■【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】(25)
サングルポットとカッドゥルパイの冒険⑳
サングルポットは ドアをぱたんと閉めて力のかぎり ドアに寄りかかりましたが あけられてしまいます。
“ほぐれ花さーん”と呼びます “助けて 助けて”と叫びます。
ほぐれ花は目を覚まし 目を手でこすりながらベッドから飛び起きます。
“こっちへきて 手伝って”とサングルポット。
でも呼んでいる間に ドアは バーンと開き
バンクシャーマンが飛び込んできました。彼は大きな手でドレスを着たほぐれ花を片手に抱え もう一方の手で地べたにいるサングルポットを抱え込みました。
それは瞬きするまの すばやいできごとでした。階段を駆け下り家の外に出て あの悪いバンクシャーマンは 茂みを駆け抜け枝を踏みたおし花を踏み散らして駆けていきます。
サングルポットとほぐれ花を抱えて家を出ると大きなカバンに二人を入れて高い崖の上に出て海へ放り込みます
“はっはー! これで二人は溺れてしまうぞ はっはー!"と叫びます。
丁度その時大鷲が通りかけその声を聴きました。そしてバッグが落ちていくのを見て
“あのカバンの中には何が入ってるのかな?“と言って強い顎でカバンの底を引き上げました。それでサングルポットとほぐれ花は放り出されて落ちて 落ちて 落ちて きれいな緑色の海に落ちました。
でもちっとも溺れません、けがもしません やわらかい底にひっくり返って落ちたのです そしてそこでは 年老いた二匹の魚の妻たちが おしゃべりをしていましたが、キャーと叫んで逃げていきました。
“アー わたし立てないわ” と云いながらほぐれ花は足に絡みついたものから抜け出すのに苦労しています。
“なんだか変な声だよ” とサングルポット 彼はやっと海藻につかまって立ち上がり
“小川の音のようだよ それにあの泡を見てごらんよ” ほぐれ花は笑って立ち上がり泡の方へ向います。
“なんてこと ちゃんと立てるわ” と云いながらまた裏返ります。
“僕につかまって これでよし”と 二人は海草につかまりながら大笑いをしました。
“濡れてる感じ?”とサングルポットが聞くと
“すっかり濡れてしまった でもちっとも濡れてる気はしないのよ”とほぐれ花。
“僕もそうなんだよ” とサングルポット。
それで二人は笑って 笑って 海藻につかまっていることをすっかり忘れてしまって 又ひっくり返ります。それで又笑いこけて、きちんと起き上がるのに随分時間がかかりました。
すると 彼等のすぐそばで大きな生き物が組み合って戦っています。
“オー! 殺しあってるみたいだよ とても 獰猛な奴らのかんじ”とサングルポット。
“この辺に隠れよう” と言って難儀な道を、何度もひっくり返りながら何とか小さな家の戸口まで来て そこから戦いを見ていました。
ついに一匹が叩きつけて 打ち勝ちます。
それから恐ろしいことに もう一匹の方は這いながら彼等が隠れていたドアの入り口を目指してきたのです。
二人は縮み上がって後退りします。突き刺すような二つの目がドアの中を見つめています。
“大爪ばさみだ!” その大きな生き物が云います。
“あんたは誰だね? 私の家で何をしているのかね?”
“何もしていません” ほぐれ花は恐ろしさに震えながら答えます。
“あなたは誰ですか?” 勇敢にサングルポットはききます。
“私はやどかりだ” と答えて “これが私の新しい家だ もし家を探しているなら私の旧い家があるよ”
“ありがとう” とほぐれ花。
“何か旧い家は具合が悪い所があるんですか?” サングルポットは出来るだけ丁寧にききます。
“小さいんだよ” とやどかり “でも君たちには丁度いいと思うよ”
“ありがとう” とサングルポット。
“この家は又後程 君たちにあげるよ” と云ってお尻から中へ入っていきました。
“あれも小さいんですか?” とほぐれ花がきくと
“いや、でも又すぐそうなるんだ” とやどかり “ご覧の通り 私はいつも大きくなり続けているから より大きい家がいるようになるんだ”
“なるほど” 二人のナッツ。
“さて 私は行きますよ。いいかね いそぎんちゃく?” 背中の上にくっついている物を指して云います。
“あれは誰?” と二人がきくと
“友達だよ” とやどかりは立ち上がって行く用意をしながら “あんた達もよかったら一緒に行ってもいいよ” と云って “背中に乗りなよ 連れて行くから”
“ありがとう やどかりさん” 二人は喜んで答えます。
そして その家によじのぼって一緒に行きました。
でも それは大仕事でした。やどかりが急な険しい坂道をおりて行くので つかまっているのが大変でした。彼がとても大きな岩をおりて行くときにつかまりそこなって転がり落ちて たくさんの家の屋根を越えて道の真ん中に突っ込みます。
そこでは魚の群が泳ぎ回っていましたが ―なんだか珍しいのが来たよ―とみんな見てみようと押し掛けて来ました。
やどかりはどこかへ行ってしまいます。サングルポットとほぐれ花はつかまる所がないので頭を上げて立ち直ります。
“ここで何をしようとしているんだ?” と大きな恐ろしい声がします。
“ジョンドーリィ(まとう鯛)だ!” と寄って来た魚達が云って みんな後へ下ります。
ジョンドーリィは魚族の親分なのです。
“誰なんだ? どこから来たんだ? なんで頭を上げて立っているんだ?” と叫びます。
みんなは怖くて何も云えません。彼はみんなを押し退けてサングルポットとほぐれ花を抱え上げ まわりを睨みつけながら
“これは誰かのものなのかな?” と怒鳴ります。
みんなは怖気づいて何も云えません。しかし小さなアンチョビ(鰯)が 勇敢で優しい子なんですが 前へ出てきて
“どうかその子達を傷付けないでね 私に下さいな。私その子達好きなの”
ジョンドーリィは今までこんなに自分に大胆に物を云う魚に出会った事がなかったので アンチョビにすぐに恋をしてしまいました。そこで
“もし俺と結婚すると約束してくれたら この子達をあんたにあげるよ” と云います。
アンはジョンドーリィなんか愛してもいないのですが かわいそうなサングルポットとほぐれ花を助けたくて
“ええ あなたと結婚しますわ” と答えます。
彼女の答えを聞いた時 あの野蛮なジョンドーリィは優しく彼女にナッツを与え
“これはあなたのものです。誰かが傷付けたりしたら日干しにしてやりましょう”
魚の世界では日干しにする事は“死”を意味します。魚は水の外では長く生きられません。人間が水中で長く生きられないのと同じです。
それで ほぐれ花とサングルポットはアンと一緒に住むことになりました。とても幸せでした。アンは緑の海藻で小さな真珠の縁取りのついた帽子を作ってくれました。そしてフリリーと云う小さな黒と白のとても利口な魚をくれました。フリリーはどこへでもついて来てすぐに二人は好きになりました。
アンチョビの家は美しい花や木に囲まれた庭の真ん中にありました。サングルポットとほぐれ花は嬉しくて 仕事に追われる年老いた庭師の手伝いを時々しました。海中の花は地上の花とは違うのです。海中の花は動き回って生きていますから 庭師はそれを元の場所に戻さなければならないし 夜は誰も見ていないのでまた花たちは何処かへ行ってしまうのです。
夜にはサングルポットとほぐれ花は 壁から突き出ている奇妙な貝殻のベットで寝ますが 毎朝庭にいる魚達のさざめきの声で目を覚まします。魚達は唄いながら泡を出して集めています。と云うのは 魚達の朝食は海ぶどうで 飲み物はエビなのです。エビはとても小さくて飲み込んでいるなんて思っていません。
(詩人)
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