【コラム】
酔生夢死
スノーデンもくしゃみの河野太郎発言
「日本も(ファイブ・アイズに)近づいて『シックス・アイズ』と言われるようになってもいい」―。こう言うのは河野太郎防衛相。日本経済新聞(8月15日付)とのインタビューで、日本も米国中心の情報協力組織「ファイブ・アイズ」(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)と連携を強化し、軍事的に台頭する中国に対抗する姿勢を強調したのだ。
河野はこの6月、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画停止を発表。それに替わって自民党内では、相手領域を先制攻撃する「敵基地攻撃能力」保有論が一気に高まった。「ファイブ・アイズ」との連携は、トランプ政権が加速する米中デカップリング(分断)政策の中、日本が情報世界で米陣営に入り、中国と「敵対」するのを意味する。
インタビューで河野は、ほかにも見過ごせない発言をしている。彼は、中国が監視システムを海外に提供しデータを集める事例を挙げ「(中国は)ポストコロナの世界を分断しようとしている」と断じる。そして「民主主義対独裁、自由なネットワークと国家が管理するネットワークのような形で国際秩序を分断する試みに多くの国が懸念」と分析した。
ポスト安倍時代を担う有力リーダーとしては、かなり乱暴な発言である。トランプ政権による「米中新冷戦」イニシアチブにすっかり囲い込まれ、世界を「民主主義対独裁」の二元論でとらえる思考。そして「ファイブ・アイズ」が進めてきた安保情報協力を「自由なネットワーク」と位置づけるのは事実誤認も甚だしい。
トランプ政権が同盟国に対し、中国通信大手ファーウェイ排除の「踏み絵」を踏ませ、世界を二分しようとしているのは明らか。最近では、短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」排除を同盟国に求める。「ポストコロナの世界を分断しようとしている」のは、中国ではなく米政権だ。
西側情報網を「自由なネットワーク」と呼ぶのを聞いたら、亡命中のロシアでくしゃみをこらえている人物がいるにちがいない。元米国家安全保障局(NSA)局員のエドワード・スノーデン氏である。彼は2013年6月、「米政府が中国を含め世界中のあらゆる通話、SMS、メールを秘密裏に収集している」と告発。日本政府に対しても監視システムを譲渡したと暴露した。
米情報機関による同盟国リーダーの電話盗聴はよく知られている。その中にはメルケル・ドイツ首相や日本の閣僚も含まれる。「通話、SMS、メール」情報が、米巨大IT企業の「GAFA」の協力抜きに成立するとは考えにくい。
米政府がファーウェイなど、中国の情報企業を恐れ排除しようとする理由ははっきりしている。自分たちが独占的に行ってきた世界中の情報収集体制が崩れ、中国政府も自分と同じことをするに違いない、という確信からだ。
『スノーデン独白 消せない記憶』
(2019年 河出書房新社)表紙
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