■ イラク戦の検証を進めよ             斉藤 つよし

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【加藤】イラク戦争検証問題で、イギリスに行かれたことについてお話を頂きた
いと思います。

【斉藤】沖縄問題でアメリカへ行ったのが参議院選挙の十日後で、今度は民主党
の代表選挙が終わったあとなので、あいつは選挙のあとにはいつもどっかに行く
って言われています。

 今度の出張は、イラク戦争検証委員会がイギリスで立ち上がっていて、その報
告書が今年中あるいは来年そうそうに出来上がるということなので、そのイラク
戦争調査委員会の検証過程と、調査委員会が立ち上がるまでのプロセスを学び、
それを参考にして日本でもイラク戦争検証委員会というのを立ち上げることが出
来ないだろうかと調査するのが目的でした。

 去年、私が国会へ戻ってから、イラク戦争を検証する活動がイギリスを始めオ
ランダでも活発になってるということで、国会の中に超党派でイラク戦争検証を
求める議員の会というのを有志で作りました。民主党としては私と参議院の大塚
直史議員、今野東議員そして社民党の服部良一衆議院議員と四人が呼びかけ人に
なり勉強会を何回かしたのです。

 政権交代した以上、当時野党であった私達自身が当時の小泉総理大臣がブッ
シュ政権の大量破壊兵器があるという誤った判断に理解を示して支持し、国連決
議もないのに復興という名の下に自衛隊を派兵するという大変な大間違いをした
ことを検証する必要があると主張したのです。

 私が参議院にいた時代にやり取りをし、結局は多数で押し切られましたが、自
衛隊を派遣するにあたっての特措法を時限立法で作り、そして何回か二回ぐらい
更新するんです。そのとき衆参で、大量破壊兵器がないと分かったときにはあら
ためて検証が必要だということを附帯決議にしました。

 これをやはり大事にしようではないかというのを呼びかけの根拠にして鳩山総
理大臣のときに自民・公明党はゼロでしたが、民主・社民・共産・無所属議員の
百名を超す方々の賛同を得て、鳩山総理大臣に提出をしました。これだけのメン
バーがいるのですから、イラク戦争検証を是非私達でしましょうよと総理に要請
したのです。それには政府自らがするという方法もあるが、議会の中に両院で相
談してなにか機関を作る方法もあるし、イギリスのように外側に第三者委員会を
作る方法もありますと提案しました。

 ちょうどその頃はイギリスが連休かなんかでしたが、そういう経過の中で私は
政策会議というオープンな場で当時の岡田外務大臣に、イギリスは第三者委員会
を作ってやっていますから私たちもイラク戦争の検証しましょうようと提案した
のです。そしたら、ああそうですね。これから検討しましょうと前向きな話だっ
たのですが、それはもう去年です。それで年越して、その後、大臣にやりましょ
うねと言ってるのですが、斉藤さん、なかなかいろいろなこともあるんですが十
分頭に入っていますからというので、そうですかということに終わっていたので
す。

 まあ個人的つぶやきとしては、第三者委員会は自分がやるのではないので、頭
の中では、どういう仕掛けをすればいいかって考えながら、なんとか外に出して
くれればいいなと思ってはいました。ただ、衆参両院の情勢や国会議員の気持ち
なども勘案しなくてはいけないこともあって、勉強会をするだけでなくイギリス
の実際の過程も勉強しなくてはと行ったのです。

 イギリスで会ったのはジエンチルコットさんというイラク戦争調査委員会委員
長やイラク戦争に反対して閣僚を辞任したクレアショート元国際開発相などです。

【加藤】チルコットさんは議会のかたですか
【斉藤】この人は枢密院の議員です。それで枢密院って昔日本にもあったので、
行く前に国会図書館でイギリスの枢密院はどういう制度なのか勉強したのですが、
ほとんどあまり権限ないんですが女王陛下の下にある機関だと言えば良いと思
います。イラク戦争調査委員会(チルコット委員会)の五人は全部枢密院の議員
で構成されています。

 そのイラク戦争調査委員会は当時のブレア首相が、調査委員会を作り、検証し
ますということを明らかにしたものです。しかし、当時労働党政権でしたし、大
量破壊兵器がなかったこともあり、イギリスの議会の中でやはりそうとうやられ
ていたわけです。ところが政権交代しますと今政権持っている保守党のほうがも
っと戦争には強硬だったんです。とくに面白いのは、イギリスではその後二つぐ
らいイラク戦争がらみで検証委員会が出来ていることです。

【加藤】二つもですか。
【斉藤】今回チルコット検証委員会が出来て、これは三つ目なんです。そのとき
ブレア氏も参考人か証人で呼ばれて公開で質疑のやりとりが国民の前でメディア
を通して出来る。それから軍の関係者も呼ばれる。様々なこのような透明性は素
晴らしいと思いました。こういう委員会があることと日本を比較して、これから
どうしようかと考えると、その違いが大きいなと感じました。

 ただ、メディアのかたや、ブレア政権のときの大臣で開戦に反対したクレア・
ショトーさんというかたにも会ったのですが、この方達はチルコットさんの
やり方では元々公務員だからたぶんそうあまり厳しい方向は出てこないのではな
いか。あまり期待できないと辛辣なことを言っていました。

 当時のブラウン首相が五人を指名したわけで当時の政権にとって不利なような
メンバーは指名しませんと言ってるのです。それを私は聞いていても、首相が公
に国民の前にでて、質問を受け答えする。それをやること自体日本では考えられ
ないわけで、そんな贅沢なことは言いませんけれど、私の周りもため息もつきな
がら学んできました。ちょっとイギリスの制度と日本の制度とは違いますが、コ
ソボ紛争のときもブレア政権ですが、これを検証するシステム、チームを作って
検証してるんです。

 それからサッチャー政権のときのフォークランド紛争のときも検証していま
す。もっと昔から戦争と様々な紛争のときにも絶えずそれなりの検証をしてい
る。納税者に対する税の使い道、もう一つは軍としてはたして正しい行動をした
のかどうかとか、あるいは国際関係はどうなんだとか国際法なども多角的に分析
して、イギリスの国益を常に高めていこうという中で、そういう行為をしてるの
で非常に歴史がある。

 今イラク撤退できるか出来ないかって撤退決めましたが、イラク戦争は、大変
な状況だったわけです。我が国は1945年に長い戦争に終止符をうって、日韓
・日中などアジア諸国との関係も一応平和的な交流ができている状況になってい
ますが、国民レベルではまだまだ未解決事項がたくさんあります。未解決事項ど
ころかそのことについて私達の国自身がどういうことをしてきたのかということ
について検証したのかといえば、甚だお寒い状況です。

 イラク戦争では自衛隊を派遣しても戦死者は出なかったし、イギリスは派遣し
て犠牲者がでているというので真剣さが違うのかわかりませんが、常に反省をし
て検証していくという国柄の違いを感じます。それに国民に信頼出来る行政や政
治なのかどうかという違いが、歴史が経てばでてくると思いました。

 65年前の戦争のことを今検証しましょうということはなかなか馴染む話では
ないと思いますが、やはりアジア諸国と向き合うときに、単純に私達自身が東ア
ジア共同体ですって軽く言ってますが、そこはもっと深い歴史観に基づいて、そ
して将来に向かってどうして行くのかということなしに本当の信頼・友好・発展
はありえないのですから、このイラク戦争をしっかり検証することは大切なのだ
と思います。

 この検証に取り組むことは、どのようにアメリカと向き合い、どうありたいか
ということに尽きると思うのです。当時の小泉政権は盲目的にアメリカに追随し
ていたという話になり、これは沖縄問題にも繋がり、強いては日中や朝鮮半島問
題にも結びついていくものです。検証という作風がないわが国では、なかなか難
しいのですが、なんとかこのイラク戦争の検証を進めたいと考えています。今の
政権側にとって不利な話ではないし、また当時の与党である今の野党のみなさん
がたにはみなさんが与党のときに国会で決議をしたじゃないですかと言って積極
的にアプローチしていきたい。

 国会の意思としてやるべきだと思い、なんとか長い歴史的な観点に立つ意味で
も実現したいと思います。民主主義・市民運動のかたとも代表で一緒にやってお
りますので国会内では超党派で取り組み、外でも市民のみなさんに運動を盛り上
げてほしいということで進めております。

【加藤】是非引き続き頑張ってください。お忙しいのにたくさんのお時間をあり
がとうございました。
  (斉藤つよし氏は民主党衆議院議員・国会対策委員会委員長代行)

【編集部注】
  この原稿は10月5日、斉藤つよし議員が民主党国会対策委員会委員長代行とし
て、国会開会中の多忙な日程をさいて「オルタ」のインタビューに応じていた
だき、校閲を受けたものですが文責は編集部にあります。なお、インタービュー
にはオルタ編集部側から加藤宣幸と山口希望・船橋成幸・吉沢弘久が同席しまし
た。

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