【コラム】酔生夢死
「気球神経症」という病
岡田 充
バイデン米政権は、米大陸を横断する中国の「偵察気球」を2月4日撃墜したのに続き、10~12日には3日連続で「飛行物体」を撃ち落とした。カービー戦略広報調整官は、「国籍や所有者は不明」「偵察を疑う具体的理由もない」と述べるのだが、中国が偵察目的で飛行させたのではという「印象操作」的報道が続く。
中国側は、4日に撃墜された「バス2台分もある巨大気球」については、「民間の気象研究用で、不可抗力で米国に侵入したのは予想外」と遺憾の意を表明したが、撃墜については「過剰反応で国際慣例に重大に違反」と非難。外交部報道官は13日、「米国の気球は22年以来10回あまり中国の領空に侵入した」と「反撃」に出た。
中国気球について、米議会では野党共和党の対中国強硬派議員から、「撃ち落とすまでに8日間を要した」と、政権の対応を問題視、親台湾派のマルコ・ルビオ上院議員は「中国がインドや日本から領土を奪い台湾を侵攻しても、何もしないというメッセージ」と、政権を辛辣に非難したほどだった。
バイデン氏は7日、こうした「中国敵視感情」を受けながら、施政方針演説にあたる一般教書演説を行い、中国の習近平国家主席を名指しして「民主主義国家は強くなった。専制主義国家は弱くなった」と、中国批判を際立たせるのだ。
気球事件を受けブリンケン国務長官は、2月4日から予定していた初訪中を延期し、外交問題へと発展した。議会反応とそれを受けた大統領演説の内容をみて、中国の旧知の国際問題研究者は「これは内政の分断に苦しむアメリカの内政問題でしょう」とコメントする。内部分裂を糊塗するため、中国という「外敵」に非難を集中することで、団結を回復しようという伝統的な「病」と見るのだ。
子供時代に観たハリウッド西部劇は、先住民の襲撃や外敵から街を守るため、ヒーロー役が、敵のガンマンに向けて銃を撃ちまくるシーンが必ずクライマックスにあった。そのシーンと戦闘機による「飛行物体」の撃墜は重なって見えてしょうがない。
米国の歴史を振り返れば、建国以来、南北戦争や公民権運動など社会的分断と政治的対立が常に内政を占め、一つに統合したことはない。だからと言うべきか、外に敵を作らないと生きられないメンタリティが支配的なようだ。西部劇だけではない。共産主義者排除の「赤狩り」、日本バッシング(叩き)に、「9・11」後のイスラム過激派との戦争—。数えればきりはない。
米中対立から始まる「チャイナ狩り」では、中国留学生・研究者や共産党員の米入国を制限し、中国語普及のための「孔子学院」の一部を閉鎖した。「民主か専制か」の二元論思考や「外敵を求める」メンタリティに普遍性はない。
にもかかわらず、米国の主張に引きずられ、オウム返しに中国非難を繰り返すメディア。今回の「気球神経症」ともいうべき米国の深い「病」を共有してはならない。(了)
(2023.2.20)
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