エネルギー協力の進展と日ロ平和条約 望月 喜市
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Ⅰ)プーチンの東方政策、意志と政策(WTO、APEC、極東発展省)
Ⅱ)3.11と日本の脱原発
Ⅲ)シェール革命とロシア
Ⅳ)東部地区でのエネルギー開発とテクノロジー協力
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Ⅰ)プーチンの東方政策、意志と政策(WTO、APEC、極東発展省)
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大統領として第3期目を2011年5月に開始したプーチン氏は、東部ロシア(シベ
リア・極東)を一方の足として、欧州部ロシアの足と並んで、2本足で立ちあがる
巨人ユーロアジア大国ロシアを実現すると豪語した。この発言の背景には、極東
を全国平均レベルに引き上げ、アジア太平洋地域への進出拠点とするという内政
と、中国の極東進出を阻止するという外交分野の両サイドの判断が込められてい
る。東方ロシアと隣接する日本は、欧州部ロシアだけでなく、今後はますますロ
シアの極東政策を注意深く観察し、対応する必要がある。
●Ⅰ-1)この狙いを実現するため、プーチン氏が実行した政策の1つは、WTO
への加盟(2012年8月22日、第156番目の加盟)で貿易の自由化を通じての、①競
争力ある国内産業の育成、②技術的後進性の克服、③ライフサイクル(医薬・医
療)科学、省エネルギー(効率化)原子力、宇宙、通信・情報システム、ナノテ
クなど高度産業の育成を狙った。このほか、旧CIS諸国分野では、関税同盟
(2010年)、統一経済圏(2012年)、ユーラシア経済共同体(EAEC)への志
向などがある。
●Ⅰ-2)APECサミットのウラジオストク開催(2012年9月)も極東のプレゼ
ンスを高める大きな政策の1つであった。この手法は、たとえばオリンピックの
招致をテコに地域経済を活性化させるのと同じ手法である。
問題は、ウラジオストク誘致権を獲得すること、会場の土地を確保すること、
目標年までにメイン会場とプレスセンター施設、国際空港の拡充・整備と会場を
結ぶ高速道路・橋梁、鉄道、ホテルやリゾート施設の建設、ウラジオストク市自
身のインフラ整備、地域のエネルギーインフラの確保(発電、配電網)など、山積
する構造物を建設すること、そのための技術・労働力・資金を調達することなど
である。
会場を郊外のルースキー島に決めた時、ゼロからの出発は間に合わないから、
設備の整ったサンクトぺテルブルグかモスクワにしてはという案もあったと言う。
然し、APEC開催を極東開発の起爆剤にするというプーチン氏の決意は揺るが
なかった。開催予算として連邦予算2020億R.(63億$)、地方予算177億R.(5
億5000万$)、それ以外予算640億R.(20億$)、合計2837億R.が用意された。し
かし、結果的には総額6600億R.(約1兆8000億円)が投入されたという。当初予算
の実に2.3倍に膨れ上がった。おそらく、カネに糸目を付けないで工事を急がせ
たに違いない。
別の資料では、連邦政府2060億R.、地方政府338億R.、市町村4000万R.、民
間4200億R.、合計6598.4億R.ともいわれている(橋脚のコンクリを提供した金
沢高圧コンクリート、本社北海道調べ)。さらに動員された労働力は沿海地区
8700人、その他ロシア国内8300人、多国籍(中国、北鮮、ベトナム、ウズベク、
タジクなど)1万1千人、合計2万8千人だった(同上)。この事業の象徴的架橋工
事は東ボスフォル海峡をまたぐルースキー島との連絡橋で、斜張橋としては世界
最長で、日本のIHIや伊藤忠商事が協力した。
●Ⅰ-3)極東開発省の創設
ビクトル・イシャーエフ氏は1991年にハバロフスク地方知事に当選した後、
2009年極東連邦管区大統領全権代表となり、2012年に新設された極東発展省に兼
任のまま就任した。
新設の「極東発展省」は文字通り極東地域の発展を促進するために、ハバロフ
スクという地方に置かれる唯一の中央官庁という意味でも画期的である。プーチ
ン氏は、極東の発展は重要な国家の優先課題かつ戦略的地政学的課題の一つであ
るとし、「極東および東シベリアの発展のペースが他地域を超える必要があり、
このペースが今後10~15年間にわたり継続されなければならない」と説いている
(2012年4月11日)。
大統領令によれば、極東開発省は、極東連邦管区の領域において、以下のよう
な機能を 果たすとされている。 ロシア連邦政府によって承認された一覧表に掲
載された国家プログラム、連邦特定プログラム(長期的なものも含む)の実現に
向けた活動を調整する。連邦資産を管理する。ロシア連邦の法令に従って移管さ
れたロシア連邦の権限のロシア連邦構成主体による実施を統制する。
政府決定で新味があるのは、次の3点である。第1に、省は5人の次官と、7つま
での局を有するという点。第2に、省の職員数上限(警備、庁舎管理は除く)を
253名とするという点。第3に、省の所在地はモスクワ市およびハバロフスク市と
するという点であった。省のスタッフのうち、約50名がモスクワの代表部で働き、
残りの約200名はハバロフスクの本部で働くという。極東開発省の設置は、単に
特定地域の振興を目的としているだけでなく、地方に本部を置くという意味でも、
ロシアにあっては異例の措置と言えそうである。
プーチン大統領は大統領就任(12年5月)に際し、2020年までに2,500万人の雇
用を創出し、投資を対GDP比で25%以上まで拡大するといった野心的な目標を
掲げた。極東開発省の創設はこうしたプーチン大統領の新たな成長戦略を裏付け
るものである。
13年2月28日、東京で「日露フォーラム」が開催され、パノフ元駐日大使、イ
シャーエフ極東連邦管区大統領全権代表、森元首相などトップクラスの日露関係
者が参加した。その際行われたインタビューの中で、イシャーエフ氏は次のよう
に述べている(ロシアNOW誌より)。
「極東・バイカル湖以東の発展プログラムを3月、政府に提出する。この地域の
商業収益性は平均12%だ。高い電気代や輸送費など、コストが非常に掛かるから
だ。ビジネスを自立させるには、税負担を減らす必要がある。
これはすでに提出済みで、大統領も支持した。つまり、すべての企業が自立す
るまで、土地や資産に対する税金を免除することを企画している。10年くらいが
理想だ。免税については、すでに大統領令がある、第2四半期までには解決しな
ければならない。改正は連邦法で行われ、2014年度の予算に含まれるだろう。企
業のほか、優先的プロジェクトでも同様に、税優遇措置が実施される。
この様にして、企業設立や大型プロジェクトの実現に、有利なメカニズムをつ
くる。そうすれば、第1期の収益性は30%増、第2期は50%増になると見込んでい
る。つまり発展は保障されるのだ。今年前半にはすべて明らかになる。こうして、
雁行型発展から、先導型発展に極東の発展モデルは変化するのだ。」
★ここで、イシャーエフ氏の課題を考えてみよう(朝妻幸雄氏・西谷公明氏など
の説を参考にした)。
総体的には、中央との経済格差が酷く、資源開発の遅れ、人口減少が止まらな
い。ロシア全体のGDPが40兆R.とすれば、極東のGRPは4800億R.であって、
そのプレゼンスは1.2%という小さなものだ。この極東は中国北東3省と4300キロ
の国境を挟んで対峙している。中国脅威論は、経済と人の流入で現実のものにな
っている。
① 第1に中国経済がこの地に深く浸透している。ハバロフスクでもウラジオス
トクでも、中国人が持ち込む安価な日常用品なしには、生活できないほどだ。周
知のように、中国農民は農耕に長け良く働く。中国産の安い農産物も極東市場を
潤している。
② 第2は中国人の流入である。ロシア側の人口は630万人足らずなのに、東北3
省には1億1000万人もの中国人が住んでいる。11年調査によれば、極東地域で働
く中国人はおよそ5万8000人である。一方極東の労働力は極端に不足している。
13年の外国人受入枠は沿海地方の場合2万4000人に決まったが、事業者からは、8
万人を超える雇用枠の申請があったという。人口密度の比較では、1.02人/m2対
130人/m2で130倍の密度で人口浸透圧が作用している。
以上のような中国ファクターを抱え、未熟児のような極東経済を発展させる仕
事は、極東行政のベテラン・イシャーエフ氏といえども容易ではない。
日露の経済協力は、エネルギーが主軸である。ロシアからのLNG供給を加速
させたものとして、3.11を契機とする。日本の脱原発政策があり、最近にわかに
話題を独占しているシェールガス革命は、日本市場へのLNGの売り込みの重要
性をロシアに再認識させた。以下、この2つの事案について記述する。
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Ⅱ)3.11と日本の脱原発
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★2011年3月11日に発生した東日本大災害(大地震、巨大津波、原発暴走)は、
日本の原発依存体制を根本から見直し、化石燃料と自然エネルギーで日本のエネ
ルギーを維持せざるを得ない状況に追い込んた。そのため、従来からの輸入先と
並んで、ロシアからのLNG輸入を拡大することになった。電力10社の震災前後
の電源別発電構成比を比較すると、原子力は28.6%から10.7%に約1/3にまで縮
小した。それを補填するエネルギー源はLNGと石油で、石炭の比率は変わらな
かった。
2010年度と2011年度の電源別発電構成比は次の通りである。
(1)原子力28.6%→10.7%、
(2)火力61.7%→78.9%(石炭火力25.0%→25.0%、LNG火力29.3%→39.5、
石油火力7.5%→14.4)、
(3)水力8.5%→9.0、
(4)再生可能エネルギー1.1%→1.4%、となっている。
上記のようにLNGと石油輸入比率が拡大している。本村真澄氏によれば、ロ
シアからの原油が日本市場で歓迎される理由について次の4点を挙げている。
(1)エネルギー安全保障上優れている。海賊が出没するホムルズ、マラッカ海
峡を通らない。
(2)中東は20日かかるが、サハリンやコジミノからは僅か3日程度で日本市場に
来る。気候等による短期の市場変動に対応が容易である。
在庫コスト(Inventory Holding Cost)上有利。ESPOなら売買成立後、
すぐに製品化可能。
(3)中東原油のような「仕向け地条項」がなく業者間の転売が可能。Flexible
である。
(4)近距離でフレキシブルな原油がエネルギー安全保障上重要な要素であり、
高品質から来る高い価格を凌駕している。LNGの場合はホルムズ海峡経由
の輸入は原油よりやや少なく22%(カタール15%、UAE7%)である。
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Ⅲ)シェールガス革命で、ロシアは目算を狂わせられている。
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ロシアは「シュトクマン・ガス田」(北西部バレンツ海でのプロジェクト)で
国内生産の1割近くをLNGとして米国に輸出する計画であった。これで、総生
産量を1.5倍の年約9000億M3に引き上げることを目標とした「2030年までのエネ
ルギー戦略」は崩れた。米国はシェールガスによって2017年には世界最大の石油・
ガス生産国になる。
13年1月末、北京で開催した中露エネルギー・シンポでは、中国の研究員が中
国への天然ガス輸出を計画するロシアに価格引き下げを求めた。ロシアのエネル
ギー戦略センターの試算では、欧州ガスのスポット価格は300~320$/1000M3と
なり、パイプガス長期契約輸出価格より、100$も安くなる。
ウクライナは、ロイヤル・ダッチ・シェルと国内のシェールガス田を開発する
と発表した(13年1月24日、スイス・ダボス会議)。年産200億M3で、「ロシア
によるガスのくびきは終わった」とウクライナでは報じられた。ルーマニアとリ
トアニアもシェールガス開発でウクライナに続く。
背後にはともに米国の技術的支援がある。米国は伝統的な産油国への依存を弱
め、その間隙を縫って中国が中東アフリカの産油国に影響力を強めている。IE
Aは、急増する世界のガス生産に占める非在来型の天然ガスの比率は」11年の16
%から35年に26%に上がると予測している。
米国はもはやロシアのガスを当てにしなくてもよくなっている。
しかし、シェールガスにも弱点がある。その1つは、採掘は水や化学物質を多
用し、環境への影響を懸念する声があることだ。欧州には採掘を認めていない国
もある。
注:『世界』3月号「食糧供給システムを脅かすフラッキング」p212~224を参
照。
もう1つは「米国産の天然ガスが何時も安いとは限らない」ことだ。専門家は
「ガス価格が5ドルなら石炭の方が競争力がある」と指摘。米産業界にはLNG
輸出に否定的な意見も根強い。
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Ⅳ)東部地区でのエネルギー開発とテクノロジー協力
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(1)石油分野での日露協力
★イルクーツク州内には輸出量が昨年と比べ倍増する見通しの油田も出ている。
ロシアの原油生産の軸足は、欧州向けの西シベリア原油から着実に「東」に移り
つつある。バイカル湖の北西約300キロに位置するヤラクタ油田はロシア中堅の
「イルクーツク石油会社」が手がける。約950平方キロメートルの油田鉱区では、
地中2900メートルから原油をくみ上げる。同社の今年の輸出量は200万トン以上
で、昨年のほぼ2倍の増加となる見通し。
東シベリアの原油埋蔵量は、確認されただけで日本の年間輸入量の約2年分の4
億トン程度とされる。イルクーツク州だけでも10社程度が探鉱や開発を進める。
地元記者は「さらに見つかる可能性は高い」と期待する(読売2012年9月25日)。
★JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)はプーチン訪日に合わせ
2009年5月12日、イルクーツク石油会社と合弁企業「INK-Zapad」(出資比率JO
GMEC:49%、イルクーツク石油:51%)を設立、日ロ共同で探鉱調査事業を
実施する契約に調印した。
対象鉱区はイルクーツク市の北700kmに位置し、周囲には既発見油田が存在
し、太平洋パイプライン(ESPO)に隣接している(ザパド・ナ・ヤラクチン
スキー鉱区、ボリシェチルスキー鉱区)。JOGMECは2008年6月のサミット
の際、やはりイルクーツク石油と協力して、セべロ・モグデンスキー鉱区(タイ
シェットの東北東)の開発事業を立ち上げている。
★丸紅とロスネフチが、マガダン州沖(オホーツク海)の大陸棚の石油ガス開発
で交渉中である(11年8月4日付けプレスリリース)。専門家筋によれば、この鉱床
には、ロシア極東の全需要を満たした上、十分な輸出を行うに足りる埋蔵量が存
在するという。この件でプーチン氏の腹心、ロスネフチのセチン社長が13年2月
19日から訪日。マガダン沖の「マガダン2、3鉱区」について石油・ガスの共同開
発を日本企業に提案する。
推定原油埋蔵量は2鉱区で3.7億トン、開発可能量は1.1億トン、天然ガスは計
367兆M3という。「マガダン1」は2012年国営スタットオイル社(ノールウエイ)
と共同開発で合意(D130220)。
(2)天然ガスに関する日露協力
★日ロ両政府は、APEC首脳会議の際、両国がウラジオストク近郊で計画する
LNG生産施設の早期建設に向けた覚書を、日本の資源エネルギー庁とロ国営天
然ガス独占企業ガスプロムが調印した。日本のLNG輸入量の12%に当たる年1千
万トンの生産を計画。ロ側はサハリン産天然ガスを同施設で液化し、2018年以降
をめどに日本や韓国などに輸出する考え。日本側では伊藤忠商事などが事業化調
査を進めている(D120903)。
★天然ガスのパイプ輸入プロジェクト:東京ガスと石油資源開発、新日鉄住金エ
ンジニアリングの企業連合が、サハリンからパイプで天然ガスを輸入する構想が、
約10年ぶりで動き始めた。首都圏まで全長約1400km(サハリン南端プリゴドノ
エ→北海道の西海岸海底→石狩上陸→苫小牧から海中→本州東海岸海底沿いで、
水戸近郊の鹿島港に上陸→東京ガスのパイプに接続)。事業化の対象になる、サ
ハリン1の権益をもつ米エクソン・モービルや、サハリン関係省庁にも説明済み。
今後は輸入したガスの買付や事業への参加を電力会社になどに呼び掛ける。工
事は5~7年で可能。陸上に敷設するより、コストは1/3~1/4で済む。事業費は漁
業補償を含め3千億~4千円程度の見通しで、金融機関も融資を検討中。日本政府
はウラジオストクからLNGを船で輸入方針で、当面はこちらを優先する。パイ
プライン計画も併行して進めるかどうか、両国の判断が今後の焦点になる
(A121104)。
★ 大型LNG船建造計画に協力:三菱重工、日本郵船、三井物産は4/27日、ロ
シアの多角化企業(United Industrial Corporation=OPK、モスクワ) とと
もに、大型LNGタンカー建造に向けたフィージビリテイ・スタデイ(FS)を
行う合意書に調印した。OPK社参加の造船所の近代化計画を含む、新規LNG
プロジェクトへの参画を目指す(ロシアNIS経済速報:2009年5月15日)。
★サハリン州ガス化学工場設立プロジェクト(2012/12/06北海道サハリン事務所
提供):サハリン州政府天然資源・環境保護省は、2011年5月25日、「ガ
スプロム」とプロジェクトに関する覚書を調印(石油精製工場とガス化学工業の
可能性を検討)した。
ガス化学工業は、「サハリン3」産天然ガスからアンモニア(年産67万トン)
とメタノール(100万トン)の製造を予定。「サハリン3」プロジェクトで採取さ
れた天然ガスの利用が見込まれている。プロジェクト事業費約650億R.(約1630
億円)、開始時期は未定。工場の設立期間を4年と見込んでいる。
今までの実績では、2006年に三井物産及び三菱商事により作成されたマスター
プランがあるほか、ロシア科学アカデミーシベリア総支部メレンチエフ記念エネ
ルギーシステム研究所(イルクーツク市)で作成されたプラン「サハリン州燃料・
エネルギー施設経営安定及びエネルギー安全」において、ガス化学工場の設立プ
ロジェクトが検討された経緯もある。プロジェクトの投資計画において、外国企
業からの海外投資の誘致を見込んでいるところから、日本の企業がプロジェクト
設計を受注する可能性もある。
天然ガス→メタン→メタノール→ポリアセタールと製品化されるが、これは、
摩擦に強い性質をもつので、DVDプレイヤーやプリンター内部の歯車などに使
われる。
石油化学ではナフサからベンゼンを経て、ナイロン6樹脂やナイロン66樹脂が
生産される。前者は耐熱性があり、電子機器や自動車部品に使用される(1キロ
400円程度)。後者は電子部品などに使われる(1キロ460円程度)。
(3)石炭での日ロ協力
日本は国内石炭消費のほぼ全量を海外に依存する世界最大の石炭輸入国である。
日本では、オイルショックに見舞われた1970年代まで、石油火力が発電の完全
な主役で、1975年度の石油発電量は全体の66%を占めていた。
しかし、石油価格の高騰や、産油国が限られることからくる供給の不安定さな
どを背景に、原子力発電の拡大とともに、同じ火力発電でもLNGや石炭へのシ
フトが進んだ。火力発電の燃料に使われるのは、主として石油、石炭、天然ガス
(LNG)の3つだが、発電量が多い順に並べるとLNG、石炭、石油の順にな
る。
原子力や水力なども含めた全体の発電電力量に占める比率(2007年度実績)は、
LNG27%、石炭25%、石油は13%である。石炭のいいところは、石油に比べて埋
蔵量が豊富で、産地も世界に広く分布し安定供給が見込めることで、価格も比較
的安価に落ち着いている。デメリットは、石油やLNGに比べると地球温暖化ガ
スである二酸化炭素(CO2)を多く出すのに加えて、大気汚染物質の硫黄酸化
物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、煤塵などが発生することである。
しかし排煙脱硫装置などの導入し、現在では、排煙からSOxを99%、NOxを
91%除去している(2011年度実績値)。この様な技術は、中国やインドはもとよ
りロシアでもないと思われ、世界的環境汚染対策上、日本の最先端技術を海外で
輸出することは、大いに好ましいことである。
日本は石炭のほぼ全量を海外から輸入している。と言うのは、国内炭は輸入炭
との価格競争に敗け生産を縮小したからである。石炭の輸入量は1970年度には国
内炭の生産量を上回るようになった。輸入対象地域の1つにロシアがある。ロシ
ア東部地域の石炭事情を概観しよう。この地域の石炭埋蔵量、生産量、輸出状況
は次の通りである。
★埋蔵量:エネルギー資源としての石炭は、世界中に多く賦存し、ロシアは世界
第2位の石炭確認埋蔵量を持つ。東シベリア地域における石炭確認埋蔵量678億
トンのうち、褐炭が498億トンと全体の73%を占め、残りの180億トンが瀝青炭
(うち原料炭41億トン6%)
極東地域における石炭確認埋蔵量203億トンの内、褐炭が121億トンと全体の60
%を占め、残りの82億トンが瀝青炭である。瀝青炭の66%(53億トン)がサハ共
和国に賦存し、以下ハバロフスク地方13億トン、サハリン州8億トンと続く。日
本にとっては、この瀝青炭資源に恵まれた3地域の開発動向が重要である。
★生産量:東シベリア地域では、2009年には約7,392万トン/年の石炭が生産され
た。2030年には1億4,000万トン/年に拡大する見込みである。極東地域では、
2009年には約2,748万トン/年の石炭が生産された。サハ共和国のエリガ炭の開発
(2,500万トン/年)やハバロフスク地方のウルガル炭の生産拡大(480万トン/年)
などの大規模開発を考慮すると、ロシア極東地域の石炭生産は7,500万トン/年
(2030年)に拡大する見込みである。
★輸出:従来、極東地域の石炭開発は、鉄道の整備がネックとなっていたが、
2007年10月に長期戦略計画を発表し、バム鉄道の電化・複線化工事が2015年まで
に完了する事が明記された。2010年現在のバム鉄道のワニノ港までの輸送能力は
1,300万トン/年であり、1,200万トン/年の石炭ターミナルが稼動している。
2014年にワニノ湾の手前のクズネツソフ・トンネルを完成させると、鉄道輸送
能力は最大5,300万トン/年になる計画であり、このときにはワニノ港から計画値
3,000万トン/年の石炭輸出が始まる予定だ。現在石炭を輸出しているボストチヌ
イ港もポシェット港も改修される計画で、2010年のロシア極東地域からの石炭積
出実績は約3,000万トン/年だが、炭鉱開発や鉄道及び港湾の整備が順調に進めば、
2030年頃の積出能力は最大9,000万トン/年程度になる見通しである。
日本にとって、ロシアは重要な石炭輸出国で、安定した近距離ソースとして、
豪州炭やインドネシア炭に対抗できるため、当該地域の今後の石炭輸出動向に注
目する必要がある。2030年頃には7,500万トン/年程度がロシア極東地域から北東
アジア(中国、日本他)向けに輸出されるものと推察される。資金と技術を支援
をして、東シベリア・極東からの石炭輸入を拡大するとともに、環境汚染を許さ
ない世界のトップレベルの環境対策設備を輸出する政策をとれば、日ロ双方にと
ってWIN=WINの関係を築くことになる。
★石炭火力発電のクリーン化・効率化技術には大きく分けて2種類ある。
その1つが、石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification
Combined Cycle)だ。
従来の石炭火力では、粉状にした石炭(微粉炭)をボイラー内で燃やして蒸気
を発生させ、蒸気タービンを回し発電していた。IGCCでは、まずガス化炉の
中で微粉炭と空気を高温で反応させて、可燃性のガスをつくり、それをガスター
ビンで燃やし、その膨張力でタービンを回し発電する。この時に出る高温の排ガ
スを排熱回収ボイラーに導いて蒸気を発生させ、蒸気タービンも回して発電する。
つまり、ガスタービンと蒸気タービンの両方で発電するのである。
そうすることによって発電効率(投入したエネルギーをどれだけ電気に変えら
れるか)が大幅に向上し、地球温暖化の“主犯”とされる二酸化炭素(CO2)
や、石炭火力発電で問題になる硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の排
出も抑制できるのである。
石炭火力のクリーン化技術のその2は、排出されるCO2を補足し、回収し、利
用する技術である。IHIは2015年にも石炭火力から排出されるCO2の回収・
貯留事業を海外で開始する。この技術は温暖化対策の切り札として市場が拡大す
る見通し。世界の石炭火力の設備容量は2030年に08年比2倍の14億KWに増える
見通しで、CO2の有効削減策が求められていた。
IHIが事業化するのは、発電所から出てくるCO2の最大9割を分離・回収し、
パイプラインで海底深く送りこんで貯留させる仕組み。課題はコストで、現状で
はCO2 1トン当たり5千~1万数千円するのを、2千円以下に減らすことが必要。
そうすれば、太陽光などの自然エネルギーよりCO2回収装置を付けた石炭火力
の方が発電コストは低くなる。
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★むすびに代えて
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プーチン氏は12年3月の外交政策論文のなかで、「中国の経済成長を『驚くべ
き』と表現し、これを脅威と見るのではなく、その成長力を東シベリアや極東地
域の経済発展に取り込むことが正しい」と的確に書いている(『世界』p231、
西谷)。
相手の力を利用して相手を倒すのは、柔道の技だ。中国を取り込むことで極東
を発展させようというなら、日本の石油・LNG・石炭と言った化石燃料の開発・
環境技術を取り込むことで、そしてロシアは豊富なエネルギー資源を提供するこ
とで、日ロは相互利益を享受できる。これは、中国にまねができない日本の優位
性だ。
日露間の連携を深化させることは、北東アジアの安定にもつながる。いみじく
もプーチン氏が述べたように、日ロ間に平和条約がないのは異常なのだ。森氏が
いうように、相互に受け入れ可能な妥協点を見つけて、この半世紀をこす日露間
のトゲを抜き、中ロ国境問題の解決と並んで、日ロ国境問題を解決した功績を安
倍普三氏と分かち合って欲しいものだ。
(筆者は北大名誉教授・ロシア経済専攻・NPO極東研代表)
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