【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】

(31)サングルポットとカッドゥルパイの冒険㉖

吉川 佐知子

 さて、あの親切なナッツがカッドゥルパイを自分の家へ連れて行った時、誰が予想したでしょう。パイプをふかしながらゆったりとくつろいで本を読んで座っているのは?
 なんと! 年老いたあの大きなトカゲさん
 すっかり仰天したのはトカゲさんで椅子から飛び上がって、天井にぶつかり穴をあけます。
 カッドゥルパイは喜びの声を上げて走り寄りトカゲさんに抱きつきます。
 親切なナッツさんはそれをとても驚きながら見ました。“何か食べるものとか飲み物など持ってくるよ”と云って大急ぎで部屋から出て行きました。

 それからカッドゥルパイとトカゲさんの長い話し合いが始まります。カッドゥルパイが自分の事を話すと、トカゲさんは真剣に聞き入っています。
 “サングルポットとほぐれ花はどこにいるの?”とききます。
 “知らないんだよ”とカッドゥルパイ“はぐれちゃったんだ”
 “それじゃ”とトカゲさん、立ち上がった拍子にまた天井に穴をあけ
 “すぐ出掛けなくちゃ。大きな蛇やあばれ蟻! やっつけよう”と云ってドアに駆け寄り行ってしまいます。

 丁度その時ナッツさんが食べ物を持って入ってきました。
 “止まって!”とトカゲさんに叫びます。“待ってよ! 美味しいケーキを持って来たのよ”トカゲさんを止めたばかりに、心配した通り尻尾がなくなって、トカゲさんは自分でその尻尾にとびつきますが…ヒェー尻尾はナッツさんの上を飛び越えてごちそうの皿の上に落ちてしまいます。

 “入った入った”ナッツさんは取り出してこすります。“何とあわれな! あんなに素敵なのがみんな汚れてしまって。明日は一日料理をするよ”
 “私も手伝いましょうか?”カッドゥルパイはききます。
 “もちろん。いいアイデアだ”“さあもう寝よう。朝にはあのトカゲさんがあなたの友達の事を調べて来てくれるよ。あのトカゲ老人はとっても親切なんだ”
 それでみんなベッドに入りました。カッドゥルパイはすごく疲れていたのでぐっすりと眠り、目覚めた時には太陽が高く青空にのぼり、町はすっかり昼間の様子になっていました。

 カッドゥルパイはナッツさんが台所で一生懸命ケーキ作りをしているのに気が付きました。
 “遅くなってごめんなさい。どうぞ手伝わせて”とカッドゥルパイ。
 “よしよし、もちろんだよ”とナッツさん。そしてカッドゥルパイに花粉と蜜を渡し混ぜるように云います。
 それからナッツさんは料理を太陽の熱で仕上げます。ですから仕上がった時には太陽も沈んでしまっています。

 ナッツさんはパン屋でした。カッドゥルパイは昼間中とても役に立ちましたので、ナッツさんが“一緒に住んでくれないかなぁ、そして荷車を運転してくれるといいんだけど”と云います。
 カッドゥルパイは喜びました。その様子を太陽の光の穴から覗いていたかまきり夫人は、駆け出して近所の人達みんなに、ナッツさんが新しいパン職人を雇った事、とてもハンサムな利口な少年だと云いふらします。

 このニュースはあちこち伝わり熊夫人の柔らかな耳にまで伝わりました。熊夫人は大きく肥って金持ちで、誰もしないような事をやってみるのが大好きでしたから、近所では“なんと利口な”“なんと変わっている!”と云われていました。
 そこで彼女は考えたのです“大きなパーティをしよう。そしてあのパン屋の新入りを呼んで、彼の芸をみんなに見せよう。この地の話題になるだろう”

 次の日大きな招待状が来ました。
 【熊夫人よりナッツさんへ、新入りの少年を連れて彼の芸を見せる私のパーティにおいで下さい。】
 ところがカッドゥルパイはどんな芸も知りません。でもパーティには行きたいのです。そこで彼は昼も夜も一生懸命に考えます。パーティで何か利口そうな芸が出来ないかと寝ながら考えます。そして寝ている時に、蛙達が夜中にガーガーゲロゲロ唄っているのを聞きながら素晴らしいアイデアを思いつきます。
 彼はベッドから飛び起き沼地に降りて行って蛙達と長い話し合いをしました。それから家に帰りまたベッドに戻って眠りました。嬉しそうなほほえみが顔には浮かんでいます。

 パーティの朝、熊夫人のドアの前に大きな荷車がつきました。
 “カッドゥルパイ、パン屋の少年、ご挨拶いたします。そして熊夫人、ピアノラをパーラーに持ち込んでよろしいか? 今夜それで演奏したいのですが”
と仕えの蟻が云います。
 熊夫人はとっても喜びます。大きな木の幹にてこずりながらも、10人の運送屋に25人の手伝いの蟻とで運び込みました。
 熊夫人の家はとっても大きいので、それでなければピアノラをドアの中へ入れる事など出来なかったでしょう。

 このニュースは熊夫人のパーティで何が素晴らしい事があるらしいと近所で云いふらされました。それでみんな早くから着飾って出掛けます、とてもたくさんの人であふれます。招待状のない人もすり抜けてやって来ました。

 カッドゥルパイが着いたのは随分遅くでしたから、みんな彼を見ようと押し寄せて来ます。そして、大事なお客さん達は彼と握手しました。
 そこで、熊夫人が云います。“あの素晴らしいピアノラで何か演奏してくれますか?”
 カッドゥルパイは重々しく大きくなったように見えます。お辞儀をして云います“何か演奏してみましょう。熊夫人のために”

 彼は木の幹のそばの椅子に腰掛け、木の皮のペダルに足を乗せ上げたり下げたり力一杯動かします。するとすごい音が出ます。と云うのは、木の幹は空洞で100匹もの蛙が中に隠れていて、一番大きな蛙が穴から覗いていて、いつ始めていつ止めるかを見ているのです。
 カッドゥルパイが強く踏むと蛙が大声で唄います。カッドゥルパイがやめると蛙も黙ります。穴から覗いている蛙さんが合図をするのです。

 誰もがびっくりしました。大喜びです。今までこんな素晴らしい音を聞いた事がありません。
 “なんと大きな音!”とクッカブラ夫人。
 “まるでクリークだわ”と熊夫人。
 “丁度月の光だ”と誰かが云います。
 “言葉では言い表せない美しさだわ”とおうむ夫人。カッドゥルパイがピアノラをひく度におうむ夫人の声がだんだん大きくなります。

 (詩人)

(2021.12.20)
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