【運動資料】
ヘイト・スピーチと国際人権基準
2014.10.10 弁護士 師岡 康子
●I.ヘイト・スピーチの現状
公人、マスコミ、ネット、街頭、個人間
Cf.ビデオ、NGOレポート
●II.ヘイト・スピーチの定義
(広義)歴史的、構造的に差別されてきた人種、民族、国籍、性別、性的志向、障がいの有無などにおけるマイノリティの集団・個人に対する、その属性を理由とする差別表現。
(本質)マイノリティに対する差別であり、表現による暴力、攻撃。
●III.ヘイト・クライム(差別犯罪)との関係
・ヘイト・クライムは通常物理的暴力を伴うもの
・本質は同じくマイノリティへの暴力、攻撃。
・ヘイト・スピーチの悪質なものはヘイト・クライムに含まれる。
●IV.ヘイト・スピーチの害悪
(1)マイノリティ当事者の人間の尊厳、表現の自由、平等権、社会へ参加する権利、平和に暮らす権利の侵害
(2)差別、暴力を蔓延させ、ジェノサイド、戦争へ導く
Ex)カルデノン一家への迫害。京都朝鮮学校襲撃事件。
●V.国際人権基準の形成
・ジェノサイド禁止条約、人種差別撤廃条約、自由権規約
・国が差別撤廃に法的責任をもち、これまでの政策を洗い直し、実態調査に基づき差別撤廃政策を構築し、法制度化することが基本。
・一般的勧告35の3項「条約のあらゆる規範と手続きを動員しないことには、人種主義的ヘイト・スピーチとの効果的な闘いができない」
・人種差別撤廃政策の基本的な8つの柱
(1)国の行ってきた差別を生じさせ又は永続化させる法制度の洗い直し(2条1項c)
(2)法制度設計の前提となる差別の被害者グループとの認識及び実態調査(1条など)
(3)平等な人権を保障する法制度(5条)
(4)人種差別禁止法(2条1項)
Cf.「最低限やらなくてはならないのは、人種差別を禁止する、民法、行政法、刑法にまたがる、包括立法の制定であり、これは、ヘイト・スピーチに対して効果的に闘うために不可欠である。」(一般的勧告35の9項)。「各国は、ヘイト・スピーチに対して効果的に闘うため、予防的及び懲罰的な行動を含む包括的な反差別法を採用すべきである。」(ラバト行動計画26項)
(5)ヘイト・クライム及びヘイト・スピーチの禁止(4条)
(6)人種差別撤廃教育(7条)
(7)国内人権機関(一般的勧告17、パリ原則)
(8)個人通報制度(14条)
・(1)が基本。国が行ってきた差別を改めないと、社会における差別がなくなるはずがない。現在の在日コリアンに対する差別の根源は植民地支配の清算を行わず、戦後も国が差別をし続けてきたこと。
・法規制のみではなくならず、法規制は全体の枠組みの中の1つ。ただし、法規制には社会を変える教育的効果があり、また、強制的にマイノリティへの攻撃を止めるには法規制しか方法がなく、差別撤廃法制度の柱と位置付けられる。
・欧州諸国には(1)から(8)がほぼ全部整備されている。欧州連合の差別禁止指令もある。
・韓国でも外国籍者の地方参政権、外国籍住民処遇法、多文化家族支援法、国内人権機関、個人通報制度など日本より数段進んでいる。
・OECD34ヶ国で(8)の個人通報制度が全くないのは日本ともう一か国だけ。
・日本には(6)に関し、枠組となりうる「人権教育・人権啓発推進法」があるのみ。日本は世界で例外的。
●VI.人種差別撤廃条約と日本
1)経緯
1965年 条約成立
1969年 条約発効
1970年 人種差別撤廃委員会発足
1995年 村山政権時に加入、146か国目の加盟国となる。法整備は旧土人法廃止とアイヌ文化振興法制定のみ。
2000年 政府が第一回報告書を提出。
2001年 第一回報告書審査、勧告。
2009年 政府が第二回報告書を提出。
2010年 第二回報告書審査、勧告。
2013年 政府が第三回報告書を提出。
2014年 第三回報告書審査、勧告。
2)4条a項b項の留保条項
「日本国は、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第4条の(a)及び(b)の規定の適用に当たり、同条に「世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って」と規定してあることに留意し、日本国憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において、これらの規定に基づく義務を履行する。」(1998年政府報告書)
3)2014年審査
・事前の資料
政府報告書
非政府組織報告書(原文は委員会のウェブサイト参照)→ 配布資料レポート参照(*)
・審査の経緯
8月18日 午前中 委員会主催の非政府組織との協議の会合
8月20日 昼休み 非政府組織主催の委員向け説明会(任意)
午後 委員会による日本審査(前半)
8月21日 午前 委員会による日本審査(後半)
8月29日 総括所見採択、公表
・NGOからの情報提供は文書、口頭の報告が制度的に保障されている。
・情報提供は誰でもでき、実際、在特会等もレポートを提出している。
4)今回の勧告
・総括所見を全体としてとらえること 包括的な特別法たる人種的差別禁止法の必要性
・ヘイト・スピーチについては勧告部分前半の指摘はとりわけ重要。
(1)ヘイト・スピーチ規制の目的はマイノリティの権利保護
(2)ヘイト・スピーチ規制を濫用し抗議の表明の口実としてはならない
・留保については、留保したままでも、人種主義的暴力や暴力の煽動は表現の自由の問題ではなく、規制できるはず、との審査における指摘は重要。
・正確な理解のためには、一般的勧告35や審査会での議論を踏まえる必要
●VII.今後の取組
・世論が変わりつつある—2013年にはじめて社会問題化
Ex)2013年流行語大賞にランクイン、新聞のマンガにも登場
京都朝鮮学校襲撃事件高裁判決、Jリーグの判断への反応、オリンピック
人種差別撤廃委員会勧告を新聞が一面トップで報道
・国会、政府、地方自治体も具体的取組に着手しはじめた。
超党派の人種差別撤廃基本法を求める議連、自民党PT、公明党PT
大阪市長、都知事の具体的取組
・国会等で勧告のすべての条項について議論、点検
・地方で期待される取組
首長・地方議会の宣言、決議、条例改正若しくは制定
カウンターへの過度の規制をしないよう指示
公共施設の使用制限
(*)人種差別撤廃委員会(CERD)提出NGOレポート
http://imadr.net/wordpress/wp-content/uploads/2014/07/f999f74e6d165e8dffe56ebf82e54422.pdf
国連勧告冊子
『知ってほしい−ヘイトスピーチについて 使ってほしい−国連勧告を、人種差別撤廃委員会一般的勧告35と日本』
http://www.hurights.or.jp/japan/news/pdf/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E5%8B%A7%E5%91%8A%E5%86%8A%E5%AD%90.pdf