【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】

サングルポットとカッドゥルパイの冒険㉔

吉川 佐知子

 “あそこの黒いものは何?”とほぐれ花が縮み上がりながら後退りして囁きます。いそぎんちゃくの間を何かが動き回っています。それでみんなは陰に隠れて見守りました。
 “ジョンドーリィだ”サングルポットが囁きます。“僕らのベッドルームの窓を覗いている。大急ぎで出よう!!”
 そういいながらサングルポットはほぐれ花の手を握って走り出します。走りに走って庭の門まで着きました。サングルポットが振り返ってみると木々の後にジョンドーリィの影が見えます。二人を追って来たのです。
 二人はフリーリーのヒレの中へ飛び込みます。

 “どうしたの?”とフリーリー“ジョンドーリィだ”とサングルポットはあえぎながらいいます。
 “それじゃ早く”フリーリーが叫び馬をつかまえて“飛び乗って”といって二人を助け上げると“それでは私について来て”と走り出しました。
 後ろを振り向くと、サングルポットは彼等が出て行く門のあたりをじっと見つめている二つの光った眼を見ました。

 彼等がぴょんぴょんはねながら町を通り抜け森へ入っていった時、フリーリーがやって来て“馬達を休ませよう、潮の流れにそっているからそのまま運んで行ってくれるよ”といいました。
 そこで彼等は一休みして、のんびりと浮かんで行きました。

 “僕等遠くへ行くの、フリーリー?”サングルポットが聞くと
 “うんと遠くさ”とフリーリー
 なんと素敵な旅だろう!
 夜ですが行く道はどこも灯りがともされています。彼等は海草の中を流れにそって切り立った丘の上に出て、また深い所へ降りて来た時、巨大な魚が泳いでいき、変な形のものが浮かんでいます。

 “なんか汚いゴミじゃない?”とサングルポットのそばに寄って来てほぐれ花がいいます。
 “木のこずえだよ”とサングルポット
 “あの上で大きな音がするの、何かしら?”ほぐれ花が聞きます。
 “あれはくじらが息をしているのさ”とフリーリー“くじらは上に出て息をするのだよ”

 “おー、見て! たくさんの蛇があの下にいるよ”とサングルポットが叫びます。
 “あれはたこだよ”とフリーリー
 “私怖いわ”とほぐれ花
 “怖がらないで、においづけをして遠くへ追っ払う方法を知っているから”とフリーリー
 “おー何と可愛いのがあちらに浮いているのかしら?”とほぐれ花
 “シーコミイット(海のほうき星)だよ”とフリーリー

 そうして彼等はどんどんと進んで行きます。とても珍しいものを色々と見ました。フリーリーはいつも皆が安全に進んで行けるように気を付けています。
 やっと暗闇は薄れてきて優しい緑色の光が差し込みます。
 “さて”とフリーリー“馬達を放してやって。我々は登って行かなきゃならないよ”

 馬をうみうちわにしばりつけて、フリーリーについて切り立ったさんごの壁を登ります。上の方には美しい海草のカーテンがあって、金色の小さな魚が出たり入ったりしています。その魚達は皆きらびやかな色をしています。
 “優雅にいこうぜ”とフリーリーが壁の上に近付いた時にいいました。彼はとても興奮していて尻尾とえらがひらひらふるえています。

 ほぐれ花とフリーリーが最初に頂上に着きました。フリーリーは突進していきます。ほぐれ花は大喜びの声を上げます。そこには白い真珠のような美しい花が浮かんでいてもう少しで触れるところでした。白い花びらの中には小さな青い赤ん坊が眠っています。小さな手や足はピンクで小さな丸い頭には金と緑のえらがついています。それが朝の薄い夜明けの光に輝いています。ほぐれ花もサングルポットもフリーリーもあまりにも不思議な光景に声も出ません。

 (詩人)

(2021.10.20)
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