【コラム】

フォーカス:インド・南アジア(17)日立による原発輸出への反対は、私たちの責務

福永 正明

<一>
 日立製作所による英ウェールズ地方の「ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所(Wylfa Newydd、以下、ウィルヴァ原発)」輸出問題は、重大局面を迎えている。日立と英政府間での事業支援交渉は、今月末期限として「事業継続・撤退」の決断となる。
 5月31日の経団連会長就任を控えた日立の中西宏明会長は自ら訪英、5月3日にメイ首相との直談判での問題解決を試みた。しかし、現在まで最終決定の公表はない。経団連は、「原発推進批判を浴び続ける会長」、あるいは「海外原発事業に失敗した会長」を冠とするのかの岐路にある。
 日立の英ウィルヴァ原発輸出問題について筆者は、昨年9月より本コラムにて3回掲載、読者も印象深いであろう。今回は、最新の状況、私たちが問われることの重要性について指摘する。

<二>

 本事業は、英ウェールズ地方の電力事業会社ホライズン社が、アングルシー島ウィルヴァにて同地既存の老朽原発2基の建て替えとして新規原発を建設、2019年着工、2020年代中期に商業稼働をめざす計画である。日立は、東電福島第一原発事故後の2012年10月に同社を900億円で買収して完全子会社とし、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の1,350MWe 2基建設、建設後は電力事業を行う大型インフラ輸出計画を進めてきた。

 日立は、海外原発事業失敗のため経営危機に陥った東芝の轍を踏まないため、資金支援確保に奔走してきた。それは日立の原発建設と、その後の電力事業のうち、原発建設事業が最大の問題であるからだ。すなわち世界各地での原発建設事業は、申請審査や許認可の遅れ、資機材の価格高騰、工事遅延、住民の異議による事業停滞など、計画から竣工まで当初計画通りに進むことはほとんどない。そのため総工費は、当初の数倍に跳ね上がることが通例である。もちろん、事業準備段階、さらには起工後、さらに工事過半進行後での事業撤退もあり得る。こうした「完工リスク」は、海外原発事業では重大であり、まさに東芝の子会社であったウェスティング・ハウス社を破綻に追い込んだ原因であった。

 日立は、日本・英国政府が協力してウェルヴァ原発事業を推進する準備を続け、2017年12月に資金枠組みが決定したとされる。それを本年1月3日付け毎日新聞が詳細内容を報道、朝日新聞が「社説」において明確に反対を論じるなど、大反響となった。
 報じられた資金支援枠組みは、以下の通り。

― 2016年12月22日、日英政府が「協力書簡」に調印。「協力覚書」では、日立と東芝(当時子会社のウェスティング・ハウス)による原発輸出促進のため、資金支援に関する検討を開始に同意した。そして日立と東芝の英国内原発新規建設事業について、具体的に事業計画名が明記され「進展に期待」とされた。

  <これまで、この「協力書簡」は不当にも非公開であったが、4月13日の対政府交渉にて資源エネルギー庁が開示した>
 次の Facebookページにて公開中→ https://goo.gl/6dyr2Z

― 2017年12月、日英両政府が資金枠組みに関する「書簡」を交わしたとされる。
  →この「書簡」を政府は非公開とする。野党による追及に対して、「存否も含めて回答できない」と経産大臣は繰り返している。

● 総工費は約3兆円規模、出資4,500億円、融資2兆2,000億円
● 出資の4,500億円は、英国側1,500億円、日立1,500億円、日本側はその他1,500億円(日本政策投資銀行(DBJ)、日本原子力発電株式会社(以下、日本原電)、中部電力など想定)
● 融資の2兆2,000億円は、日英が各1兆1,000億円負担
● 日本側の融資1兆1000億円は、国際協力銀行(JBIC)、日本のメガバンク3行(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行が各1,500億円)
● その他収入3,000億円を見込む
● 日本側の出資と融資の総額1兆1,000億円は、日本貿易保険(NEXI)が全額保証する

 この資金支援計画では、脱原発の世論と再生可能エネルギーへ向かう世界の潮流に逆行し、原発輸出に固執する政府・財界の姿が明らかとなった。そして総工費が3兆円にも肥大し、日本のメガバンク3行が巨額融資を約束、全株式を政府保有の国営株式会社である政府系金融機関のJBICの資金提供、同じく国営のNEXIが全額保険保証などが特徴であった。さらに、日本原電の関与は、同社が東海第二原発の運転延長認可問題から廃炉危機に直面し、経営危機状態であることからも反対が集中した。
 昨年12月の未公開「書簡」の日英合意により、建設中リスクは軽減可能となり、完工まではNEXIによる政府全額保証を獲得したと考えられる。さらには日立本社に原発稼働後の事故、運転停止などリスク影響を避けるため、ホライズン社の株式保有33%に減少しての連結決算外しが予定されていた。


<三>

 中西会長は経団連新会長候補決定後の2月13日、記者会見にて、英ウィルヴァ原発事業が「インベスタブルとは言えない」と明言した。それは英国政府が独自にもつ「差額調整契約制度(Contract for Difference、CfD)」の問題が残されたことによる。CfD制度は、電気の値段を固定価格で一定期間保証する、原発を維持推進するための国家保護策である。つまり、長期安定した電力事業環境を提供する仕組みであり、「市場価格をもとに算定される市場参照価格(レファレンス・プライス)と、廃炉や使用済燃料の処分費用も含めた原子力発電事業のコスト回収のための基準価格(ストライク・プライス)との差額が発生した際、それが負の場合にはその差額を全需要家(消費者)から回収して原子力事業者に対して穴埋めし、逆にそれが正の場合には、原子力事業者が差額を支払う仕組み」である。

 日立はCfDを頼り、原発完工後にホライズン社の利益計上との算段であり、本事業継続のカギとなる。つまり「原発商業稼働後は利益が入る」との説明は、まさにCfD制度頼みの事業展開であることを意味していた。
 本年1月以降、日立と英政府はストライク・プライス交渉を続けたが、合意に達しなかった。英政府は、ストライク・プライスの高額化が電力消費者の負担増大に直結することから、政府批判回避が必要であった。そして日立要求の高額価格での設定については、正式文書での合意は難航した。

 そこで5月末の経団連会長就任、6月下旬の株主総会を控えた中西会長による、メイ英首相との会談となった。中西氏の直談判の詳細内容については、日立・英政府ともに公式コメントはない。しかし、特に日本メディアは、会談の要点を続々と報じており、次ぎの通り。
 ・メイ首相は、英国政府が日英双方の融資全額保証を提案
 ・日立は、ストライク・プライスとして1メガワット当たり85ポンド(市場価格の1.6倍となる)の価格設定、35年間保証を要求
 ・日立は、5月末までの英政府からの回答を求め、事業について最終決断を行う

 まさに、事業は重大局面となり、日立は既に2,000億円を支出済だが、「白紙撤回」もあり得るとされる。英政府も国民の批判増大を避けることが必至であり、EU離脱に伴う財政難など政権運営も厳しい状況にあるため、簡単にストライク・プライスの高額化には応じられない。
 日本発の情報が多く、英現地の原発建設反対グループのメンバーからは、「日本政府の税金負担なしは日本国民には良いニュースだが、英国民には悪いニュースだ」との皮肉も聞かれた。こうした英側の反応は、日本側での従来のウィルヴァ原発反対活動に理由があるとも指摘できる。

<四>

 英ウィルヴァ原発輸出事業について、JBICやNEXIが関係する日本政府の「公的資金投入の問題」との認識から、「公的資金を原発輸出に使うな」などの団体・市民による活動が展開されてきた。日本からの原発輸出に反対する活動が、「公的資金投入の問題」に転化していたこととなる。

 筆者はこれまでも、原発輸出問題を「公的資金の投入の問題」として語ることが、日本からの原発反対運動としては論点がズレると論じてきた。ズレだけでなく、問題を弱小化し、人びとの理解をゆがめることとなる。つまり日本からの原発輸出について、「私たちの税金で原発輸出を行わないで下さい」だけの主張や情報拡散は不的確である。

 税金を使わなければ、民間企業は何をやってもよいのか。それでは、政府・財界が進める「インフラ輸出での利益獲得策」を容認することとなる。つまり、原発輸出を前提として、「公的資金投入問題」を語ることは論点が違う。
 民間企業の原発輸出に税金投入反対に固執するならば、例えば日立が全額自己資金負担、すべてのリスクを負い私企業として原発輸出を行う場合にはいかに対応するのであろう。果たして、税金は使われないから是とするのか。
 原発輸出を容認する道を残してはならず、税金での公的資金投入の有無に関わりなく、反対が私たちの責務ではないだろうか。それは日本からの原発輸出についていかに考えるのか、本質的な姿勢が問われている。

 日本は、広島・長崎の被爆体験からの核廃絶運動の主体となり、収束できず多くの人びとが避難を続ける過酷な東電福島第一原発事故の経験がある。すると日本から発信するべきは、「世界のどこにも日本は原発輸出を行わない、いかなる原発建設にも反対、原発はすべて廃炉」との主張であろう。
 当然この主張の実現には、将来の多くのプロセスが必要となる。だが私が世話人を務める「核武装国インドへの原発輸出に反対する市民ネットワーク」、「日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出反対キャンペーン」 は、「原発をインドに売るな、どこにも売るな」を主張してきた。これは、「もう私たちは、原発を絶対に輸出しない」との決意による活動である。いつの日か、「全世界原発建設反対・廃炉キャンペーン」の展開も想定されるが、それは夢ではない。既に核兵器禁止条約を実現した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が、私たちの道筋を示した。

 すると、日本政府が原発輸出に税金を使うかどうかは、二次的問題であることは明らかである。反原発・脱原発の関係者からも「まずは、日本の税金が使われるか、どうかが問題だ」との声を聞く。だが「公的資金投入の問題」、あるいは、「現地住民による反対運動の紹介役」としか考えられない日本の原発輸出反対の人びとが、この英ウィルヴァ原発輸出問題を軽率に扱った影響は大きい。ミスリードが反対論理の弱体となり、人びとが「日本からの原発輸出の国際的意味」とか、「原発輸出の非倫理性」を考える機会を逃すこととなる。
 国民が自らの税金の使途に関心を持つことは。重要である。しかし、原発輸出については、税金投入有無とは関係なく、揺るぎのない「一貫した反対」の立場が最重要だ。「日本からの原発輸出は、認められない」との一点を掲げ、私たちは原発輸出反対活動を進めることが道であろう。

 報道によれば日立は月末まで10日間に「最終決断」するとされ、私たちは的確な情報収集、全世界への発信を続ける。そして5月31日には「英ウィルヴァ原発輸出反対集中行動日」として、日立本社前アクション、経団連会長就任反対アクション、院内集会開催により、「日本からの原発輸出は認めない」行動を実行する。
 現地住民たちとの連携を強化し、「事業撤退」決定時にはいかなる形での原発建設に反対する活動、「事業継続」ならば経団連、日立、日本原電、DBJ、JBIC、NEXIなどへの強く厳しい行動を展開する計画である。
 「原発はどこにも不要である」ことを日本から強く発信し、再生可能エネルギーへの転換を訴え、実行することが責務である。

 (大学教員)
   世話人:「核武装国インドへの原発輸出に反対する市民ネットワーク」
       「日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出反対キャンペーン」

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