【コラム】

フォーカス:インド・南アジア(18)

福永 正明


<一>

 日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出プロジェクトは、次々と新しい問題を浮かび上がらせている。
 2019年3月末予定のイギリスの欧州連合(EU)離脱と同時に欧州原子力共同体(ユーラトム、EURATOM)を離脱する。そのため、1998年締結の日英原子力協力協定の改定が必要となり、交渉が行われなければならない。二国間で原子力に関連する技術移転、資機材の輸出などについては、原子力協定が締結されなければならない。当然、日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出も、日英間での原子力協定が前提となる。

 英政府はユーラトム離脱に関して、英議会に詳細に数次の『報告書』を送付し、そのなかでは「日本を含む主要4カ国と二カ国間原子力協力協定の締結・改定のために協議を続けている」とする。さらに、「各国との協議は順調に進行しており、2018年8月には合意を得て、年内には承認のため議会へ提出、来年3月末までに新協定について議会承認を得る予定」であることを通知している。
 実際にこれら『報告書』記載の通り、5月4日には英米原子力協力協定が署名されており、5月7日に英・国際原子力機関(IAEA)間での保障措置(査察)協定が締結された。

 ところが日本政府は、公式発表や大臣・幹部発言でも日英原子力協定の改定交渉については、一切認めない。そこで私が世話人を務める「日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出反対キャンペーン」は、この問題に焦点を絞り、超党派国会議員「原発ゼロの会」の協力を得て、7月20日に対政府交渉を行った(「市民による交渉録」は、FACEBOOK に掲載、goo.gl/bkxQdM)。

 外務省の当初説明は、本年3月19日に英EU間で合意した、「離脱条約交渉締結後に設定」する事実を悪用し、「2020年12月31日までの移行期間があるから離脱しても変更はない」と回答していた。ところが「英とEUが移行期間の設定に合意したのは本年3月であり、それまで何を準備してきたのか?」との質問には、「適宜協議している」としか答えない。
 重ねての追及には、「適切に検討していく。さまざまな意見交換を行っている」(7月20日実施、対政府交渉における外務省軍縮不拡散・科学部国際原子力協力室森万希子企画官)を繰り返すだけであった。

 かつて日印原子力協力協定の交渉中に外務省は、「交渉中であるから内容を明らかにすることはできない」と主張していた。だが今回は、交渉を開始したのか、進行中であるのかどうかも明らかにしない、完全な「秘密交渉」となっている。
 英国政府が議会、国民に対して、誠実に内容を報告し、現実は『報告書』通りに進行している。すると日英の協定に関する交渉が、行われていることは確実であろう。
 なぜ政府・外務省は、英国との原子力協定の交渉を徹底的に隠すのか? 隠すべき事情があるのかが、問題となる。

<二>

 過去数年来に大きく論じられてきたのは、核燃料サイクル政策の破綻、さらに余剰プルトニウム問題である。それは、日米原子力協定の2018年7月16日満了、自動延長をめぐり、日本の原子力政策、再処理政策など、さまざまな論議の一環であった。特に、日本が国内外で保有する47トンの「使途予定のない」プルトニウムの扱いは、アメリカを中心として国際的批判も表明された。
 日本の核燃料サイクルおよび保有するプルトニウムについては、「MOX燃料として国内で燃焼消費する」ことを方針とする。だが、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)を燃料に、発電しながら消費した以上のプルトニウムを生み出すとされる「もんじゅ」は、既に廃炉が決定した。代替策となるMOX燃料を用いたプルサーマルによる軽水炉原発も、再稼働はわずかでしかない。このため、日本は余剰プルトニウムを多く抱え込む事態が継続している。

 国内外からの批判もあり、原子力委員会は本年7月31日に「プルトニウム保有量を減少する」ことを決定した。だが、原子力委員会も具体的な減少策は提示できていない。
 これまで、最も現実的な削減策は、英保管のプルトニウム約20.8トンを英側が引き取ることである。実際、2012年12月の原子力委員会に在日英国大使館原子力担当官が招かれ、「引き取り提案」を表明している。さらに2015年9月には、アメリカの有力なシンクタンクであるカーネギー自財団のジェームス・アクトン氏が、英保管のプルトニウムの引き取りをめぐり「日英政府は正式な交渉を開始すべき」と論じる。
 国内においても、プルトニウム削減策の第一歩として、英保管プルトニウムの英引き渡し論も強い。これは、高額の引取料を日本が支払うことを前提としており、その算定は難しい。だがプルトニウムを資産として保有する電力各社が支払う高額の保管料、将来のMOX燃料輸送費などの削減となり、技術的には書面での処理である。その際、日本の電力会社と英側の個別交渉というよりも、日英両政府による協議と交渉が必要であろう。

<三>

 日英政府に最も重要であるのは、ユーラトム離脱後の日英原子力協定の改定問題ではなく、英保管プルトニウム引き取り問題での具体的な合意形成であると指摘できる。さらに最重要な課題は、日本が支払うべき「引取料」の金額となる。
 イギリス側としては当然ながら、高額料金を要求するであろうし、日本としては電力会社の負債とならない簿外処理、代金支払の予算措置となる。もし47トンのうち約21トンを削減したならば、日本が「余剰プルトニウム保有国」との批判は減少するであろう。さらには、国内保管プルトニウムは核燃料サイクルにて活用することを宣言することで、既定の六カ所村施設を活用する核燃料サイクル路線は継続できる。英によるプルトニウム引き取りは、まさに日本の核燃料サイクルの将来に関わる重要問題である。

 日英原子力協定の改定交渉の裏では、英保管プルトニウムの引き取りに関わる協議が継続していると考えられる。そして問題は、日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出での日英政府による「隠れたディール」へと結び付いているようである。
 「隠れたディール」については、次回詳細に報告することとしたい。

 (大学教員)

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