■「民主党に期待できるか」    

  (座談会)  岩根 邦雄 (生活クラブ生協 顧問)

        竹中 一雄 (国民経済研究協会 顧問)

        羽原 清雅 (帝京大学 教授)
 
   司会   加藤 宣幸・岡田一郎

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司会 朝日新聞政治部記者としての現役時代には長い政党取材のキャリヤをお   持ちで現在は帝京大学で教鞭をとっておられる羽原さんからオルタ9号に  「民主党はこれでよいのか」という大変鋭い論稿をいただきました。  

 この問題提起をベースに国民は果たして「民主党に期待できるか」という視点から御話をすすめて頂こうと思います。     

今回、御出席を御願いしました「オルタ同人」の岩根邦雄さん、竹中一 雄さんについてはあらためて御紹介するまでもないのですが、岩根さんはを奥さんと数人の仲間で始めて25万人の組織にまで育て上 げた文字どうりの創立者であり、いまや百数十人の地方議員を擁 する「生活者ネットワーク」を始めて提唱し、組織された方です。

 

  また、竹中さんは長い間、ユニークなシンクタンクとして知られる国民経済研究協会のエコノミストとして活躍され、会長を退任された後もロシア・中国・韓国・北朝鮮などに、たびたび足を運び、幅広く東アジア問題に取り組んでおられます。

 なお、私が忘れられないのは、かって江田三郎   氏が提唱し、党内外に大きな波紋を呼び起こした『江田ビジョン』は竹中 さんの発案のものだったことです。

  さて、羽原さんの提起を私なりに要約して見ますと次の五つになりました。  

 1)混成チーム政党としてやむをえない面があるが党内論議が貧困で見え てこない。共産党や公明党のような上意下達政党ではないのだから、党内論議のとりまとめのプロセスで自らを磨き、自らをさらけ出していくことが民主主義に生きる政党として必要である。      

 2)政権への接近とは現政権の政策に妥協することではない。自民党政権 とさしたる違いがないなら何のための政権交代かということになる。 マニフエストにいろいろ書いてあるといっても自民党政治をどう変え てゆくのかという骨太の具体的なイメージが伝わってこない。これで は国民も燃えるような支持を寄せようがない。     

 3)小選挙区制の影響で八方美人型議員が多くなり、長期展望に立って政 策提起をする型の議員が少なく、この気配が民主党の体質となって野党第一党の気迫を削いでいる。  

 4)民主党は野党第一党というより、自公与党にたいする実質唯一の野党である。 政権担当能力をアッピールすることも重要だが、同時に一方では権力に対するウオッチヤー、監視役の役割を果たすべきだが民主党の動きは物足りない。追求の深さ、鋭さ、方法など、すべてほどほどに終 わっている。泥臭くさくとも、もっと厳しさがないと国民の強い共感 を呼び起こせない。  

 5)民主党では古参、若手議員とも、それぞれの事情から「歴史に学ぶ という姿勢が弱い。いつも立ち止まることも戻ることもせず、ひたす ら現実に引かれた延長線上を正当化し、追認していくだけでは駄目だ。憲法論議にさいしては、敗戦による日本再出発の原点に議論を及ぼすべきである。

竹中 羽原さんの問題提起には異論がないのですが、現在の民主党がこの提 起に応えて変わる可能性があるかというと殆どないように思います。 

 ですから、わたくしの場合は民主党による積極的な自民党政治の改革を期待するという立場にはありません。したがって、残念ながら有権者としての一般市民がもつ関心以上に今の民主党について深く掘り下げて 考えたことはないのです。 

岩根  それは、わたくしも同じです。ただ、日本社会の閉塞状況を打開する ためには自民党政権を交代させることが必要です。権力は絶対的に腐敗するものですから、最小限それを抑止するためには、いまの制度下では民主党に勝たせるほかに方法がない。     

 ですから、民主党の改革に期待はできなくても政権交代の必要はある。  政権とってたいしたこともできなければまた変わればよい。それでも政権交代がないよりましだと考えます。

これは私の意見というより多くの国民が感じていることではないでしょうか。 羽原  私も書きながら、「現実の民主党」を念頭にし、実現性を考ると、いかにも書生論的で自分自身で青臭く感じてしまうのですが現実政治では 民主党を考えないわけにはいかない。

司会  皆さんのお立場は、ブッシュが嫌いだから、頼りないがケリーに入れるというのと似て自民党政権交代の必要性1点だけでの民主党消極支持ということで共通しているようです。     

 それでは羽原論文の順序にとらわれず、また提起されてないものにつ いても、御自由に感じたことを御話し下さい。

岩根  まず、党内論議が見えてこないですね。だから、いろいろな政策につ いて民主党はどう考えているのかと思ったとしても、ほとんどわから ない。     

 それはマニフエストに書いてありますというのでは答えになりません。奇麗ごとを並べられても国民は共感できないのです。  これからの政党は「建前」でなく、限りなく「本音」をぶつけ合って いくべきです。

 その点では旧社会党は党内論争のあり方で完全に失敗しましたし、「本音」と「建前」の使いわけでも、国民に大きな責任を 負ったと思います。

竹中  それは自民党もまったく同じです。私はオレンジ自由化に賛成だった のですが絶対反対の愛媛の農協に講演を頼まれました。農協の大会では自民党の国会議員とともにオレンジの自由化絶対反対を決議し、同時に自由化賛成論者の私に話しをさせる。誰もが反対ひと筋でいけると思 わないのですが建前は下ろせない。

 もっとも農協の役員に言わせると自 民党の議員は「本音」と「建前」を上手に使い分けていたが、社会党の 先生のなかには「建前」を本気に信じ込んでいる人がいて困ったと笑っていた。

羽原  旧社会党が党内論争に失敗したのは論争を数の力で勝負しようとす る、執行部の決定を上部機関の大会などでひっくり返す、あるいは人事で取り返すというようなことを繰り返していた。論争は数で勝つことで はなく意見の広がりをつくり、支持を拡大していくプロセスが大切なの に、論議自体が派閥抗争の論理に転化し、本質が見失われ、レッテルの 貼り合いから人格の攻撃にまで及んだ。

  戦前から日本の左翼陣営には「社民主要打撃論」などのように、なぜ か身近な者を近親憎悪的に激しく攻撃する特有の体質がありました。論 争のルール、マナー、そして何よりも議論を収斂させてゆく寛容さと英 知が足りなかったように思います。

  自民党は幾つかの派閥党の連合体であって一つの党ではないと言われ、 党内の意見の相違も非常に大きいけれど、権力を渡さないためには割れ ない。

  社会党はこれと反対に権力もとれていないのに、とった後の政権の性格 などやイデオロギーで大論争して割れてしまう。こういうことが党の解 体にまでつながったと考えます。

望むべきではないのかもわかりません が、民主党はこの経験に学び、一握りのボスが決める自民党型や、上意 下達の公明・共産型でなく、党内民主主義が確立された開かれた党を創 るべきですね。

司会  政党の組織は政権獲得後の社会を映すものであるべきだという組織原 則に立てば、民主党も党内論争に民主的ルールを創り上げ、日本の風土 に根ざした近代的な党組織論を練るべきだということには同感します。 民主集中制や信仰によって党議が決まる党が政権をとれば民主政治と異 質の社会になるはずだからです。

  それには、小沢さんの「政治塾」というのがあるそうですが党の機関 として、もっと大々的に資金を投入して国会議員をふくむ全党員の教育 ・研修に力を注ぐべきですね。企業でも社内研修に力を入れているとこ ろは強い。

 

   特に民主党は歴史が浅く、寄り合い所帯だけに結束を強めるには合宿 などして集合教育の機会をつくり、同志的な連帯意識を育てないと政党 の体をなす前に崩壊する危険さえ感じます。

もっとも、党員教育の前提 になる党の方針が決まらないようでは論外ですが。

岩根  それらも、旧社会党の弱かったところですが、現在の民主党の地方組 織は旧社会党以上に弱く、殆どないのと同じで、選挙は完全に「風」頼 みのいいところです。

  たとえば、近くある都会議員選挙には定員が百二十で生活者ネットワ ークでさえ十人前後立候補させようとしているのに民主党はまだ二十数 人しか候補者が決まっていない。これが東京の実情ですから地方は推し て知るべきです。

竹中  選挙でも共産党・公明党からは電話がかかってくるが民主党からはな い。もっとも、このごろは共産党からも少なくなっている。  小沢さんが盛んに「日常活動の不足」を訴え、自民党など他党の活動 に学べと叱咤しているのは昔の社会党と同じ悩みですね。

司会  かっての社会党は官公労の組織に乗って躍進し、その衰退とともに衰 亡したわけですが民主党もその轍を踏んでは駄目ですね。   政党はなんと言っても政策で勝負しなくては国民の支持は得られない。  官僚に丸投げする自民党に対し、民主党の政策提起能力は高くなってい るのでしょうか。

岡田 政党交付金のお陰で党の資金は比較的に潤沢らしいですが、全国の国 会議員候補者に毎月100万円ずつ交付するなど地方に渡していて本部の 政策審議会予算は比較的に少なく、旧民社党時代よりも機能は弱いとい う話しもあります。

 連合のシンクタンクは民主党系ともいえるのですがあまり活発に活動 していません。

勿論、限りのある予算で本部の政策立案システムを強化 するには限度がありますから、何十もある民間シンクタンクの力を有効 使うべきだと思います。調査委託をすれば金がかかりますが、その機関 がネット上などで公表している論文について「政権控え党」として公式 に意見を聴取すれば協力すると思います。

岩根  米国などはシンクタンクの人材は大統領が変わればそのまま政権に入 るわけです。日本の政治でも、すべてを官僚に依存するのでなく政党が シンクタンクを活用するシステムを考え、人材も育てるべきです。 勿 論、政党本部自体も有能なスタッフを集めないと政策で勝負できない。 議員が娘や女房を政策秘書にするようなていたらくでは問題になりません。

竹中  民主党の政策が見えてこないのは小選挙区制のせいか、個々の議員が うっかり発言して批判され、票が減ったら大変だと心配して、やたらに 気配りするか自信がないからですかね。  

  以前、新進党の人たち何人かとそれなりにお付き合いしたことがある のですが、ただ目立ちたいというタイプの人が多かったという印象でし た。   どうも学者でも組合活動家でもA級の人は政治家にならない。国が貧 しい時代に政治を志す人には立派な人が多かったが国が豊かになってか ら政治を志す人には立派な人が少ないように思えます。

 言い換えれば、政治というのは、あまり立派な人が選ぶ職業ではなく なっている。こういうことは日本だけでなくアメリカでも同じです。   貧しい国でへんな政治家が出るとめちゃくちゃになるのですが、ある 程度、豊かな国になるとへんな政治家が出ても、それなりに回っていき ます。

 

  それに、日本の場合、政治家を選ぶ国民自体もすっかり変わってしま った。かっては社会党から自民党の吉田茂さんにいたるまで、なんとい っても「戦争だけはコリゴリだ」という共通の意識があった。だから自 民党も社会党の主張を利用し、アメリカに「軽武装国家」の方針を認め させた。

  今は実際の戦争を体験した人が殆どいなくなり、戦争といえばTVで 見る湾岸戦争のイメージになっている。民主党の若手国会議員の動きに なんとなく危惧を感じるのはこういうところかも分りません。

岩根  私は「焼け跡派」でひもじい思いをしながら育ったのですが、民主党 も所謂「古い幹部」と「若手議員」との意識のギャップは凄く大きいと 思います。 しかし、あと10年もすれば古い人は全部いなくなるわけです。「豊か な時代」に育った「若手議員」の民主党になるわけですが、そのとき凶 と出るか吉と出るか。

羽原  今の選挙制度のままなら、自民党と違わない党になっていると思います。 1人区の小選挙区制では中性型・パホーマンス型でしか当選できないか らです。   戦後日本で国民の価値観が多様化し、少数意見でも多数化をはかって 実現を目指すということがようやく身につきつつあった時、白か黒か2 者択一を迫まられる小選挙区制が導入されたのは日本の民主政治には不 幸であったと私は考えます。

 

  かっての自民党には宇都宮徳馬・古井好美氏など少数意見でもユニー クな主張を堅持した多くの議員がいました。それを可能にしたのは3人区 などの中選挙区制だったからだと思います。  

 今の二大与野党制は双方が対立するというより接近する傾向にあります が、これは民主党が悪いというよりも選挙制度のシステムの結果なのです。

岡田  小選挙区制導入の時は盛んに中選挙区制の弊害が叫ばれ、マスコミも 結構賛成していたと思います。

羽原 当時、私は地方支局にいたのですが、たしかに朝日新聞でも選挙区制と 金の問題をワンパッケージにして4分の3くらいがよければ4分の1くら い悪くてもやむをえない。やってみなくてはわからないというようなお かしな議論もあって、支持しました。

岡田  自民党との類似性というのは確かに選挙制度によるところが大きいと思 いますがもう一つの原因には候補者の供給源があります。たとえば、話 題になっている民主党の若手議員で松下政経塾出身者の活躍が目立ちま すが衆議院議員で政経塾出身者の数を見ると民主党18人、自民党8人で す。また、かつては殆ど自民党からだった官僚からも民主党での立候補 が増えている。

 この傾向を悪いとは言いませんが、ただ、自民党は世襲 などで選挙区がふさがっていて難しいから政治改革の信念も何もなく、 官僚的な発想をそのまま持って民主党から議員になりたいだけというの では自民党との差がますますなくなります。

岩根  民主党が自民党と政策や党の体質に大差がなくても政権がとれると考え るならば間違いです。1票の格差問題など制度のひずみを乗り越え、さ らに山陰・北陸など過疎の地方でも勝っていくには生活に根ざした身近 な問題で自民党との政策の違いを国民の前に明確に示せなければ駄目だ と思います。

竹中  そのとうりです。たとえば、最近の外交課題である自由貿易協定(FTA) 交渉での外国人労働力受け入れ問題などについて民主党はどう考えて いるのか。

 全然わからない。   自動車は世界中に売りまくる、資本は世界中儲かりそうな所へ自由に出 て行く、しかし、労働力の自由な移動は認められないという論理はいつ までも通用しません。

岩根  「外国人労働力受け入れ」は賛成か反対ではないのです。必然なのです。 やっていけないのですから感情的に良い、悪いではなく構造問題なので すね。  

 民主党が、この程度のことについて、もしも労働組合に気を配って明 確な方針が出せないのなら「政権を目指す党」なんて言うことはできない。

 元来、労働組合というものは自分の労働条件を守ることを目的とした保 守的な組織なのです。民主党も労働組合に足を引っ張られては駄目ですね。

竹中  最近、フイリッピンとの交渉でようやく少人数の看護師・介護士の条件 付受け入れが決まりそうだが、その他の国との労働力開放交渉では治安を 問題にして受け入れを拒否している。単身者は認めて家族ずれを入れない というのは逆で家族ずれを認めるべきです。

岩根  出稼ぎだけ入れないで日本の社会で生きていく人達を入れるべきなのです。

羽原  労働組合の連合は受け入れに反対なのかもわかりませんが、先日茨城県に いったのですが、農業の現場では人手不足で農業が崩れてしまい、働いて いるのは中国人やベトナム人でした。

岩根  働いている人どころか嫁さんに外国人がどんどん増えています。

竹中  労働組合でもアメリカのAFL・CIOなどは移民や少数民族に支持基盤を移し つつありますね。

岩根  ある意味では民主党にとって絶好のチヤンスがきているとも考えられます。 なぜかと言えば日本の社会構造が急激に変わっているからです。

 

 外国人労働力受け入れ問題などはほんの一例に過ぎないのです。私が取り 組んできた流通業界に例をとってもデパート・スーパーマーケット・コン ビニエンスストアーの時代とそれぞれ隆盛期が移っています。ダイエーが 潰れたのが象徴しています。

  土建業界を見ても、膨大な債務の国家予算のもとでは公共事業費ばら撒 きの土建屋政治の時代は確実に終わりつつあります。

そして、こんどの郵 政問題もこれらにリンクしている現象と捉えるべきだと考えます。   

このような構造変動を確り見据えた政策を提起出来る政党こそ政権党に なれるのですが、自民党政治はあらゆる業界とのしがらみがあって動けず、 日本の閉塞状況を打開できない。

 だからこそ民主党が明確な政策を国民に 示せれば、その可能性があると思います。 司会 まだまだお話はつきないのですが、長時間ありがとうございました。    

 (座談会の発言要旨をまとめたもので文責は加藤宣幸にあります。)