【追悼】仲井富

トミさんとブンさん

船瀬 俊介

 仲井富さんが逝った。
 渡辺文学さんからの知らせだ。
 一瞬、トミさんと文学さんに出会ったときを思い出した。
 お二人と会ったのは、私がまだ消費者運動に頭をつっこんだときのことだ。
 早稲田の学生として、ヘルメットに内ゲバの“運動”に嫌気がさしていた。
 そのとき、希望を与えてくれたのがラルフ・ネーダーだ。
 無名の青年弁護士が世界最大自動車メーカーGMと対決し、そのトップに謝罪させた。
 一人の市民でも、世の中を変える事ができる!市民運動は、はなばなしくない。派手ではなく、地味な活動だ。
 しかし、コッコツと社会を良くしていく。
 その第三の道として、私は日本のネーダーイズム実現を目指して、日本消費者連盟の活動に参加した。
 活動の主流は合成洗剤問題だった。「きれいな水と命を守ろう!」
 労働組合の方々とも連帯した。全水道労働組合がそれだ。
 そこには社会党の方が多かった。
 
 そしてーー。渡辺文学さんたちは『公害問題研究会』という活動に取り組んでおられた。
 市民運動のもう一つの流れがタバコ問題だ。その闘士が文学さんであったことは、いうまでもない。
 ぼくら後輩は、彼をプンさんと呼んで親しんだ。
 面白いことにプンさんの隣には、いつもトミさんがいた。
 どちらも社会党から飛び出て来たという。
 社会党の方はよくいえば生真面目。悪く言えばカタ真面目。つまり融通がきかない。
 しかし、プンさん、トミさんはまったく違った。とくにトミさんに出会った印象は「社会党にもこんな粋な人がいたのか!」という驚きだ。
 江戸っ子のようなべらんめぇ調のもの言い。洒脱でちょっと斜に構えて……。
 そんな人間臭い人柄に引かれた。
 トミさんは言論者、発信者でもあった。手元に個人ミニコミ『老人はゆく』がある。
 愛嬌のあるイラストと共に……。私は、その文を読んで感心した。
 なかなか読ませる。喋りにも味があったが、文章もなかなかのものだ。ぐいぐい引き込む。つまりは名文家なのである。
 トミさんはお遍路のイラストと同様に、この混沌の世を斜めに見ながら、謳々と生きて来られた。
 超然として、悠然と……。弥次喜多道中のように無二の親友ブンさんを友として。......。
 享年は九十歳を超えられていた...... という。
 いい人生だったと思う。合掌ーー。

(2024.5.20)
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