結果は3回とも「辺野古移設反対」を掲げた候補者が勝利した。裏切り島尻が当選した010年はさておき、013年と016年の2回とも、辺野古移設賛成の自公維新3党の比例区票は常にオール沖縄を圧倒している。

 今回の選挙における与党3党の比例区得票は、以下の表によれば合計約29万票だ。対するオール沖縄側は、社共民進3党で合計約24万票弱となる。まともにゆけばオール沖縄勢力は敗北しているはずなのに、なぜ36万票対25万の差となったのか。これを解いて行けば、沖縄及びその他の一人区選挙、さらに一人区といえる対決型の知事選挙で沖縄県をはじめとして滋賀や佐賀、埼玉、長野、そして今回の鹿児島県知事選の自民敗北が見えてくる。
 安倍政権の持つ自民一強体制は「争点のある対決型選挙には負ける」という弱点を持っているのだ。ということは与党の比例区票といえども、争点がしっかりしていて納得できるものであれば、自公維新の支持者といえども野党側や反対派の勢力を支持するということだ。その弱点を最も警戒しているのが、菅官房長官である。だから敗けそうな岩手県や埼玉県知事選では不戦敗けを選択してきた。

 比例区票ではオール沖縄に5万票の差をつけて優位に立っている与党が、10万票余の惨敗を喫するのは、野党の力でだけではなくて、与党内部の保守リベラルという部分が大量に離反することによって起きる。したがって大阪やその他で相も変わらず自公民連合型選挙をやっている府県では、民主党は完全に失墜している。その典型である大阪では前回に続いて4名区ゼロ議席で共産党の後塵を拝した。今回の沖縄選挙区で10万票余の大差を演出したのはオール沖縄の勢力ではなくて、勝因はむしろ保守と無党派層の自公維新の「島尻支持ノー」の意思表示であり、それが「伊波支持」への投票行動となった。

 沖縄自民党は、今回のような「島売り安伊子」をトップに据えただらしなさ、見識のなさに無党派層や支持者が反乱を起こしたことを自覚すべきだ。オール沖縄の側もこの実態をきちんと総括すべきである。基本票では遥かに与党側の比例区票に圧倒されているのに「辺野古移設反対」では、勝ち続けているのは、じつは保守勢力や無党派層の援軍があってこその大勝なのだ。いわゆる「護憲派勢力や護憲政党が勝った」などとすべての運動を「九条護憲」に収れんする、単純な選挙総括をやってはならない。もはや日本国内には護憲勢力は有権者の半数以上存在するが、その大半は保守リベラルや無党派層のなかに存在するという認識が必要だ。護憲政党は社民党の消滅が示すように、共産党以外は存在しないといっていい。

<沖縄参院選における主要政党比例区得票>
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  政党     016年     013年
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  自民     160,169    140,234
  公明     86,896     90,980
  維新     44,101     60,287
  共産     90,060     51,346
  社民     69,821    102,301
  民進     75,417     36,431
  生活             11,471
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◆公明維新の比例区票と無党派層の票が野党統一候補に流れ伊波圧勝

 朝日新聞の全国的な出口調査で注目に値するのは、以下の図のように無党派層が野党統一候補に56%が投票している点だ。これは07年の参議院選挙における民主党などの過半数獲得、さらに09年の民主党政権成立の当時の無党派層の支持傾向と同じ流れが起きているということだ。その後民主党政権の失敗によって無党派層の離反が起こり政権は崩壊した。無党派層は棄権という形で政治離れが起き、支持政党が分散化した。しかし今回は野党統一候補が32の全一人区で成立したことで、政治参加の機運が高まった。その結果が無党派層56%支持という07年参院選以来の動きとなった。

(図)朝日新聞 016・7・11 1人区・各党支持層の投票先は
画像の説明
 沖縄選挙区では、無党派層の71%が野党統一候補の伊波候補に投票している。これは大変なことだ。前回翁長知事も無党派層61.96%と仲井真を圧倒したが、今回はさらに上回る71%という驚異的な支持を獲得した。また無視できないのは公明党支持者だ。今回は自民党に軽減税率を飲ませ、3万円の給付金をばらまく約束を取り付けたために、公明県本部は、従来の辺野古移設反対で中立の姿勢を転換し、島尻支持に切り替えた。だが朝日出口調査では、公明党支持者の34%が伊波に投票したと回答している。これは2年前の翁長対仲井真の知事選挙で、同じ朝日新聞の出口調査と同じである。辺野古移設で中立の姿勢を取ったが、公明支持者の34.75%が翁長に投票した。今回は辺野古推進の自民党島尻を推薦したのに、前回と同じく34%が伊波候補に投票している。公明支持者といえども仲井真、島尻の背信行為を許さない人々がいるのだ。

 驚くべきことに沖縄維新は、今回4万4千票の比例区得票だが、朝日新聞の出口調査では「全国的な野党統一候補への投票では46%が野党に投票、与党候補には34%」と言う結果となっている。ということは沖縄では維新支持者の半数以上が伊波に投票したことになる。これはすでに一昨年の滋賀県知事選挙でも証明されている。維新支持者は橋下の「身を切る改革」姿勢は支持するが「常に与党支持」ではない。対決点が明確であれば野党候補に投票する柔軟さを持っている。流動的な政治改革指向の支持者が多いと見ることができる。大阪維新は自公民連合などの既成組織と闘って勝利した。ゆえに維新が安倍政権に接近しすぎると支持者は離反する可能性を常に含んでいる。おおさか維新の沖縄代表下地幹朗代議士は安倍政権にすり寄って宜野湾市長選で勝ったものの、島尻支持で惨敗した。実家の建設業と辺野古移設をはかりにかけた二股代議士がどう動くかも注目したい。(朝日聞016・7・11 1人区出口調査 公明支持層24%野党統一候補へ 峰久和哲)

◆野党統一候補が完勝した東北、北と南から自民一強体制への反乱が始まる

 マスコミを含めて参議選結果を「改憲勢力三分の二へ」と言う大見出しで報じた。友人各位はそれに引かれて、護憲勢力は敗けたなどと悲観されている。とんでもない勘違いだ。もっとも安倍政権が勝ちたかった沖縄での歴史的惨敗記録更新、さらに鹿児島県で原発一時停止の三反園知事の勝利。北では北海道がTPP批判票などを含めて久方ぶりの、3名区2名と言う快勝。さらに驚くべきは、震災復興と原発事故の東北で、秋田を除く5県で野党統一候補が接戦をしのいで勝利した。
 極め付きは新潟県選挙区だ。ここには原発再稼働に頑強に抵抗する知事がいる。保守多数の県議会、また市町村長など総動員して森ゆう子打倒に結集した。安倍首相は前回1日を沖縄選挙に投じたが、今回は沖縄は敗北とみて見捨てた。そのかわりに生活の党唯一の統一候補となった森ゆう子打倒のために、3度も新潟に入るという執念を見せた。にもかかわらず自民党が予想する以上の激戦区となったために投票率も向上した。

 地元紙新潟日報が、激戦の末、2,000票差と言う僅差で野党統一候補の森裕子の勝利を要旨以下のように報じた。—初の1名区選挙となったが野党統一候補で無所属の森裕子氏が現職の泉八一氏をわずか2,579票差で振り切って幕を閉じた。野党各党の候補が前回選で個別に得たのは最高でも約20万票、今回森裕子氏が得た56万票は広範な野党共闘に、投票率向上で急増した無党派層の票をうまく取り込んだ結果。共闘のポイントは長年独自候補擁立を続けてきた共産党。今回の比例代表でも県内で8万9千票を獲得しており、底堅い組織票があるある。堅固な組織票はほぼ100%森支持に回った。投票率が60%近くに上ったことに無党派層の投票参加も森にプラスした。出口調査では森65%、泉35%と圧倒された。(新潟日報016・7・12 「共闘戦略奏功 組織力破る」)

 安倍政権が総力を挙げ、総理3日間、小泉進次郎、重要閣僚など総出で支援して敗北した。沖縄も新潟も同じ与党の公明維新票の野党候補への投票、無党派層の支持過半数と共通している。自公民社民連合の既成政治勢力に乗ってきた大阪はほぼ消滅した。地域の個別的課題で明確に対決した辺境の地では勝利を呼びこんだ。この教訓に学べば「改憲派議席三分の二」などと浮かれたり、落ち込んだりするのが如何に見当違いかわかるだろう。
 今回の「北と南の辺境の勝利」に私は乾杯したい。TPP、震災復興、原発、米軍基地など最大の争点となった選挙区で不信任を突き付けられた安倍と菅は落ち込んでホントは眠れない筈だ。三分の二などと騒いでいるが、世論はすべて安倍政権下の「九条改正」に反対だということも忘れないでもらいたい。民主党政権の010年の辺野古回帰以降、すべての裏切り政党と政治家が保革を超えた県民の「辺野古ノー」の意思表示によって敗北した。最後にもっとも「裏切り政治家」として許し難い島尻安伊子を最大の不信任票で葬った。沖縄県民の強固な意志に感謝しつつ、酒を呑まない私だが7月11日の夜はビールで乾杯した。

 (公害問題研究会代表幹事・オルタ編集部)


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