もう決着はついた、原発コストは高い!

もう決着はついた、原発コストは高い!

福永正明

1.第5次エネルギー基本計画
 2018年7月3日、「第5次エネルギー基本計画(以下、「計画」)」が閣議決定された。「計画」は、原発依存度低減を述べながら、2030年の電源構成に占める原発比率20-22%を維持した。そして維持達成のためには30基の原発稼働が必要だとする。
 そして原発は、「運転コストが低廉」であるとして、重要なベースロード電源と位置付けられた。果たして、原発は本当に低廉であるのか?

1.「計画」の基礎資料となる2015年ワーキンググループ計算

 資源エネルギー庁のサイトには、2017年10月31日付けによる「原発のコストを考える」(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.html)とのスペシャルコンテンツがある(2019年2月18日最終閲覧)。同コラムでは、2015年の「総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ(以下、「検証WG」)」の『長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告』、以下「報告」)から、「原発の発電コストは10.1円/1kWh」であり、「火力や再エネ発電より高くなることはなく、発電コストの面で原発に優位性があることは変わりない」とする。
 この「検証WG」が算出した10.1円/1kWhの数値により、昨年の「計画」が策定された。試算は、2014年度に発電プラントを新設した際の総費用を、建設プラントが発電する総電力量で割るモデルプラント方式により求めたとされる。

   円/kWh= 資本費+運転維持費+燃料費+社会的費用
             発電電力量(kWh )

(「報告」、6ページ)

原発のコストは「発電原価」と「社会的費用」に分けることができる。
発電原価とは、
 ・資本費:建設費、固定資産税、水利使用料、設備の廃棄費用の合計
 ・運転維持費:人件費、修繕費、諸費、業務分担費の合計
 ・燃料費:単位数量当たりの燃料価格に必要燃料量を乗じた値、原子力は核燃料サイクル費用として別途算出。
 ・2013年策定の新規制基準による追加安全対策費
社会的費用とは、原発の運用に間接的に関わるコストであり、
 事故リスク対応費(原子力のシビアアクシデント対応費)、政策経費、環境対策費 (火力のCO2対策費用)などの費用。

画像の説明
原子力発電コスト
『長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告』51ページ(https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_01.pdf

2.非現実的な建設費
 「検証WG」は、資本費の大半を占める原発建設費として、4400億円/1基(37万円/1kW)として見積もられている。
 「検証WG」が算出し「計画」が主張する10.1円/1kWhのうち、3.1円が建設費に相当する計算である。これにより、石炭火力(12.3円)や水力(11円)より安い電源と位置付けた。
原発は、燃料費は安い(廃棄を含ない)が、運転稼働開始までの資本費が高いことが特徴となる。 また、計画立案から建設開始、建設の遅延などもあり、運転までの期間が長く「完工リスク」も高い。日立が英国ウィルヴァ原発事業で活用しようとした、「差額精算方式を用いた低酸素発電電力の固定価格買取制度(Feed-in Tariff withContracts for Differences:FIT-CfD)も、建設が終わり原子力発電稼働がはじまれば、多くの収益を見込める制度である。
 資本費の検証は重要である。明確であるのは、資本費(主として建設費)は、安全規制が強化により増加傾向が続くことである。欧米では、東電福島第一原発事故後の規制強化にともなう建設費用の上昇が顕著であり、例えばイギリスのヒンクリーポイントC原発(2基で33GW)の建設費は、総額 245億ポンド(2014年時点)。単価は約120万円/kWとなる。日本の原発は37万円/kWとされ、資本費は3.2倍になる。資本費は3.1円→9.9円に上昇し、英国並みとして算出すれば発電コストは17.0円/kWhとなる。
 三菱重工のトルコにおけるシノップ原発建設事業、日立製作所のイギリスのウィルヴァ原発建設事業は、1基1兆円と算出された。この建設費の高騰が、日本からの原発輸出の破綻に結びついている。
 すなわち、日立製作所の英ウィルヴァでの原発2基建設事業だが、1基1兆円を超え、既に1兆2500億円にのぼfjるとされ、総工費は3兆円に肥大した。これが、日立製作所が1月中旬に取締役会において、「事業凍結」を決めたカギとなった。
 直近の新設原発は2009年7月に北海道電力泊発電所3号機(加圧水型軽水炉、PWR)が運転開始した。この炉増設については、2000年提出された工事に要する資金の額及び調達計画では「建設工事費約2,926億円」とされた「(北海道電力株式会社泊発電所 原子炉設置変更許可申請(3号原子炉 の増設)の概要))。すでに計画申請段階において、2,926億円が計上されていたのである。申請から9年後に運転開始した泊原発3号機の総建設費は、さらに上昇したことは明らかであろう。
 政府は、あくまでも「計画」は、福島事故以前に建設されたような建設するとして1基4400億円を強調する。このように欧米に比して格安となる理由として政府は、欧米では原発新規建設が行われていないことを理由とする。だが日本においても、2009年から10年間、新規建設が行われていない。4400億円に東電福島第一原発事故にも対応できる追加的安全対策費600億円を加算することとして、非現実的である。
 つまり、「計画」では、欧米の半分の建設費で原発が運転できることが前提として算出された10.1円/1kWhである。

3.発電コストの急上昇と再生可能エネルギーの低廉化
 2016年に東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)が発表した資料では、福島第1原子力発電所の事故処理費用が約22兆円とされた。だが、民間シンクタンクの日本経済研究センターが2017年3月に発表した試算では、総額50兆~70兆円とされる(「事故処理費用は50兆~70兆円になる恐れ」(https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/20180824-13.html)、日本経済研究センター、2017年03月07日発表)。事故リスク対応費のさらなる増加なども算入すれば、原発発電コストは、電力コスト分析の第一人者である大島堅一教授は「17.6円以上」とする(朝日新聞、「原発の本当のコストは?」https://www.asahi.com/articles/ASM1L4W0PM1LULFA013.html 2019年1月23日)。
 「検証WG」は、石炭火力12.3/kW、や一般水力11.0/kWhをも上回り、最も安い電力ではなくなる。4月上旬、日立会長の中西宏明氏が経団連としての「原発推進」提言を公表した。これについて国会質問で確認を求められた世耕経産大臣は、「日本政府としては、原発の新規建設、リプレイスの計画はない」と答弁している。
 そうしたなか、巨大市場インドへの米製原発炉6基建設が合意となり、インド国産原発の建設も進められている。私たちは、国内だけでなく、さらに日本からの原発輸出だけでなく、広く世界共通の「脱原発」への道を探る必要があるだろう。

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