【コラム】酔生夢死

お笑い岸田劇場

岡田 充

 岸田文雄首相の遊説会場に爆発物が投げ込まれ(4月15日)、昨年7月の安倍晋三元首相の銃撃事件の記憶が蘇った。現場が遊説会場で発生時間もよく似ていたが、岸田が爆発前に避難して無事だったのは幸いだった。

 ANN(テレビ朝日系列)が、爆発事件当日と翌日行った世論調査の結果、岸田内閣支持率は前月比で10.2ポイントも大幅上昇し45.3%(不支持34・6%)だったという。ANNは上昇理由を伝えていないが、少子化対策や防衛増税への支持率は低かったことから考えると、爆発事件への同情が支持率を押し上げたのかもしれない。
 一歩間違えば生死にかかわる「不幸」な事件の発生、その結果支持率が上昇したとすれば「禍を転じて福と為す」の典型のようだ。支持率上昇は、選挙結果にもプラスの影響をもたらすとすれば、首相はかなり強運の持ち主だ。

 21年の岸田政権発足以来の世論動向を振り返ると決して順風満帆ではなかった。安倍国葬を過半の反対を押し切って強行し、旧統一教会と自民党議員の癒着処理の不徹底や相次ぐ閣僚辞任から、支持率低迷が続いてきた。
 毎日新聞の世論調査によると、内閣支持率は22年12月に25%にまで落ち込んだ。しかし3月の世論調査では、ウクライナ訪問と日韓首脳会談による関係正常化を好感して支持率は上昇傾向に転じ、危険水域を脱したという。
 日本はことし先進国主体の「G7」議長国。岸田は政権基盤の強化と自分のレガシー作りのため、5月の広島G7サミット成功を政権運営の最大のプライオリティーにした。ことあるごとに「核なき世界の実現」と強調する首相だが、米国の「核の傘」に入っている現状と、核兵器禁止条約に頑迷に反対する政策は、「核なき世界」の理念と矛盾する。

 そんな中、米タイム誌は4月13日、2023年の「世界で最も影響力のある100人」に、日本人から岸田とゲーム開発者の宮崎英高氏の2人を選んだ。その理由について、岸田のウクライナ訪問に加えて「故郷の広島の原爆によって何人もの親族を失い、戦争の痛みを知っている」ことを挙げるのだ。
 さらに「ロシア、中国、北朝鮮による脅威に直面し、日本の外交政策の革命的変革に着手し、軍事予算を50%も増額し日米同盟を強化した」ことにも触れた。岸田は22年末、安保関連3文書の改訂を閣議決定し軍事予算の大増額と敵基地攻撃能力の保有を容認、歴代政権が守っていた専守防衛政策を放棄し、憲法9条を「殺した」張本人である。

 「タイム」は米国益を最優先する保守系誌だから、バイデン政権の安保政策を忠実に追従する岸田を選ぶのは分かる。むしろ、米国の一週刊誌の見立てをあたかも「世界の声」かのように持ち上げ報道する日本メディアのスタンスこそ「お笑い」と言うべきだろう。(了)

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米誌「タイム」の公式サイトから

(2023.4.20)
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