【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(55)

「カレー屋さん」たち(4)

   知って欲しい外国料理店で仕事する人たちの基本情報
坪野 和子
 
 今回少々長めの前置きを述べさせていただく。先月、メールボックスが満杯になり、受信も送信もできなくなるわ、大切な保管用メールが自動的にゴミ箱に移され、修復が大変なことになってしまった。↓下記は先月書いたものだ。

    だんだんと外国人の受け入れがはじまってきた。なんとうれしいことなんだ!私自身もインドに行く話が出た。この案件はなくなったのだが、同じようなチャンスも巡ってくる可能性が出てきたいうことだ。何もなければ…と前回申し上げたが、何もなかったわけではないが、前回の予告通り、無事?ナワブ・テラスモール松戸で働いてみた現場について述べることができた!「カレー屋さん」たちの話しを続けられることになった。
 とりあえず「withコロナ」くらいまで日本はすすんだ。どうか収束・終息しますように!

↑ここまで先月。ここから7月↓

 今月に入り、コロナ感染者が再び拡大している。日本国内だけではない。インドではいっとき1000人/日以下が続いたが、ムンバイなどいくつかの地域で再び感染者が増えている。私のオンライン授業生徒3家族が一時帰国(最中・予定)、1家族が転勤帰国(日本撤退)、友人1人が出張帰国、心配が増えた。そして、私自身も6月後半になって色々なことがあった。退院して2ヵ月のパキスタン出身の友人の介護とともにイード(犠牲祭と訳されている)のための山羊2頭を飼育する、それも日本で飼育するという、なぜかチベットでの経験が役に立ったこと。様々な理由で受験ができなかったオンライン授業生徒たちが日本語能力試験をやっと受験できたこと。インド人教え子と食事をして日本のインド料理店へのいろいろな苦情を聞いたこと。年頃になったイスラム教徒女性お見合い。日本の日本語学校入学希望者の手続きの手伝い。スリランカのこと、今まで「政治が悪いから」としか言っていなかった友人がデモの動画をSNSにライブで送っていた。

 安倍元首相のことでメッセージがくるのだが、私自身、インド関係は野田氏・森氏の下地の上に乗ったとしか思っていなかったので困惑している。バングラデシュはハシナと安倍氏の関係はお互いの利害だし、無意味な偽難民の国内受け入れていて「私はロヒンギャ」で通っている。しかもインド人・パキスタン人相手に売春行為をしている女性もいる。なぜか自国にお金をくれた人として追悼されている。どれもがこの「オルタ広場」の読者のみなさまにお伝えしたい内容だ。だが、せっかく先月書いたものがあるので、これらは後回しにして、パキスタン・インド料理ナワブのテラスモール松戸店でランチタイム限定2時間ヘルプ、パートのおばちゃん経験による(ゴールデンウイークだけだったが現在日曜日だけヘルプスタッフを続けることになった)技能ビザ(調理)で日本に来て色々な店を渡り歩いたシェフたちから学んだこと、日本人相手のカレーのビジネスなど、現場で知りえた様々なこと、意外と知られていないカレーのこと、またお客さまも様々であったことを続けたいと思っていた。書いているうちに、はてその前に彼らの基本情報を知っていただけねばと思うようになった。加筆修正していくとこの話題でも情報が多い。…ということで今回は基本情報のみとする。

◆知っていただきたい外国人シェフたちやオーナーのこと

 ご高覧の読者の皆様に知っていただきたいことがあったことに気づいた。それは、ナワブに限らず外国出身のシェフたちの「在留資格」と南アジア料理店のシェフたちの「国籍」である。

 まず「在留資格」。シェフたちは現地・または諸外国での実務経験(現地料理学校在学期間を含む)が10年以上である必要がある。またその証明も必要である。(タイ国は5年+直近1年の報酬証明)その条件がそろわなくては在留資格(ビザ)を取得することができない。私が関わったシェフたちは、それなりのプライドがある。技能(調理)という在留資格(ビザ)で大抵は1年ごとに更新する。シェフたちの多くは日本在住のオーナーが(大抵「社長さん」と読んでいる)現地でスカウトして連れて来るケースが多い。またベテランのシェフは在留資格延長を機により給料の多い店からの引き抜きやシェフ同士の情報で新店舗開店スタッフの募集などで渡り歩く包丁人?も多い。
 日本語学校を卒業してシェフになることはない。在留資格が違うからだ。ウェート・ウェーターは問題なく日本語学校卒業者(学生ビザ)から「就労」に切り替えることは可能である。金持ちのボンボン・お嬢さんがいきなり学生ビザから経営者になることは可能だがシェフを雇わなければいけない。
 シェフ自身が経営者オーナーシェフはあり得る(大抵は共同経営者が存在する)さらに日本人と結婚して在留資格が「配偶者」の場合は日本人の奥さんが経営者で料理経験がなくても厨房に立つことができる。のちに調理師免許を持てば問題ない。まず有資格者2人を雇用すればいい。

 次に「国籍」だ。

◆看板とオーナー・料理人の国籍が違う
 看板にインド料理と書かれていても店員の誰一人としてインド人がいないこともある、例えばスタッフ全員ネパール人。オーナーもインド人ではなく日本人であることも少なくない。バングラデシュ料理とあって同じベンガルでもインド西ベンガルのシェフが料理している、私の家の最寄り駅より二つほど先にあるくぬぎ山の「ひまわりカレー」は日本人とバングラデシュ人(出身?)の共同経営で、店の前にバングラデシュの国旗が立っている。私が知る歴代シェフはインド人だ。それも彼らは白井のパキスタン料理店から移籍してきたのである。店はバングラデシュの旗、シェフはインド人、出てくる料理はインド人が作るパキスタン料理である。美味しいが。

◆パキスタン国籍「ムハージル」
 オーナーや従業員も含まれるが、パキスタン国籍であっても祖父母がインドからパキスタンに渡った「ムハージル」も多い。「ムハージル」は第二次世界大戦後、インド領から独立したパキスタン領に移住した人たちの総称だ。新宿のパトワールの店長カリークさんはスリナガル出身だが親の手に引かれてパキスタンに渡った。「子どものころ怖い思いをしたのでインドはよく思っていない※」と言った。
※嫌いとか悪いではなく「よく思っていない」という日本語力が素晴らしい。
ナワブ・オーナーのシャキール・カーンさんもまた「ムハージル」である。彼の場合、インドの親戚筋から食材やスパイスを輸入するなど怨恨を感じていないようである。テレビ番組のインタビューでもそれを語っていた。しかし、現パキスタン領からインド領に移住した人たちへの総称はない。

◆第二次世界大戦前からの「インド国籍」を残す人達
 「本来の故郷」はパキスタン領だというインド国籍の人たちがいる。例えばシンド州(カラチがある海に面した州)から、パンジャーブ州(現パキスタン側のパンジャーブ)から、祖父母・親が海外在住のため、世界大戦後、パキスタンはインドから独立しても国籍がインドのままといったケースがあるのだ。そして宗教について言えば、イスラム教徒だけでなく、シーク教徒(ターバンの人達)、ゾロアスター教徒(※パールスィーとも言う)、ヒンドゥー教徒(※ルーツは南インド移住者でコミュニティとして残していた人たち)、稀だがキリスト教徒など、数だけいうとイスラム教徒ほどではないが、そういった人たちの分母を考えると高い比率であるといえよう。これは日本国外でも、いや国外でよくある話しである。
私は香港では朝食はインド系の料理のほうが調子いいので、食べに行く店のいくつかは現パキスタン領出身のインド料理屋だった。ハラルの表示がある。インド国籍なのか英国国籍かはわからない。そして、親などがすでに日本帰化している「元インド人」。かといって香港で同じようにインドから分離独立した旧東パキスタンのバングラデシュ人のお店には遭遇すらしたことがない。日本国内で日本人経営の店でこのケースがあった。「インド」という言葉とはイメージと違う様々な事情があるのだ。

◆身分系在留資格「定住者」「永住者」
 私の知り合いで本店はカレー屋ではないカレー屋が店長を雇っていることもある「定住者」「永住者」が何人かいる。国籍は明かせない。彼ら就労に制限がないため、調理師免許や衛生管理など日本人と同じ条件で資格を持ち料理店を経営し、自らも包丁を握っている。なかには日本の大学院博士課程を修了したインテリもいる。

◆結婚で「配偶者ビザ」「帰化」
 私が面倒をみたことがある元日本語学校の学生だったパキスタン人青年はある日「報告がある」とビデオ電話。ああ!報告って日本語をちゃんと使えるようになったのねと思ったら、「カノジョができた」と2人でドライブしているところを映し出してくれた。まあ婚約ってことだろう。そして数年後、埼玉県にふたりで料理屋を出したという報告を貰った。この時は電話だった。「いま日本人の配偶者」と言っていた。何年か先に子どもができたら帰化申請するのだろう。こういったカップルはパキスタン人に限らずネパール人、チベット人、バングラデシュ人でも知り合いがいる。いやすでに日本人だ。

 〇〇料理≠○○人が作った料理なのだ。今、一緒にナワブ・テラスモール松戸で仕事をしているアリさんが言った。「日本に来たばかりの頃(10年くらい前)、お店少ない、シェフ少ない。今、お店多い、シェフはコロナで新しい[人]がないから、仕事するは長い」この意味は「お店は増えすぎて本来なら在留シェフを取り合っていい給料で働けるはずが、1店舗の在籍シェフの人数が少ないのでシェフ1人の労働時間が長くなりすぎている。大手を選ばざるを得ない」

 さて、ナワブであるが、多国籍・多宗教のシェフで構成している。シェフのクチコミランキング「お給料の良い店」の第4位。「カレー屋さん」の裏側を知ることで在留外国人の人生を共有できる。そして、今、私が教えているITエンジニアたちが実はグローバルな仕事をしているのに、あえて日本を選んでいる。在留外国人の人生を共有できる。プライドを持って仕事をしている人たちがいるのだ。
 低賃金労働者探しをしている日本で自分の技能で生活している外国人。彼らを失望させて帰国や他国流入をさせないように、私たち日本人・日本出身者は彼らの能力を尊重できるアンテナを持ちたいものだ。
 次回は今度こそナワブ・テラスモール松戸店での実体験ルポ。

(2022.7.20)
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