【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】
(10)サングルポットとカッドゥルパイの冒険⑤
トカゲさんの動転
哀れなクジャク鳩さんにくっついている子トカゲ達の出現、これにはわけがありました。
以前、困っていた時に二人を援けてくれた親切なクジャク鳩さんでしたが、このとき、カッドゥルパイとサングルポットが、お礼に「ぼくたち何かお役に立つことありませんか」と云い、クジャク鳩さんは「あたしの卵を面倒見てくれたら大助かりよ。ちゃんとお礼もするわよ」と云ったことを思い出してください。
美しい羽根のクジャク鳩夫人、実はかなりの遊び好きでした。サングルポットとカッドゥルパイは喜んで彼女の巣にのぼり、夫人はいそいそ遊びに出かけてしまい、長い間帰ってこなかったんですよね。鳥の世界の子育てネグレクト、というわけ。
実は卵はすっかり冷たくなっていて、サングルポットとカッドゥルパイは、それをなんとか温めようと、いろいろ撫でまわしたり蔽いかぶさって上に坐ってみたりたりしているうちに卵は潰れてしまっいましたよね。かれらが「どうしよう」と慌てていたとき、親切なトカゲさんが、「わたしが同じような卵をみつけてきてあげるよ」と言ってかわいらしい卵を二つ運んできてくれ、かれらは、たちまち仲良しになり、トカゲさんはは奥さんに別れをつげて、三人いっしょに人間を見に行く旅をすることになりました。
ところが、その時の卵が孵ってみたら、クジャク鳩のこどもでなく、トカゲの子だったというわけです。
サングルポットとカッドゥルパイは、それなら、この子トカゲたちを、親のトカゲさんに返してあげるようにしたら、と言います。トカゲさんは、とても気持ちの良い人だから、とうけあいました。
クジャク鳩は、やっと泣き止みました。ところが、この生まれてきた子トカゲ達は行きたくない、このお母さんのそばにいたい、と叫びはじめます。サングルポットとカッドゥルパイは、自分たちがクジャク鳩の家族によけいなトラブルを起こしたことに、真っ赤になって反省しますが、どうしようもありません。
どうしたものか。サングルポットはクジャク鳩夫人に「それでは私たちがトカゲさんを探してきましょう」といい、カッドゥルパイと駆け出してその場を逃げだし、あちこち探しまわって、写真屋で写真を撮ってもらっているトカゲさんを見つけました。
ことの次第をトカゲさんに告げると、かれも急に青白くなってしまいました。子トカゲたちが鳩から離れないことを聞くと、トカゲさんはひっくり返って、しっぽが震えだしました。写真屋はフードから顔を出して不機嫌に、白くなってしまう、とつぶやき、しっぽが三本も映ると文句を言います。ところが動転したトカゲさんは立っていられないのです。“失礼“と言って外へ飛び出しました。
サングルポットとカッドゥルパイも外に出ると“なんてことだ、なんと僕は馬鹿だ”と壁をけっているトカゲを見ました。彼は、どこの家から卵をとってきたかがわからないので、どこへ二人の子供を連れて帰ればいいのかわからないんだ、と言います。
作者のメイ・ギブスは、彼らの母親のような目で、このいきさつを見つめていきます。そしてサングルポットとカッドゥルパイに、トカゲさんが自分の家で育ててやればいい、と言わせ、トカゲさんも納得します。
こうしてクジャク鳩は、やっと解き放されて自由になり、さっと羽ばたいて飛び立ちました。サングルポットとカッドゥルパイは安心して深い眠りに落ちました。
やがてかれらは楽しそうな音楽で目が覚めました。すぐそばでバンドの演奏です。鳥のさえずり、カエルの鳴き声、蝉の声、コオロギの声、それに蜂の羽音、小川のせせらぎもみんながバンドです。
サングルポットとカッドゥルパイは眠れません。壁のわれ目から覗いてみると、楽しそうなダンスパーティーが開かれています。しかしその中で、ひとり、誰からも相手にされないでぽつんと座っているのは、ぼうぼうしたみすぼらしい花です。
「なかへ入って彼女にダンスを申し込もうよ」サングルポットがぼうぼうしたみすぼらしい花とダンスを始めると、着飾ったまわりの人たちのささやきが聞こえてきました。「まあ、あの人は裸だわ、あんな人を入れるなんて」
「ごめんね、ぼくのいた山の中では、だれも服なんか着ていなかったから」サングルポットは花に言います。
「いいのよ、ドレスアップした不親切なナッツさんより、親切な裸のナッツさんのほうがいいわ」とぼうぼう花が答えます。
「でも服を買いたいな」とサングルポット、「おじさんが、安い服を売ってるから見に行きますか?」
それで二人はダンスホールのほかの出口から出ていきました。サングルポットは服のことばかり考えて、カッドゥルパイのことをすっかり忘れてしまいます。
さあどうなるでしょうか。メイはこうしたことを、どう描いていくでしょうか?
(詩人)
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