【コラム】
フォーカス:インド・南アジア(14)

福永 正明


<一>

 ドナルド・トランプ米大統領により深夜に発せられるツイッターは、その乱暴な言葉、突飛な内容などで大統領選挙当時から大きな話題となり、大統領就任後もアメリカ内外の問題となってきた。
 2018年最初のツィートは午後9時12分に発せられ、パキスタンを大きく揺るがす内容であった。簡約するならば、「アメリカは愚かにも過去15年間以上に及んで、パキスタンに対して330億ドルの援助を与えてきた。ところがかれらは、我々の指導者たちを愚かな者と考えて、うそと欺瞞以外の何もの与えるものはなかった。アフガニスタンで捜索を続けるテロリストたちに、安全な避難する場所を提供してきたのです。もういやだ」となる(https://twitter.com/realDonaldTrump/status/947802588174577664)。

 このツイートには、3,062億4,840万の「イイネ!」が集まり、55億5,895万の「リツイート(他のユーザーがしたツイートを、自分のフォロワーのタイムラインにも送る仕組み)」が行われた。つまり、元旦夜からトランプ大統領のツイッターは、大きな反響を集めた。話題となったパキスタンは、異常な状況に衝撃を受けた。

<二>

 パキスタン政府は、外交軍事政策での「不誠実」と「虚偽」について、過去に繰り返されてきた重大な非難を受けたことになる。政府は、首都イスラマバード駐在アメリカ大使を召喚して、悪意あるコメントであるとその内容を否定し強い言葉で非難した。さらに、アメリカ政府による誠実かつ適当な対応を求めた。メディア報道に怒った民衆は「反米・反トランプ」を叫び行進を続けた。

 このトランプ大統領のツィートは「大歓迎」されたが、それはアメリカ国内だけでなく、パキスタンの隣国で3度の戦争を交えたインドからでもあった。大統領のツイッターについて、同日深夜にホワイトハウスの安全保障会議(NSC)報道官が、「2016年会計年度に2億5,500万ドルをパキスタン向け拠出した「対外軍事援助費」について、同額を予算化することはない」と述べた。つまり政府内からは「大統領の突飛で危ない発言に対する危機対応」が遅れ、それはトランプ政権発足以来、外交実務を担当する国務省では多くの重要役職で空席が続く「機能不全」状態の表れとされた。もちろん、NSC報道官は、大統領の「ツイート」を説明してもおらず、遺憾の意も表していない。

 しかしながら、トランプ政権の対パキスタン政策は、オバマ政権から大きな変化はない。実際のところ、アフガニスタンとパキスタンを結ぶイスラーム武装集団の掃討、パキスタン国内でのテロ事件抑止のためには、アメリカからの軍事援助費が不可欠であった。すると、トランプ大統領は年初ツイートにおいて、巨額の対パキスタン軍事援助費を嘆き、その削減を強行する決意を表したのであろう。

 だが、トランプ大統領は、対パキスタン援助削減を表明した最初の大統領ではない。オバマ政権も対パキスタン政策の変更、援助軍事費削減実行を試みたが、達成することはできなかった。2007年8月、当時は候補に過ぎなかったオバマ大統領は、パキスタンが領土内で「聖域」のように武装集団やテロリストたちを保護している地域に対する軍事攻勢を行うとの威嚇を表明したことがある。実際にはオバマ大統領はパキスタンへの関与を強め、遠隔操作による無人攻撃機での空爆を継続した。そして2011年5月、米海軍特別攻撃部隊が、パキスタン国内に数年間以上居住し、パキスタン軍が保護していたとされるオサマ・ビン・ラディン宅襲撃、殺害を実行させた。さらには、議会承認の上でパキスタンへのさまざまな援助・協力として巨額拠出を続けた。

<三>

 トランプ大統領のツイートは、12月29日のニューヨーク・タイムズ紙の「不満のアメリカ政権は、パキスタンへの2億5500万ドルの外国軍事資金( FMF)を凍結を検討」との記事を復唱しただけであった。これはアメリカ政権が繰り返し求めてきたパキスタン国内の武装集団掃討が行われないことから、凍結せざるを得ないと明らかにしていた。ここでの問題は、 FMF とは「アメリカからの軍事資機材・サービス購入、訓練費用」としてアメリカへ支払うパキスタン政府の費用を肩代わりする資金であることだ。つまり、掃討実行の約束が行われないため、軍事援助を削減する、それはパキスタンのアメリカからの軍事費支払削減となることを意味する。しかし2002年度から費やされた330億ドルの対パキスタン軍事援助費のうち、FMF はわずかに40億ドルでしかない。トランプ大統領が330億ドルの巨額援助を問題としながら、実際の課題は過去計40億ドルであり、2016年度で2億5500万ドルの問題であったことは明らかである。

<四>

 アメリカが依然として多額の軍事援助費をパキスタンに支払うのは、パキスタンがタリバーン、ハッカビー・ネットワーク、インドへのテロ事件を繰り返した武装集団ラシュカレ=トイバ(LeT)などイスラム武装集団と関係し、あるいは保護下におくと考えられているからだ。
 トランプ大統領としては、中国がパキスタンへの援助を通じて拡張を続けていることに苛立ち、「なぜ、アメリカが金を払う必要があるのか?」との発想があるのであろう。パキスタンに嫌われながら、巨額を援助する必要があるのか、との疑念である。

 だが考慮されなければならないのは、パキスタンが「世界で最も核兵器開発を進める国」であり「核の闇市場」の中心地であったことであり、アメリカの監視は必要である。また、パキスタンが国際通貨基金(IMF)に再建援助を受けながら、債務支払能力の欠如による「国家破綻」の危険があり、中国がパキスタンの債務を弁済することで「宗主国」となる可能性がある。

 だがパキスタンは、経済成長の道を歩みはじめており、イスラーム武装集団の取締掃討は不可欠となる。アフガニスタン戦争で敗北したアメリカには、アフガニスタン・パキスタン地域への勢力維持のためには、パキスタン援助は継続しなければならないだろう。トランプ大統領のツィートには、大統領の短慮や乱暴さだけでなく、パキスタンをめぐる多くの問題が隠されている。

 (岐阜女子大学南アジア研究センター長補佐)

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