【コラム】
あなたの近くの外国人(裏話)(35)

「近く」と「遠く」のコロナの話し①

坪野 和子

 みなさま、ご無事であられますか? 非常事態宣言が解除される前まで、“How are you?” “I’m safe.” という挨拶をずっとしていました。「日本はロックダウンしているか?」「As a lock down at near Tokyo」と続けていました。もちろん実際に会うのではなくインターネットの電話を使っての会話です。国内でも国外でも人に会える状態ではありませんでしたから。
 歩いていて見かけた美容室の大輪の花を、たまたま店から出てきたオーナーさんに褒めたら「今年は五輪しか咲かなかったわ」「オリンピックの年だったはずですものね」「あはは」。夫以外の日本人とじかに会話をしたのは、これ1回でした。もちろん解除まで外国人ともじかに会話していませんでした。ずっとインターネットでした。こうなると、遠くにいようが近くにいようが同じですね。

◆ 1.「近く」のコロナの話し

 我が家の近所の中国人の中華料理屋さん。本来の料理屋さんを休んで店頭で中国製マスクを売っていました。
 ある日、バングラデシュ人の友だちから大量のマスクが彼のお店とわかる写真を送ってきました。数日後、同じマスクが新大久保のハラル食材屋さんでも売っているというニュースをメディアで見聞きしました。どうやらバングラデシュ人たちがバングラデシュ製マスクを共同輸入したようでした。後日、私のパートナー・ティーチャーに誤って見積書が送信されてきて、すべてがわかりました。

 我が家の近所のネパール人の料理屋さんでパコラ(カレー天ぷら)をテイクアウトしました。お店は暇そうにしていました。またこのお店は「日本人向けの味」なのですが、今回、初めて「インド人向けの味」でした。私の「パコラ」の発音を暇だからきちんと聴き取れたのだろうと思います。
 日本在住のパキスタン現地で日本語塾を経営している人から突然メッセージが来ました。インド人のIT関係の会社に人を紹介できないか?というお問い合わせ。この人、パキスタン人の間で評判が芳しくない。たぶん、コロナで日本語学校に合格したのに入国できない生徒がたくさん出て、経営の方向を探っているのだろうと思いました。騙されたくないのでインド人のビジネスパートナーさんに丸投げしました。

◆ 2.「近く」のコロナの話し 船が動いていない、飛行機が飛んでこない。

 5月末にインド航路の飛行機臨時便が出たものの、モノの流れが滞っています。南アジア出身の中古車販売の人たちが、例えば、100万円で売れていた自動車が30万円、場合によっては仕入れ値より安く、しかし、車庫にいつまでも置いておけない。たたき売りだとか!
 食材屋さんが微妙で、簡単に食材が現地から入ってこないので、ウハウハに儲かっている、入ったら大量に、その日のうちにあっという間に売れる。逆に、今はマンゴーの季節だけど、季節商品が例年の売り上げを見込めない。どちらにしても食材屋さんは儲かっていても、損していても、今、コロナ禍で忙しいようです。

◆ 3.「近く」のコロナの話し 日本語のオンライン授業無料体験クラス

 男性はコロナで在宅の仕事になり、より良い仕事を得るために日本語能力試験を鑑みて、奥さん方はポスト・コロナで何か仕事をしたり、日本人ともっと近くなりたいと考えたりして、またお子さんもインターナショナルスクールに通っていて日本語を覚える機会がないなど、家族で日本語を勉強したいという希望が少なくありません。Kids クラスは私にとって悪くない。人材海外流出…つまり日本育ちのお子さんが英語圏の大学・大学院に行き、就職されてしまうことを憂慮しているからです。外国ルーツ、日本育ち、日本発信の優秀な人材を育てたいと考えていますので。

 また、バングラデシュ人の男の子たちが、会話はスムーズ、ひらがな・カタカナができるのに、漢字が皆無なことに驚きました。現地の先生が苦手なのかと感じました。会話希望の生徒候補が「ビジネス日本語会話」と言ってきました。日本語能力試験のための日本語では仕事に使えない、敬語を教えてほしい、このコロナで今まで外国人だから通じるカタコト日本語ではより良い仕事・成功は厳しい、頑張ってビジネス日本語を勉強したい。そういう人がいるのです。また残念ながら、考えが甘い人、私にとってはサービス価格なのに高いと感じて断念する人もいました。

◆ 4.「近く」のコロナの話し イスラム教徒の友だち 「空気読めない」

 基本、私が知るすべての国でロックダウン。ラマダン、イードと自粛期間が重なって、東京近郊では「自粛」という言葉の解釈を「ほぼロックダウン」と考えてモスクや礼拝所で「密」にならないように注意を払っていたそうです。特に日本人の信者さんが所属しているモスクでは日本人の方が、誰が見ても大丈夫なように間隔を保っていたようです。ですが…例えば私の友だちが美味しい炊き込みご飯を作った…彼の部屋に人が集まって礼拝所のようになり、かえって「密」を作ってしまうなど、逆みたいなことが起きてしまったこともあったようです。またあまり感染者が出なかった地方の県では、自粛関係なく宗教行事が行われていたようですが。

 「せーんせ(先生)、東京で仕事がない間、こっちに来ませんか?」って…地方の、感染者が少なく、かといってゼロではない県のパキスタン人男性。「ダメです。オンライン授業やっていますから」「せーんせ(先生)、俺のところWi-Fiあるから」「ダメです。パソコンとホワイトボードとテキストを持って高速バスに乗るのはイヤです」「埼玉まで迎えに行くから」「埼玉…住まいは千葉県です。ボーダー越えられません、東京から高速バスはもってのほかです」。
 コロナで在宅していた期間、空気を読むとはどういうことかわかってきた私が彼に思った「空気読めないなあ」。

 「空気読めないなあ」これ、知り合いのハラル料理屋さんにも思いました。オーナー自らお客さんの席に行って手指消毒しているシーンをネットに挙げていました。ですが…。マスクしていない!! 日本人も見ているサイトなのに。

 日本における多文化共生がうまくいっていないのは、日本側の問題だけでなく、在留している人たちの無意識な行動も問題がありそうです。真剣に日本で働きたい人への支援をボランティアではいけない、ビジネスとして考えなければいけないと強く感じました。世界のみんなで、目に見えない危機を乗り越えないと!!

 次回はネットから通信してきた「遠い」外国人たち(続く)

 (東京ベイインターナショナルスクール顧問)

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