【沖縄の地鳴り】
『なぜ沖縄なのか』――占領者意識と差別政策
沖縄本島北部の大浦湾に広がる、美しい辺野古の海。新種や絶滅危惧種のジュゴンなど、約1,300種の多様性生物、豊富なサンゴ礁が群生する。大多数の県民はもちろん、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)をはじめ、国際、国内の8自然保護団体が、こぞって環境保全を訴え続ける。
「辺野古が唯一の解決策」を決まり文句に、安倍政府は、悲痛な叫びにまったく耳を貸すことなく、米海兵隊の新基地建設に突進している。総額1兆円にも及ぶ、巨額の国税を投じて建設する初の提供施設であることを、どれほどの国民が知っているだろうか。
政府は、最高裁での勝訴をタテに、コンクリートブロックによる岩礁破砕を強行、ついに4月25日、護岸工事に着手した。6月には、本格的な埋め立ての構え。160ヘクタールの面積に東京ドーム16.6杯分、2,062万立方メートルの巨量の土砂が投入されようとしている。
護岸工事が中途で歯止めがかからず、いったん土砂による埋め立てに入ったら、辺野古の海は二度と元には戻れない。大浦湾が「死の海」と化す瀬戸際なのだ。圧倒的な民意をバックに「辺野古に新基地は造らせない」と強く主張する翁長県政には、最大の試練である。
「あらゆる手段を講じて阻止」を模索する翁長県政と、「国策には従え」と、一歩も譲る気配のない国との対立は、抜き差しならぬ重大局面を迎えた。
このような危機の状況を反映し、政府の護岸工事着手から4日後の4月29日、辺野古のキャンプ・シュワーブのゲート前に、約3,000人の反対市民が駆け付け、抗議集会を開いた。内外の不測事態も含め、かつてないほど会場に緊迫した空気が漂ったのは、集会の正式名称「辺野古新基地阻止・共謀罪廃棄・4・28県民屈辱の日を忘れない県民集会」に集約されていると思えた。
折しも4・28は、サンフランシスコ講和条約から65年。日本の独立と引き替えに、沖縄がアメリカに分離統治された日。沖縄に米軍基地が集中し、ひいては辺野古問題発生の元凶・原点と見られる。
しかもこの日は、米海兵隊軍属による、忌まわしい殺害・遺棄事件から満1年でもあった。参加者の多くが黒い服を着け、全員で1分間の黙とうをささげた。「むごい事件は絶対に許せない。二度とあってはならない」と、死者の霊を弔った。
さらに、政府・与党が法制化を目論む『共謀罪』に、最も敏感に反応し、警戒感と反対の意見が続出したのも辺野古の集会現場だった。
市民運動のリーダー格の山城博治沖縄平和運動センター議長が、5ヵ月間も長期勾留された事例が、共謀罪の行きつく先を予見させたのである。軍事基地の集中する沖縄で、県民は実体験として国家権力の怖さ、理不尽さを実感しており、皮膚感覚にもなっている。
確かに昨今の国際情勢は、北朝鮮の脅威、尖閣をめぐる中国との緊張関係など、予断を許さない緊迫状況にある。その渦中で、安倍政権は自民党勢力の一極集中を土台に、トランプ政権にすっぽり寄り添って、日米軍事同盟の一層の強化を図っている。一見、敵なしの「追い風」に乘った強権の政治手法が、やたらと目立つ。
辺野古をめぐって「『沖縄』はもう終わった」「基地があって当然」との言説が、政府与党や右寄りの言論人、一部マスコミからも続出。沖縄バッシングのヘイトスピーチも充満している。
この逆風に、沖縄はどう向き合えばいいか。今こそ厳しい視点で、冷静に基地・安保の現状、将来を見つめ、問い続けるほかはない。戦後72年間も、軍事基地に悩まされ続けた県民の選択の分岐点にもなるであろう。
なぜ「辺野古が唯一」なのか。図らずも今回の北朝鮮危機で判ったことは、基地機能として沖縄海兵隊は、ほとんど役割を果たさなかったことである。「唯一」ではないのだ。尖閣への出動も現実的に可能性がないと言われる。北朝鮮に向けて、あわただしく緊急行動態勢を敷いたのは、嘉手納空軍基地だった。
「沖縄基地の負担軽減」を政府は決まり文句にしながら、それとは裏腹に、なぜ「抑止力」や「地理的優位性」を辺野古新基地建設に結びつけるのか。とっくに論理破綻しているのに。
それどころか、軍事専門家や米政府の元高官からは、軍事技術が高度化したなかで、海兵隊に限らず、嘉手納空軍基地を含め、沖縄全体が中国や北朝鮮の弾道ミサイルの射程内にあり、有事には無用化しつつあるとの見解さえ出されている。
それなのに、日米政府は辺野古にこだわり続ける。突きつめると、「戦争で勝ち取った土地は手放さない」と、今なお色濃く残るアメリカの占領者意識。これに同調、追随し、日米同盟・一体化にまい進する安倍政権の沖縄差別政策の帰結、と見たい。
この時期、沖縄では4・28屈辱の日(サンフランシスコ講和条約65年)、5・3(日本国憲法制定から70年)、5・15(沖縄施政権返還から45年)、6・23慰霊の日(沖縄戦終結から72年)など、深く記憶に刻まれる重要な節目が続く。揺れ動く国際、国内の不測の事態とも絡み合って、目が離せない。
(元沖縄タイムス編集局長)
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