【視点】

「マイナ一本化」は即刻、廃止を!!

「紐付け」とは、むかしの「検地」と「刀狩り」である
山口 道宏

「悪法も法なり」
 最高裁によれば「----行政運営の効率化や国民の利便性向上を目的としているほか、個人情報の利用も社会保障や税などに限定されていて、正当な行政目的の範囲内で利用や提供がされている」「情報管理システムから情報が漏洩する危険性も極めて低い」「個人情報が正当な目的の範囲を逸脱して第3者に開示される危険はなく、プライバシー権は侵害しない」はずだった。12桁のマイナンバー自体は合憲、というのが最高裁だ(2023.3.9判決)。
 マイナンバー法(「番号法」)成立は2013年5月だが、その後「憲法違反」と各地で集団訴訟が起きていた。

 最高裁は、いまの「マイナンバー」(「マイナ」)の混乱ぶりをみて何を思うのか!?

 健保証や口座など「紐づけ」の弊害など想定していなかった!?
 「正当な行政目的」も患者の「個人情報」の保護も大きく揺らいだ。「マイナ」をめぐるトラブルが各地で続発している。
 「悪法も法である」。終戦後の食糧難時代、闇市の存在を知りつつも山口良忠判事(1913-1947)は敢然として餓死の道を選んだ。施政者、法曹にとっては語り継がれるべきレガシーである。先頃、国会で成立した「マイナ一本化」(法)が、我が国の国民皆保険制度を崩壊させると、市井の怒りは沸点だ。
 マイナンバー(「マイナ」)の利用範囲拡大という「改正関連法」が6月2日、参院で可決、成立した。こんな悪法づくりに手を貸した政党はどこか!! 
 法は常に正義か、悪いものは早くに糾さなくてはならない。

「人為的ミス」!?
 社会保障、税、災害対策の限定を超えて、国家資格手続き、自動車登録にも適用といい、登記簿謄本、住民票取得もオンライン申請で可とか。預貯金口座との「紐づけ」では公金受け取りに際して返事がなければ「同意」とみなして同口座を一方的に登録するという。当初、政府は国民に対して「マイナ保険証」の導入には「(従来の保険証か)いずれかを選んで」が「マイナ一本に義務付け」の暴挙に出ると、2024年秋からはこの国から従来の保険証を廃止する方針と発表。任意だったマイナンバーカード取得を事実上の強制とするから「番号法」に反する。
 もはや、こんな事態だ。

 介護施設では「マイナ保険証の管理で余計な負担が生まれる」「紛失がこわい」「顔認証??暗証番号?? 要介護者の皆さんに、無理ですよ」「私たち介護スタッフが代行するわけにはいきませんから」「そうでなくても深刻な人手不足の現場に国はさらに厄介な仕事を強いてくる」
 在宅部門では「なんで、余計な負担を増やすの。それで介護がラクになりますか。酷い」認知症や一人暮らし高齢者からは「まるで国は私たちに死ねと言っているよう」と悲痛な叫びが。
 生活保護の領域では「頻回受診はないかなどチェックが可能になった」とケースワーカーが懸念する医療制限の始まりだ。「いまだって居住地以外の受診が難しいというのに」「なにが生活保護は最後のセーフティネットですか」と支援の現場が訝った。
 自治体でも「(マイナ一本化は)コロナにつづく災難ですよ」といい、住民からの「面倒だ」「不安だ」の抗議の対応に日々迫られている。「なにが『人為的ミス』(河野デジタル相)ですか。ややこしくしただけで仕事を増やしておいて実に腹が立ちます」

 診察を終えた町のクリニックの会計窓口でのこと。領収書の明細に見慣れない「システム基盤整備体制充実加算」という字句。「これって何ですか」「マイナンバーカードの提示のない方はこの春からご負担があります」。カードがないと初診料が上がる?? 知らなかったひとが大方だろう。窓口を見回せばカウンターにタブレットのようなものが。ここに「ご本人が(カードを)かざして。パスワードを入力して---」と説明がある。
 「どうするの」?? 高齢女性患者が窓口にカードを渡し!? やり方をきいている。

踏み絵
 医療の側からもNO!! が拡散している。
 「マイナ保険証の義務付けは憲法違反」と提訴した(2023.2.22東京地裁・原告・東京保険医協会)。町の開業医の団体が義務化の不当性を訴える。「マイナ保険証」(システム)は医師にとって患者の守秘義務を奪い、公開してはいけない個人情報の人権侵害になりかねないと。それは欧州のGDPR(General Data Protection Regulation「一般データ保護規則」2016.4 EU )にも真っ向から対峙する行為、と指摘する。
 国はそんな勇気ある医師の保険医はずしを仕掛けるのか。となれば「マイナ保険証」は国策の <踏み絵> か。ならば保険医をやめろ、と迫る気配だ。身近な「かかりつけ医」の先生も哭いている。
 そもそもこの国では保険証の提示で誰もが受診が可能で、即ち誰もが医療サービスが受けられる、の普遍的な生命尊厳の精神を有する(「国民皆保険制度」1961年・国民皆保険達成年)。日本医師会も「国民皆保険により日本は世界有数の長寿国を実現。日本の医療は世界からも高い評価を受けている」と謳っている。70年前、当時の政治家は、戦後ニッポンの国民の生命を永遠に守るのに懸命に汗を流した。

 一方、いまの政権はどうか。
 今後は「マイナ保険証」の未取得者には1年ぽっきりの「資格確認書」なるものを発行するという。ただし「資格確認書」は「マイナ保険者」より窓口では割高になる、というから二重のイジメだ。しっかり保険料を払っていても無保険者の扱い。その「資格確認書」自体も申請に依り、それがいやなら「保険適用が確認できないので自己負担で」と容赦がない。
 いうまでもないが、国民の医療受診は、国の施し(ほどこし)によるものではない。
 これまで初診時の提示でよかったものが「マイナ保険証」では毎回持参しろと。さらに5年ごとに役所に出向き交付の申請を求めよというから面倒を強いる。これまで更新時には新しい保険証が送付されたから申請など不要だ。なんという上から目線なのか!!
 「情報共有」の名の下で進む医療の抑制だ。診療と薬剤に関する情報が国の管理下だから「高い薬を使うなよ」「そんなに医者に通うなよ」といった介入が心配される。「マイナ」を用いて特定健診情報等、薬剤情報、医療情報を、ひとの行動を国が「閲覧」できる仕組みだ。

 「自分の受診歴や医療データは元々そのひとのもの、見られたくないのは当然のこと。もともとカルテだって患者さん本人のものですから」(都内・医師)。しかし政府は、開業医の高齢化が「新しいシステムについていけない」と争点ずらしで揶揄するから始末が悪い。
 街頭カメラ同様で顔認証で国民監視か。「総背番号制」「プライバシー不安」は現実になった。人権侵害だ。「マイナ一本化」普及のポイント勧誘に2兆円、巨大プロジェクトに1兆円とも噂される「マイナ利権」のにおいがプンプンだ。
 「データを集めれば役に立つ」は誰にとってか!! 業界では一元管理は一度流出すると芋づる式だ、という。昨今、医療機関へのサイバー攻撃の被害も伝えられる。「マイナ詐欺」が手ぐすね引いて待っている。

「マイナ一本化」はむかしの「検地」と「刀狩り」である
 「消えた年金」(年金記録問題・2007年・5000万件)を憶えておられようか。老いの暮らしの命綱といえる年金が「不明」になった事件だ。それは政権交代の引き金にもなり、国は多額の公金を使って追跡するが、15年経ったいまも2000万件は解明困難と伝えられる。
 件(くだん)のマイナンバーカード一本化(「マイナ一本化」)でトラブル続出だ。国策が進めるマイナンバーだが、そのカードと「銀行口座」「健康保険証」「住民票等証明書発行」との「紐づけ」で事故が多発。「他人の口座が」「他人の保険証が」「他人の住民票が」といった個人情報の <ダダ漏れ> だからヤバイ!!! 明日は我が身で事故はやがて事件となるも必至だ。安全性などどこ吹く風で、ひたすら普及を急いだ国は最大2万円のポイント付で人心を釣るからコロナ禍のGOTOキャンペーンと一緒の手法。これとて税金投入だ。

 国は事故をきっかけに5000万件の「紐づけ」を「点検」すると発表した。いよいよ国民は丸裸だ。というのは、国は「点検」と称して国民5000万件の預貯金口座(5.21現在「口座情報の点検全5432万件」)を覗けるから。「事故は想定内、そもそも出来レースだから」と霞が関の一部で囁かれている。大丈夫か!? 頻発するカード犯罪が頭をよぎった。デジタル庁と厚労省による仕掛けは善良な国民の心のうちに立ち入った。
 国は「マイナ一本化」で保険証廃止の方針というが、これだけ事故も多発すればいかに乱暴な施策か疑いの余地はない。我が国の誇る国民皆保険制度も揺らぐ。そもそも保険証さえあれば、が悪いのか。なぜ金融機関との「紐づけ」なのか。
 はっきり言おう。 「紐づけ」で喜ぶのはだれか!? 例えれば国が特殊詐欺の領袖で「ルフィ」になるのか!? 誰が「かけ子」になるのか!? 公の個人情報の奪取は特殊詐欺のそれに似ている。ワクチン接種もそうだが「国民の〇%が接種済」と同じ世論操作だ。我彼を争うのをみて施政者は舌を出すのだ。

 河野デジタル大臣!!
 私の身体のことは私が知っていればいい。他人に知ってほしくないのだ。私は、あなたの身体のことなど知りたくもない。あなたは私のサイフを覗くな。私はあなたのサイフもみたくないのだ。
 「マイナンバーの紐づけとは、むかしの『検地』と『刀狩り』です。前者は資産管理、後者はメディア管理になります。」(ある郷土史家)
 もはやマイナンバー自体が見直しだ。裁判所も運用への審判はない。行政に依る「情報漏洩罪」に誰がどう責任を取るのか!!
 「悪法も法なり」という。法律、制度の廃止へ蠢きはもう始まっている。

 (ジャーナリスト・元星槎大学教授)(2023.6.20)

(2023.7.20)
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