【視点】海外論潮紹介・2023年4月

ウクライナ戦争解決の最適な道は軍事対決よりも、緊張緩和と和解に

 アメリカのリベラル左派系のメールマガジン『カウンター・パンチ』3月30日号が、「ウクライナ戦争から抜け出す最良の方法は何か』という論文を掲載している。筆者はドイツ社会民主党所属の欧州議会議員、ヨアヒム・シュステル。以下にその要旨を紹介する。
初岡 昌一郎

    **************************

 最近のウクライナ戦争とそれに伴う地政学的大変動から見て、「二極対立」論に基づく新たな安全保障戦略を構築することは当を得ていない。
 第一の理由は、アメリカの世論が根深く割れているので、ヨーロッパの同盟諸国がその長期的戦略を信頼できないからだ。これまでEU諸国はコロナ対策とウクライナ支持で足並みを揃えてきたが、その継続はこれから先約束されたものではない。欧州におけるウクライナ戦争とそれに伴うエネルギー危機の経済的影響に関して、その関心度合いと見解が大きく割れている。
 第二の理由は、継続的な対決戦略が軍事的なエスカレーションの危険を暗黙の前提としていることにある。プーチンの脅しとアメリカの紛争介入拡大から見て、核戦争の危険が本当に現実化してきている。
 第三に、戦争の長期化によって地球環境悪化と国際的な貧困拡大の深刻化に対する政策が停滞し、後退していることがあげられる。
 これらの対策は二極化した対立状況下でますます困難に直面している。世界を民主主義国と専制主義国に区分するグローバルな軍事的な対決路線ではなく、協調的な戦略がますます不可欠となった。地球的な気候変動と予測されている飢餓と貧困の国際的な急拡大に取り組むために、オルタナティブな世界的共通戦略を構築することが緊急な課題だ。

 ブラント(*編集事務局注:ドイツ連邦共和国(旧西ドイツ)の政治家。第4代連邦首相(1969 - 74年))たちが推進したデタント(東西融和)政策は、決して今日も陳腐なものになっていない。今後発展させるべき、新しいグローバルな国際協調政策にとって貴重な教訓を与えている。緊張緩和政策は、ソ連が平和的な性格を持っているという想定の下で推進されたものではなかった。東西融和策は、関係国の利害の実態を現実的かつ慎重に考慮に入れていた。
 東西融和は核兵器時代を見据えたものであった。共産主義体制と民主主義体制の軍事対決に勝者はあり得ず、あらゆる手段を通じ回避すべきというに認識に立っていた。長い時間をかけて進められてきた、両ブロック間の経済協力が融和協調政策の利点を双方に納得させた。融和政策は一夜にして実現したものではなく、時間をかけた外交的なプロセスを通じて定着した。

 今日の多極化した世界では、現代的な東西融和政策の構築がもっと複雑になっている。それぞれの陣営に卓越したヘゲモニーを持つ国はもはや存在しない。その上に、アメリカと中国の世界覇権争いも絡んでいる。過去の教訓だけではなく、国際社会における諸変化を考慮に入れなければ、効果的な実行戦略は構築できない。

 ウクライナに対する政治的経済的な支持は継続すべきである。しかし、EU諸国とNATOは戦争の当事国となるべきでない。兵器の提供にも制約を課すべきだ。
 戦争の拡大を回避して人道支援を可能にし、平和交渉の出発点として休戦を実現するために、外交的な努力を繰りかえして継続することが大事だ。穀物輸出に関する交渉とザポリージヤ原子力発電所に関する交渉は成功の見込みがある。昨年12月の国連総会で中国とインドなどが戦争終結のための外交努力に賛成したことを重視すべきである。

 軍事増強を恒久的な目標にしてはならない。NATO諸国が既にロシアの三倍以上の軍事費を支出していることから見て、恒常的にGDPの2%を軍事費に充てることを目標とすることは適切ではない。欧州諸国をインド太平洋地域に軍事的に関与させようとする画策は拒否されるべきである。欧州と世界における軍縮合意に努力を傾注すべきだ。
 ロシアの侵略戦争によって惹起された深刻な状況から見て、欧州と世界における緊張緩和現代化の早期実現は容易ではない。デタントには系統的な努力の積み重ねが必要である。単純明快と見えても結果として破滅的な対決政策よりも、融和と和解がはるかに有効なことは直近の歴史の教訓からも明白だ。
                         (以上)

(2023.4.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧