中国・深セン『中国ゴミ捨て事情』 (その三) 佐藤 美和子

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 いま私が住んでいるマンションは、1年365日・1日24時間、いつでもゴミが捨
て放題です。ゴミの種類や大きさだって無関係。中国の多くのマンションは同じ
だと思います。いつでもゴミ捨てOKというのは住人にはとっても便利で有難いの
ですが、これはこれで問題があるのです。

 ウチのマンションの場合、各フロアの非常階段脇に、ゴミ捨て場としてのスペ
ースが設けられています。ゴミ袋をかけた大型のゴミ箱が置かれていて、毎晩深
夜にゴミ収集係りが各棟・各フロアを回って片付けてくれます。ところが24時間
捨て放題なせいで、朝捨てられたゴミは丸一日、ゴミ捨て場にあることに。暑い
広東省のことですから、ゴミ捨て場にはいつもすえた匂いが漂うこととなります。

 しかも住人のゴミの捨て方があまりに酷いせいで、ハエやゴキブリまで出る始
末です。なんと、毎食後に調理鍋をゴミ捨て場に持ってきて、鍋から残飯をダイ
レクトにゴミ箱にあけちゃう人がいるのですよ。汁を切ってから固形物だけゴミ
箱にあけるといった配慮もなく、ゴミ箱の中が水気でたっぷんたっぷんしている
ことも。あぁゴミ収集係りの人、気の毒に……。蓋のないゴミ箱なのに、残飯を
袋に入れずにそのまま捨てていたら? ゴミ収集がどんなに頻繁でも、腐敗臭が
したり虫がたかるのは当然ですよね。

 また、プラスチックや紙類どころか、尖った物や硬いものだって生ゴミと一緒
くたに捨ててあるのも困り物です。良くあるのは、枯らしてしまった植木をその
ままゴミ箱に捨てているケース。大きく張った枝は手折って小さくまとめて、な
どという処置なんぞしてありません。土の入った植木鉢ごと、まるっと捨ててあ
るのです。尖った枝がゴミ袋を突き破って出てくるんじゃないかとか、そうした
らゴミ袋の底が抜けてゴミ収集する人が大変だろうだなんて、皆さん一切関知し
ません。そんな有様なので、中国ではゴミの分別という概念はほぼナイと言って
いい状況かと思います。

 日本に居た頃ほど厳密にではないですが、私は中国に住む今でも自分なりの分
別をしています。なにせ市や自治体にはろくに規定もないので、自主的に考えて
するしかないのです。

 まずペットボトル・缶・ビンは中を水でゆすいで乾かし、ラベルを剥がしてか
らそれぞれの袋に仕分けます。スーパーの食品トレーなども、洗って乾かしてか
らプラスチック類とまとめて袋に。割れたガラスや折れたナイフ・カッターなど
の危険なものは、古新聞で包んでから、太マジックで内容物と危険!の文字を大
きく書いて、他のゴミとは別にしておきます。ま、日本じゃ当たり前のことです
よね。

 ところが私がこういうことをしていると、ウチの相方、あまりいい顔をし
ないのです。「ただゴミを捨てるだけに、中国ではそんな面倒なことをする人は
いない。つまり、そういう日本式のゴミの捨て方は、『ここには外国人が住んで
います!』と声高に宣伝するようなものだ。ゴミ収集係りだって、ウチがゴミの
捨て方に気を使ったって感謝なんてしないし、逆に外国人の家だと知られれば強
盗を企まれる恐れもある。

 それに、もしまた反日運動が起こったら?日本人が住んでいると周囲に知られ
ていたら、そのとき標的にされないとも限らないよ。環境保護は大事なのは承知
しているが、この国では却ってトラブルを招きかねないんだ。郷に入っては郷に
従え、中国人と同じように捨てるようにしたほうがいい」

 ゴミを分類することで、強盗を招き寄せるとは!まったく想定外の発想です
よ。とはいうものの、中国人スタイルでは私自身が罪悪感に苛まれるので、ゴミ
分別を止めない代わりに厳重な戸締りを心がけています。ゴミ分別を止めない理
由のもう一つは、ペットボトル専門のゴミ拾いさんが時折マンションに紛れ込ん
でくるからです。うちのマンションで殺人事件(2009年6月・66号)発生後は、
マンションゲートの管理が厳しくなったためにずいぶん減ったのですが、以前は
よく、ゴミ捨て場でペットボトルなど換金できるゴミを漁っている人と鉢合わせ
したものなのです。

 彼らはマンション管理会社のごみ収集係りに見つからないよう、急いでペット
ボトルだけ探しだしてはササッと次のフロアに移ってゆきます。漁った後、彼ら
が散らかしたゴミを片付けていくことはありません。しかし私たちが最初から、
ペットボトルゴミだけをサッと持ち去れるよう袋にまとめ、生ゴミとは別にして
おけば、ゴミ捨て場を彼らに散らかされずに済みます。ま、そんなことをしてい
るのはこのフロアでも我が家だけなので、焼け石に水なのですがね。

 広東省では、外食の際に食べきれなかった料理をお持ち帰りする習慣がありま
す(同じ中国でも北方人は、貧乏くさくて格好悪いとお持ち帰りはあまりしない
そうです)。そんな残り物お持ち帰り客用に、どこのレストランでも発泡スチロ
ールかプラスチックの弁当容器を用意してあります。ずいぶん前のことですが、
持ち帰りに使った容器をさっと水で洗い流して捨てようとすると、また相方に注
意を受けました。

 「発泡スチロールの弁当容器はね、必ず箸かなにかで突き刺して、数箇所に穴
を開けて使えないようにしてから捨てること。あ、割り箸も折ってから捨てて
ね。なんでかって?この国には、ゴミ箱を漁って使用済み発泡スチロール弁当容
器や割り箸を集める輩がいるんだよ。そういう人たちは、いい加減な化学薬品で
いい加減に洗い、それを安食堂なんかに格安で売りつけるんだ。

 割り箸も漂白剤に漬けて、見掛けだけキレイにしたのが市場に再び出回ること
もあるらしい。不衛生な上に、化学薬品まみれのリサイクル品が、人体に良いは
ずないだろう?だから悪徳業者が拾ってリサイクル出来ないように、しっかり壊
してから捨てなきゃいけない。回りまわって、もう一度自分が使うハメになるの
は嫌だからね」
 
  うーん、ペットボトル専門のゴミ拾いが居るのは知っていましたが、発泡スチ
ロール弁当や割り箸専門の収集人までいるとは。中国には日本のようなゴミの分
別という習慣はないものの、どうやら中国には中国独自の?ゴミ捨て作法という
ものが存在するようです。

                (筆者は中国・深セン在住・日本語教師)

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