【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】(24)

サングルポットとカッドゥルパイの冒険⑲

高沢 英子

 さて、サングルポットは、そんなに遠くへ行かないうちに、ある門の標示に目をとめました。それは次のようなものでした。
  ホーカス・ステックス博士
  求む。強い医者になる強いナッツ

 “ぼくは強いです”とサングルポットは中に入るなり云いました
 ホーカス・ステックス博士は彼を上から下まで眺めわたしたあと、彼の口の中を調べ、指や爪先の数も数えあげて質問しました。

 “ガムの噛みかた分かってるかね?”“はい”
 “樹液を吸えるかね?”“はい”
 “果汁を絞れるかね?”“はい”
 “ねばねばなめくじ集められるかね?”“はい”
 “髪を引き抜けるか?”“はい”
 “蟻に臭い匂いをつけられるかね?”“イエス”
 “ゴキブリを捕まえられるかね?”“イエス、博士”

 “合格だ! おう!”と博士は云い“君はきっとちゃんとできるだろう、おいで、さあはじめよう”と云いました。
 こんなふうにして、サングルポットは、すぐに仕事を見つけました。

 ところで、ほぐれ花はどうなったかしら。
 彼女は、サングルポットやカッドゥルパイと別れてから、うろうろ歩いて、とある空き地にやって来ました。そこでは小川がやかましい音を立てて流れていて、ぷくぷく楽しそうに歌を歌っています。彼女も幸せな気持ちになりました。
 “あたしはこの子たちといっしょに行きましょう、なにかきっといいお仕事が見つかるわ”と考えたのです。

 そこで、彼女が跳びはねながら進んで行くと、とっても美しいお花の群れを見つけました。ちっこいお花は彼女の足元に、背の高いのは頭のところ、といった具合に咲き乱れていたんです。それから、彼女は、にぎやかな声を聞いたので、見まわすと、大ぜいのブッシュベイビーたちがそこへやってくるのを見ました。ボローニャのベイビー、ワットゥルのベイビー、フランネルフラワーのベイビーなどなど、たくさん!

 “あなたは新しいモデルさんなの?”と彼らは叫びました。
 ほぐれ花は、なんだか恥ずかしくて一言も答えられません。
 “いらっしゃい”彼らは叫びました“みんなあんたを待ってたのよ”そして彼らは、ほぐれ花が答えるひまもなく、彼女の手を取って走り出し、苔をかきわけて、美しい家に彼女を連れて行きました。
 そしてドアを開けるや“さあ、彼女を連れてきましたよ!”と嬉しそうに叫びました。

 ほぐれ花は上を見上げ、それからあたりを見回しました。広い部屋には、風変わりな人々がたくさんいて、立ったり、座ったり、みんな何かを待ち受けているみたいでした。
 背の低いひとりのアーティストが、せかせかやってきました。彼はほぐれ花にやさしく微笑んで、“遅かったね。でも心配ないよ。君はきっといいモデルになるよ”

 それから、彼は、ほぐれ花を高いところに立たせました。
 集まっていた変わった人たちは、いっせいに、彼女を写生し始めました。彼女はじっと動かずに立っていなければなりませんでした。
 “わたしはいくらかお金をもらえるんですか、もしじっと立ってさえいれば?”とほぐれ花は、たずねました。
 “もちろんさ”とちびのアーティストは答え、ずっと忙しく歩き回って、そこにいる変な人たちに、彼らが、いかに下手くそに描いているかを言って回っていました。

 可哀そうな小さなほぐれ花は、モデルの仕事なんてしたことがないものですから、すぐに疲れて、しゃがんで眠ってしまいました。アーティストは、ほぐれ花は病気だったんだと考え、奥さんを呼びに走って行って、彼女を上の階に運んで美しいベッドに寝かせました。そのベッドにはクモの巣のカーテンがかけられていました。

 “可愛い小さなお花ちゃん”アーティストの奥さんは“彼女は重い病気にちがいないわ。あなた走っていってお医者を呼んできてちょうだい”。“そうするよ。お前”。そういうとアーティストは一目散に走っていって偉大なるドクター、ホーカス・ステックスの家にやってきました。

 “よろしい、もちろん、すぐ行くとも”とドクターは答え、病人のようすを聞くと、サングルポットの方を向いて“いっしょに来なさい、念のため樹液を入れた皿とカッターも、もしかして葉っぱを切ることもあるかもしれんからね”といい、彼らは、葉っぱの束や、とくべつ効きめのある強い薬も持って、アーティストの家にいそぎました。

 彼らがベッドサイドに着いたとき、小さなほぐれ花がベッドにねているのを見たサングルポットの驚きと喜びを想像してごらんなさい。
 “これはぼくのかわいい友だちだよ”と彼はさけびました。そして
 “ほぐれ花ちゃん!”“ぼくを見て! サングルポットだよ。ほら、ここにいるよ”と叫びました。
 ドクターは“帰ろう、彼女は眠ってただけだった”と云って、まわりのみんなとぞろぞろ出て行ってしまいました。

 サングルポットは、ほぐれ花に寄り掛かりやさしく彼女を揺さぶりながら声をかけました。
 “目を覚ましなよ! 起きなさいよ! ほぐれ花くん”
 けれども、彼女は、まだ眠っていました。

 そして、彼が、彼女をどうしたものか、と思いなやんでいると、外のほうから、大きなな叫び声や、悲鳴が聞こえてきました。
 サングルポットがドアのところに走って行って、そとをのぞいてみると一階に、なんと、あの悪船長と、悪いバンクシャーメンがいっぱいやって来ているのを見たんです。

 サングルポットはドアにぶら下がり、それを閉め、そこに全力で寄り掛かりましたが、それは開きそうなので、“ほぐれ花ちゃん、来て、ぼくを助けて”と叫びました。そうする間にドアがパッと開いてしまい、バンクシャーメンがなだれこんで来ました。そして目を覚まして服を着ていたほぐれ花をつかまえ、床に倒れていたサングルポットは、もうひとりのバンシャーにつかまれてしまいました。

 それはあっという間の出来事でした。こうしてほぐれ花とサングルポットは、このホールから外の闇へ、小枝をへし折り、花々を踏みにじって、スピードをあげて走るバンクシャーにつかまれたまま、走りぬけて行ったのでした。

 さあこのあと、このふたりのベイビーたちはどうなるのでしょう?
 続きは次の回で。

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 このシリーズを描き始めて、メイの筆にも脂が乗り始めた1918年、第1次世界大戦は終わりを告げ、参戦国だったオーストラリアにも、兵士たちや関係者たちが続々と戻ってきます。
 そして42歳を迎え、自立の自信を深めたメイが、理解あるすばらしい伴侶を得て結婚することになります。次々回は、それに関連して様々な観点から考察してみます。

 (エッセイスト)
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