【社会運動】

不完全な規制基準を基に再稼働が進む日本

伴 英幸

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 ヨーロッパ諸国が脱原発に舵を切る一方、中国やインドでは原発の新設が進んでいる。
 事故を起こした日本では、一時すべての原発を停止したが、新たな基準を設け、
 それに適合する原発を徐々に再稼働している。
 日本の原発は、今後どうなっていくのだろうか。
 原発を動かすための基準となる「適合性審査」の問題点は何か。
 原子力資料情報室の共同代表を務める伴英幸さんに話を聞いた。
  (2017年10月18日に取材)
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◆◆ 電力会社は少なくとも26基の原発を動かそうとしている

──現在の日本の原発の廃炉、再稼働、審査中などの現状はどうなっていますか。

 日本では54基の商業用原発が運転していましたが、東日本大震災が起き、福島第一原発の6基が廃炉になりました。また原発事故後に廃炉が決まった原発は6基です。それ以外に東海原発や浜岡原発の3基は原発事故前から廃炉が決まっていました。現在、日本で稼働可能な原発は42基で、そのうち稼動しているものは4基、定期検査に入っている伊方原発も含めると5基という状況です。適合性審査中、または審査合格を受けている原発は21基です(建設中の大間原発を含む)。

 電力会社としては、動かしたい、動かせるだろうと判断して申請をしているのです。規制委員会は「廃炉」という判断はしませんので、基準に適合するまで電力会社とやり取りをします。電力会社が基準に適合するように追加的な対策をとる限り、順次、審査合格という判断が出されていくでしょう。今後を左右するのは適合性申請を出していない17基の原発です。(これらのうち、17年12月22日に大飯原発の1、2号機を廃炉にする判断を関西電力はしました。大型原発では初めての廃炉判断です。この事例からして、未申請の多くは廃炉になっていくと予想されます。)

画像の説明
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──すでに適合性審査を通過しているのは、どんな原発なのでしょうか。

 これまでに許可を得ている原発は7基です。それらは福井県の大飯原発3、4号機、佐賀県の玄海原発3、4号機などで、2018年春にも稼働する予定になっています。最近、審査に基本的に合格したのは新潟県の柏崎刈羽原発の2基です。まだ、最終決定ではありません。東京電力は、初めて適合とされたわけですが、直前まで規制委員会は福島第一原発事故を起こした東京電力に原発を運転する適格性があるかを議論していましたし、活断層などの問題が、十分に検証されていません。

 適格性については東京電力に福島第一原発事故の賠償を含めて後始末をきちんとやり遂げるとの一文を書かせ、それだけでは十分とは言えないので経済産業省にも監督官庁としての責任を果たすとの一文を出させて、適格性ありとしました。東電の言い分を一方的に認め、異説について検証しなかった活断層問題は、引き続き新潟県の技術委員会で議論されていくでしょう。追加して検証を継続しています。一定の結論が出るまでには少なくとも数年かかると知事は言っています。規制基準に合格はしても検証期間中に再稼働することはないでしょう。

 鹿児島県の川内原発は過去に巨大噴火の影響が指摘されている地域ですが、観察していれば噴火は予知できるし、火砕流が到達する前に対策がとれるという判断で、適合が出されています。愛媛県の伊方原発は火山灰が15センチ積もり、フィルターに詰まる可能性が指摘されているのですが、人が交換すれば大丈夫だと言っています。しかし実際に、大量の火山灰が降り積もるところで、作業ができるのか検証されないまま、適合とされています。

 活断層にしろ火山噴火にしろ、地域によって状況が異なるものの、どこも不十分な評価のままに合格が出されています。一方、現在、審査中のところですが、地震で非常に大きな影響を受けた宮城県の女川原発や茨城県の東海第二原発などをこのまま適合としていいのか、疑問が残ります。特に女川原発は3・11の時、危機一髪で炉心溶融事故は避けられたものの、建屋に相当大きな亀裂が入っていて、耐震強度が落ちています。東海第二原発も2018年に40年を迎える老朽原発です。

 また、静岡県の浜岡原発は一応審査に出されていますが、11年以降、東海地震の危険のために運転を止めていて、再稼働するとなれば、知事は県民投票にかけると言っています。 このように審査に合格しても、すんなりと再稼働できるとは限らない状況です。

──今後、原発の新設もあり得ますか。

 東京電力は青森県の東通に原発を新設しようとしていますが、これは頓挫しています。敷地内にある活断層問題や、新設への資金問題もあり、断念することになるでしょう。また山口県の上関原発は、地元が30年以上も根強く反対していて、敷地の整地は行われていますが、建設には入っていません。2基建てる予定ですが、新しい基準に適合させるためには許可申請の出し直しになり、敷地が狭いために海を埋め立てて原子炉と建てるという無謀とも言える計画です。建設費も合わせて1兆円を超えるでしょう。また、福島第一原発事故後には、周辺自治体全てがこの原発計画に反対するようになりました。将来的に、電力需要の面から原発の必要性が見込めず、投資回収も困難という状況に加え、周辺自治体の合意も得られていない中では、電力会社としては上関の新設は難しいでしょう。

 一方、青森県の大間原発は経済産業省の強い意向があり、建設がもう始まっています。ただ、まだ工事は30%台しか進んでいないので、止めることが可能です。また、函館市が大間原発の差し止めの裁判を起こしています。地方自治体が裁判に訴えるというのは異例で、全国で初めての事例として、重要な意味を持ちます。裁判の行方によっては運転を差し止める判決の可能性もあります。建設コストは以前よりもはるかに上昇しており、電力各社が高いコストの電気を買い続けることは、自由化でコスト競走が激化する中では難しいでしょう。

 大間原発を運転せずに他の施設に転用していくことの方が将来的に合理的と考えています。ただ、経産省としては核燃料サイクル[注]を維持するために青森県の六ヶ所再処理工場を動かし、そこで再生される燃料を大間で使うという計画を捨てていません。とはいえ、六ヶ所再処理工場は1993年に建設が始まっていますが、完成の目処がまだ立っておらず、高速増殖炉もんじゅと同じように断念される可能性は高いと考えられます。

 事故前に九州電力が川内原発の増設を計画していましたが、いまでは全ての周辺自治体が増設に反対しており、計画の続行は合意を得ることもコスト面からも困難です。
 17年10月衆院選の選挙公約でも原発拡大を公約した政党は一つもなく、自民党だけが維持路線です。これには新設なども含まれるのですが、他の政党はすべて新設を認めていません。このような政治状況と実際の建設コストなどの面から考えて原発の新設が行われることはないでしょう。

[注] 核燃料サイクルとは、原子力発電を維持するための核燃料の流れ。原発で使用した後に出る放射性廃棄物を処理し、再度、燃料として使えるようにする等、核資源を有効に利用するための体系。

──原発の運転差し止め訴訟が行われていますが、稼働や審査に影響するのでしょうか。

 ほとんどすべての原発で運転差し止めの民事訴訟が行われています。福井県の大飯と高浜原発について、地裁では原告勝訴の判決が出ました。現在、高等裁判所で係争中です。新しい規制基準でも事故を回避することができないという判決が出たことは非常に大きなインパクトを持っています。これまでの原発をめぐる裁判というのは、伊方原発の最高裁判決が土台になっていて、その大きな骨格が審査の過程で重大な見落としがなければ「国の裁量権を認める」というものだったからです。つまり「専門家を総動員した原子力規制委員会が作った基準に適合するならば不合理とは言えない」という考え方です。

 しかし、原発事故が起きてしまったので、これまでの司法のあり方を見直すべきではないかという意見があり、最高裁で研究会が開かれました。そこで司法としての事故に対する責任を感じ、国の裁量権にお任せという形を見直し、適合性審査の内容に踏み込んで判断すべきではないかという議論がされました。これまで同様で進むべきと、意見が分かれていましたが、その研究会に参加をした裁判官の何人かは、運転を差し止める判断をしました。事故後はこのように、裁判所の中の雰囲気が少し変わってきています。今後、民事訴訟では、実際に事故が起きたらどうなるのかということまで論点になるので、いくつかの勝訴判決が出ることが期待できます。

 また、審査合格が出された原発に対しては運転を止める仮処分の申立てが行われています。高浜原発は再稼働しましたが、仮処分決定により再び停止しました。ただ、その後に決定が覆ったことによって再稼働しています。仮処分申立てはすべての審査合格に対して行われることになっており、この行方も注目されます。

[編集部追記] 17年12月13日には、伊方原発3号機の運転差し止めの仮処分を広島と愛媛の住民が求めた即時抗告審で、広島高裁は四国電力に18年9月3日までの運転差し止めを命じた。高裁レベルでの差し止め判断は初めて。

◆◆ 「世界一厳しい」には到底及ばない日本の規制基準

──新しい規制基準で、電力会社に具体的に求められていることは何ですか。

 まず、重大事故の想定とそれに対処するための施設を作ることが義務付けられました。これは制御室本体が使えなくなっても、事故に対応できるよう第二制御室としての機能を備えている施設です。また津波対策として防潮堤の設置や原発建屋の扉を水密扉にして水が侵入しないような対策なども実施されています。この他に、移動式の電源車や給水車、冷却水確保のための水槽などが必要になりました。内部では、耐震補強の工事、炉心溶融により発生した水素を再結合させる装置を設置したり、ディーゼル発電機の一部を地下から建屋上部に移すなど、それなりに強化された面はあります。しかし、活断層評価や火山評価、また「大型航空機の意図的な衝突」への対応などまだまだ不十分な点もあります。

 日本の規制基準で大きな問題の一つは、「事故が起きても周辺の住民への被ばくは一定程度に抑えなければならない」という立地基準をなくしてしまったことです。福島第一原発事故が起き、半径30キロメートル、場合によってはそれ以上の広範囲で、避難しないといけなくなりました。そうすると現行の立地基準を維持していたら、広大な非人口地帯を作る必要が出てくるので、立地基準自体をなくしてしまったのです。

 また、国際基準に合わせられないでいる点として、災害対策があります。アメリカでは事故が起きた時に住民の被ばくを抑制するためのきちんとした防災計画があることが規制基準の一つとして求められています。しかし、日本の規制基準から外されてしまっています。防災対策がないがしろにされているにもかかわらず「日本の基準は世界一厳しい」などと言っているわけです。

◆◆ 鍵となるのは「コスト」と「運動」

──資源エネルギー庁の調査会で2015年に発表された試算によると、「原発の発電コストは1キロワットアワー(kWh)当たり10.1円」となっていますが、この数字をどう理解すればいいのでしょうか。

 この価格は他の電源に比べて遜色がないように、細工がされた計算上の数字であり、実際のコストではありません。10.1円という試算には事故コストも入っていますが、当初5.7兆円という評価だった福島第一原発事故の損害は、15年の評価の時点では11兆円で再計算されました。ところが、2017年1月の見直しで、廃炉、損害賠償、除染などで22兆円になり、それで済む見通しもありません。50兆~70兆円に達するという評価もあり、事故コストは上昇する一方でしょう。

 さらに、コストの分母となる発電量ですが、これは原発を2010年の発電実績で40年間運転する発電量を基にして計算しているのです。今後、廃炉になる原発が増えていく中では、分母は減るばかりであり、事故コストは両面からいっそう高騰することになります。その結果、どんな電源よりも高くなるでしょう。

──原発が将来にわたって、動き続けるということはないと思うのですが、日本の原発が止まるとすると、どういう理由が考えられますか。

 電力会社にとって一番大きいのはコストの問題です。これまで、投資回収ができないと見込まれたものから廃炉が決定しており、原発が将来的に先細りになるのは確実です。

 脱原発運動を進めていくにあたって有効なことの一つは、規制委員会に対して合格判断に異議を唱えて、基準強化を求めていくことです。事故を起こせばその被害は私たちに及ぶのですから、安全対策強化は当然のことです。これが、結果として安全対策費の増額という形で電力会社を追いつめていくでしょう。原発立地地域で独自の安全検証を求めていくことも重要です。新潟県の「事故の検証が終わらなければ、再稼働を認めない」という姿勢も、地元の反対運動に支えられてのことです。また、鹿児島県でも安全性を問う委員会を設置して以前よりも厳しい姿勢で、九州電力に臨むようになりました。

 もう一つ有効なのは、防災計画を争点にすることです。誰の目から見ても、事故が起きた時の防災対策ができていないことは明らかです。これを30キロメートル圏内あるいはその外まで含めて問題にしていけば、簡単には再稼働に合意できない雰囲気をつくっていけると思います。立地自治体同様の安全協定を求める自治体を拡大していくことも大事です。運転再開には地元の合意が不可欠なので、再稼働の大きなハードルになります。地元合意がなかなか得られず、運転再開の見通しが当分得られなければ、電力会社の経営に影響してくるので、廃炉への判断につながっていきます。

 原発に代わる電源として省エネルギーや再生可能エネルギーを増やすために、電力会社を再エネ中心の事業者に切り替えていくことも脱原発を迫ることにつながります。地元が再稼働に積極的なのですから、原発に依存しない地域おこしを考えていくことも大切です。

 自分たちのできるところから、柔軟な発想で多面的に脱原発の運動を進めていけば、脱原発の時期をうんと近づけることができるでしょう。
 (構成・大芝健太郎) 

<プロフィール>
伴 英幸 Hideyuki BAN
原子力資料情報室 共同代表・事務局長
生活協同組合専従、脱原発法制定運動を経て1990年より原子力資料情報室スタッフ。1998年より共同代表。著書に『原子力政策大綱批判―策定会議の現場から』(七つ森書館、2006)。

※この記事は著者の許諾を得て社会運動429号から転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。なお文中にあります審査中だった柏崎刈羽原発2基が17年12月27日に「適合」となってしまいましたので追記致します。

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