【コラム】酔生夢死

「二人羽織」の茶番が終わる日

岡田 充

 ―どうみても「二人羽織」の第三次安倍政権。行き詰まったら直ぐ安倍を裏切るべし―
 SNSに、こんなコメントを書き込んだのは、第1次岸田政権成立直後だった。自民党総裁選挙の決選投票で、安倍晋三元首相らの支援で総裁に当選した岸田氏を、落語の「二人羽織」に例え、キングメーカーの磁場から逃れられない「操り人形」と揶揄したのだった。

 しかし岸田首相は10月末の衆院選挙で予想以上に善戦。自民党の絶対安定多数を獲得し政権基盤を強化してから様相は変わった。岸田は安倍の反対を押し切り「知中派」の林芳正氏を外相に抜擢。米バイデン政権が決定した北京五輪への「外交的ボイコット」問題でも、安倍の息がかかる自民党右派議員連盟が求めるボイコット要求に対し「タイミングを見て、適切に判断する」と、はねつけた。
 少し驚いたのは、バイデン政権が主催した民主主義サミット(12月9、10日)への対応。参加の是非を前日の8日まで明らかにしなかったのは異例中の異例。さらにわずか2分の短いオンライン演説で岸田は、民主主義の発展は一定の時間がかかるとした上で、「歴史的な経緯の積み重ねの中での各国の取組を尊重する」と述べ、「民主か専制か」の二項対立に組みしない姿勢を明確にした。演説内容をめぐって時間がかかったと推測する。

 さて、羽織の後ろから首相を操れるはずだった安倍にとっては面白いはずはない。12月1日、台湾シンクタンク主催のフォーラムでは「台湾有事は日本有事、日米有事」と「日台運命共同体論」を展開した。現役首相時代なら口が裂けても言えないセリフ。
 13日に出演したBS日テレ番組では、「台湾で有事があれば『重要影響事態』になる。米艦に攻撃があれば、集団的自衛権の行使もできる『存立危機事態』となる可能性」とまで踏み込んだ。安倍が野党の反対を押し切って成立させた安保法制は、台湾有事をにらんだ法整備だったことを自ら暴露した形だった。

 対中政策をめぐる岸田と安倍の距離が広がる中、中国メディアは安倍名指し批判を開始した。「環球時報」は15日付の評論で安倍について「反中エネルギーを好き勝手に解放している」反中政治屋の「首席」と呼んだ。

 日本世論はどうか。NHKが発表した世論調査(12月13日)で、北京冬季五輪への「外交的ボイコット」賛成が45%と、反対(34%)を上回った。最大野党の立憲民主党の泉健太代表は外交的ボイコットの「選択肢は十分にあり得る」と述べ、日本共産党も「外交的ボイコット」を日本政府に求める声明を出した。
 これに対し鳩山由紀夫・元首相はツイッターに、「ポピュリズム的な強硬論ばかりが聞こえてくる。まるで大政翼賛会のよう」と投稿した。全く同感だ。世論や野党が翼賛化しているとすれば、政権交代など期待できない。与党内部の矛盾と対立は極めて貴重だ。ここは「二人羽織」の茶番を早く終わらせ、岸田に自由に持論を展開して欲しい。
 (共同通信客員論説委員)
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(2021.11.20)
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