■【北から南から】

中国・深セン 『ショートショート・3』        佐藤 美和子

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  今回は、車にまつわるちょっとしたお話です。ちょっぴり古い話題が多くて恐
縮ですが……。

 7~8年ほど前のことだったと思います。外出先から、相方の運転する車で自
宅マンションの地下駐車場に帰ってきました。運転暦は30年近いベテランのウ
チの相方、たいてい1~2回の切り返しで上手に駐車していまいます。その日も
ささっと駐車して車から降りたところで、私たちの斜め前のスペースに駐車しよ
うとしていた車の主に呼び止められました。

 「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかしら。あなた駐車するの、とっても
上手ね。私、さっきからどうやっても上手く駐車できなくて、困っていたの。あ
なた、私の車の駐車も代わりにやってくれない?」

 20代後半と思しきその女性の車は、軽自動車でした。軽なので駐車スペース
は余裕だし、特別難しい位置だという訳でもないのに駐車できないって、どうい
うこと?と驚くと、
「だって仕方ないじゃない。私、まだ免許証を買ったばかりなのよ」

 え~っと、ワンスモア プリーズ? “免許証を”買ったばかりと聞こえたの
ですが、“車を”買ったばかり、の言い間違いですよね??? ところがこの女
性、本当にコネを使って免許証を買った、と言うのです。なるほどー、自動車教
習所に通って免許証を取得したわけではないから、自力では駐車もできないのね。
って、なんて危険な!!!

 ここ数年で、さすがの中国も免許証取得はとても厳しくなり、免許証を買うな
どということはまず出来なくなったとのことですが、当時はまだまだそんな人た
ちが結構いたのだそうです。中国の交通事故発生率は世界的に見ても異様に高い
そうなのですが、免許証を買う人が一定数いたのなら、まぁ仕方ないですね……。

 これは、ウチのマンションに限ったことではないのですが――。中国の有料駐
車場には、カラクリが多々存在します。駐車場入り口ゲートで駐車カードを取る
と、入場時刻が刻印もしくは記録されますよね。15分以内の駐車は無料である
ことが多いのですが、多くの駐車場では出口ゲートの時計は、入り口ゲートのも
のより数分進められているのだそうです。急いで用事を済ませて15分以内に出
口ゲートにたどり着いたのに、15分を過ぎているからとミニマム1時間分の駐
車料金を取られてしまう、という寸法です。なんて下らない悪知恵……。

 時計のカラクリ以外には、こんな事もありました。つい先日、至急外出の用が
できたために大急ぎでマンションゲートを出てタクシーを拾おうと思っていると、
運良くゲートを出るまでもなく、マンション敷地内にいたタクシーを捕まえるこ
とができました。よかった、これで時間に間に合うとホッとしたのもつかの間、
なんとマンション出口ゲートまでの道が渋滞!マンション敷地内の渋滞で足止め
を食らうなんて、想定外です。

 そのタクシードライバーさんが言うには、マンション出口ゲートの係員が、料
金徴収のお仕事を故意にぐずぐずとして時間稼ぎをしているのだろう、ですって。
係員がの~んびり時間をかけて仕事をすれば、ゲート前には何台もの車が順番待
ちをすることになります。そしてその待ち時間のせいで駐車時間が延び、余分な
超過料金を払わされる車がでてくれば、彼らの儲けが増えるからだとか。な、な
んてみみっちい!

 えぇ、そんな姑息なことをしているの? ウチのマンションのゲートは、出口
の方が入り口より5分時計を早めてあるってゲートの係員が自ら認めていたけれ
ど、そんなことまでやっているんだ……と私が呆れてそう言うと、タクシードラ
イバーさんは
「えーっ、ここって5分も早めてあるの? 係員がそう言ったの? 待たされた
挙句に理不尽な料金を取られるかもなんて、こっちは踏んだり蹴ったりだよー!」
と、苦笑していました。

 こちら華南地方は、既に30度越えの夏日に突入しています。そしてこのシー
ズンは、毎日のようにスコールが。犬の散歩中に降ってきた場合、私はマンショ
ン地下駐車場に逃げ込むことがあります。排気ガス臭いのが難点ですが、散歩が
雨で中断したときだけ、駐車場の隅っこをぐるぐると回って犬に運動をさせてい
ます。
 
  一昨日も久々の駐車場散歩中、ぐるぐる回るだけでは退屈なので、回りながら
駐車中の車種をチェックしてみました。とはいえ車に興味がなくサッパリ知識も
ないため、辛うじてそのエンブレムで私にもわかるBMWとベンツの台数を数え
るだけです。

 この地下駐車場は、1フロア8戸×平均32階建て×5棟で、約1280戸分
に用意された地下1~2階の駐車場です。地下2階はごみ収集ステーション兼用
でひどく臭うため、地下1階しか回っていないのですが、平日の正午という最も
車が少ないであろう時間帯に、BMWが11台、ベンツは7台も停まっていまし
た。

一口にBMWやベンツと言ってもお値段はピンきりだそうですし、車オンチの私
なのでもっと高級な車を見落としているかも知れませんが、この割合はちょっと
スゴイのではと思います。上の駐車場料金のようにみみっちい世界もあれば、平
均的なマンション1部屋よりもはるかに高い車もゴロゴロ走っているのが、今の
中国です。

 これも、7~8年前の話なのですが。
  当時、深センのあちこちで、ボディーに『藤原とうふ店(自家用)』という文
字がペイントされた白い乗用車を何度も見かけました。おとうふ屋さんの車だか
らか、車種は色々でもなぜか必ず白い車です。おぉ、いつの間にか日本のおとう
ふ屋さんも深センに進出してきていたのね!と、喜んでお店を探したのですが、
一向に見つかりません。美味しいおとうふが食べられると思ったのに……。

 日本人の友人にその話をして、やっと実店舗が見つからないわけが分かりまし
た。青年コミックスは読まないので知らなかったのですが、そのころ中国・台湾・
香港人男性に『頭文字D(原作しげの秀一)』という走り屋の若者たちを描いた
日本の漫画が大人気で、そのとうふ屋跡取りである主人公の愛車をマネする人が
続出していた、というわけでした。

 アニメ化以外にも、日本・台湾・香港の若手俳優による実写版映画が2005
年に封切られ、若い男性たちが夢中になっていたそうです。あまりの人気ぶりに、
主人公の愛車と同じペイントができる日本語ロゴのステッカーが売られはじめ、
それを私が目にしたようです。日本の漫画が人気なのは嬉しいことなのですが、
食い気のほうが勝る私は美味しいお豆腐屋さんがないと分かって、ずいぶんガッ
カリしたものです(笑)。

  (筆者は在中国・深セン・日本語講師)

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