■ 【対談】

「原発ゼロを目指して」

       司会:羽原 清雅
       出席者:近藤 昭一  阿部 知子
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【羽原】 この1年あまり安全神話の問題が改めて提起され、政府、政党をはじ
め東電など原発の取り組み方がチェックの無いままに進んだことや、電力料金値
上げ問題など、色々と電力供給側について気づいた面などの印象を一言ずつお話
し頂き、それから本題に入りたいと思います。

【近藤】 思う所は沢山ありますが、もともと私は原子力発電は早く止めるべき
だと思っていました。ただ、そう言いますと、もうすでに原発で3割の電力をま
かなっていると反論されました。でも、今は、最も電力を使う夏ではありません
が、動いているのは1基だけです。こういう中でもやっているということは、色
んなことが隠され、ごまかされてきたのではないかと改めて思っています。

【阿部】 私はすごく、単純でやっぱり事故は起こるんだということです。すご
く当たり前ですけが、私は医者ですし、原発はやはり無くした方がいいと漠然と
は思っていました。けれどそのための活動を猛烈にやっていたわけではない。た
だ、私の兄がたまたまNHKのアナウンサーで、スリーマイル島の事故の時に取
材をしたのですが、色々な所からの圧力で2年間ほどオンエアー出来なかったの
です。結果的にはかなり生々しい報道をして、それで賞を貰いました。

 今は亡くなった兄がその取材の後すっと言っていたことを今更のように思い出
します。例えば使用済み燃料棒の1つ1つのペレットは、ホタテ貝みたいなのだ。
これはパーッと散るとワーッと広がるんだよとか、3.11が起きて、はじめて、
ああそういうことだったのかと思い返しています。

 この原発事故が起きたあと、政府はただちに健康に害は無いとか何とか言って
いましたが、私は大学で4年後輩の児玉龍彦東大教授を国会に呼んで、この事故
が本当になんだったのか皆に話して欲しいと頼みました。広島型原爆の20個分
の放射性物質がバラまかれ特にセシウムは168.5個分。こんなことは言われ
ていなかったし、原爆の方はバンッとくるが、実は原発はすごく余波が大きいも
のなのだと昔、兄から言われたことをいま反芻してます。

【羽原】 今の政府とか、東電、あるいは保安院それぞれの取り組み方、どうも
ジグザグしているようですが、その辺をちょっとお話しください。4月24日の
朝日新聞で、内閣府の原子力委員長代理の鈴木達治郎さんが、原子力委員会の仕
事で安全面は、我々原子力委員会の管轄外ですと言っている。つまり、安全があ
って、原子力開発という問題が出てくるはずなのに、こういう認識は極めておか
しいと思います。そのあたりの印象を反省も込めて、一言お願いします。

【近藤】 原子力行政だけではなく、色々なことが日本の政治、或いは行政の中
できちっと行われてこなかったと思います。先日、米国の原子力規制院や、英国
の原子力規制庁の方ともお話をしましたが、私は原子力は反対なので、彼らとち
ょっとスタンスは違うのですが、彼らのスタンスは原子力は進めるが規制は徹底
的に規制するという、ある意味で分かりやすかったです。

 日本の場合は、先ほどもお話したように、色々なことを隠し隠しオブラートに
包みこみ、良いことも悪いこともはっきりさせて議論するというよりも、色々な
ことを誤魔化しながら進めてきた感じがします。ですから、今お話のあった原子
力委員会のこと、あるいは、そこに関連した原子力安全委員会とか安全保安院と
かがキチキチッとそれぞれの役割を明確にしてこない。よく原子力村と言われま
すが、そういう曖昧さを様々な所で感じています。

【阿部】 私も一緒ですね。原子力安全委員会の班目さんを、私たちは悪口で
「デタラメ」さんってよんでいます。彼は今の大飯原発再稼働は、安全面からダ
メなんだといっていますが彼は自分が任されたのは安全面で、再稼働判断は保安
院である。原子力委員会の鈴木達治郎さんは、自分が任されたのは、原子力政策
をどうしていくかですと。皆バラバラです。原子力政策は安全面や、国民の要求
や倫理面も含めて、最終的な意志をどこが決定するかという場が見えないのです。

 事故の前も今も同じように薮の中、誰がどこで何を決定しているのか、この面
で私はドイツとの違いをすごく感じました。ドイツは事故の直後に倫理委員会を
開いて、結論が出るまで原子力発電所を止めます。特に危険な8基はその後もず
っと止めるのですが、ただちに決めて次に行く。日本はバラバラ、誰が何を決め
ているのか分からない体制のまま、脱原発と言っていたのが、ズルズルと脱原発
依存に変わってしまう。政治の仕組みと言うか、民意の反映させ方など、非常に
日本の政治、行政のありかたは問題だと思いました。

【羽原】 近藤さん、阿部さん、そして自民党の河野太郎さん、みんなの党の山
内さん、公明党の加藤修一さんなどで「原発ゼロの会」が今年の3月に結成され
ましたが、この主旨というか、これからどう活動していくのかお話し下さい。

【阿部】 言い出しっぺなので私からお話します。実は3.11の後、どのアン
ケートを見ても国民はもう原発って、はっきり言ってもうイヤだ。一度ことが起
きたら、根こそぎ未来まで奪われてしまうというのが、偽らざる気持ちだと思い
ます。前菅総理もそのように感じられた。近藤洋介さんの出した3月下旬のシナ
リオで、もしあのまま格納容器が爆発したら、首都圏3000万が犠牲になり、
これはリスクがカバー出来ない技術なんだと思われた。

 ドイツのメルケルさんも同じことを言っています。しかし、日本の政治には、
その国民の思いを受け止める仕組みが全くない。ドイツは倫理委員会を作ったが、
日本は何も無い。常日頃から近藤先生や河野さんが、再処理も含めて原発を明確
にゼロにしようと言っていたのを知っていたので、見渡せばそう言う人がいない
訳ではない。各党に散らばっている。

 今、ねじれとか言われていて、政党政治も国会も機能しないなかで、国民の思
いだけが見捨てられている。何か受け皿をつくろうと言うので、今は7党派にな
りましたが、所属党派を問わず、とにかく原発をゼロにするのだと集まったので
す。脱原発依存と言うのは、ゼロにするとは言っていないのです。20%にする
ことを言うのかもしれない。でもそうじゃない。今ある54機全部廃炉、再処理
もしない。いつまでかと言うのは、国民の選択があるけれども、それで近藤さん
と河野さんにお願いに行きました。

【近藤】 今阿部さんもいわれましたが、3月11日の第1原発の事故は、残念
ながら万が一にも起きてはならないことが起きてしまったのです。そして、そこ
から出る影響も計り知れない。私は元々、原発には反対・慎重と言う立場にいた
のですが、今回の事故のあと国民の中から、「やっぱり起きてしまったのだ」
「原発は早く無くそう」「今すぐ止めるべきだ」という大きな声が出てきた。そ
れにもかかわらず、自分も国会にいて、政治が全く無反応だったとはいいません
が、その反応は必ずしも十分ではない。そしてまた、何か、それを押し戻そうと
する力が働いている気がしてならなかったのです。

 そう言う中で、政治家ですから、しっかりと国民の声を受け止めて、それを政
策にしていかなくてはならないのです。やがて無くなるだろうと言う人も多かっ
たのですが、やはり無くすと言う明確な政治の意志を示すことが大事です。阿部
さんが云われるようにゼロにしていく道筋を立てていかないと、また、のど元過
ぎれば違う方向に行ってしまう恐れがある。だから、形にしていきたいのです。

【羽原】 今は、議員の方が何人ぐらいご参加ですか?

【阿部】 7会派で自民2、公明2、民主2、あと共産・社民・きずな・みんな、
1、で全部で10人です。
今はゼロにするための法律や政策の原案をつくることに傾注しています。私たち
は木曜日の朝7時15分から集っていて、運動するというよりも、法律や、その
工程表を作りたい。そして原案が出来たら、それをみんなにはかる。この原案を
つくる過程は、かなり密にやらないと拡散してしまう。

 ゼロにするんだ、無しなんだ、というだけでは、立地自治体は原発麻薬中毒み
たいになってるのですから、頓死しちゃいます。ソフトランディングはどうする
かとか、私たちは議員で、立法府なんですから予算を動かし、法律も作ることが
出来る。それをまず形にしようと思います。6月の会期末までに、原案を作って
そこから拡大してさらに練っていく。ただ、その元が無ければ霧散してしまうの
で、この部屋に入れるのが10人くらいなので、人数を限定して作業しているの
です。

【羽原】 議員立法の方法でいくのですか?

【阿部】 法律にもよります。例えば、石炭から石油に移った時に、離職者支援
法とか色々、促進法とかありました。そういうものは議員立法で提案して、超党
派で成立が一番ですが、議員たちがこういうの作れってやっていると、政府も取
り込むかもしれません。

【羽原】 いつまでにどうすると言うような、目標はございますか?

【近藤】 政府が新たなエネルギー基本計画を発表するのはこの夏ですから、や
はりそこに向けて、提案、或いは、プレッシャーをかけていくことが重要です。
ですから連休明けに、今阿部さんが云われたように、どういう形にするか、例え
ば法律でもその骨子とか、目標とか、そう言うことだけでもまずやるのが大事で、
まず夏に向けてだと思います。

【羽原】 その場合に大きなネックになるのは、即廃炉とか、撤退とか、反原発
に近いことはいいやすいのですが、現実の問題となると、この電力事情をどうす
るか? 経済的にも家庭的にもかなり影響が出ますが、そこの所をどういう風に
お考えになりますか?

【阿部】 今、経済産業省の総合エネルギー調査会は、原発の占めるパーセンテ
ージを0%にするか、20%にするか25%か、35%だとかシナリオを作って、
それをマクロ経済のモデルに当てはめて、シユミュレーションしようとしていま
す。2030年に20%以上のシナリオは、原発の新増設なくしては実現できま
せん。これをまず止めさせ、私たちが対案で提案しないと、いつのまにかその原
発は、もっと長く使ったりまたは作ったりという様なシナリオが、すごく早く息
を吹き返すのです。

 先ほど近藤さんがいわれたように、夏に向けてのエネルギーの計画の工程表で
すので、実は民主党の中でも、近藤さんたちが中心になって工程表(ロードマッ
プ)を作っていらして、そういうものがいくつか出そろって、それらを国会エネ
ルギー調査会の様なオープンな場で論議してほしいんです。何%にしたいか、ど
うしたいかは、本当は国民の選択なのです。すごい節電でもみんなで頑張ろう。
こんな事故はもういやだ。とか、そういうことは選べる対象なのだと思います。

 今は、外側から、すごく足りなくて経済が緊迫したらどうなるのかと脅しです。
足りなくなるかもしれない、でも、それだから原発なのか、他の色々なエネルギ
ーの発電に持っていくのか。これは選択です。私が見るところ、そういうのはど
こでも論議されない。たとえば、経済産業委員会でも、内閣委員会でも論議され
ていない。一体どこで論議されるのか。私が今所属している科学技術イノベーシ
ョン委員会というのがありますが、そこはまたすごく部分的なことが時々話され
るだけです。

 長い将来を見通して、国家の骨格であるエネルギーについて論ずる場所がない
というのは、全くおかしい。私たちは草案を出すが、それを論ずる場所として、
国会エネルギー調査会みたいな特別な委員会を作ってくれと言っている。本当は
3.11のあと、すぐやらなくてはいけなかったのだと思います。

【近藤】 阿部さんと共通した思いできました。今もお話がありました「国会エ
ネルギー調査会」では、色々なデータを全部公表して、賛成だろうが反対だろう
が、きちっとした共通の公開されたデータでやるべきなのです。私も与党にいま
すが、そうでない所があるのです。当時、菅総理の手法に対して色々な批判もあ
りました。総理として、本当は行政の長ですから、行政の仕組みを信頼しなくて
はいけないのですが、残念ながらこの間の長いプロセスの中で、色々なことが明
らかにされてなかったことに対して、時に激しく行動されたこともあったと思い
ます。

 そういう中で、我々もこうして改めて原子力をゼロにしていくことを考え、そ
してその中で議論をしていると本当に色々なデータが、一方的なことが多いので
す。だから、そのことを明らかにしないとちゃんとした議論が出来ないと思いま
す。

 国民は、改めて今回の福島の事故で色々なことを知りましたし、知っただけで
はなくて福島の人は勿論ですが、そこから距離があっても影響がある所など、本
当にたくさんの人が実感をした、そして、その中から色々なことを知ったり、知
る中で行動したりということが出てきていると思います。

 冒頭に云いましたが、政治が十分に答えられていない所に問題があるのですか
ら、それに答えるために我々は、国の政策として原子力を進めてきたのを、きっ
ちりと改めなくてはならない。そのための色々な議論をするのにデータを出さな
くてはならないと思います。

【羽原】 節電方式だけでは、縮小再生産をまねく可能性がある。原発離れをす
るには代替エネルギーの問題をもっと論議すべきですが、原発に代わって、それ
を補填する様な論議が政治全体でほとんど聞こえてこない。メディアも同じです。
これを僕は不可思議に思っています。原発を止めるには、節電だけではダメで、
何か、生産性の出てくる様な、構想や検討が必要だと思いますが。

【近藤】 なかなか見えていないのは、反省しなくてはなりませんが、私の所属
をする民主党でも原発に対しての賛成反対も含めて、議論は色々と起っています。
エネルギープロジェクトチームと言うのが正式な党機関として置かれていて、政
府のエネルギー基本計画の見直しに対して、党として意見をまとめて政府に要望
を出すのですが、その中に私が委員長を務めている委員会が2つあります。

 1つは再生可能エネルギーの検討小委員会で今第2次提案まで出しました。や
はり原子力を減らしてゼロにしていくが、では代わりのエネルギーをどうしてい
くと言うのは、そこで2回目の提案を出してはいるのです。それと、もう1つは、
代替エネルギーとは違いますが、今回改めて浮き彫りになった使用済みの核燃料、
これについて検討する小委員会。今週の月曜日には瑞浪の方の超深層の研究所に
も行きました。表に十分な成果が出せていないのは反省すべきですが、そうした
論議はずいぶんとやっています。

 この「原発ゼロの会」を作る前に、阿部さんが中心になって、私もそこに参画
してやったいわゆる、今年の7月から始まる再生可能エネルギーの買い取り法案、
あれについても色々な市民の皆様、NGOの皆様、色々な方が参加する会を持ち
ました。そう言う中で代替エネルギーをどうするのか、目の前にある買い取りを
ちゃんとやらなければいけないということで、ずいぶんとやってきた。当時、総
理も、マスコミでは話題になりましたが、動きました。遅きに失しているかもし
れませんが、かなり動いています。

【阿部】 実は、3党連立政権作った時に、私は社民党の政策審議会長として関
わりましたが、低炭素社会に舵を切るっていうことと、再生可能エネルギーなど
を促進させるという33項目10テーマの中の1つに、そう言う項目を入れたの
です。社民党の事情でいうと10数年前の再生可能エネルギーのためのフィード
インタリフ、固定価格買い取りを進めたかったけど頓挫し、RSP法になって部
分的買い取りになりました。

 この10年再生可能エネルギー分野で、すごく日本は遅れたと思っています。
だから、本来は、せっかく連立が出来たのだから政権の中で、それを一生懸命や
りたかったし、原発も止めていくようにしたかった、けれども基地問題で離脱し
て、その後やはり有権者に対して約束した責任もあろうかと思いましたし、何と
かこの原発問題と再生可能エネルギー問題を、野党になったけれども前に進めら
れないかと思っていました。ところが、ちょうど3.11の午前中に閣議決定さ
れたフィーリングタリフ固定価格買い取り制の法案は、店晒しにされたわけです。

 この法案は、昨年夏の段階でも経済産業委員会で審議順番が6番目ぐらいだだ
というので、何とかこれを早く進めたかった。もう1つ、離脱した後、菅総理は
原子力ルネッサンスということで原発推進にのめり込んでいって、すごく残念だ
った。菅総理は、そのあと3.11を経て、現実を見て軌道修正されて脱原発を
決断します。

 政治家はいつも現実対応して身を点検するものだから、私は菅さんのやり方も
正しいと思います。何で皆が不信任を煽るのかと思ってもいました。とにかくエ
ネルギーって経済のど真ん中ですから、この国の経済のためにも、何とか再生可
能エネルギーに舵をきらなくてはというので、あのときあの法案を成立させるた
めに、実は自民党はもちろん、みんなの党の皆さんや、あらゆる政党が知恵と力
を貸してくれたのです。

 もちろん、民主党に近藤さんがいたことも大きいし、やっぱり民主党抜きには
出来なかったわけですが、ただ民主党の中には一方で、原子力の夢をもう一度と
言う方もおられて、せめぎ合いの中で、なんかひょうたんから駒とは言いません
が、本当にポッコリ生まれ出たのが再生可能エネルギーの促進法で、政府原案よ
りもうんと良い形で生まれた。まだ60点ですが、生まれたのです。

【近藤】 委員の問題でもずいぶん頑張りました。

【阿部】 もう本当にやらねばと、この人ダメとかね。それが出来ないと産業界
だって困るし、出来るのだし。私思うのですが、原発をゼロにしようと思えば、
あらゆる困難を越えて出来ることがあるのに、こっちの意志がはっきりしないか
ら、太陽光は隣の家がまぶしい、風力は音がうるさいと、やらない理由ばっかり
をあげるようになるのです。こうした問題は前向きな形で解決しなければならな
いものです。

 技術力はやろうという強い意志があれば必ずや開発されるのですね。だから、
ここで大事なのはやっぱり本当にこの国会にいて、政治が意志を持つこと。それ
で、今度は色々な官僚機構も含めていくこと。官僚機構って慣性の法則ですから、
元の方向にどうしてもより戻されていくのです。この力はすごいものがあって、
これは政治介入して、菅さんもてこずったと思うのです。

 政治介入がいけないとか何とかだって言われますが、あのとき、私は本当忘れ
もしない3月12日の日に官邸に党首と駆け込んで、菅さんに3号炉はMOX燃
料ですと、爆発したらプルトニウムが出るのですと話したのです。菅さんは、東
電の人とか保安院の人を呼んで、本当にMOXか、MOXかって聞くのです。で
も誰も即答出来ない。私たちはずっと反対していたから、ああ、3号炉はMOX
だ、ああ危ない、何とかそこを、と思っていたのです。

 そこで、菅さんの焦りというのは、誰も自分に本当のこと言っていないじゃな
いかと、私はそれを間近に見たので、その菅さんの思いというのは、彼は本当に
一国の総理として、国民の命を預かっているものの重みとのせめぎ合いで、もの
凄く苦労をされていたし、研ぎすまして判断されたと思います。

【羽原】 今の立法化のお話を伺っていて、国会の機能が非常に劣化している。
つまり、白か黒か、あるいは、正か邪か、いわゆる二者択一の政治状況はもう、
55年体制でほぼ終わった訳です。2大政党化した以上、相互に譲り合うとか、
ねじれ国会ならお互いに調整する機能を持つとか、あるいは第3のベターを求め
るとか、そう言う機能が伴ってこないと2大政党と言うのは十分に機能しない。

 2大政党制になったら、ねじれ国会はある程度想定内のことだと思うのです。
状況によって衆参議院で第1党が違うということがありうるならば、余計、調整
能力が必要になる。そこで一方で、官僚は信頼するに値しない。あるいは、政治
家同士のネゴシエーションは密室の政治だからダメと言うような、非常に極端な
政治への取り組み方が、普通になってしまっている。

 原発の問題も、3.11時点からすると原発のイメージはどんどん変わってき
ていて、経済事情にシフトしかかっている。だからこそこういうゼロの会の発想
というものは、国会の中だけではなく、一般の国民にも伝わるようにしたい。し
かし、この機能は非常に衰えていて、国会の調整機能も劣ってきている。政治の
空回りみたいな状況がずっと続いているのが、原発の問題でそうならないように、
と思います。今お話しを聞いていて、動きは小さいけれども、少し安心しました。
トータルの政治と原発政策、この辺をお話ください。

【近藤】 小選挙区制度は96年から始まりましたから、私の初当選もちょうど
その時です。小選挙区制度からしか経験していない。その中でやってきているの
ですが、2大政党と言いますか、その中では、汲み取れないものが、システムの
中にある。それをある意味補うために比例の部分がある。しかし、そういう補う
制度があるにもかかわらず、本当に国会の中で議論が行われてきたかというと、
どうもかえって2大政党がぶつかり合ってきたところがある。

 数でなんでもかんでも進めていけないのが大前提です。しかし、実際に進めて
いかなければならないのですから、衆議院と参議院の関係がねじれている中で、
もっともっと議論をしなければいけない。それは、民主、自民、公明、だけでは
なく、もっと国会全体として議論が必要だと思います。

 そういう中で、まず阿部さんが声を大きくして、みんな党を越えてやるべき事
はやっていこうと、まさしく「ゼロの会」は超党派でやっています。そう言う意
味で、ここが原発を無くしていくという事だけではなく、国会での論議に対して
も、1つのメッセージだけではなく、行動になればと思っています。

 選挙ですから、どうしても、戦うのですが、それぞれ何のために政治を志して
政治家になるのか。やっぱりこの国に住むみんなが、本当により幸せに暮らせる
ようにという事ですから、そうした事のためにその最大目標のために行動してい
かなくてはいけないのだと思います。そういうことで、今回の取り組みは非常に
大事だと思います。

【阿部】 私は、近藤さんよりももっと後に政治の世界にきたから、私の経験し
た事はごく短期、10年そこそこですが、まずその55年体制であったような自
民と社会党の対立でしょうが、ある程度その労働者層の利益を体現する社会党と
資本家という、シンプルな分け方でいけないかもしれませんが、そういうものか
ら今ある2大政党は、実は民主党の皆様は一応、連合という労働団体を持ってい
るけれども、この外側にも膨大な非正規層がいて、自民党の皆様は、経営者がバ
ックについていますが、実は政策がすごく似通ってきている。

 もちろん、私は民主党の皆さんと連立したし、仲間も多い。よく話が出来る方
も多いから、民主党の方を評価していますが、それでもさっき言ったこの政党の
枠からはみ出した層がいる。それから、高齢化問題もそうですが、自民党が敗北
したのは後期高齢者医療問題で、あれは日本の人口構造が変わって、高齢化して
いって、この人たちを経済的理由で切ってしまうかどうかという時に、自民党は
切ろうとしたから政権を失った。しかし民主党に対案が出せるかというと、なか
なか出せない。これが、現実なのだと思うのです。

 今、私たちの時代や社会に起きている事は、エネルギー問題も人口問題も都市
部への過度な集中も、実はこれまでのエネルギー対立の中には収まらない様な、
新たな側面があって、それを解決していくために、今政治は応仁の乱状態になっ
ているのです。各政党が各々主張していくのですが、結果的にはどうしても、オ
リーブの木とまではいわなくても、連立型の合意形成、逆にいうと妥協をしなが
ら、ここに落ち着かせようという手法が、日本の政治の中ではじめて問われた時
代だと思います。

 55年体制もその後の政権交代に至るまでの政権交代可能な政党を作ろうとい
うのが、小沢さんたちの夢だったから、夢は実現したのだけれども、実現したと
たん、全然そこにハマらない現実がうわーっと広がっていた。そこに、震災、津
波、原発事故までやってきたということなので、やっぱり今、政治自身もベース
で考えて、これをプライオリティにしようと、これが一番。例えばいのちが一番
ですし、それからエネルギー政策も一番ですし、そういう事に乗っ取って、その
合意形成の仕方を学んでいく時代なのかなと、私は自分が小政党に所属している
こともありますが、考えています。

 だから、民主党が政権とって、あれこれ出来ないのではないかと批判されるけ
れども、それも良しとはしないけれども、やっぱりそのある大きな抜き差しなら
ない、この事態の中で、立たされている苦悩かなと。だからこそやれることから
ちゃんと確実に実現させるべきです。TPPとか消費税とか、再稼働とか言わな
いでと思うところもあります。

 本当に、もうちょっと合意の取り方とか形成の仕方を学んでいっていただかな
いと、いけないと思います。水面下で自・公・民でグリップして、国会審議は、
3時間ぐらいで次々法律が通っていくんです。小政党のひがみでいうわけじゃあ
りませんが、これは国会を軽薄化させる。国会を今エンパワーしなければいけな
い。国会事故調というのができましたが、日本の政治の歴史の中で、あれは立法
府にはじめてです。

 行政府の検証ではなくて、立法府が調査権も持って、色々な人を呼んでやりま
しょうと。政治は、今変わりつつあるし、良い方向にも目はあるんだと思います。
それが伝わらないから、メディアは、みんな政治家は何しているんだ。定数は削
減しろという。でもその結果は、政治が縮小すれば、官僚機構がますます、自分
たちが良かれと思う事で事を運ぶから、官僚が肥大化するのです。今こそ政治が
頑張らなくてはと思います。

【羽原】 今日、自民党の河野太郎さんがいないのが残念ですが、この原発の政
策にしても、年金の問題にしても、基本的には自民党長期政権のもとで具体化し
た。その責任感と言うか、自覚が非常に乏しい。なぜ、乏しいかと言うと、問責
決議案を含めて、手続き的な所で壁を作って、乗り越えようとしない。中身に入
ろうとしない。これから2大政党下で自民党が復権するかもしれない。そうした
時に、原発、年金といった大きな課題、自民党政権が進めてきた責任ある問題が、
打開されないのはやはり政党、そして国会の基本がおかしい。

 阿部さんがいわれたように、これから良い方向に向かう素地があるかもしれな
いが、活路の目が見えてこないことに、国民の苛立ちが燃えているように思うの
です。ずいぶん、気長に待ったよというのが国民の感覚で、国会の発信が十分で
はないから余計に内情が見えず、おかしいねという感じがどんどん広がる。

 今おっしゃった官僚は必ずしも全部が悪いのではなくて、官僚をシャットアウ
トすると言う政策は、基本的に当初から間違いだと思っていたし、政治家がネゴ
シエーションを裏でやることも内容次第ですが必要だと思うのです。最後に特に
この点は言っておきたい ことがありましたら、どうぞお話し下さい。

【近藤】 今ちょっと挙げられたことで言うと、やっと日本も、例えば外交文書
も何年か経って公開される仕組みができました。けれども、沖縄返還、核持ち込
みについても佐藤首相の家に置いてあったり、ということが分かった。先にも言
いましたが、アメリカのやり方が良いとは思いませんが、賛成でも反対でも、国
の政策である種虚偽を言っても良いみたいな所がある。

 しかし、何年か後にはそれが虚偽だったと分かるみたいなシステムがあると思
うのです。日本の場合は、色々なものが曖昧で、何も総括をしないで前に進む。
間違っていた事は間違っていた。責任を認めて前に進むというところが非常に欠
けていると思います。

 そう言う政治をしてきてしまった。逆に言うとそういう政治をしても官僚機構
が支える様な所もあったかもしれませんけど、そういう2重構造と言いましょう
か、そう言う構造が、もう行き詰まっているんだと思のです。自分もその中で働
いているから、いうのではありませんが、やはり、動いていると思います。

 我々も政権につく時に、とにかく政治主導だ言って、あまりにも官僚機構に対
して抑える様な言い方をし、また実際にそういった事もあったと思いますが、そ
こはやっぱり反省もしなくてはいけないし、新たな形を作っていかなければいけ
ないと思います。新たな形も出来つつあるのです。官僚の人たちも一人一人は優
秀で、いい人も多いのですが、そして、やはり、縦割りの中で、それぞれある意
味では一生懸命やっているかもしれませんが、省のためにやっている。

 省が立てた目的の為にやっているみたいな所がある。そう言うことだから官僚
機構を抑えると言うよりも、官僚機構の縦割りをもっと横につないでいく。つま
り、国民は、外交とか、厚生労働だとか、そこだけで生きている訳ではない。そ
れの総合的なものとして生きているのです。官僚機構はそこだけ取り上げられる
のですから、そういう意味で、民主党政権というだけではなくて、政治というも
のが、そういうのを総合的に見てくと言う事が大事だと思います。

【阿部】 反論になるのかどうか、私は3つあって、今回の原発の事故あるいは
地震・津波の災害ですら、自民党政権の運営の結果であるかといえば、もう少し、
戦後革新も含めた総体で築いてきたものだというふうに認識をします。だから、
自民党政権があまりにも反省がお粗末だけれども、もっと根っこが深いから、深
堀りしないとこのがんじがらめになってしまった原子力体制というものからは、
飛び立っていけないと思うのです。自民党のなかの意識ある人、それから、若い
人も含めて一緒にやっていきたいと思います。

 逆に、社民党、あるいはかつての社会党の一部に、強い脱原発の動きがありま
したが、今ここで事故が起きてみたら、結局両方とも何も出来ないじゃないかと
いうのが、国民側の偽らざる気持ちで、反対していた方もやっていた方も、私た
ちどうしてくれるのというのが、被災者の偽らざる思いだから、これはもっとま
ともに受け止めないといけない。

 それから2点目は、私はさっき言い方が誤解されて、ちょっと違うのではない
かと思うのだけど、官僚主導というか、官僚機構を否定したものではないのです。
官僚は、近藤さんが言うように縦割りなんです。政治は1個のトータルな人間の
その意志や存在を、ここに組み込むための横糸なんです。今、この原発や地震の
後、何がうまくいっていないかと言うと被災地でも相変わらず縦割りをしていて、
1人の人間が、人間としてもう1回やり直すための手当が本当に無いんです。

 だからこれは政治不在だというか、政治主導なんていわなくてもいいから、政
治家がそこに向き合ってくれと野田さんそこから始めてよと言うのが、私の最も
声高にいいたいことです。私はもう去年も含めて、毎週のように福島に行き、今
週もまた行きますけど、行けば行くほど政治家として何をしなければいけないの
か、本当にひしひしと感じます。自分の非力もあって、実現出来ない事も多いけ
れど、でもそうやって一人一人の議員が行動をすれば絶対に政治はもうちょっと
信頼されると思います。

 問責もあっていいと思いますが、その後のこういう空白、なんだか良くわから
ない状態です、しかし、官僚は、自ずとプログラムがあるからそれを確実にやっ
ていくのです。でも、縦のプログラムだけではどうにもいかない。

 3つ目は、やっぱり冒頭兄の話をしましたが、メディアの問題、メディアの制
約ですね。小沢さんの判決でたら、メディアはどどっとそっちの方に行きます。
私たちは国会に、大飯原発再稼働しなければこの夏、本当に電力足りないの?と
いうのをインターネットも含め、国民に訴えたい、論議もしたいと思います。で
も、恐らく、報道はゴシップまがいの誰がどうしたの、こればっかりです。

 このメディアの見識の無さと言うのか、それはますますおかしくなっていって、
時々珠玉の様な真実が報道されることもありますが、この政治報道については、
やっぱりメディアのあり方自身が非常に退行していますから、ここを何とかしな
いといつまでも国民は自分で考えられない。

 どういう風にしたら一緒に政治を良くしていけるか、逆にいうと今、大きく変
わってきたのかなって思うのが、自治体の首長たちの動きです。橋本さんもそう
だし、嘉田さんもそうだし、そういうものが江戸から明治に変わり、中央集権化
してきた200年を逆にリポーラライズ(分散)をしていく動きの最初なんだと
思います。それで、必ず良い方向かは分かりません。それは、紆余曲折、今は坂
の下の沼ですね。   

【羽原】 長時間、多岐にわたり有難うございました。

※(この対談は1912・4・25、衆議院議員会館で行い、原稿については出席
者の校閲を受けたものですが文責は編集部にあります。)

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