【沖縄の地鳴り】

せめてドイツ駐留米軍並みに!
アメリカはアジア蔑視をやめろ

辺野古・大浦湾から 国際法市民研究会


◆◆ 国家主権の回復運動

 沖縄でいわれる「軍事的植民地」とは、沖縄の米軍基地を自由に使用させるために、国家主権が部分的に放棄または抑制される状況のことだろう。他国による領海領空の侵犯がわずかでもあれば、政府はすぐ「主権侵害!」と抗議するが、沖縄の現状は逆に「公共益」だという。このような場合、米軍基地の縮小撤去は、県民生活の自己防衛のためであるばかりでなく、国家主権の回復運動ということもできる。

◆◆ ドイツの国内法適用原則

 駐留米軍4万人弱には、原則として日本の法令は適用されない。外務省によると、「軍隊は国家機関の一部で他国の主権に服さない」「国内法は基地内外を問わず原則として適用されない」という(ただし日本側の行う基地内の工事や米軍個人の公務外行為には適用される)[註1]。地位協定によれば、基地が返還されるとき米軍に原状回復義務はなく、環境の破壊・汚染の補償義務もない。これらは、韓米関係においても同様である。

[註1]琉球新報社編「外務省機密文書:日米地位協定の考え方増補版」高文研2004年p130。

 ところが、7万人弱の米軍が駐留するドイツでは、駐留NATO軍地位協定——在日米軍地位協定のモデル——に対するボン補足協定の1993年改正において、「施設区域の使用についてはドイツの法令が適用され」「隣接自治体や一般公衆に対し…予見可能な影響」がある場合には例外がない(補足協定第53条第1項)。しかも、駐留軍の故意または重大な過失による損害にドイツは「請求権を放棄しない」。故意・重大過失がない場合でさえ、「施設区域の損害または動産の減失もしくは損害」は、駐留軍側とドイツが「対等に負担」する(同第41条第3項(a)最後の一文および同条第10項)。

◆◆ 住民生活優先のドイツ

 このような違いは、「ドイツ国内法に対する遵守義務を駐留NATO軍に課して、住民生活を保護しようとしている」ためと考えられている[註2]。「国民主権」は国家主権を支えると同時に「住民自治」を基盤としているから、住民生活優先は当然である。またドイツでは、駐留軍基地の規模を「必要最小限度に限定する」ため、駐留軍側はその「需要について絶えず検討」しなければならない(第48条第5項a(i))とする。住民生活からみれば、これも当然といわなければならない。
 要するにアメリカは、日韓両国とドイツを平等に扱っていない。これは国連憲章の「加盟国間の主権平等」に反するが、日韓両国が異議を申し立てない限り、この事態は維持される。この不平等取扱いについて、日本は韓国と連携して、アメリカをはじめ国際社会に働きかけなければならない。

[註2]本間浩「ドイツ駐留NATO軍地位補足協定に関する若干の考察」p2—国立国会図書館「外国の立法221」2004年8月。補足協定条文(和訳)はこのp21〜66。

◆◆ 立入調査は事故と返還時に米軍の同意必要

 外務省によると、米軍基地への立入調査権がないのは「国際法上の原則」(ただし、基地内工事を日本側が行う場合、米軍は日本の立入りを「原則として拒むべきではない」とする)[註3]。しかしドイツでは、事前通告付きの立入調査を基本とし、緊急時や危険が迫っているときは事前通告も不要(補足協定第53条についての議定書第4項2(a))。この点でも、日韓両国は差別されている。

[註3]前掲「外務省機密文書」p54、p56。

 韓米間では、2001年「環境保護に関する特別了解覚書」において、健康・環境問題について韓米合同委員会の手続きに従って「立入る」とし、同委環境小委員会が、韓国公務員の基地への出入り・合同視察・モニタリングなどを「検討する」[註4]。日米間は2015年(韓国に遅れること14年)、環境補足協定を合意。環境に影響する事故発生時(漏出等)と、返還に関連する現地調査(文化財調査を含む)を行う場合、日米合同委員会が立入りについて協議し合意を形成するという。つまり事故と返還のときに限って、しかも米軍側が同意してはじめて立入調査が可能となる。

[註4]在韓米軍地位協定に伴う2001年1月18日の「環境保護に関する特別了解覚書」。全文(和訳)は白井京による—国立国会図書館「外国の立法220」2004年5月p231〜2。

◆◆ 棄て逃げする米軍

 返還跡地から、高濃度のダイオキシンやPCBを含む有害廃棄物が大量に発見されているが、その除染・除去などすべてを日本が対処しなければならない。しかし、地位協定でアメリカに原状回復義務がないからといって、沖縄を毒物廃棄場にしてよいのか。アメリカ政府も軍部も「記録がなく確認できない」と逃げの一手なのである。
 跡地の「支障除去」は、2012年4月1日施行の新法「跡地利用特措法(沖縄県における駐留軍用地跡地の有効かつ適切な利用の推進に関する特別措置法)」に基づき、「返還実施計画」を定めて国の責任で行う。しかも返還跡地の「全部について」、駐留軍起因かどうかを問わず「支障除去」の措置を土地所有者に「引き渡す前に」国が行なう(第8条)。ただし、旧法の下で国が責任を持つのは「駐留軍起因」のものだけだった。そこで旧法下に返還された土地から、新法下で「駐留軍起因」を確認も推定もできない廃棄物が発見された場合が、問題になる。この場合でも、返還前の廃棄物である限り新法を準用し、すべてを国の責任で除去すべきである。

 (文責:河野道夫/読谷村 international_law_2013@yahoo.co.jp 080-4343-4335)

※この記事は「沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ」第36号(2016年8月)から転載したものです。


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