【コラム】槿と桜(101)

マスク着用義務解除されたが…

延 恩株

 日本では、新型コロナウイルスに対する感染法上の位置づけを、ゴールデンウイーク後の2023年5月8日から「5類」に移行する方針を決めました。これによって現在の「2類相当」からインフルエンザなどと同じ「5類」となって、幅広い医療機関で入院や診療を受けられるようになります。また、屋内でのマスク着用については、着用が推奨されています(一定の距離があって、会話がほとんどない場合を除く)が、基本的には個人の判断に任せる方向になるようです(検討中)。

 一方、屋外でのマスク着用については、昨年2022年5月23日にすでに2メートル以上の距離が取れる場合には、マスク着用不要との方針が出されていました。しかし、その後も屋外でマスクをしている人が大多数で、昨年10月には加藤厚生労働大臣が「屋外ではマスク着用は原則不要」のルールについて国民と共有できていないとして、わざわざ「さまざまな機会を通じて伝えていく」という談話を出すほどでした。

 しかし、その後も政府の方針は広く浸透しないまま、10月末からはまたもや感染者数が増加傾向を示し始め、「第8波」に突入してしまいました(2023年1月6日の246,500人余をピークに減少傾向を示す)。その意味では、日本のコロナに対する国民感覚は政府の感覚とはズレていますし、私なども今現在、マスクを外して外出することなどとても考えられません。また、「5類」に移行する5月8日以降もマスクは着用するつもりでいます。

 私のこのような思いは決して特別ではなく、2023年1月21、22日に『朝日新聞』が新型コロナウイルスの感染対策をインフルエンザ並みに緩和する考えの賛否を調査しました(全国世論調査(電話))。全体では「賛成」58%、「反対」37%でした。30歳代以下では賛成が8割近くを占めましたが、60歳代以上では反対が5割に達していたようです。そして、屋内でのマスクの原則不要については、屋内でのマスク不着用が「増える」は24%で、「変わらない」が74%、しかも年代差はほとんどなく、女性の「変わらない」は男性より多く77%だったということです。

 このように政府はマスクの着用原則不要とする一方で、「マスク着用を推奨」していて、コロナが完全に終息していないことは誰もが知っているのですから、朝日新聞社の調査でこのような回答結果になったのは当然だと思います。

 日本でのコロナ感染症に対するマスク着用の状況は上述した通りですが、一方、韓国では旧正月の連休のあとの 2023年1月30日から、室内でのマスクの着用について「義務」から「勧告」に緩和されました。
 これは、疫病管理庁が緩和調整案としていた、
①患者発生の安定化 
②重症者数・死者数減少 
③安定的な医療態勢の確保 
④ハイリスク群の免疫の獲得が達成されたからでした。
 ただし、公共交通機関や医療機関などでは着用義務が当面維持されています。
 韓国では昨年の2022年5月2日から50人以上が集まる場所を除いて、屋外でのマスク着用義務が解除され、続いて2022年9月26日から屋外でのマスク着用の義務が全面的に解除されていました。

 このように韓国と日本は、ほとんど同じ歩調でマスク不着用の段階を踏んできていましたが、今回の室内でのマスク着用が「義務」から「勧告」に変更されたことで、韓国の方が日本より5が月ほど早い措置を取ったことになりました。これによって、2年3カ月ぶり(2020年10月から)にマスクの着用義務がなくなったことになります。

 ところが、マスクからの開放を喜ぶ人は少数で、多くの韓国人は現在も室内はもちろん屋外でもマスク着用を続けています。コロナ感染への警戒感は依然として強く、あっさりマスク不着用とはいかないのが現状です。つい最近、私の親せきの家族全員がコロナに感染したように、身近なところでも感染する人が出ています。

 マスク不着用で、もう心配ないという気持ちになれないのは、韓国政府も日本政府と同じように「マスク着用を勧告する」としている現状があるからでしょう。

 ソウル「聯合ニュース」2023年1月30日付には「30日から公共交通機関などを除いて屋内でのマスク着用義務が解除され」「地下鉄駅の構内ではマスク着用の義務がない」にも関わらず、「大多数の乗客がマスク姿で構内を移動し」、「大型スーパーなどではマスクを着用した人が大多数で、学校では多くの生徒がマスク姿で登校した」という記事が掲載されていました。さらに市民の声として、「地下鉄に乗っていた大学生は「どうせ公共交通機関の中では(マスクを)着用しなければならないので、家を出るときから着用した。まだコロナが終わっていないので、不便だがこれからも着用する」と語った。50代の会社員は「マスク着用が習慣になったようだ」と話した。一方、ソウル市内の50代の美容室経営者は「従業員にはマスクを着用させるようにしている」として、「お客さんにはマスク着用を強要できないが、着用を丁寧にお願いする」と語った。80代の敬老堂(高齢者向けの集会所)の会長は「皆コロナに感染した経験があるので、マスクを外すことに慎重になっている」と伝えていました。

 まるで日本でのコロナ感染症への対応やマスク着用への思いが伝えられていると錯覚するほどよく似ている反応ではないでしょうか。
 韓国と日本の人びとの感覚は欧米のそれとは大きく異なり、両国国民がどれほど気づいているのかわかりませんが、私はとても似ていると思います。特にマスク着用を続けている点では、欧米人はなかなか理解できないようです。

 以下、私なりにマスク着用に韓日両国民があまり抵抗感を持たない理由を整理してみますと、
1)コロナ感染症流行以前から韓国では毎年、インフルエンザや中国からの黄砂によって運ばれるPM2.5対策としてマスク着用者が多い。日本でも毎年、インフルエンザや花粉症対策としてマスク着用者が多い。
2)そのため、マスク着用は予防対策として当然と考え、習慣になっている人が多い。
3)1)の要因は自分の健康を守るためであるためと同時に、インフルエンザのように他人に感染させないためにも必要と考える人が多い。
4)3)に関連して、他人への配慮を強く意識する国民性がある。
5)マスク着用が感染症対策に高い効果があることが広く両国民に浸透している。
6)現時点で両国政府ともマスク着用に対して「勧告」、あるいは「推奨」としている。
7)周囲の人の目を考えると、自分だけマスク不着用には抵抗感を覚える。
8)私のような女性からはノーメイクでも外出できるという安心感がある。
といったことになるでしょうか。
 これはあくまでも私の感じ方で、統計的な数字上の裏付けがあるわけではありません。多分に感覚的と言うしかありませんので、ほかにも理由はあると思います。

 いずれにしましても、コロナウイルスの感染者数がごく少数となり、政府から終息宣言が出されるまで、安心してマスクをはずせないと考える両国の人びとは多いのではないでしょうか。また、両国政府が示した方針にすんなり従わず、しばらくはマスク着用の生活を続け、みずから状況を見極めようとしている人も多いにちがいありません。

 どうやら両国の人びとはコロナ感染症対策では、政府の方針とは異なりマスク不着用の生活に完全に戻るにはまだ時間がかかりそうです。

(大妻女子大学准教授)

(2023.2.20)
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