■【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】(30)

サングルポットとカッドゥルパイの冒険㉕

高沢 英子 

 彼らは、小さな赤ん坊がブルーの瞳をいっぱいに見開いて、小さな腕をさしのべてほぐれ花を見つめているのを見ました。
 “フリーリー、フリーリー”とほぐれ花は叫びました。“見て、あの子たち、私に来て、って言ってるわ”
 ほぐれ花はあまり興奮したので、小さなベイビーが浮かんでいる深い穴に頭を突っ込んでしまいそうになりました。

 フリーリーは、ほぐれ花を捕まえようと突進しましたが、彼女に届きません。彼女が沈んだので、彼は口で彼女の服をくわえようとしましたが、深く沈めば沈むほどあたりは暗くなり、もう何も見えません。
 “どこにいるの”と彼は叫びましたが、答えはなし! そして、彼が沈めば沈むほど、水は思いがけない厚みで彼を押し包み、息が詰まりそうになりました。

 彼は、やっとのことで上に浮かび上がって、サングルポットが待っているところに戻ったんですが、彼はどこかへ行ってしまっています。フリーリーは壁のところで休むと、あえぎながらあたりを見まわしました。

 美しい白い花は花弁を閉じ、小さな金色の小魚たちは、ますますはやく泳ぎ回りつづけ、黒い孔から水が沸き上がってきました。なんだかとても恐ろしいことが起こりそうだ、とフリーリーは考えました。そして勇敢にも、その黒い水の中に飛び込んでいきました。そして、どんどん下に泳いで行って遂に底にたどり着きました。

 水が少し澄んで来ました。すると彼は洞窟の入り口のところで、ぎらぎらする目で彼を見ている大きなイカに気が付いたんです。
 フリーリーはぞっとしました。なぜって彼はその洞窟の暗闇の中に、サングルポットとほぐれ花の青ざめた顔を見たのです

 “なにをしたいんだね?”大イカはその長い腕を振り回しながら怒鳴りました。フリーリーは恐ろしくて声も出ません。
 大イカが大きな腕を彼にむかって開いて、フリーリーを捕まえようとしたちょうどそのとき、巨大な魚が通りかかり、上あごをがっとあけて、イカに大波を浴びせました。一瞬明るくなった機を逃さず、フリーリーは洞窟に突進し、ほぐれ花のドレスをくわえ、サングルポットの下に頭を差し込むと、素早く背中に載せて、洞窟から泳ぎ出て2匹の大イカから助け出しました。2匹の大イカはバタバタして唸り声をあげ、泡がぶくぶく彼らの周りで沸き立っていました。

 “しっかりつかまっているんだよ”フリーリーは息を切らしながら泳ぎました。
 ゆっくりゆっくりと、彼らは恐ろしい大イカから遠ざかり、とうとう塀の上に着きました。フリーリーはぐったりして、死んだみたいに珊瑚の上に身を投げています。

 “ああフリーリー、フリーリー!”ほぐれ花は叫びました“あなたはなんて勇敢だったことでしょう、可哀そうに、私たちとっても重かったのに、あなたは私たちを救ってくれたのよ”

 でも、フリーリーはすぐに元気を取り戻しました。それから、彼らは小さなベイビーのことを思い出し、辺りを見回しました。そして、その児が、まだそこにいたことがわかって大喜びしました。愛くるしい白い花びらが開いて、金の小魚たちが、彼らにその児をさしだしました。

 やっとのことで、その児はほぐれ花のほうに差し出され、彼女はその児を優しくそっと腕に抱きしめました。光輝く小魚たちは大喜びで、跳びはね押し合いへし合いしながら、ほぐれ花の周りで素敵な歌を歌いました。

   オベーリア、オベーリア、オベーリア
    彼女の与える愛よ、永遠なれ
     オベーリア

 そうして彼らは、小さなベイビーを抱き上げて、馬にのり、家路につきました。
 さて、わたしたちも、彼らについて行き、カッドゥルパイが、いま、どこでなにしてるのか、捜しに行くことにしましょう。

 (エッセイスト)

(2021.11.20)
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