【沖縄の地鳴り】

プーチンのウクライナ侵攻

平良 知二

 ロシアがウクライナに侵攻し、激しい砲撃を加えて世界を驚かせている。ウクライナとロシアの関係をよく知らなかっただけに、なぜ戦争になったのかなど知識の乏しさを痛感しているが、それにしてもプーチン大統領の、世界を敵に回す強硬姿勢にはあ然とするばかりだ。

 この原稿執筆の時点(3月12日)でロシア軍はウクライナの首都キエフに3方向から進撃、一番近い所はキエフの15キロばかりの地点に迫っている。首都攻防の激しい戦闘はまだ伝えられていないが、数日のうちに首都は激戦になりそうで、とても心配である。東部や南部ではすでにウクライナ側に多くの犠牲者が出ており、テレビニュースを見るたびプーチン大統領への反感が募っていく。

 これまで3回の停戦交渉が行われたが、ロシア代表団はプーチン大統領の枠から動く様子はなく、大きな成果はない。大統領の要求はウクライナの「中立」と「非軍事化」であるが、NATOに入ってないウクライナはいま中立ではないのか。なぜこんな要求が出てくるのか、よく分からない。もう一つの非軍事化要求は降伏要求に等しい。理不尽に侵略してきて「武器を捨てよ」と言われれば、誰もが「なにを!」と反抗するだろう。死に物狂いで防戦しているウクライナには飲めない要求だ。
 プーチン大統領はこの二つの要求をずっと繰り返している。核使用までほのめかしているが、要求以前に「言うことを聞かない。懲らしめなければ」という優越意識が強すぎるのではないのか。両国関係をよく知らない筆者には、プーチン大統領の精神状態は正常とは思えない。

 ウクライナを支配下に置いたとして、しかしロシアに何の益があるのだろう。ウクライナ国民の憎しみは決して消えるはずはなく、反ロシア感情は尾を引き、紛争の火種は残ったままとなる。国際的にも孤立は避けられず、経済的な打撃は長期に及ぶ。
 言論統制のため事実や真相がよく知らされていないロシア国民も、生活への悪影響に苦しむことになろう。“四面楚歌”の状況、その原因を知るとき、各面、各層での状況打開の苦闘がつづくはずだ。プーチン大統領は自国の国民をも見通しの立たない戦争に巻き込んだのである。

 中国の動向も気になる。事態を静観したままであるが、先日、李克強首相は「主権と領土の一体性は尊重されるべき」とウクライナへの理解を表明した。だが、ロシアの侵攻については批判せず、各国によるロシア制裁には反対している。
 主権、領土についてよく強調する中国が、他国を軍事的に侵攻している事態を黙って見ているというのは、本来おかしい。ここは「尊重されるべき」にとどまらず「他国への侵攻はあってはならない」ときっぱり言うべきではないのか。
 日本の多くの識者は、台湾を念頭に動静をうかがっている状態と見ているようだが、その動向は沖縄にも影響を与える。習近平専制の様相を一層強めつつある中国は、ウイグル問題などで言論統制を厳しくし、台湾をめぐっては米国を牽制するなど対西側に硬い姿勢を崩さない。

 そんな中国に、沖縄の世論も警戒感を漂わせてきている。今年に入って名護市、石垣市の市長選挙でオール沖縄側の候補が自民・公明候補に予想を超える票差で敗れたのも、それぞれいくつもの理由はあるのだろうが、中国の動向が一つの要因ではないかと見る向きもある。“台湾有事”を不安視し、米軍、自衛隊の存在を一定やむを得ないとする考えである。

 今回のウクライナの事態は、そのような見方を強める形になった。プーチン大統領の強硬姿勢がいつまでも通用するとは思わないが、軍備こそ一番という“内向き”思考が広がっていくのが怖い。多面的で平和的な国際関係を目指すしかない。

 (元沖縄タイムス編集局長)

(2022.3.20)
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