【ポスト・コロナの時代にむけて】

ポストコロナの社会のライフスタイル~距離を置く

松宮 道子

 ポストコロナについて多くの議論、提言がなされているが、その日常はどのようになるだろうかと考えているとき、政府が5月4日「新しい生活様式」の実施を呼びかけたことを知った。細かい例示に、箸の上げ下ろしまで指摘されたくない、「新」と銘打った、かつての国民統制的な運動を思い出させる「自粛警察」を後押しするものではないか、など危惧する声もある。

 日本人の習慣がコロナ感染回避につながっていると、海外のメディアでも報じた。手洗い、うがい、マスクの着用が日常的にあり、お辞儀という挨拶の仕方、電車などでの私語の遠慮、家で靴を脱ぐ習慣などが挙げられている。

 幕末、開国前後に来日した多くの外国人の手記から当時の日本人の生活や心情を浮き彫りにした、渡辺京二の『逝きし世の面影』によよると、深々としたお辞儀は多くの外国人の注目を浴びたもののひとつであり、ある人には好ましい礼儀正しさと、他の観察者には滑稽な行為とされている。また、“極端な奇麗好き”として入浴シーンを紹介した記事もあるが、混浴と行水は多くの西洋人を仰天させた習俗とされている。

 田中優子(法政大学総長)によると、「距離を置く」という人間関係は江戸時代の人々の得意とするところだった。銘銘膳による食事、お辞儀をはじめ距離を置いた人との接し方、さらには敬語の度合いや微妙なニュアンスの使い分けなどにより、ソーシャルディスタンスに依存しない人間関係があった。よほど地位にある人以外は歩くということ以外に移動手段はなく、旅行も歩きが基本だったとする。

 21世紀の今日、多くの生命や生活を奪われた後、ポストコロナの日常において、生活習慣は変わるだろうか。職場や学校におけるlTの導入は労働や教育の場に大きな変化をもたらすだろう。この影響については、多くの議論、検証が必要であり、すでに専門家による研究、提言も進んでいる。

 今回のコロナの影響としてテレワークや在宅勤務が大きく報道され、関心を呼んだが、最近の調査では、実際にこの勤務形態を採用している企業は、業種の制約もあり、ごく限られている。多くの現場では「雇用の雇止め」とともに「テレワークのための環境整備」が働く人々の不安要因とさえなっている。たしかに、すべての家庭にテレワークを受け入れる環境があるとは思えない。テレワークなどの導入により職場における不平等が拡大しないように、法による保護が早急に充実することを願っている。また、建設産業、医療・介護の現場を支えてきた外国人労働者も厳しい現状に立たされていると聞く。ここにも、適切な国の政策が一刻も早く届くことを望む。

 半世紀前にローマクラブの委託研究としてD.メドーズ等が著した『成長の限界』は、地球の物理的な限界はすぐそこに迫っていると警告しながら、人間が持続可能な社会へ移行することを奨励している。
 このたびのパンデミックは人口増加、異常気象、過度な自然開発がもたらす危機により、人類は今までと同じように資源を消費し続けることはできないことに警鐘を鳴らしている。この発生原因を自然破壊による野生動物との接触が加速したとの指摘がある。

 ポストコロナの日常は、根底に持続可能な世界をもとめて節度あるものでありたい。そのために政府、企業に倫理や責任が求められると同時に、労働組合、市民団体、市民ひとりひとりが、その日常において知恵を絞り、行動する必要がある。

 (元日本労働研究機構国際部長)<現 労働政策研究・研修機構>

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