【沖縄の地鳴り】

『山砂利採掘現場』

小川 アンナ

その日蒼青にそびえて山砂利採掘現場の青ぴかりする篠隠の断面は
はるかな稜線から足下の奈落まで一切の風景を遮断して私たちの前面に立ちはだかっていた

いつここがこのようにえぐられ
あばかれたものの痘大な傷口がぱっくりと曝され
私らはその声なき地味にのまれて粟粒のごとく地の縁に立ちすくんでいた
青藍色にやや鈍色に流砂の傾斜をあらわしたまま太古の河底の堆積を見せている壁面
その前にいまめくるめき失墜するものはなに
甲虫のようにかたまっているブルトーザー トラック パワーシャベル
 おもちゃまがいな小道具で畏れ気もなく地塊にいどみ
 あわよくば地球の芯まで至ろうと掘りあさった愧しらずな所業の上に
しかも現れているのは青藍色のしたたる憂愁をまとったまぎれもなく高貴な何ものかの貌である
その貌は打つ
たかが虫けらに同じ生き物の身を忘れて
母なる大地に加えた陵辱の手を
この光り降る鏡面に架けられる私らの罪

この日私らの上の蒼天はあまりに深く
神を喚ぶ声は届かなかった

河砂利採掘跡の大洲になった河原、その砂利穴に溜まった雌かな水などをのぞきながらなおも河原を織ってゆくと、採掘禁止の河から上って山砂利業となった、対岸の富士市貰戸(ぬくど)の現場に出る。ただもう呆れ、おののき、言葉もなかった。そして悲愁の色の青くかがやく地球の内部の貌をはじめてみる。(小川アンナ)

●小川アンナ
本名・芦川照江 1919・10・4生まれ97歳
1969年富士川火力建設に反対して婦人たちの先頭に立ち阻止した。
「公害を告発してたたかうことをはじめたために、私自身の人生は、ある一つのマナ板の上にのせられて、私自身に突きつけられているということだ。相手を告発することは即ち自分自身をあからさまにして究める、ということだ。たぶん闘争のきびしさということはそのようなことであろう」。
(『住民運動私論』学陽書房))


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