【オルタ広場の視点】
ゼロ・COVID-19 感染者政策 Vs.ウイズ・COVID-19 政策
投稿いただいた周牧之さんは、東京経済大学の教授としてのみならず、実業界、都市(工学)政策の、アドバイザー等、日本のみならず中国、アメリカ、東南アジアなどにまたがって活躍中。もともとは工学系出身で、日本では大学院では野村昭夫さん(国際経済学)、増田祐司さん(社会情報学)のもとを含めて、例外的な文・理総合型の実践的研究者である。いつも時代の先端課題を手がけている。この「コロナ禍」に直面すると、ただちにそれに対する具体的分析・提言を早くから公表してきた。本稿は11月に書き下ろされたものである。
2020年1月23日に、中国政府は新しい感染症の爆発を封じ込めるために湖北省の省都武漢を始め3都市をロックダウン(都市封鎖)した。このニュースは世界を震撼させた。翌1月24日に、湖北省全域が緊急対応レベルを1級にする措置を取った。その後緊急対応1級措置は中国全土に及んだ。中国国務院は2月8日、記者会見で同感染症を「新型コロナウイルス肺炎(NCP:Novel coronavirus pneumonia)と称した。2月11日には、WHOが同感染症をCOVID-19と命名した。
新型コロナウイルスに襲われた大都市・武漢は、医療崩壊に陥り、数多くの感染者と死者を出した。武漢のみならず新型コロナウイルスで数多くの大都市で、医療崩壊危機が起こった。3月11日にWHOが同ウイルスの脅威に対してパンデミック宣言をした。
筆者はこの緊迫した状況に鑑み、早くから武漢の医療崩壊及びその後の対応について研究し、数少ない情報を収集しながら世界各国の動向を踏まえ、4月20日に「新冠疫情冲击全球化:强大的大都市医疗能力为何如此脆弱?」をテーマとした論文(以下「4月周論文」と略称する)を発表した[1]。同論文は、豊かな医療リソースを持つ大都市が、なぜ新型コロナウイルスにより一瞬で医療崩壊に陥ったのかについて解析し、武漢の対策を検証した。その上でグローバリゼーションそして国際大都市の行方を展望した。中国の大手ネットメディアである中国網での「4月周論文」の発表は、瞬く間に人民日報(ネット版)、新華通訊社(ネット版)、光明日報(ネット版)を始めとする100を超えるメディアに転載された。
4月21日には「4月周論文」の英語版が「COVID-19: Why is the medical system in metropolises so vulnerable?」のテーマで中国網英語版(China.org.cn)にて発表された[2]。中国国務院新聞弁公室(english.scio.gov.cn)、チャイナ・デイリー(China Daily.com.cn)など内外のメディアに転載された。
そしてその日本語版も5月12日、「新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?」と題して中国網日本語版(チャイナネット)で公表された[3]。
「4月周論文」はいち早く武漢の教訓と経験を踏まえ、新型コロナパンデミックの中で都市の医療体制が直面する課題を整理し、取るべき対策を内外に広く示した。これは当時、未知のウイルスとの闘いに苦しむ多くの都市の政策当事者に一定の示唆を与えたであろう。
「4月周論文」はメディアの性質上、注釈などの制限があったため、本論文では、この「4月周論文」をベースに注釈と図表を加え、最新情報をアップデートし、同論文の論点をさらに掘り下げて検証する。
1.中国都市医療輻射力2019
「中国都市総合発展指標」に基づき 雲河都市研究院は中国全国297の地級市以上の都市を網羅した“中国都市医療輻射力2019”を発表した。北京、上海、広州、成都、杭州、武漢、済南、鄭州、南京、太原が同輻射力の上位10都市にランクインした。天津、瀋陽、長沙、西安、昆明、青島、南寧、長春、重慶、石家庄が第11位から20位、ウルムチ、深圳、大連、福州、蘭州、南昌、貴陽、蘇州、寧波、温州が第21位から30位を占めた。
図1 中国都市医療輻射力2019 ランキングトップ30
出所:雲河都市研究院 “中国都市医療輻射力2019”より作成。
「中国都市総合発展指標」は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、中国都市ランキングを内外に発表してきた。現在、中国語(『中国城市総合発展指標』人民出版社)、日本語(『中国都市ランキング』NTT出版)、英語版(『China Integrated City Index』Pace University Press)が書籍として出版されている[4]。筆者は同指標開発の専門家委員会の委員長、そして上記書籍の主編の一人として、指標開発をリードしてきた。
同指標の特色は、環境、社会、経済の3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価したことにある。大項目ごとに3つの中項目を置き、3つの中項目ごとに3つの小項目を置く3×3×3構造となっている。小項目ごとにさらに複数の指標が支えている。“中国都市医療輻射力”は、こうした指標のひとつである。
これらの指標は、785のデータによって構成されている。指標はまた、統計データのみならず、衛星リモートセンシングデータ、そしてインターネット・ビックデータから成る。「中国都市総合発展指標」は、こうした垣根を超えたデータリソースを駆使し、都市を「五感」で感知し高度に判断できるマルチモーダルインデックス(Multimodal Index)である。
輻射力とは広域影響力の評価指標であり、都市のある産業の製品やサービスの外部への移出・移入の力を測る指標である。輻射力が高いと、当該産業が外部へ製品やサービスを移出・移入する能力を持つ。輻射力が弱い場合は、都市は当該産業の製品やサービスを外部から購入しなければならない。
“中国都市医療輻射力”において、医療輻射力の高さを表す評価対象の一つとなったのは、都市の医師数と三甲病院(トップクラス病院)数である。輻射力ランキング上位30位の都市に全国の15%の医師、30%の病床と45%の三甲病院が集中している。中国の医療リソース、とりわけ先端医療機関が、医療輻射力ランキング上位都市に集中している状況が顕著である。ランキングの前列にある都市は良質な医師と一流の医療機関に支えられ、市民の衛生と健康を担うだけでなく、周辺地域あるいは全国の患者に先端医療サービスを提供している。
「4月周論文」がまず問題提起したのは、なぜ武漢のような医療リソースが豊富で医療輻射力に富んだランキング上位都市が、突如として現れた新型コロナウイルスにしてやられ、医療崩壊状態に陥ったのか、である。
2.新型コロナウイルスが世界の都市医療能力に試練を
武漢は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は27カ所の三甲病院を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する名実ともに“中国都市医療輻射力2019”全国ランキング第6位の都市である(2018年同ランキング第7位から1位上昇)。
しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。
国際都市ニューヨークの医療キャパシティも同様、新型コロナウイルスに瞬く間に潰された。2020年4月7日に発出された「緊急事態宣言」を受け、緊急事態措置を実施した東京都も当時、医療システムの崩壊の危機に直面していた。新型コロナウイルスはまさに全世界の都市医療能力に途轍もないプレッシャーを与えた。
「4月周論文」は、新型コロナウイルス禍による都市の「医療崩壊」が、以下の三大原因によって引き起こされたと仮説を立て、検証した。
(1) 医療現場がパニックに
新型コロナウイルス禍のひとつの特徴は、感染者数の爆発的な増大だ。とりわけオーバーシュートで猛烈に増えた感染者数と社会的恐怖感により、武漢では大勢の感染者や感染を疑う人々が医療機関に駆け込み、検査と治療を求めて溢れかえった。
病院の処置能力を遥かに超えた人々の殺到で医療現場は混乱に陥り、医療リソースを重症患者への救済にうまく振り向けられなくなった。医療救援活動のキャパシティと効率に影響を及ぼし、致死率上昇の主原因となってしまった。
さらに重大なことに、殺到した患者、擬似患者、甚だしきはその家族が長期にわたり病院の密閉空間に閉じ込められ、大規模な院内感染という災害を引き起こした。
表1 中国、日本及び主要欧米諸国の医療リソース比較
出所:OECDデータベース、カイザーファミリー財団データベース、厚生労働省
『厚生統計要覧』、中国国家統計局『中国都市統計年鑑』などより作成。
表1から伺えるようにアメリカ、日本、中国の1千人あたりの医師数は、各々2.6人、2.5人、2人であり、医療の人的リソースはドイツの4.3人、イタリアとスペインの4人に比べ、はるかに低い水準にある。
よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人あたりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。しかし、こうした分厚い医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。「4月周論文」の日本語版を発表する前日の2020年5月11日までに、中国の新型コロナウイルス感染死者数の累計83.3%が武漢に集中していた[5]。その多くが医療機関への駆け込みによるパニックの犠牲者だと考えられる。
武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカでも顕著だ。ニューヨーク州の1千人あたりの医師数は4.6人にも達している。しかし武漢と同様、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、医療崩壊の大惨事は防げなかった。
1千人あたりの医師数でみると、イタリアは4人で、医療の人的リソースは国際的に高い水準にある。しかし新型コロナウイルスのオーバーシュートで医療機関への駆け込みが相次ぎ、医療崩壊を招いた。
イタリアのミラノ市にあるロンバルディア州の感染者数は3月2日に1千人を突破、同14日に10倍の1万人へ、3月末には4万人、5月上旬には8万人へと膨れ上がり、大勢の重症患者が有効な治療を受けられないまま置かれた。5月11日の時点で、イタリアの感染者は22万人、死者数は3.1万人に達し、致死率(死亡者数/患者数)も14%へと跳ね上がった。
東京都は人口1千人あたりの医師数が3.3人で、これは武漢、ニューヨーク州より低い。政府は当初から、医療崩壊防止を新型コロナウイルス対策の最重要事項に置いていた。保健所のチェックという制度を設け、新型コロナウイルス検査数を厳しく制限し、人々が病院に殺到しないよう促した[6]。こうした措置は一定の効果を上げ、院内感染によるウイルス蔓延をある程度抑えた。また重症患者に医療リソースを集中させて致死率を下げ、5月11日の時点では致死率を同時期のニューヨーク州の7.9%より低い5.3%に抑え込んでいた。
表2 中国、日本、欧米主要諸国COVID-19感染者数等比較
注:中国感染者数の中に無症状感染者数データは含まれない。
出所:Worldometerデータベース、カイザーファミリー財団データベース、
東京都・新型コロナウイルス感染症対策サイト、湖北省衛生健康委員会HPなどより作成。
表2は「4月周論文」の日本語版を発表する前日の5月11日と、本論締め切り直前の10月11日という2つの時点における世界平均、中国、日本、欧米主要諸国及び武漢市、東京都、ニューヨーク州の新型コロナウイルスによる感染者数、死者数、致死率、人口10万人当たり死者数を表している。
人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数でみると、5月11日時点で、スペインの56.9人、イタリアの50.5人、フランスの40.4人、アメリカの24.4人と比べて日本は0.5人に留まった。その意味では日本は新型コロナウイルスの第1波において医療機関でのパニックを封じ込め、医療崩壊を防いだと言えよう。
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5月11日までの時点でのCOVID-19致死率を見ると、フランスの19.1%を始め、イギリス、イタリア、スペインともに2桁に達していた。第1波を鎮圧した中国は5.6%で日本は4%に押さえ込んだ。とは言え、この時点で新型コロナウイルスは世界平均で12.4%という極めて致死率の高い感染症として、社会に強い衝撃を与えていた。
しかし、5月11日から10月11日までの5カ月間に限った致死率で見ると、各国・都市で軒並み激減したことがわかる。中国はこの間、COVID-19死者数は出なかったため致死率はゼロとなった。日本も1.4%に下がった。とくに当初致死率が極めて高かったフランス、スペインともに1%にまで抑えられた。これまで累積で20万人を超えるCOVID-19死者数を出したアメリカでも、同期間において致死率は2.1%まで下がった。
これは、新型コロナウイルス流行第1波の混乱による医療現場のパニックが抑えられてきたこと、また、医療キャパシティの逼迫が改善されたことによるものであろう。加えて、特効薬は未だないものの、ある程度有効な治療法が確立されたことにも起因すると考えられる。これにより、致死率は大幅に抑えられた。同時に、PCR検査の普及に因る母数の増大で、致死率がさらに低まった。
世界平均の致死率は2.2%に下がったことで、致死率だけで見ると、新型コロナウイルスはそれほど怖くない感染症であるとの見方も出てきた。しかし異なる年齢層における新型コロナウイルスの致死率には大きな差異がある。実際は年齢の若い感染者の致死率は低く、高齢者のそれは高い。例えば日本の8月のデータでは全体の致死率は0.9%で、年齢別に見ると0歳~69歳の致死率は0.2%であるのに対し、70歳以上では8.1%に跳ね上がる[7]。
トランプ大統領は10月14日に行った演説(President Trump Addresses The Economic Club of New York)で、これまでに20万人以上のCOVID-19死者を出したアメリカで、50歳以下の感染者の生存率は99.98%であるのに対し、持病のある高齢者のリスクは高いと述べた。高齢者やリスクの高い人々の保護、医療をいかに充実させるかが致死率を低下させる重要なポイントになる。
(2) 医療従事者の大幅減員
ウイルス感染がもたらした医療従事者の大幅な減員が、新型コロナウイルス禍のもう一つの特徴である。
ウイルス感染拡大の初期、各国は一様に新型コロナウイルスの性質への認識を欠いていた。マスク、防護服、隔離病棟などの資材不足がこれに重なり、医療従事者は高い感染リスクに晒された。こうした状況下、PCR検体採取、插管治療など、暴露リスクの高い医療行為への危険性が高まった。これにより各国で現場の医療人員の感染による減員状態が大量に発生した。オーバーシュートで、元より不足していた医療従事者が大幅に減員し危機的状況はさらに深刻化した。
救護過程のリスクばかりでなく、3月、慶應義塾大学病院の研修医の会食で引き起こされた医療従事者の集団感染とそれに伴う隔離治療は、もともと緊迫していた当時の、東京の医療人的リソースに大打撃を与えた[8]。
国際看護師協会(ICN)が公表した情報によると、2020年5月6日までに報告された30カ国のデータでは、少なくとも9万人の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。個々の状況では、スペインでは5月5日までに、4万3956人(全感染者の18%)の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。イタリアでは、4月26日までに、1万9,942人の医療従事者が感染し、150人の医師と35人の看護師が亡くなった。さらに9月16 日にICNが公表した情報では、世界全体で、300万人近くの医療従事者が感染した可能性があると推測した[9]。
東京都の発表では、1月~6月までに48の医療機関で院内感染が発生し、医師、看護師そして患者計889人が感染、うち140人が亡くなった。院内感染者数は都内同期間の感染者の14%に相当した。院内感染による死者数は都内同期間感染死者数の43%にも達していた。院内感染は医療関係者の戦力を削いだだけでなく、持病のある患者に院内感染させたことで致死率が格段に上がってしまった。
10月になっても東京では医療機関の院内感染はまだ頻繁に起こっている。例えば、足立区の大内病院では、同15日時点で患者39人、職員12人の計51人の感染を確認。練馬区にある順天堂大医学部付属練馬病院でも患者23人を含む計58人に感染が広がった。
強力な感染力を持つ新型コロナウイルスは、医療従事者の安全を脅かし、医療能力を弱め、都市の医療システムを崩壊の危機に陥れている。院内感染をいかに防ぐかが新型コロナウイルス対策の肝心要となっている。
(3)病床不足
新型コロナウイルス感染拡大後、マスク、防護服、消毒液、PCR検査薬、呼吸器、人工心肺装置(ECMO)などの医療リソースの枯渇状況が各国で起こった。とりわけ深刻なのは病床の著しい不足である。感染力の強い新型コロナウイルスの拡散防止のため、患者は隔離治療しなければならない。とりわけ重症患者は集中治療室(ICU)での治療が不可欠だが、実際、各国ともに病床の著しい不足に喘いでいる。
人口1千人あたりの病床数データで見ると、日本は13床で世界でも最高水準にある。12万8,000病床数を有する東京は、1千人あたりでみると9.3床となる。そんな東京でも、新型コロナウイルス流行の第1波では病床不足に悩まされた。
東京と比べイタリアの人口1千人あたりの医師数は若干高いものの、1千人あたりの医療機関病床数では、僅か3.1床でしかない。アメリカの1千人あたりの医療機関病床数は2.9床で、ニューヨーク州はアメリカ全土の平均よりさらに少なく2.6床となっている。病床不足が医療機関の患者収容能力を制約し、新型コロナウイルス患者治療のボトルネックとなっている。
中国は人口1千人あたりの医療機関病床数は4.3床で、日本の四分の一にすぎないもののイタリアよりは高く、アメリカと同等の水準である。とりわけ9万5,000の病床を持つ武漢市は、1千人あたりの病床数が8.6床と高く、東京の水準に迫っている。しかし、武漢も新型コロナウイルスオーバーシュート期は、深刻な病床不足状態に置かれた。
特に問題なのは、すべての病床が新型コロナウイルス治療の隔離要求に耐えるものではない点にある。これに、爆発的な患者増大が加わり、病床不足状況が一気に加速した。
3.有効な対策は何か
しかし、上記のような医療崩壊の大惨事を最初に経験した武漢は、77日間のロックダウンを経て、新型コロナウイルス禍を乗り越えた。早くも2020年6月中旬には条件付きながら中国全土で平穏な日常生活を取り戻した。
中国は如何にして事態を収拾していったのか? 中国の経験の検証は、いまもなおパンデミックに苦しむ世界にとっては極めて貴重である。
(1)ロックダウン政策
中国政府は2020年1月23日に湖北省の武漢市の公共交通、空港、鉄道駅をシャットアウトし、市民に市外へ移動しないよう要請した。いわゆるロックダウンを開始した[10]。翌24日には『湖北省突発公共衛生事件応急預案』に基づき、湖北省全域に対して緊急対応(Emergency response)レベルを1級にする措置を取った。緊急対応レベルとは認定された感染症エリアに対するロックダウンを含む措置の度合いを規定するもので、1級とは、休業、休講を要請し、交通を遮断し、極力移動と接触を避ける措置である[11]。
『湖北省突発公共衛生事件応急預案』の上位法規である『国家突発公共衛生事件応急預案』は、2003年に起きた重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験から整備され、2006年6月26日に公布された国家的対策措置である[12]。
その後他の省・自治区[13]も相次ぎ緊急対応レベルを1級に引き上げる措置が取られた。1月29日、最後にチベット自治区が1級に引き上げられたことにより、緊急対応1級措置は中国全土に及んだ。
図2 武漢でのロックダウンとCOVID-19新規感染者数・死亡者数の日別推移
注:ロックダウン当日の2020年1月23日及び2月11日のデータは無い。
2月12日の新規感染者数が極めて多いのは、恐らく前日のデータが加算さ
れたことによると考えられる。
出所:中国湖北省衛生健康委員会HP[14]などに基づいて作成。
図2は、武漢のロックダウン直前の1月20日からロックダウン解除までの間に同市の新規感染者数及び死亡者数を日々記録したものである。未知のウイルスのオーバーシュートに遭遇し、医療崩壊など大変な困難を経てロックダウンの約3週間後にようやく新規感染者数がピークアウトした。ロックダウン56日後の3月18日には新規感染者数がゼロになった。その後3月23日に新規感染者が一人出たのを最後に、4月8日のロックダウン解除まで16日間新規感染者はゼロが続いた。
交通を遮断し休業、休講を伴う移動と接触規制を徹底するロックダウンは劇薬であった。武漢ではロックダウンにより、77日間で新型コロナウイルスのオーバーシュートを鎮圧した。
全国民を対象とした厳しい行動抑制措置が功を奏して中国全土でも新規感染者数が急激に抑えられた。甘粛省が早くも2月21日に緊急事態対応レベルを1級から、条件付きで日常生活が出来る3級へと下げた。その後他の地域も相次ぎ緊急事態対応レベルを1級から、3級へと下げた。6月13日に湖北省が3級へと下がったことを受け、中国全土が緊急事態対応レベル3級となった。経済的損失を度外視した徹底的なロックダウン政策の実施により、中国は新型コロナウイルス禍の第1波を制した。
中国はその後、感染状況に応じて各地で緊急事態対応レベルを上げ下げしている。例えば、北京市は6月16日にクラスター感染により3級から2級へと上げて警戒を強め、状況緩和に応じて7月20日には再び3級に下げた。
(2)迅速な人的支援
武漢の医療従事者大幅減員と深刻な不足に鑑み、中国は素早く全国から大勢の医療従事者を動員し、救援部隊として武漢へ送り込んだ。ロックダウンの翌日、2020年1月24日に早くも上海から医療チームが、最初に武漢に到着した。同チームは、上海の52カ所の病院から集められた呼吸科、感染症疾病科、病院感染管理科、重症医学科の医師及び看護師の136人から成った。最終的に中国全土から武漢を含む湖北省へ346の救援医療チームが送り込まれた。派遣された救援医療従事者は合計4万2,600人に達した。
3月8日の中国国務院の記者会見によると、全国各地の医療機構で要請を受けてから応援医療チームの結成までに要した時間は2時間以内、チーム結成から武漢到着に要した時間は24時間以内という迅速さであった。
こうした緊急措置が武漢の医療圧力を緩和し、医療崩壊を有効に食い止めた。感染地域に逸早く有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスへの勝利を占う一つの鍵である。
しかし、全ての国がこうした動員力を備えているわけでない。ニューヨーク、東京の状況からすると、医療リソースがかなり揃っている先進国でさえ救援できるに足りる医療従事者を即座に動員することは難しい。
さらに深刻なことには、医療リソースに著しく欠ける発展途上国、アフリカはいうに及ばず巨大人口を抱えるアジアの発展途上国の、人口1千人あたりの医師数はインドが0.8、インドネシアは0.3である。1千人あたりの病床数は前者が0.5、後者は1だ。こうした元々医療リソースが稀少かつ十分な医療救援能力を持たない国にとって、新型コロナウイルスのパンデミックで引き起こされる医療現場のパニックは悲惨さを極める。グローバル的な救援力をどう組織するかが喫緊の解決課題となっている。問題は、大半の先進国自体が、目下新型コロナウイルスの被害が深刻で、他者を顧みる余裕を持たないことにある。
(3)専門病院の建設
武漢は国の支援で迅速に、専門治療設備の整う火神山病院と雷神山病院という重症患者専門病院を建設し、ロックダウン12日後の2020年2月3日には1,000病床のキャパシティを持つ火神山病院が開院した。2月8日には雷神山病院の開院でさらに1,600病床を確保した。このほかに、武漢は体育館などを16カ所の軽症者収容病院へと改装し、2月3日から順次患者を受け入れ、1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を素早く提供して軽症患者の分離収容を実現させた。先端医療リソースを重症患者に集中させ、パンデミックの緩和を図った。武漢の火神山、雷神山そして軽症者収容病院建設により、病床不足は解消された。
日本は病床数不足により新型コロナウイルス感染流行第1波の時期、感染患者の在宅隔離も実施していた。こうしたやり方は患者の家族を感染の危険に晒し、家庭内での集団感染を生む可能性がある。また、患者は有効な専門治療を施されず、健康状況の把握がされないまま、病状急変により救援治療が間に合わないこともありうる。
幸いにして、こうした在宅隔離はその後ほぼ改められ、ホテルなどの施設を利用し、軽症患者を収容している。
東京での更に深刻な問題はICU(集中治療室)の驚くべき不足である。2018年の時点で、日本全国の人口10万人あたりのICU病床数は4.3床でしかない。アメリカの35床、ドイツの30床、フランスの11.6床、イタリアの12.5床、スペインの9.7床に比べても圧倒的に少ない。
日本国内で最も感染者数を抱える東京都は新型コロナウイルス感染第1波流行期、ICU病床が764床しかなく、人口10万人あたりのICU病床数は5.5床に過ぎない。感染症流行のピーク時における重症患者を受け入れられるだけの病床数の確保が、医療システムの崩壊を避ける鍵となっている。
新型コロナウイルス治療用病床の確保のため、各国がとった措置は実に様々であった。アメリカに至っては、海軍の医療船まで派遣した[15]。
「緊急輸入病院」も一種新しい選択肢となった。新型コロナウイルスオーバーシュートに伴う深刻な病床数逼迫に喘いだ韓国は、中国企業遠大グループから「病院」を丸ごと輸入した。遠大はステンレス製プレハブ建築方式を用いて、韓国にオゾン技術を活用した空気清浄・陰圧化ユニットで構築された「陰圧隔離病棟」を迅速に輸出した。現地では僅か2日間の工程で、施設の使用が可能となった。
4.経済と感染抑制の両立は可能か?
新型コロナウイルス対策において、経済と感染抑制とのバランスは大きな政策イシューとなっている。中国では強力なロックダウン措置により、“ゼロ・COVID-19 感染者(Zero COVID-19 Case)”状況を実現し、目下多大な努力でゼロ・COVID-19 感染者状況を保とうとしている。他方、日本を含むほとんどの国ではロックダウンや緊急事態宣言などを実施してもゼロ・COVID-19 感染者状況よりは“ウイズ・COVID-19(Coexisting with COVID-19)”の状況で経済活動の復活を目指している。本論の後半は、感染者ゼロを目指すゼロ・COVID-19 感染者政策(Zero COVID-19 Case Policy)とも言うべき中国の取り組みと、ウイズ・COVID-19 政策(Coexisting with COVID-19 Policy)とも言うべき日本及び欧米諸国の取り組みを、比較検証する。
(1)感染抑制を優先する中国
2002年~2003年に起きたSARSの経験を踏まえ、中国政府は『中華人民共和国伝染病防治法』に基づき、『突発公共衛生事件応急条例』、『国家突発公共事件総体応急預案』、『国家突発公共衛生事件応急預案』など公共衛生に関わる突発的な事態に対する条例やガイドラインなどを整備した。さらに、『中華人民共和国突発事件応対法』をもって、上記の法律、条例、応急預案を法的に体系化した。武漢をロックダウンするのに先立ち、2020年1月20日、中国国家衛生健康委員会が、2020年第1号公告をもって、新型コロナウイルス感染症を『中華人民共和国伝染病防治法』で定めた乙類伝染病に該当させ、且つ甲類伝染病の予防、抑制措置を取ることとした。これで、新型コロナウイルス禍との闘いの幕が切って落とされた。
武漢でのロックダウン及び各地域への緊急対応1級措置の実施は、こうした法的整備があったゆえに可能となった。しかも、これら法律、条例、応急預案は、感染症抑制を優先する傾向が強い。これに該当させ、発動させた以上は、経済と感染抑制の両立の議論は成り立たなくなった。実際、地方政府から、経済の落ち込みを避けるため経済活動の早期再開を求める声はあったものの、新規感染ゼロ状態を待たなければならなかった。
図3が示すように中国では、COVID-19感染者をゼロにする徹底的なロックダウン政策を取ったことによって、逸早く新型コロナウイルス感染症を鎮圧した。これにより、国内においてほぼ普段通りの経済活動を再開させることに成功した。長いスパンで見ると、一時的な痛みを伴う劇薬的な措置が、事態を早期収束に導いたと言えよう。ただ、感染力の極めて強い新型コロナウイルスで新規感染者ゼロの状態を維持するのは大変な緊張感を伴う。中国では新規感染者が見つかるたび局地的に全員へのPCR検査及びロックダウン並みの行動制限を実施し、感染拡大を防いでいる。
図3 中国 COVID-19 新規感染者数・死亡者数の日別推移
注:中国感染者数の中に無症状感染者数及び海外から輸入感染者数データは
含まれない。
出所:中国国家衛生健康委員会HP[16]などに基づいて作成。
(2)Report 9とイギリス、アメリカの対応
武漢がロックダウンに踏み切った53日後の2020年3月16日、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンの理論疫病学者ニール・ファーガソン教授が「Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand」(以下Report 9と略称)を発表し、もしイギリスで何も対策を取らなければ僅か4カ月で人口の約8割が感染し、51万人の死者が出ると予測した。たとえ発症者の隔離、その家族の自宅待機、高齢者の外出規制などの施策を講じたとしても、死者数は25万人に及ぶという。Report 9が示した対策として、全国民に厳しい行動制限を要請するロックダウンを実施した場合は、死者は2万人まで抑え込むことが可能だと述べた[17]。ファーガソン氏は、イギリスの下院科学技術委員会で、ある程度の感染を許しながら経済と医療のバランスを保てるか、については否定的で、長期のロックダウン以外の選択肢はないと明言した。Report 9発表の1週間後3月23日に、イギリス政府は事実上の外出禁止令、ロックダウン政策に踏み切った。
Report 9は、アメリカについても最大220万人の死者が出ると予測した。トランプ政権は同レポートの影響を受け、連邦政府により国民に社会距離を保つためのガイドラインを4月30日まで延長した。
6月8日に英科学誌ネイチャーのオンライン版に「The effect of large-scale anti-contagion policies on the COVID-19 pandemic」という論文が掲載された。中国、韓国、イタリア、イラン、フランスそして米国の6カ国で実施されたウイルス封じ込め政策の効果を分析し、(1)旅行制限、(2)イベント・教育・商業・宗教行事の停止、(3)隔離とロックダウン、(4)緊急事態宣言等の封じ込め政策で、2020年1月~4月6日の3カ月弱で、6カ国だけでも億単位の人のCOVID-19感染を防いだとの試算が報告された[18]。
しかし、ロックダウンなどの厳しい行動制限政策の有効性が明確であったにも関わらず、社会経済にかけるストレスの大きさから反発も大きく、多くの国ではこうした政策は途中で緩めざるを得なかった。
(3)ゼロ・COVID-19 感染者政策Vsウイズ・COVID-19 政策
中国では武漢のロックダウンの解除には厳しかった。解除は、新規感染者がゼロになっただけでなく、ゼロ状態が16日間も続いた後にようやく実施された。徹底的なゼロ・COVID-19 感染者政策である。
武漢だけではなく他の地域でも、新型コロナウイルス感染症の低リスク地域とするまでには、新規感染者ゼロ状態を14日間以上も継続させる厳しいハードルを設けた[19]。
新型コロナウイルス流行第1波を制圧した後も、中国は全国各地でゼロ・COVID-19 感染者状況維持に心血を注いでいる。新規感染者が見つかるたびに、大量検査、厳しい行動制限などの措置を局地的に実施してきた。モグラ叩きのように感染エリアを潰していく厳しい管理政策である。例えば、2020年10月11日、山東省青島市に3人の新型コロナウイルスの無症状感染者が出たことを受け、同市は市内全員を対象とするPCR検査を実施した。すでに市外に移動した者も追跡検査する徹底ぶりだった。同16日までに実施したPCR検査数は1,000万人を超えた。
中国とは異なり、欧米諸国ではロックダウンの政策は取ったものの、感染拡大の抑制と経済との両立を急いだ。5月13日、ドイツ・IFO経済研究所+ヘルムホルツ感染研究センターが共同研究レポートを出した[20]。これに因ると、経済と感染拡大制御との最適なバランスはRt(実効再生産数:1人の感染者が何人に移すかを表す数字)0.75となる。つまり、Rtを0.75に抑えれば、経済への影響を最小限に留めながら感染拡大を早期に終息できるという。いわゆるウイズ・COVID-19 政策の提唱である。しかし、感染力が極めて強い新型コロナウイルスに対してどうRtを0.75に抑え、維持するのかが、見えてこない。レポートの執筆者らが提唱した黄金のバランスも、空虚にしか見えない。しかし、欧米諸国では、同レポートのような学術的な「お墨付き」を得た形で、感染拡大の再来という禍根を残したまま、ウイズ・COVID-19 政策を進めた。
実際、秋になり欧州では、新規感染者が急増している。10月14日に欧州の日別新規感染者数は10万5,000人を超え、アジアの同10万3,200人を上回った。当のドイツも10月15日に、過去24時間の新規感染者数が6,638人だったと公表した。これは春のピークを超え最高記録更新であった。
Report 9を生み出したイギリスでも、長期のロックダウンによる経済への影響を懸念し、同レポートへの批判の声が強い。何の措置も取らなければイギリスでは51万人の感染死者が出ると予測したのに対して、ロックダウンなどの措置を実施したことにより、10月11日までの死者は4.3万人に留まった。ロックダウンの効果を出したにも関わらず、経済活動再開への圧力により、イギリスでは、全域に及ぶ新規感染者がゼロになるまでのロックダウンは実行しなかった。こうしたウイズ・COVID-19 政策の下、秋の新規感染者の急増で10月15日、ロンドンの警戒レベルを「中」から「高い」に程度を引き上げざるを得なくなった。
イタリアは5月11日までには3.1万人の新型コロナウイルス感染死者を出した。しかし、経済活動の再開を急ぎ、5月上旬に2カ月間のロックダウンを解除した。表2から伺えるように、5月11日から10月11日までの5ヶ月に限ってみると、これまで14%だった致死率を4%まで大幅に下げた。医療崩壊の最悪の状況から脱出した。しかし、ウイズ・COVID-19 政策を取ったイタリアでは、新規感染者は10月14日に7,300人を超え、3月のピーク時を上回った。これを受け、イタリアは向こう約1カ月間、パーティを禁止し、飲食店の営業を深夜0時までに限定するなどの措置をとった。
10月25日、新型コロナウイルス大流行の第2波に対抗するためスペインは再び全土に緊急事態宣言を発令した。10月29日、スペイン議会は緊急事態宣言を2021年5月9日まで延長した。
フランスも10月14日、公衆衛生上の緊急事態を閣議決定し、パリなど9都市圏で夜間外出禁止に踏み切った。翌15日に、24時間以内の新型コロナウイルス新規感染者が過去最高の3万人に達したと発表した。フランスは10月30日に全土で外出制限を行い、2度目のロックダウンを実施した。11月6日、フランスの日別新規コロナ感染者数は6万人を突破し記録を塗り替えた。
アメリカも、トランプ大統領は5月下旬、全米規模の封鎖は長期的な解決策ではないとし、経済活動を取り戻すため、感染拡大の中での、すべての州での経済活動再開に踏み切った。しかし新規感染者の増大に対して、ニューヨーク市では10月4日、区域を限った封鎖を実施した。11月4日から連日、アメリカでは日別新規コロナ感染者数は10万人を超えた。11月7日にはアメリカでの累積コロナ感染者数は1,000万人を超えた。累積死亡者数も24万2,339人に達した。
ウイズ・COVID-19 政策を取ってきた欧米諸国は、いま再びロックダウン措置に踏み切らざるを得ない感染拡大状況にある。ただ、これら諸国は春の感染拡大時には国全体あるいは大きなエリアを対象にしたロックダウンを実施したものの、目下、夜間限定や地域限定など部分的な規制強化に留まっている。
表3 各国・地域 前年同期比実質GDP成長率及び予測の比較
出所:中国国家統計局、日本内閣府、アメリカ商務省経済分析局、イギリス国民統計局、イタリア国家統計局、スペイン国家統計局、ドイツ連邦統計局、フランス国立統計経済研究所、韓国銀行、台湾行政院主計総処、アジア開発銀行、IMFなどのデータから作成。
ウイズ・COVID-19 政策で新型コロナウイルス感染拡大の再来に喘ぐ欧米諸国をよそに、中国は徹底したゼロ・COVID-19 感染者政策の恩恵により、多くの地域では4月後半から経済活動も日常生活もほぼ正常化した。とくに新型コロナ禍で延期していた全国人民代表大会が5月28日に終了後、経済活動は本格的に再開した。国慶節の10月1日から1週間強の長期にわたる連休では、国内観光者数は6.4億人にも達した。2020年の第1四半期はロックダウンで中国の実質GDP成長率は-6.8%に落ち込んだ。しかし、第2四半期から経済は急速に回復し、3.2%の同成長率を実現した。IMFの予測では2020年の通年で、中国の実質GDP成長率は1.9%となる。
他方、ウイズ・COVID-19 政策を取った日本及び欧米諸国は、第2四半期となっても軒並みマイナス成長で、第1四半期よりさらに悪くなっている。なかには2桁のマイナスに喘ぐ国がいくつも出てきた。IMFの予測では2020年の通年で、これら諸国の実質GDP成長率はすべてマイナスとなる。
韓国、台湾、シンガポール、ベトナムなど中国同様SARSを経験した国・地域は、ゼロ・COVID-19 感染者に近い政策を取った。なかでも台湾、ベトナムの経済パフォーマンスは良く、IMFの予測では2020年の通年で、台湾はゼロ成長に踏みとどまり、ベトナムは1.6%の成長を実現する。韓国はIMFの予測では2020年の通年で、実質GDP成長率は-1.9%となるが、日本及び欧米諸国ほどの落ち込みではない。シンガポールは、貿易依存度が高く世界経済に極端に影響されやすい経済構造にあるため、第2四半期になってからの落ち込みが著しい。
ゼロ・COVID-19 感染者政策に比べ、ロックダウンによる経済の痛みを和らげるためのウイズ・COVID-19 政策は、結果的に長期にわたる経済不況をもたらす結果となった。
新型コロナウイルスの特効薬と有効なワクチンの開発が確実にできるまでは徹底的なゼロ・COVID-19 感染者政策をとるべきである。
11月8 日に、世界の新型コロナウイルス感染者数は5,000万人を超えた。冬季の到来に向けて第2波の大流行で感染者数の増加ベースが早まっている。とくにウイズ・COVID-19 政策をとってきた欧米各国は新型コロナウイルス禍の激震地となった。これに対して筆者は、新型コロナウイルスの特効薬や有効なワクチンが世に出るまでは、各国は新型コロナウイルスの流行を迅速に抑えるゼロ・COVID-19 感染者政策をとるべきだと強く提唱する。
(4)経済と感染抑制に揺れ動く日本
日本で初めて新型コロナウイルスの感染者を確認したのは2020年1月16日であった。1月29日には乗客206人を乗せた政府のチャーター機第1便が武漢市から帰国した。2月13日には国内で初めて感染による死亡者が出た。2月28日には北海道で独自の「緊急事態宣言」が出された。3月13日に『新型インフルエンザ対策特別措置法』の改正法が成立し、新型コロナウイルス感染症を、新型インフルエンザ等とみなして同特措法を適用した。これにより、「緊急事態宣言」の法的な裏付けができた。
4月7日に東京、埼玉、神奈川、千葉、大阪、兵庫、福岡において「緊急事態宣言」を発令、4月16日に「緊急事態宣言」の対象を全国に拡大した。「緊急事態宣言」は、中国のような徹底的なロックダウンではなく「人の接触 最低7割極力8割削減」を目標としたいわゆる緩い行動制限要請であった。それでも新規感染者数は急速に減少した。図4で見られるように、緊急事態宣言の感染抑制の効果は顕著であった。しかし、状況改善を受け、政府は5月25日に全国「緊急事態宣言」解除をした。ここでも中国と違い、解除当日も新規感染者は未だ20人いた。新規感染者数がゼロにならない状況でのウイズ・COVID-19 的な解除であった。
中国では感染エリアを低リスク地域とするまでには、新規感染者数を2週間にわたってゼロにする必要がある。相反して、感染症の蔓延を断つことが出来ないままの日本の「緊急事態宣言」解除は、感染力の極めて強い新型コロナウイルスの感染再拡大という禍根を残した。東京では早くも「緊急事態宣言」解除1週間後には「東京アラート」で都民に警戒を呼びかけることになった。
日本は7月22日に、経済活動を刺激する観光振興策「Go Toトラベル」キャンペーンを東京を除外してスタートさせた。その日、新規感染者は792人も出ていた。これは「緊急事態宣言」時ピークの1.1倍の数字であった。まさしくなり振り構わぬ敢行であった。その結果、日別新規感染者は急増し、10日後には1,575人となった。これは、「緊急事態宣言」の際の新規感染者数ピークの2.2倍の規模であった。
10月1日、東京都も「Go Toトラベル」キャンペーンに加わった。10月15日、東京都の新規感染者数は284人となり、再び新たな上り坂を見せている。
11月になると日本は新型コロナウイルス感染拡大が加速し、同18日には1日の新規感染者数が初めて2,000人を超えた。「Go Toトラベル」キャンペーンの一時停止や見直しをせざるを得なくなった。重症患者が増えるにつれ、病床の緊迫状態も生じた。
表2で示すように、10月11日までの時点で人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数でみると、スペインの70.7人、アメリカの66.3人、イギリスの63人、イタリアの59.8人、フランスの50.1人、ドイツの11.6人と比べて日本は1.3人に留まり、先進諸国の中では最も低かった。しかし、間も無くインフルエンザウイルスが猛威を振るう冬がやってくる。懸念される新型コロナウイルスとの同時流行を、どう乗り越えるか? 大きな試練が待ち構えている。同時に長期にわたるウイズ・COVID-19 状況は日本経済の活力を萎めている。IMFの予測では2020年の日本の実質GDP成長率はマイナスに陥り、-5.3%となる。
図4 日本COVID-19新規感染者数・死亡者数の日別推移
&deco(u,,,){出所:厚生労働省HP『新型コロナウイルス感染症について・陽性者データベース』、NHK『特設サイト新型コロナウイルス・日本国内の死者数』な
どにより作成。};
5.「ジャレド・ダイヤモンド仮説」と「周牧之仮説」
2020年11月11日までの、日本の10万人あたり新型コロナウイルス死亡者数は1.5人であった。これはスペインの同85.8人、アメリカの同74.6人、イギリスの同74人、イタリアの同71.1人、フランスの同65.1人、ドイツの同14.1人と比べ、格段に低い数字であった。同じ「ウイズ・COVID-19 政策」を取ってきた日本が、欧米先進諸国よりはるかに低い死亡者数に抑えられている理由は、ファクターXとして諸説ある。
諸説の中で最も説得性があるのは「交差免疫」説である。これまで日本人が持っていた免疫が、新型コロナウイルスにある程度働き、感染予防あるいは感染しても症状を抑えられる、というものである。
なぜ日本人が交差免疫を持つのだろうか。アメリカの生物学者ジャレド・ダイヤモンド氏が著書『銃・病原菌・鉄』の中で、ユーラシア大陸での家畜との密接な暮らしが、人々にさまざまな病原菌に対する免疫力を持たせたとしている。ヨーロッパ人がアメリカ大陸に進出した際、病原菌を持ち込んだことで、これまで家畜との密接な暮らしを持たず免疫の無い原住民に壊滅的な打撃を与えた。ヨーロッパ人が家畜との長い親交から免疫を持つようになった病原菌を「とんでもない贈り物」と氏は捉えた[21]。
上記「ジャレド・ダイヤモンド仮説」に筆者は賛成する。但し同仮説では、同じユーラシア大陸に位置するヨーロッパ諸国と、日本を含む東アジアの国々の新型コロナウイルスにおける死亡者数の大きな相違を説明仕切れない。11月11日までの、中国、韓国、台湾、香港、ベトナム、タイの10万人あたりの新型コロナウイルス死亡者数はそれぞれ、0.3人、0.9人、0.03人、1.4人、0.04人、0.09人であった。医療リソースの豊かなヨーロッパ諸国の同死亡者数と比べ、極度に低い。中国、台湾、韓国、香港などの好成績には、「ゼロ・COVID-19 感染者政策」が果たした役割もあったものの、交差免疫の恩恵も大きいと考えられる。
筆者は、稲作の水田を囲んだ湿潤な生活様式こそが、交差免疫をもたらす決定的な要因ではないかとの仮説を立てる。「周牧之仮説」の詳細は下記である。湿潤な稲作地帯の里山は、豊かな生態多様性に恵まれている。里山は、自然に対する人間の適度な介入がもたらした新しい生態系であり、原始の自然に比べ生態の多様性はさらに豊かである。生態の多様性は微生物の多様性を意味する。こうした人間と自然と家畜との密接に影響し合う稲作里山は、病原菌の巨大な繁殖地となることが考えられる。同じユーラシア大陸でも、東アジアの湿潤な稲作地帯はウイルスの多様性に一層富んでいる。さまざまなウイルスと共生してきた稲作地帯の人々は強い交差免疫を持つと推理できる[22]。
新型コロナウイルスに対する交差免疫メカニズムの解明は、まだ始まったばかりであるが、季節性コロナウイルスに感染した経験が新型コロナウイルスへの交差免疫をもたらし、その重症化を防ぐとの研究を、ボストン大学のマニッシュ・サーガル氏が発表した。東京大学先端科学技術センターの児玉龍彦氏は、日本人の新型コロナウイルス感染者50人の血液を分析した結果、その75%が交差免疫を持っていたことから「多くの日本人が新型コロナウイルスに効く交差免疫を持っているのではないか」と考える[23]。
実際、季節性のコロナウイルスは東アジアの湿潤地帯で頻繁に流行を繰り返してきた。季節性コロナウイルスは、新型コロナウイルスに対して交差免疫力をもたらすとすると、まさに稲作地帯の里山暮らしからの「とんでもない恩恵」だと筆者は考える。
こうした観点から、里山の持つ価値を再考し、これからの生活様式に組み込まなければならない。
6.地球規模の失敗から地球規模での抗ウイルスへ
感染症は昔から人類の命を脅かす最大の敵であった。例えば、1347年に勃発したペストで、ヨーロッパでは20年間で2,500万もの命が奪われた。1918年に大流行したスペインかぜによる死者数は世界で2,500万~4,000万人にも上ったとされる。
100年余りにわたる抗菌薬とワクチンの開発及び普及により、天然痘、小児麻痺、麻疹、風疹、おたふく風邪、流感、百日咳、ジフテリアなど人類の健康と生命を脅かし続けた感染症の大半は絶滅あるいは制御できるようになった。1950年代以降、先進国では肺炎、胃腸炎、肝炎、結核、インフルエンザなどの感染疾病による死亡者数を急激に減少させ、癌、心脳血管疾患、高血圧、糖尿病など慢性疾患が主要な死因となった。
感染症の予防と治療で勝利を収めたことで、人類の平均寿命が伸び、主な死因も交代した。世界、とりわけ先進国の医療システムの焦点は、感染症から慢性疾患へと向かった。その結果、各国は目下感染症予防と治療へのリソース投入を過少にし、同時に現存する医療リソースを主として慢性疾患に傾斜するという構造的な問題を生じさせた。医療従事者の専門性から、医療設備の配置、そして医療体制そのものまで新型ウイルス疾患の勃発に即座に対応できる態勢を整えてこなかった。
よって、新型ウイルスとの闘いにおいて、武漢、ニューヨーク、ミラノといった巨大な医療リソースを持つ大都市は対策が追いつかず悲惨な代償を払うことになってしまった。
ビル・ゲイツは早くも2015年には、ウイルス感染症への投資が少な過ぎる故に世界規模の失敗を引き起こす、と警告を発していた。新型コロナウイルス禍は不幸にしてビル・ゲイツの予言を的中させた。
7.科学技術の爆発的進歩
緊急事態宣言、国境封鎖、都市ロックダウン、外出自粛、ソーシャルディスタンスの保持など、各国が目下進める新型コロナウイルス対策は、人と人との交流を大幅に減少かつ遮断することでウイルス感染を防ぐことにある。こうした措置は一定の成果を上げるものの、ウイルスの危険性を真に根絶させ得るものではない。中国のように強力なゼロ・COVID-19 感染者政策を実施して、ウイルス蔓延をしばらく抑制することができても、非常に脆弱だと言わざるを得ない。次の感染爆発がいつ何時でも再び起こる可能性がある。
安心安全な世界を取り戻すには、科学技術の進歩に頼るほかない。目下、新型コロナウイルスの特効薬とワクチンの開発を各国は緊急課題として急ぎ取り組んでいる。
人類は検査、特効薬、抗体の三種の神器を掌握しなければ、本当の意味で新型コロナウイルスをコントロールし、勝利を収めたとは言えないだろう。
危機はまた転機でもある。近現代、世界的な戦争や危機が起こるたびに人類は重大な転換期に向き合い、科学技術を爆発的に進歩させてきた。第二次世界大戦は航空産業を大発展させ、核開発の扉を開けるに至った。冷戦では航空宇宙技術の開発が進み、インターネット技術の基礎をも打ち立てた。新型コロナ危機も現在、関連する科学技術の爆発的な進歩を刺激すると同時に、社会全般におけるデジタルトランスフォメーション(DX)を強くプッシュしている。
新型コロナウイルスパンデミックが作り上げた緊迫感は技術を急速に進歩させるばかりでなく、技術の新しい進路を開拓し、過去には充分に重視されてこなかった技術の方向性も掘り起こす。例えば、漢方医学は武漢での抗ウイルス対策で卓越した効き目をみせ、注目を浴びている。漢方医学は世界的なパンデミックに立ち向かうひとつの手立てになりうる。
オゾンもまた偏見によりこれまで軽視されてきた。筆者は2月18日にはオゾンについて論文を発表し、新型コロナウイルス対策としてのオゾン抗菌利用を呼びかけた[24]。現在、日本では、感染しやすい環境として「3密」環境が取り上げられている。筆者は、有人環境下でのオゾン利用を積極的に導入し、室内空間のウイルス感染を抑え、3密問題を解消させることを提唱している[25]。
8.グローバリゼーションは止まらない
新型コロナウイルスのパンデミックで、各国はおしなべて国境を封鎖し都市をロックダウンして国際間の人的往来を瞬間的に遮断した。グローバリゼーションの未来への憂慮、国際大都市の行方に対する懸念の声が絶えず聞こえてくるようになった。
確かに、グローバリゼーションが進むにつれ、国際間の人的往来はハイスピードで拡大し、世界の国際観光客数は30年前の年間4億人から、2018年には同14億人へと激増した。
グローバリゼーションで、大都市化そしてメガロポリス化も一層世界の趨勢となった。1980年から2019年の間、世界で人口が250万人以上純増したのは117都市、この間これらの都市の純増人口は合計6億3,000万人にも達した。とりわけ、人口が1,000万人を超えたメガシティは1980年の5都市から、今日33都市にまで膨れあがった。こうしたメガシティはほとんどが国際交流のセンターであり、世界の政治、経済発展を牽引している。これらメガシティの人口は合わせて5億7,000万人に達し、世界の総人口の15.7%をも占めている。
高密度の航空網と大量の国際人的往来は新型コロナウイルスをあっという間に世界各地へ広げ、パンデミックを引き起こした。国際交流が緊密な大都市ほど、新型コロナウイルスの爆発的感染の被害を受けている。
しかし、新型コロナウイルスが全世界に拡散した真の原因は、国際的な人的往来の速度と密度にあるのではない。人類が長きに渡り、感染症の脅威を軽視してきたことにこそある。これは冷静に認識しておくべきである。
大航海時代から今日まで、人類は一貫して感染症の脅威に晒され、この間、幾度となく悲惨な代償を払ってきた。
第二次大戦後は感染疾病対策で効果を上げ、ほとんどの感染症が抑えられた。よって、先進国でも世界機関でも長期にわたり感染症の脅威を軽視してきた。
世界経済フォーラム(WORLD ECONOMIC FORUM)が公表した「グローバルリスク報告書2020(The Global Risks Report 2020[26])」に並ぶ今後10年に世界で発生する可能性のある十大危機ランキングでも、感染症問題は入っていなかった。また、今後10年で世界に影響を与える十大リスクランキングでは、感染症が最下位に鎮座していた。
不幸にして世界経済フォーラムの予測に反し、新型コロナウイルスパンデミックは、人類社会に未曾有の打撃を与えた。
中国、台湾、シンガポール、香港、韓国など、2003年に起きたSARSを経験した国と地域が、新型コロナウイルスの対策において、より良いパフォーマンスを見せたのは、SARS時で得たリスク感覚によるものが大きい。また、中国のようにSARSから得た経験を法律、条例、総体応急預案に反映させ、対策のマニュアル化、ガイドライン化を進めたことで、今回の新型コロナウイルスの感染爆発時に早急かつ有効な対策を講じられた[27]。
その意味では我々は悲観的になる必要もない。新型コロナウイルス禍は、感染症対策への関心と投資を世界的に高め、大幅な技術革新と社会変革をもたらす。人類は必ずや感染症の脅威を克服し、世界規模の失敗を世界規模の勝利へと導くに違いない。
新型コロナウイルス禍はグローバリゼーションと国際大都市化を阻むものではない。新型コロナウイルスパンデミックを収束させた後には、より健全なグローバリゼーションとより魅力的な国際大都市が形作られるであろう。
(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)
(本稿は著者も関わっている中国の研究誌に投稿したばかりのものを、同時に日本語でも発表され本誌に転載のお許しをいただいた。また、周氏は毎年のように発行されている『中国都市総合発展指標 中国都市ランキング』を企画、グローバルな視点で現代都市の「輻射力(影響力)」を評価。IT力を含めた独自の手法で総合化、計量化したもの。英語、中国語、日本語などで公刊。日本語版は、NTT出版からだされ、注目を集めている。)
[1]周牧之「新冠疫情冲击全球化:强大的大都市医疗能力为何如此脆弱?」、中国網(China.com.cn)、2020年4月20日(http://www.china.com.cn/opinion/think/2020-04/17/content_75944655.htm)。
[2]Zhou Muzhi, “COVID-19: Why is the medical system in metropolises so vulnerable?” In China.org.cn, 21 April 2020(http://www.china.org.cn/opinion/2020-04/21/content_75957964.htm?from=singlemessage&isappinstalled=0)。
[3]周牧之「新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?」、In Japanese.China.org.cn、2020年5月12日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2020-05/12/content_76035553.htm)。
[4]「中国都市総合発展指標」について詳しくは、周牧之ら編著『環境・経済・社会 中国都市ランキング2018―大都市圏発展戦略』、NTT出版、2020年10月10日を参照。
[5]2020年5月11日以降に武漢では新型コロナウイルスによる死者は出ていない。
[6]PCR検査に保健所による事前チェックを設けたことで、感染者が医療機関に殺到することを防いだ。しかし、検査数の過度の抑制は、軽症感染者及び無症状感染者の発見と隔離を遅らせ、治療を妨げると同時に、莫大な数の隠れ感染者を生むことに繋がる。また、保健所によるPCR検査前のチェックは、保健所のキャパシティをパンクさせたことで多くの批判を生じさせた。
[7]NHK総合テレビ『NHKスペシャル 令和未来会議「新型コロナの不安 どう向き合う?」』2020年10月11日。
[8]国および東京都から大人数の会食等の自粛要請が出された中、慶応義塾大学病院では2020年3月に研修医の約40人の集団会食を主な原因として18人がPCR陽性となり物議を醸した。
[9]2020年9月16 日に国際看護師協会(ICN)が公表した最新の情報では、8月14日までに32カ国の33看護師団体から報告されたデータによると、世界全体では、300万人近くの医療従事者が感染した可能性がある。詳しくはICNのHP(https://www.icn.ch/news/new-icn-report-shows-governments-are-failing-prioritize-nurses-number-confirmed-covid-19-nurse)を参照。
[10]中国交通運輸部(省)『交通运输部关于做好进出武汉交通运输工具管控全力做好疫情防控工作的紧急通知』、2020年1月23日を参照。
[11]緊急対応(Emergency response)措置は中国語では「応急反応措施」という。4つのレベルに分けられる。もっとも強力な措置である第1級を実施する場合は、国務院の決定を仰ぐ必要がある。詳しくは中国『国家突発公共衛生事件応急預案』を参照。
[12]2002年~2003年に起きたSARSの経験を踏まえ、中国政府は『中華人民共和国伝染病防治法』(1989年9月1日から施行)に基づき、2003年5月7日に『突発公共衛生事件応急条例』を公布した。2006年1月8日には『国家突発公共事件総体応急預案』を公布した。『国家突発公共衛生事件応急預案』とは、こうした法律、条例、総体応急預案に基づき、公共衛生に関わる突発的な事態に対して整備された。2007年8月30日に、中国全国人民代表大会常務委員会は、『中華人民共和国突発事件応対法』を批准し、上記の法律、条例、応急預案をさらに法的に体系化した。武漢をロックダウンするのに先立ち、1月20日に中国国家衛生健康委員会が2020年第1号公告で新型コロナウイルス感染症を『中華人民共和国伝染病防治法』規定の乙類伝染病に該当させ、且つ甲類伝染病の予防、抑制措置を取ることとした。
[13]中国では、行政階層は5つある。中央政府を頂点とし、省・自治区・直轄市を第2層とする。中国行政の階層について詳しくは、周牧之ら編著前掲書、p.5を参照。
[14]中国湖北省衛生健康委員会HPで公開された日毎の感染者数及び死亡者数を集計し作成。詳しくは湖北省衛生健康委員会HP(http://wjw.hubei.gov.cn)を参照。
[15]トランプ大統領は3月下旬に医療船マーシー号(USNS Mercy)とコンフォート号(USNS Comfort)をそれぞれロサンゼルスとニューヨークに配備した。各々1千病床を持つ2隻の医療船は、新型コロナウイルス感染者の治療に適していないものの大勢の一般患者を受け入れられる。これにより、現地の総合病院でより多くの病床を新型コロナウイルス治療へと振り当てられる。
[16]中国国家衛生健康委員会HPで公開された日毎の感染者数及び死亡者数を集計し作成。詳しくは中国国家衛生健康委員会HP(http://www.nhc.gov.cn)を参照。
[17]詳しくは、Ferguson NM, Laydon D, Nedjati-Gilani G, et al., “Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand”, in Imperial College London HP , 16 Mar 2020(http://hdl.handle.net/10044/1/77482)を参照。
[18]詳しくは、Solomon Hsiang, Daniel Allen, Sébastien Annan-Phan, Kendon Bell, Ian Bolliger, Trinetta Chong, Hannah Druckenmiller, Luna Yue Huang, Andrew Hultgren, Emma Krasovich, Peiley Lau, Jaecheol Lee, Esther Rolf, Jeanette Tseng & Tiffany Wu, “The effect of large-scale anti-contagion policies on the COVID-19 pandemic”, in Nature, 08 June 2020を参照。
[19]中国国務院は2020年2月18日、『关于科学防治精准施策分区分级做好新冠肺炎疫情防控工作的指导意见』を公布した。同『意見』は、新型コロナウイルス感染症低リスク地域とするまでには、14日間以上の新規感染者ゼロ状態を継続させる厳しいハードルを設けた。
[20]Wohlrabe Klaus, Peichl Andreas, Link Sebastian ,Leiss Felix, Demmelhuber Katrin, “Die Auswirkungen der Coronakrise auf die deutsche Wirtschaft”, in ifo Schnelldienst Digital, No.7, 18 May 2020。
[21]ジャレド・ダイヤモンド著『銃・病原菌・鉄』、草思社、2000年10月。
[22]「周牧之仮説」は、2020年11月21日に開催の東京経済大学120周年記念シンポジウム『コロナ危機をバネに大転換』にて発表した。
[23]マニッシュ・サーガル氏と児玉龍彦氏の研究に関して詳しくは、NHK総合テレビ『NHKスペシャル 新型コロナ全論文解読「AIで迫るいま知りたいこと」』、2020年11月8日を参照。
[24]周牧之《这个“神器”能绝杀新冠病毒》中国網(China.com.cn),2020年2月18日(http://opinion.china.com.cn/opinion_84_217684.html)。同論文の英語版:Zhou Muzhi,“Ozone: a powerful weapon to combat COVID-19 outbreak” In China.org.cn, 26 February 2020(http://www.china.org.cn/opinion/2020-02/26/content_75747237.htm)。同論文の日本語版:周牧之「オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を」、In Japanese.China.org.cn、2020年3月19日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2020-03/19/content_75834590_2.htm)。
[25]これについて詳しくは周牧之「オゾン利用で新型コロナウイルス対策を」、『東京経大学会誌』307号、2020年12月2日を参照。
[26]“The Global Risks Report 2020”,in World Economic Forum HP ,15 Jan 2020 (https://www.weforum.org/reports/the-global-risks-report-2020)。
[27]中国がSARSから得た経験を法律、条例、総体応急預案に反映させ、対策のマニュアル化、ガイドライン化を進めたのに相反して、アメリカでは5月上旬に米疫病対策センター(CDC)から発表予定だった経済活動再開のための厳格なガイドラインが、トランプ政権から「細かすぎ」だとして却下された。
(東京経済大学 教授)
※この記事は著者の許諾を得て「中国網日本語版(チャイナネット)」(2020年11月27日)から転載したものですが文責は『オルタ広場』編集部にあります。
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