■ 【オルタのこだま】

ブータン問題 補遺              坪野 和子

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 オルタ95号に載せた拙稿『ブータンのGNHと仏教思想』について、読者から
ブータンに難民問題があると聞いたが事実はどうなのかという質問がありました
ので、私の調べた範囲でお答えします。

 まず、南部問題(いわゆる難民問題)は、ブータン先住のネパール系住民・軍
隊(主流はネパール系)と移住者との軋轢があり、(ある意味「ゆるいとされて
いる」カースト問題も含め)政府転覆のテロ行為を起こした数千人の追い出しに
拍車がかかって、何の罪もない人たちも含めて締め出すことになり、その人たち
に乗じて、ブータン以外のネパール人や亡命チベット人やチベット系ネパール人
などが一緒に難民として入り込んだり、さらにブータン転覆をはかるネパール人
も加わって、非常に多くの数になったのではないかと推測できます。

 私も調べなおし、同僚のブータン研究者諸橋氏にも協力して貰いましたが、
ブータンとネパールとチベットと英国の歴史的関係で、20世紀初頭にネパールで
何があって、多量の移民を出してしまったのか、という肝心なところが見えてき
ません。
  軍事的・政治的なことでなく自然災害か気候変動かも知れないのです。そうで
あっても何か記録が残っているはずなのに、みつかりません。ひとつの可能性と
して、シッキムのお茶労働者が解雇され、ブータンに移住した。またはグルカ兵
たちが解雇され居残った。私は、彼らの過激なテロ行為から見て後者ではないか
と推測しています。

 なお、ブータンは多民族国家で、チベット系ブータン人・ロッパ(ブロクス
パ)族・レプチャ族・チベット人(主に婚姻などによる)ネパール系チェトリ
族・グルン族・タマン族・シャルパ族・ネパーリーその他。ネパール系といって
も、半分くらいはチベット仏教徒もしくはシャルパ族のようなチベット系民族の
ネパール系。そして、先住民とブータンがいうところの不法占拠者でカーストが
異る20世紀前後に移住してきた者。
 
「帰りたくない・ネパールにいたくない・第三国に出国したい」個人によって事
情が異なりますが、国民だったと言っている人たちがブータンの法律にあてはめ
ると、テロ行為や森林伐採(環境破壊行為)などの重罪を行って追い出されたも
のたちは、帰国すると、生涯重労働の生活が待っています。死刑がなく、禁固や
懲役でもなく、社会奉仕という名の重労働です。そうでない人たちも、罪人と行
動をともにしたので、なんらかの罰を受けます。もっともブータン側は国民では
ないと言っているので入国拒否になるのではないでしょうか。

 また人権侵害問題は、おそらく先住民ネパール人によるカースト差別行為とそ
れに乗じたチベット系の人達から受けたものと思われます。ティンプーの下層出
稼ぎインド人労働者は冷たい扱いをされていると、日本人を含めた外国人からよ
く聴かされる話で、ありうることです。また、ブータンが国家として力がついて
きて認められるようになったためか、最近は、対等な付き合いをしているのです
が、従来はインド人・チベット人・シッキム人・ダージリンのチベット人などか
らは低くみられていました。

(回答者は埼玉大学非常勤講師)

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