【社会運動】

「所得1%取り戻し戦略」で地方人口を安定化させる

藤山 浩

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 「市町村消滅論」が衝撃を与え、「地方再生」が模索されている今、
 「過疎」発祥の地・島根県で、藤山浩さんは大胆な提案を行っている。
 「地域を安定的に持続していくために、
 1年に1%の人と仕事を取り戻していこう!」
 「地方再生」に取り組もうとしている人びとに新たなビジョンを与えた
 「所得1%取り戻し戦略」とは、いったいどんな内容なのか。
 戦略の根幹にあるのが「地域内での経済の回し方」であり、
 自給ネットワーク経済そのものと言えよう。
 その具体的方法を藤山さんに教えていただきながら、
 FEC自給ネットワークの経済を考えたい。
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◆◆ 経済循環で地方を活性化させる

 この2010年代、高度経済成長期以来の社会の仕組み全体が、同時多発的な持続性危機に直面しています。
 まず、1960年代以来、人口流出が続いてきた中山間地域では、最後に残った「昭和ひとけた世代」の最終的な引退の時期が訪れています。農林業の存続危機はもちろん、集落自体の消滅さえ懸念される状況です。一方、同じく1960年代以降、中山間地域から大量の人口流入が続いてきた都市においても、2015年に「団塊世代」が全員高齢者になり、郊外団地から前代未聞の地域一斉高齢化が起きています。そして、2011年に起きた「東日本大震災」は、あまりにも特定の地域に人口や産業を集中させてきた集中型国土の限界を、まざまざと知らしめました。また、そうした都市集中を支えてきた地球規模の資源やエネルギーの大量消費によって、地球温暖化をはじめとする地球環境全体の限界に達しているのです。
 このように、ひたすら「規模の経済」による原理によって、右肩上がりの成長をめざしてきた社会のシステムは、「1周目」の前半は華々しかったかもしれませんが、「2周目」が展望できない根源的な限界を迎えています。信じられないことに、いまだに中高年の男性を中心に、「成長幻想」に囚われている人がいます。生態系全体を見ても、無限の成長を続けている生物種はいません。それは、ガン細胞と同じく、その種だけでなく、生態系全体にとっても破滅を意味するからです。

 私たちは、中山間地域や郊外団地などを次々と古びたものと認定し「使い捨て」ていく(次はマンションの「使い捨て」に向かうでしょう!)「野蛮な」文明を卒業すべきです。長い目で持続可能性を考えると、私たちは、自然と共生する循環型社会に向かうしかありません。外からの資源やエネルギー、あるいは資金の集中的投入によって高度成長の再現を夢見るのではなく、地域内の多様な資源・人材を組み合わせて循環させ、そこに安定して住み続けていくことのできる「自給ネットワーク」を創り直す時代なのです。
 本論文では、地元自給ネットワーク(たとえば、小学校区、公民館区を想定します)の創り直しに向けた具体的な戦略を述べていきます。

◆◆ 定住と所得の1%を取り戻す

1.人口1%分の定住増加で地域は存続できる

 2014年の「市町村消滅論」以来、地域人口の将来展望が大きな課題となっています。高度経済成長まで望まないにしても、地域人口のこれ以上の減少を食い止めるためにも、地域経済の振興とその結果としての域内所得の増大を望む声は、改めて高まっています。
 では、一体どれくらいの人口と所得を今までよりも多く取り戻せば、地域社会は安定的に持続していくのでしょうか。
 私は、独自に開発した人口分析プログラムにより、市町村単位だけでなく、より身近で小規模な小学校区・公民館区といった地元単位で、毎年どのくらい定住者を増やせば、地域人口が安定するのか、シミュレーションしてみました。
 島根県の中山間地域を構成する227の小学校区・公民館区等(平均人口規模は1370人、2010年)の地元単位データにより分析をしてみました。その結果、平均して毎年地域人口1%分の定住者増加を世代のバランスをとって達成すれば、地域人口の安定化が実現することが確かめられています。つまり、700人の地域で考えると、20代前半男女1組(2名)、30代前半子連れ夫婦(3名)、60代前半夫婦(2名)の合計3世帯7人(=人口の1%分)の定住者を、従来からのペースに上乗せして多く取り戻すことができれば、ほとんどの地域では、地域人口の安定化が見えてくるのです。
 意外に小さな割合の定住増加を毎年継続すれば、地域人口の安定化は実現するという事実に、まず注目してほしいと思います。この「地域人口1%取り戻し理論」は、2014年3月に国土交通省が発表した「国土のグランドデザイン」の資料にも活用されています。全国的に、最も状況が厳しい山間地域においても、「地域人口1%取り戻し理論」が有効であることが立証されているのです。

2.1%の所得増で、人口は1%増える

 ここで、当たり前のことを確認しておきたいと思います。毎年地域人口の1%分の定住を上乗せするために、必要な所得増は、毎年どれほどでしょうか。今そこに住む人の平均所得を基準にするならば、それは、地域全体の所得の1%分になるはずです。毎年1%の人口を取り戻したいのであれば、所得も毎年1%ずつを取り戻していけばよいのです。もちろん、それ以上をめざしてもよいのですが、前述したように無限の成長は幻想ですし、まずは人口を維持できる経済構造を実現すべきでしょう。
 ですから、いきなり10%も20%も所得を増やす必要はないのです。「市町村消滅論」などで脅かされると、「代打逆転満塁ホームラン」くらいを出さないとダメだと思い込んで、大きな企業誘致や観光開発を焦る自治体や首長が結構います。その結果、「三振の山」が築かれているのが、実情ではないでしょうか。

3.大規模な企業誘致・観光偏重は時代遅れ

 今までの地域経済戦略のポイントは、企業誘致や観光開発、あるいは大規模な産地形成のように、地域外の活力や需要を取り込み、大きな「外貨」を稼ごうとするものでした。私は、こうした外発的な産業振興自体を全否定するものではありません。しかし、企業誘致や観光開発は、やって来る会社や観光客あってのビジネスです。つまり、相手のある世界であり、必ずリスクや変動を伴います。また、住民たちの要求ではなく、たとえば国が指導する大規模志向の産業開発は、地域の資源や個性、自然に適合するかという問題もあります。
 そして、もう一つ見逃されやすいものは、外から稼いだお金の行方です。せっかくたくさん稼いでも、地域内で使われずに、すぐに外に出ていってしまうと、結局、地域内の所得は、全体として増えません。
 では次に、まず現在の地域現場におけるお金の流れを確かめることから、所得1%の取り戻しの可能性を探っていくことにしましょう。

◆◆ 地域外に流出しているお金を止める

1.問題は食料や燃料の域内生産が少ないこと

 まずは、私たちの暮らしに不可欠な食料や燃料が、どれだけ域内から調達・生産されているかを見てみましょう。
 図1は、中国地方の中山間地域において、二つの人口4,000人規模の一次生活圏(鳥取県鳥取市鹿野町と広島県神石高原町三和地区)において、食料の調達割合を示したものです。

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  図1 中山間地域における食料の調達状況例

 まず、食料では、購入の段階で、約5割が域外に流出しています。また、域内で購入したとしても、域内で生産されたものの比率は5~6%に過ぎません。
 そして燃料の調査もしていますが、域内購入の比率は7割前後に高まっていました。しかし、石油は日本では生産されていませんから、100%石油系域内生産の割合は事実上0%となります。
 このように、中山間地域では、かつて大半を自給していた食料や燃料さえも、95%前後を外から購入している実態があるのです。

2.地域の「儲け」を外に差し出すから、人口が減る

 次に、食料だけでなく、地域におけるお金の流れをより包括的にとらえてみましょう。
 たとえば、島根県益田圏域(益田市、津和野町、吉賀町)における家計、民間、公共の三つの部門にわたるマネーフローを集計してみます。中山間地域が大半を占める、この圏域の人口は、6万9,245人(2005年国勢調査)となっています。
 まず、域内循環を取り戻す立場からは、地域経済全体としての域外調達額の合計が、1,420億円(1人平均200万円強)にも上っていることに注目したいと思います。このような域外への流出を補填しているものが、国や県からの補助金・交付税に支えられた公的支出と高齢者を中心とした年金給付なのです。逆に言えば、中山間地域では、補助金や交付税、年金を多く受け取っているように思われていますが、そうした資金の流入は富の蓄積をもたらさず、都市部を中心とする域外からの調達にすぐ回されている状況なのです。
 それにしても、域外調達合計の1,420億円はかなり大きな数字であり、なんと同年の住民所得の合計額1,556億円に匹敵します。住民全体としての「儲け」をそのまま外に差し出している計算になります。このように内部で循環する経済活動が衰退している構造では、人口が減るはずです。

3.所得と人口を1%ずつ取り戻す逆転の発想

 しかし、ここまで外部依存が高まっていると、逆に悲観的になることはありません。「逆転の発想」が可能です。現在の外部への依存や流出が多ければ多いほど、これから地域内へと取り戻していく可能性は大きく広がっているはずです。しかも、住民所得全体に等しいほど外部調達額が膨らんでいるのであれば、100ほど外から購入しているものを来年からは99に減らし、代わりに1だけを地域内で作り始めればよいのです。原材料も含めて中で作れば、付加価値分がすべて所得に代わります。こうして外部流出分の1%を取り戻すことで、毎年の人口1%分の定住増加に必要な1%の所得増加を創り出すことができるのです。

4.1%を取り戻す産業の種を見つける

 このように域外流出を「地産池消」に転換していく1%戦略の柱を打ち立てれば、次はその具体的な検討の進め方を説明しましょう。図2は、益田圏域の産業連関表から作成した産業部門別の移出入額のグラフです。わかりやすく言うと、何をどれだけ地域外と売り買いしているかというデータです。

画像の説明
  図2 益田圏域における産業別の移出入額

 上位三つ、「商業」、「電気機械」、「食料品」の移出入額の差し引きは、マイナス100億円を大きく超えています。特に、食料品の域外からの調達額は150億円にも及び、1人当たり年間20万円を超えています。いくらでも地元においしい原材料はあるのですから、重点的に取り組めば、取り戻しの可能性はあるはずです。そうしたターゲットを絞って、取り組みやすいところから1%分の取り戻しを始めていけばよいのです。

5.地域経済の「バケツの穴を塞ぐ」

 ここまで地域経済の現状を調べてみてわかることは、まずは、地域経済からの「漏れ」を防ぐことの重要性です。私たちは、今まで、最初の投資額や売上額などの派手な数字に注目してきました。首長や行政も、外からいくらお金を持ってきたかで、「手柄」を競ってきました。しかし、「バケツの穴」を塞がないうちは、いくらたくさん注ぎ入れても、「水」(=所得)はたまらないのです(図3)。

画像の説明
  図3

 まずは、自分の足元を流れている日常的なお金の流れを確かめて、そこから大きな部分が漏れ出していないかを点検する必要がありそうです。

◆◆ 所得の取り戻し作戦は、家計調査から始める

1.日々、どこで何を買っているか分析する

 私の同僚に、有田昭一郎さん(島根県中山間地域研究センター・主席研究員)がいます。有田さんは、2010年度から、中山間地域世帯の徹底した家計調査に乗り出しています。有田さんの家計調査の成果の中から、図4のグラフを見ていただきましょう。これは、島根県内の中山間地域のある地域における家計調査の中から食料品に関わる支出状況を取り出したものです。

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  図4 中山間地域における食料品目別の支出額一覧(1年間の食費支出)

 この家計調査では、購入の場所についても、情報を集約しています。品目によって違いはありますが、4割から5割を「域外」(居住する合併前市町村区域の外)で買っています。アルコール飲料等は全額が、域外購入となっています。また、域内の商店等で購入したものであっても、域内で生産している割合は平均して前述の調査でも示されているように1割未満となっています。結果として、消費金額の大半は、域外に流出していることになります。
 また、食料品以外についても集計していますが、目立つものとしては、灯油・ガス代などの住居光熱費があります。調査対象地域である、邑南町における対象世帯平均では、年間11万円にも上っています。これも、大半のお金は、町外に流出しています。

2.外部依存が高ければ、取り戻し可能性は高い

 しかし、ここでも「逆転の発想」が重要です。これだけ外部依存度が高まっているということは、これから取り戻していける余地が大いにあるということなのです。
 たとえば、パンには、1世帯平均3万円、住民1人当たり年間1万円、お金を使っています。仮に300世帯、1,000人の地域で考えるならば、そこには、ほぼ1,000万円分のパンの需要があるということです。本当は、パン屋さんが新たに定住して成り立っていくだけの潜在的需要はあるのです。これは、灯油やガスを、地元の薪に置き換えていく場合も同じです。
 しかし、外からパンやエネルギーを安易に買っているうちは、住民支出のほとんどは、漏れていきます。ですから、有田さんの家計調査が映し出した消費額の大きさと外部依存度の高さは、そのまま有望な所得取り戻しの対象一覧表に読み替えることができるわけです。
 例えば、図1で取り上げた鳥取県鳥取市鹿野町と広島県神石高原町三和地区の場合、地元店舗での各品目購入率を50%以上に高め、なおかつその中での地元産品の購入割合を50%以上に高めることができるならば、新たな所得創出額は、それぞれ1億7,115万円と2億886万円に達します[注]。
 このように外部からの大規模な企業誘致や、観光客の落とすお金に頼らなくても、地産地消を地道に進めることで、かなり大きな所得増加が見込めます。また、自分たち自身が使っているお金の1%の使い道を変えることができないような地域が、厳しい他地域との競争に打ち勝って、企業や観光客の誘致に成功するとも思えないのです。

[注]「平成27(2015)年度中国地方知事会共同研究成果報告書『域内調達・循環の促進による所得・定住創出研究』」

◆◆ 「地産地消」で所得を取り戻す具体的な方法

 では実際に、域外に流出しているお金を取り戻している国内外の事例を紹介していきましょう。

1.地方スーパーの「地産地消」

 (株)キヌヤは、島根県西部から山口県北部にかけて21店舗を展開する地方スーパーマーケットです(本社は島根県益田市)。6年前から意欲的な地産地消の取り組みを進めていることで注目されています。

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  キヌヤの地産地消コーナー

 6年前の時点で、全商品のうち地元産品の売上比率は8.4%でした。そこから、地産地消コーナーをつくり、農家や加工品をつくる607事業者がローカルブランドクラブに参加して、様々な商品開発や流通に取り組みました。毎年1%以上取り戻して、現在、地元仕入れの比率は14.9%、額は約16億円に達しています。出荷額の多い農家の所得は1,000万円を超えています。

2.イタリアの山村の経済循環

 2010年にイタリア山村がとても元気だと聞き、実際に訪ねてみました。日本の市町村に相当するコムーネという自治体は、農山村部では小規模なものが多く、人口5,000人未満が7割を占め、4分の1は1,000人未満です(「イタリアの地方自治」財団法人自治体国際化協会、2004年)。

 イタリアの山村では、何よりも、地元に根差した生業が活き活きとしています。牧場、ワイナリー、チーズ工場、肉屋さん、栗園、薪屋さん、トリュフ採り職人、粉ひき屋さん、パスタ職人、建具屋さん、鐘工場、カフェ、レストラン、ホテル、農家民宿。基本的に自分たちの日々の衣食住に必要なもの一式は、自分たちで地元の大地から生み出し、地元でお互いに使っていく循環が、そこには息づいています。それは、観光的にも大きな魅力となり、海外も含めて大勢の人びとが繰り返し訪れ、滞在しています。

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  地元の生業が盛んなイタリア山村

◆◆ 地域に新たな交換経済の拠点を

 このようなキヌヤやイタリア山村を、単なる地産地消の例外的成功にしてはなりません。冒頭から申し上げているように、私たちは、それぞれの地域内で資源やエネルギーをできるだけ回していく循環型社会をめざしています。今までの「規模の経済」に対応した一極集中型の拠点・ネットワーク構造ではなく、細やかな地域ごとの循環を取り戻す未来型の拠点・ネットワーク構造を構築していきましょう。

1.「小さな拠点」のネットワークで少量多品目を販売する

 現在進められている政府主導の「地方創生」では、中山間地域対策として、小学校区や公民館区といった一次生活圏ごとに地域住民を主体として「小さな拠点」を形成することが重視されています。10年以上前から、それぞれの地元に分野横断の「郷の駅」を創ることを唱えてきた研究者として、大きな手応えを感じているところです。「小さな拠点」は、分野ごとにバラバラの運営では立ち行かない拠点や交通の課題をそれぞれ考え、分野間を柔らかくつないだ「合わせ技」で新たな持続性を創り出そうとする仕組みづくりなのです。
 私は、この「小さな拠点」に、今までの「規模の経済」重視の時代に切り捨てられてきた少量多品種の資源や生産物、あるいはサービスをつなぎ直して、復活させる大きな可能性を見出しています。

 日本の国土を見渡すと、中山間地域の大半は、細やかな谷や山、あるいは津々浦々に分かれています。そこには、特定の品目をモノカルチャー的に大量生産できるところは、ほとんどありません。むしろ、集落ごとに味も旬も違う様々な「おいしさ」が少しずつとれる、いわゆる「ロングテール」(地域の個性)の世界なのです。「小さな拠点」は、「0.5、0.3、0.2」を束ねて「1.0」としていくような、分野を横断した就業や生産、流通で地域全体をつないでいく仕組みによって、この多彩な「ロングテール」は、人びとの暮らしへとつないでいく出発点となります(図5)。

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  図5 地元のロングテールを活かす「小さな拠点」とネットワーク

 少量の野菜だけ、新聞だけ、通院客だけをバラバラで運ぶのではなく、「小さな拠点」を結節点にして一緒に運んでいけばよいのです。現に、先ほど紹介したキヌヤの地産地消コーナーでは、買い物支援のバスが同時に野菜の出荷も兼ねているという素敵な合わせ技が生まれています。
 このような「ロングテール」を活かす生産や流通こそ、地元の自然や生態系の多様さに合致すると共に、その地域ならではの個性ある暮らしの多角形を創っていくものなのです。そうした自然に根差した域内循環を重層的に積み上げ、都市と中山間地域の共生へとつなげていきたいものです。

2.持続可能な地域と地球を実現する「グローバリズム2.0」の時代

 今までの悪しきグローバリズム(Ver.1.0)は、「規模の経済」だけで進められ、大量に生産された輸入品がローカルな市場や、地場産業を押しつぶしてきました。それは、生態系を破壊するモノカルチャーの生産現場と、過度の集中に悩む都市現場の双方にとって、そして地球環境全体から見ても、長い目でみれば持続可能なシステムではなく、「2周目」が見えない文明の限界を迎えています。
 私たちの身体も、一つひとつの細胞が健やかに循環を果たしてこそ、元気に活動できます。これからの持続可能な地域と地球を同時にめざす「グローバリズム2.0」では、地元ごとの「小さな拠点」を出発点として、地方の経済循環を甦らせていきます。生態系では、場所や地域ごとに多様な循環や共生を積み上げて、地球全体でつながっています。私たち人類も、そろそろ謙虚に生態系の原則に学び、地域内の多角性と地域間の多様性を重層的につなぐ文明のあり方へと真の進化を遂げる時が来ているのではないでしょうか。
 ここまで、地域内経済循環について、述べてきました。お金の話ばかりしたようですが、本当に言いたいことは、私たちの日々の美しい暮らしを取り戻すということなのです。もし、日本中どこに行っても、東京と同じものを食べているとすれば、そこに暮らす意味や喜びはどこにあるでしょうか。それは、東京に住む人にとっても同じです。
 それぞれの地元における「田園回帰」と「自給循環」そして「暮らしの再生」は、三位一体の課題であり、可能性なのです。

<参考図書>
『田園回帰1%戦略~地元に人と仕事を取り戻す』藤山浩/著、農文協(2015年)

<筆者プロフィール>
藤山 浩 Ko FUJIYAMA
島根県中山間地域研究センター研究統括監。島根県立大学連携大学院教授。一橋大学経済学部卒業。博士/マネジメント。国土交通省国土政策局「国土審議会計画推進部会 住み続けられる国土専門委員会」委員他。専門は、中山間地域論、地域マネジメントなど。

※この記事は『社会運動』編集部の許諾を得て「季刊『社会運動』424号」から転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。


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