【自由へのひろば】

海を越える「民藝運動」の記憶
─カナダ人映像作家が取り組む貴重なフィルムの修復

<A Documentary Film Compendium on the Mingei
(Japanese Folk Craft) Movement>

民藝運動フィルムアーカイブ制作委員会
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 1948年生まれのカナダ人映像作家マーティ・グロスは、1970年代に日本を旅していくつもの民窯を訪ねました。常滑で自ら土に触れて器作りを試みるうちに民藝の美に魅入られた彼は、その後イギリスに向かい、セント・アイヴスのバーナード・リーチ(1887~1979)の門を敲きます。最晩年のリーチに親しく接して多くを学んだグロスは、帰国前に古い16ミリの動画フィルムを託されました。それはリーチ自身が撮影したもので、「民藝」という言葉が生まれた頃に、日本各地の手仕事の現場を訪ねる柳宗悦や濱田庄司、河井寛次郎、それにリーチ自身の姿が記録されています。さらに彼らが目にした昭和初期の美しい風景と庶民の暮らし……民藝が生まれた背景……が映し出された貴重な映像でした。
 トロントに帰ったグロスはこの貴重なフィルムの保存維持に努めるとともに、何度も日本を訪れて、民藝運動に関する映像・録音記録を収集・取材してきました。そこには先述のバーナード・リーチから直接託された、日本の窯場や民藝運動創始者たちとの朝鮮半島の旅などを記録した映像をはじめとして、民藝運動黎明期の貴重な映像や録音素材が多く含まれます。未公開・未発表の記録も多く、それらを通じて柳宗悦や濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチら先駆者たちの活動や、当時のものつくりの現場の様子をうかがい知ることができます。

 40年間にわたって国内外でグロスが収集したこれらの記録は、新旧織り交ぜて数十時間分に及びますが、時の経過とともにリーチ撮影のフィルムはじめ古い記録素材に生じる劣化は避け難いものがあります。近年、マーティ・グロスはライフワークとしてこれらの修復とデジタル化に取り組み、さらにバーナード・リーチ、濱田庄司らのナレーションなどとともに再構成する作業を進めています。
 この「民藝運動フィルムアーカイブ」プロジェクトは一定の完成度に達した段階で、順次内外の美術館・博物館などで公開する予定です。またDVD化や、カナダ・トロント大学との共同事業としてオンライン公開のデジタルアーカイブ化も計画されています。

 民藝運動に関わる総括的な映像・音声資料のアーカイブ化を目指すこのプロジェクトは、完成までに約25万ドルの費用を要することが見込まれます。「民藝運動フィルムアーカイブ」は、出光文化福祉財団、アサヒグループ芸術文化財団や、米 Driscoll-Babcock Gallery など国内外の諸団体の助成や、個人のご寄付によって10万ドル(約1,200万円)を超える資金を賜わり、今日まで活動を進めることができました。
 この企画の意義をご理解いただき、より充実したアーカイブの完成に向けて、ご協力をお願いできれば幸いです。

●寄付振込口座
   みずほ銀行北沢支店(店番号:213)
   普通預金‪ 1366143‬
   口座名義:民藝運動フィルムアーカイブ制作委員会

◆「民藝運動フィルムアーカイブ」には以下の映像記録と新規取材資料等が含まれます(予定)

「日本旅行・朝鮮旅行」 バーナード・リーチ/撮影 1934-35年(70分)
「益子焼」 国際文化振興会/制作 1937年(32分)
「琉球の民藝」 日本民藝館/制作 1939年(5分)
「バーナード・リーチ、カリフォルニア・オークランド・ミルズカレッジに行く」 1950年(10分)
「濱田庄司、カリフォルニア・スクリップスカレッジにて」 Richard Petterson 撮影 1953年(15分)
「小鹿田焼 バーナード・リーチ、柳宗悦とともに」 大分県広報課/制作 1954年(16分)
「濱田庄司 益子にて」 1950年(6分)
「民窯 小鹿田焼」 1957年(6分)
「小鹿田焼 民藝を訪ねて」 西日本映画社/制作 1957年(17分)
「リーチ・ポタリー」 The St. Ives Camera Club 制作 1952年(35分)
「バーナード・リーチ ニュージーランドに行く」 Tartan Films, New Zealand 制作 1962年(20分)
「バーナード・リーチ 小石原に行く」 辻 富貴男/撮影 1964年(12分)
「陶器を創る人々」 Marty Gross 撮影 1976年(26分)
「Visit to The Leach Pottery(仮)」 Kim Schuefftan 撮影 1973年(21分)
「陶芸家のアート」 David Outerbridge & Sidney Reichman, U.S.A. 撮影 1971年(52分)
(9時間分のアウトテイクからの新規編集ドキュメンタリーも制作の予定)
「岡村美穂子(鈴木大拙の元秘書)インタビュー」 Marty Gross 撮影 2013年7月
 その他、民藝思想の歴史と現代における意義をテーマとする新規インタビュー多数。

◆いうまでもなく民藝運動は世紀を超え、国境を越えて受け継がれる日本の重要な文化運動です。しかしながら社会状況の変遷とともに、初期民藝運動が関わった技術の中には忘れ去られようとしているものも見受けられます。それらを記録した古いフィルムもまた同様に容赦ない時の経過による劣化を免れることは大変困難であり、これらオリジナルフィルムの修復、デジタル化が急がれる所以です。
 民藝運動フィルムアーカイブ制作委員会は、日本民藝協会、日本民藝館、リーチ・ポタリー(英国)をはじめとする多くの皆様のご協力、ご指導をいただき、「民藝運動フィルムアーカイブ」の制作推進、助成・ご支援のお願いなどの広報活動を行なっています。「民藝運動フィルムアーカイブ」企画に関するお問い合わせなどございましたら、事務局までお願いいたします。

 事務局 佐藤智登世:‪090−9330−0035‬ 
 email:chitose.sato@qpr-tokyo.com


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