◇北の便り(9)                 南  忠男

「五輪誘致見送る」~札幌市~ 上田市民派市長の勇気を讃える

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◇1万人アンケートで市民の意思を確認

 去る2月21日、定例市議会の冒頭に上田文雄市長は、「2016年以降の夏季五
輪の札幌誘致を見送る」旨表明した。この問題は、市議会の多数派である自民・
公明両党などの賛成多数で誘致が決議されたことからはじまった。もともと消極
的であった上田市長は苦境に立たされていたが、「市民1万人アンケート」の結
果など市民世論を背景にしてこのような決断をしたことは、市民派市長の面目躍
如たるものがあり、その勇気を讃えたい。
 
 この五輪誘致問題は、昨年2月、自民党北海道国会議員団が、橋本聖子参議院
議員(元オリンピック・スピードスケート選手)の思いつき提案で方針を決め、
同時期、さっぽろ雪まつりを視察した小泉首相が、「北海道で夏のオリンピック、
見てみたいね」と発言した、例の小泉パーホーマンスとリップサービスに踊らさ
れて一人歩きした無責任極まりないものであった。
 
 札幌市は早速、04年のアテネオリンピックをベースに所要経費を試算した結
果、五輪開催総経費1兆8千3百億円、札幌市負担分2千5百50億円となった。
単純な人口割で計算すると、札幌市民1人あたり14万円の負担となる。市財政
の負担能力、市の抱える諸課題と優先順位を考えると、答えはおのずとあきらか
である。上田市長は、市民に直接この試算結果をなげかけ、アンケートのかたち
で市民の意見を問い、その意見を市民代表として議会に報告したのが、今回の意
見表明であった。
 
 札幌市長は歴代、助役のリレーにより決められてきた官製市長であった。経済
の高度成長は石炭産業をはじめ、北海道の産業を没落させ、地盤沈下をもたらし
た。そのなかで、中央官庁の出先と、企業の支店・営業所が札幌に集まり、札幌
への一極集中がはじまった。このような時代には、助役~能吏型~中央追従~市
長が適当だったのだろう。しかし、札幌の特色は次第に失われ、現在の姿はまさ
にミニトウキョウそのものに変貌してしまった。
 
 遅きに失した感はあるが、3年前の市長選挙で再選挙(決戦投票)にまでもつ
れ込んで漸く、助役~能吏型・保守派・中央追従市長が退場し、市民派~上田市
長が登場したのである。しかし、少数与党で、この3年間あまり特色を出せなか
ったのも事実である。

◇オリンピック&サミットか?国連軍縮会議か?

 2016年夏季五輪にはすでに東京都と福岡市が名乗り出ているが、それぞれが
市民意思を反映したものか否か疑問視される。また、北海道ではすでに、誘致促
進派・自民党の各級議員・企業の一部を中心に巻き返しが始まっている。
 「オリンピック夏季大会札幌招致推進北海道議員連盟」を急きょ立ち上げ、会
長に町村信孝(通産、文部、外務等大臣を歴任)を担ぎ出した。

 少なくとも、北海道の国会議員に関する限り自民・公明は少数派である。
 問題の核心は、「地方自治の本旨」に対する理解の問題である。今回の札幌の
ような事態になった場合、地方議員は、首長に対し「議会軽視」と言うが、議会
の意思が住民の意思に反すると首長が確信した場合、住民の意思を貫くのが地方
自治である。日本国憲法が「首長の住民による直接選挙」等を保障したのは、「住
民自治」が「地方自治の本旨」であるとする所以からであり、地方自治法も、「住
民の直接請求」や「住民投票」制度を規定している。
 
 180万都市で「住民投票」は大変であるが、明年は統一自治体選挙もあり、自
民公明両党は、札幌市長選挙の争点にする構えであるが、結末は見えていると私
は確信している。
 
 政令都市で「市立大学」を持たないのは札幌市位だっただろう。札幌市は、デ
ザイン学部と看護学部を併置した「札幌市立大学」を立ち上げ、今春第1期の学
生を募集したが、競争率は30倍だった。競争率だけで大学の評価が決まるわけ
ではないが、デザインと看護の連携というユニークな発想が注目されている。そ
ればかりではない、全図書館(市立・区立17施設)を原則無休・閉館時間を午
後8時まで繰り下げるなど次々と新施策を展開している。
 
 2008年に日本で開催される「主要国首脳会議(サミット)」も「警備にかかる
費用など地元負担が膨大になる」等を理由に断念する旨、去る27日の議会で表
明した上田市長は、07年に予定されている「国連軍縮会議」については「07年
は平和都市宣言15周年。早い時点で国連に誘致の意思を伝えたい」と意思表明
した。オリンピック&サミットか?国連軍縮会議か?、憲法も9条問題だけでな
く、地方自治の本旨等が明年の北海道知事・札幌市長両選挙の争点になり、いよ
いよ面白くなりそうだ。(3月7日記)

                          (筆者は旭川市在住・元旭川大学非常勤講師)