■【北から南から】

  1.深センから 『中国ゴミ捨て事情 』 (その二) 佐藤 美和子
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※今回は、ちょっぴり『汚話』です。お食事時には読まないで下さい。

先月の続きです。
それから10年後。今度は広東省にやってきました。
当時の私の勤め先では、数千人もの従業員に一日三食を提供していたので、社
員食堂では毎日大量の残飯がでます。肉・魚の骨や食べ残しなどは各人が残飯入
れのバケツにあけ、食器を空にして窓口に返すことになっていました。そうやっ
て集めた残飯は、そのまま焼却でもされるのだろうと思っていたのですが、ある
時、中国では大量の残飯は売れるということを知りました。

近隣の農家の人が毎日朝晩、残飯を買い取りにくるそうで、農家ではそれを豚
のエサにするのだと聞いて驚きました。豚肉料理の食べ残しが入っている日は、
豚さんたち共食い?!なんてことはさて置き、豚が食べられるとは思えない硬い
骨や唐辛子に大量の油、さらに手を拭いたり鼻をかんだりしたティッシュまで!
従業員たちがポイポイと残飯入れのなかに捨てていたからです。

紙くずや、ポケットティッシュが入っていたビニール袋だって、一緒くたにして
残飯入れに捨てちゃう人もいます。えっ、そんなものを与えたら、豚はお腹壊す
よね?間違ってビニールなんか食べたら、豚は腸閉塞を起こしちゃうんじゃな
い???

豚の健康が心配になって何人かの従業員に聞いてみたのですが、さぁ、豚は悪
食で何でも食べるからいいんじゃないの?と、まったく取り合ってくれません。
豚のエサになることを知っていながら、ビニールゴミを一緒に捨てることに少し
も違和感を覚えない彼らに、私はまた一人、驚くのでした。

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そしてこれも同じ頃、隣町へ行くためにバス停でバス待ちをしていて目撃した
ことです。左右の後輪に、大きな縦長の樽型容器を二つ括りつけた自転車が、バ
ス停の道路向かいにやってきました。広東省の田舎町でよく見かける、残飯集め
をしている人です。

バス停の道路向こうにはレストランや商店が並んでおり、それらの店では自分
の店前の路上に、ゴミ袋をぽいっと放り出してあります。どうやらその周辺では、
共同のごみ捨て場が決められていない模様です。残飯集めの人は、そんな路上に
放置されているゴミ袋を一つ一つ開け、中身を漁り始めました。

発泡スチロールの弁当容器があれば、その中の残飯を自転車の樽型容器に集め
ます。果物の皮も収集します。そして欲しいもの(残飯)だけを集めたら、スチ
ロール容器や紙ゴミなどは元のゴミ袋に入れなおして片付けることもなく、不必
要なものはその場にぽいっ。かくして、最初はゴミ袋に入ってまとめられてあっ
たゴミが、路上に散乱してしまいました。

10分後、また別の残飯収集人がやってきました。すでに散らかったゴミの有様
から、彼が出遅れたことは明らかです。しかし諦めきれないのか、ゴミ袋をひっ
くり返して路上に中身をぶちまけ、さっきの人よりもっと念入りにゴミチェック
を始めました。

 ぶちまけた中から、残飯と何かの汁が少し路上にこぼれ出てきたのを見つけた
彼は、そばの街路樹から大きな木の葉を折り取り、それをスプーン代わりにして
残飯を掬い集めます。集めている最中に、自分の手が残飯で汚れたのでしょう。
彼は街路樹の幹に汚れた手をこすりつけると、次のゴミを探しに去っていきまし
た。そして路上に散乱したゴミの有様は、見ているだけで吐き気がするほど酷く
なってしまいました。

そこに通りかかる車は、お構い無しにタイヤで散らばったゴミを踏みつけてゆ
くので、ますますゴミは広範囲に広がっていきます。そうして私がじーっと観察
していた数十分もの間、行きかう人は誰もそのことに気を止めないようでした。
きっと、そこに住む人々には日常のことになってしまっているのでしょう。中国
で街を歩いていると、しょっちゅう悪臭が鼻を突くわけがよく分かりました。

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2~3年ほど前からでしょうか。
日本のメディアでも、中国の『地溝油(下水油)』のことがニュースで取り上
げられるようになりました。地溝油とは、下水や残飯などを加工して抽出した油
のことで、呆れたことに、これが食用油として市場に出回っているのです。

中国のスーパーでは、2.5~5リットルの巨大な容器に入った食用油が売られてい
ます。一般家庭が5リットル入りを普通に購入するのですから、毎日もっと大量
に油を消費するレストランの中には、少しでもコストを下げるためにコッソリ安
い地溝油を使っている店があるのだそうです。

また、企業の購買部門スタッフによる不正も、驚くほど日常に行われています。
従業員食堂がある会社や工場では、毎日調達しなければならない食材は大量で
多岐に渡ります。食材の中でも大量に必要なコメと油が、最もそういった不正に
うってつけなのだとか。

例えばコメの場合、販売会社と結託して伝票にかかれたものよりワンランク下の
ものを納入させ、浮いた差額を購買担当者が懐に入れるのですね。油も、有名
メーカーの食用油の空きボトルに地溝油を詰めたものを納入させ、正規商品を購
入したように見せかけてやはり差額を担当者が懐に入れるのです。

ニュースによると、広東省東莞市ではこれまでにたくさんの地溝油を生産(と
言っていいのか?)していた密造所が摘発されました。材料となる残飯は、家畜
のエサにするからと農家の人を装って購入していたそうです。当時、私がてっき
り農家の人かと思って見ていた残飯収集人たちの戦利品も、恐らく下水油にリサ
イクルされていたのだと思われます。

私は東莞に住んでいた当時、同僚の中国人従業員たちと共に、しょっちゅう安
食堂で食事していました。下水油密造所がたくさんあった東莞で、しかもラーメ
ン一杯を3元(当時のレートで約48円)、ショーロンポーひと蒸籠1元(16円)で
食べさせるような安食堂や屋台店が、今にして思えば値段の高い正規の食用油を
買っていたはずもなく……。私、これまでにどれ程の下水油を摂取しているので
しょう?

ティッシュやビニールゴミ入りの残飯を食べさせられる、豚さんの心配をして
いる場合ではありませんでした。まさか、回りまわってそんな残飯が、自分の口
に入っていたかも知れないだなんて!考えれば考えるほど気持ち悪くて吐き気を
催すので、もうこれ以上、考えるのは止めることにします。胸の悪くなるような
お話、大変失礼いたしました。

            (筆者は中国・深セン在住・日本語講師)

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