【コラム】
フォーカス:インド・南アジア(25)

インドとイスラエルの危ない密着関係

福永 正明


<一>

 イスラエルは9月3日、ベンジャミン・ネタニヤフ首相の9月9日から予定されたインド訪問キャンセルを発表した。ネタニヤフのインド訪問は、「世界大国インドとの親密な関係を強調し、世界へ向けてその存在を誇示」する目的があったとインド・メディアは報じていた。
 ネタニヤフ首相の訪印計画キャンセルは、年内2度目となる。7月20日にイスラエル最長在任期間となったネタニヤフ首相だが、各種世論調査によれば苦境にある。すなわち、4月に行われた議会総選挙(定数120)のやり直しとなる再選挙が9月17日に投票される。だが首相の与党である右派のリクード党などネタニヤフ政権継続を支持する勢力は、過半数議席の獲得は難しい情勢となっている。
 一方、インドのナレンドラ・モディー首相も、5月の連邦議会下院総選挙での大勝で首相2期目を務めるが、自動車産業を中心とする景気悪化での経済成長率の鈍化、さらに8月にカシミール地方に関する「憲法特別規定」を廃止したことからの混乱が続いている。

<二>

 ネタニヤフ首相は2018年1月にインドを訪問し、モディー首相は2017年にテルアビブに旅行した。そこで、ユダヤ人国家を訪れた最初のインド首相となり、両国の接近が注目された。
 まず、2018年1月のインド訪問で、ネタニヤフ首相はモディー首相を「革命的指導者(Revolutionary Leader)」と呼び、両国間の関係を大きく転換させた。
 そして過去2年間、石油、ガス、再生可能エネルギーなどエネルギー関連分野、テロ対策やサイバー対策など安全保障・セキュリティーの分野において、複数の二国間協定が締結された。これについて両国政府は、「国家間の新しい友情の時代」と評している。
 メディアの報道によるとイスラエルは、インドとの経済・安全保障関係強化をめざしており、特に自国防衛産業が製造した先進兵器、例えばスパイ飛行機、無人航空機、対戦車ミサイル、大砲、レーダーシステムなどを、インドへ売却を希望する。

 本年1月、イスラエルの国家安全保障顧問を責任者とする政府高官グループがインドを訪問し、インドのカウンターパート、さらにはモディー首相とも面会した。これらの面会、会議委などでは、両国間の武器取引の飛躍的発展した新段階を論じたとされる。
 インドとイスラエル関係の緊密化は、その強硬な政治的政策、基盤となる偏狭な排外思想を背景として有する共通性を指摘できる。

<三>

 インドのメディア関係者は、「モディー政権が強行したカシミール自治権剥奪は、イスラエルのパレスチナ政策からヒントを得た」 と解説する。
 モディー首相のインド人民党(NAPABJP)は、その支持基盤である「民族義勇団(RSS)」のヒンドゥー教主義政策(Hashutva)を基本綱領として掲げている。これは、イスラエルのシオニズムと通じる、排外的暴力主義による政治をめざすものである。
 インドのイスラエルの関係が注目されたのは、2008年ムンバイ連続テロ事件の際、シナゴーグ(ユダヤ人居住区)が攻撃されたことであった。だがインドとイスラエルとは、1990年代のBJPの中央政界での台頭で緊密となっていた。それは、RSSの基本思想がシオニズムとの親和性があるからであった。

 RSSやBJPの親ユダヤ人の歴史については既に詳細な研究があり、憲法上世俗的なインドをヒンドゥー教を中心とする宗教民族国家に転換することを最大の政治目標とし、それはシオニストのプロジェクトを複製ように実行されてきた。
 つまり、イスラーム教徒が多数のカシミール地方に対するBJPの強硬な政策の多くは、イスラエルがパレスチナに対して実行した政策を模したものであるといえる。そのなかでも重要なのは、人口動態の変化を促すため、カシミールにイスラエル風のヒンドゥー教徒のみの集落を多数建設したいとの政策が代表する。
 インドの現政権、さらにその支持者たちが用いる主張や言説は、古いイスラエルの主張に類似する。イスラエルとインドはともに、大規模な異教徒集団を抱えることは、世界でも例外的な民主主義が形成されなければならないと主張する。さらに、シオニストとヒンドゥー主義者たちは、世界に多くのイスラーム教徒の国が存在するならば、ユダヤ人とヒンドゥー国家も存在することが必要だると主張する。

 カシミール地方に対するインド政府の憲法規定撤廃、その後の強権的統治は、カシミール地方がインドの「パレスチナ化」となることを示唆する。さらに、ヨルダン川西岸の人口構成と同じように、全国のインド人がインド軍の存在の保護下で財産を購入しそこに定住できるようにすることで、カシミールの人口構成を変更する計画の実行を促進するであろう。
 カシミールとパレスチナの植民地化プロセスがさらに相互依存するようになることがますます明らかになるのではないだろうか。すると、イスラエルがパレスチナで行うことは、カシミールで起こる可能性が高く、インドがカシミールで行うことは、パレスチナで起こる可能性がある。イスラエルのアパルトヘイトと入植者の植民地主義を解体を達成するためには、これら相互依存のプロセスはをしっかりと観察することが不可欠である。
 カシミールとパレスチナ、これまでとは違う視点から、両国を注視する必要があるだろう。

 (大学教員)
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