■【コラム】酔生夢死
「眉に唾」してかかれ
このところバイデン米政権当局者の発言の信頼性に「?」マークがつくケースが相次いだ。最近の例からいくと、米国務省のプライス報道官の北京冬季五輪ボイコット発言(4月6日)。同氏は、中国の新疆ウイグル自治区での「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を挙げ「北京五輪はわれわれが協議し続ける分野だ」とし、同盟・友好国と協議すると語ったのだ。
オリンピック・ボイコットと聞いて、すぐ頭に浮かぶのは1980年のモスクワ五輪だろう。当時のカーター米大統領は、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻に抗議して、西側諸国にボイコットを呼び掛け、日本を含め60カ国が参加を取りやめた。米ソ冷戦下の世界をデカップリング(分断)した国際政治の大事件だった。
バイデン政権がそれに倣って、北京大会ボイコットを決定したとすれば大ニュース。発言はすぐに世界を駆け巡った。ところが翌日、ホワイトハウスのサキ大統領報道官が、北京五輪に参加する姿勢に「変更はない」と訂正した。サキ氏は「共同でのボイコットを同盟国と議論したことはないし今も議論していない」と「火消し」に追われた。
北京五輪を人権外交カードとして切るタイミングとしては確かに早過ぎる。コロナで開催を1年延期し、まだ中止説もくすぶる東京五輪だって開かれていない。いまボイコットの同調を求められ、最も困るのは、「アジア最強の同盟国」の日本だ。
仮に同調すれば、中国は東京五輪をボイコットするだけじゃ済まない。訪日外国人で最も多い中国人観光客の日本渡航にブレーキをかけるだろう。様々な経済制裁も続く。だが北京ボイコット問題はこれにて終了ではない。大会が近づけばむしかえされるはずだ。
もう一つの発言は、米国防総省のジョン・カービー報道官が2月23日の記者会見で「日本の主権は尖閣諸島(中国名 釣魚島)に及ぶ」と述べながら、3日後に訂正・謝罪したケース。中国、台湾も領有権を主張する尖閣への米ポジションは「日本の施政権が及ぶ」というもの。領有権(主権)への立場はとらない「中立政策」である。
国防総省当局者が突然、この発言をした真意は謎である。「国務省と国防総省の対立」という見方。中国への「嫌がらせ」と、反応を探るためのアドバルーンという見方もある。その一方、尖閣問題に対する米当局の「認識レベルの低さ」が原因との解釈も根強い。筆者もこの立場。
米国にとって、この海の孤島は国益を左右する大事ではない。日本が米国に「日米安保条約5条適用」をしつこく迫るのは、米国の尖閣防衛姿勢を疑う見解が日本政府内にあることを裏付ける。二つの「失言」は何を物語るのか。米政府当局者の発言を、端から疑わず「金科玉条」視する日本メディアと日本人の「米国信仰」。これからは、眉に唾してかかろう。
北京五輪ボイコットを示唆するプライス
~米国務省報道官(TBSニュースから)
(共同通信客員論説委員)
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