■【北から南から】
中国・深セン

『中国スパ施設・女子更衣室生中継事件』 佐藤 美和子  

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 インターネットニュースを見ていた今月初旬のある日、ぎょっと驚く中国のニ
ュースを発見しました。事件の舞台は、私が住む深セン市に隣接する東莞市。市
の中心部にある、屋内プールを有する大型スパ施設で発生した珍事件です。

 このスパでは、男女更衣室を含む館内のあちこちに、防犯目的の監視カメラを
設置していました。設置するだけならまだ話はわかるのですが、なんと女子更衣
室のものを含むそれらの画像は、スパ玄関ロビーの大画面TVモニターにて、モ
ザイクなし生中継されていたというのです。

 女性客の中には、更衣室に監視カメラが付いていることを知っている人もいま
した。しかしロビーで映像が公開生中継されており、しかも男性利用客らがそれ
をガン見、無料でストリップショーを楽しんでいるということまでは殆どが気付
いていなかったようです。

 実況中継の事実と、それを楽しむ男性客らの姿に気付いた1人の女性客が、こ
の件をとある新聞社に垂れ込みました。一般市民が問題を告発する場合、新聞社
やニュース番組などの報道機関に情報を持ち込み、ニュースや記事に取り上げて
もらうという方法が中国ではよく使われます。一市民が相手方へ直談判しても、
たいてい相手にされません。それどころか、問題を公にされたくない相手方によ
り、下手をすれば逆に脅迫や暴行といった被害を蒙ることすらあるのです。

 案の定、このハレンチな問題は大きく報道されました。しかし、それでもスパ
の責任者は記者のインタビューに対し、「あれは、防犯のための措置なんです。も
うこのやり方で2年経ちますが、これまで女性客からクレームを受けたことなん
て殆どありませんしね」と言ってのけたそうです。更衣室を盗撮し、あまつさえ
一般に公開してしまうことになんら疑問を感じないとは、どういう思考な
のでしょう???

 ここからはちょっぴり余談ですが……。
 更衣室での女性たち、中国と日本では少々雰囲気が違います。日本では小中学
校のプール授業は必須ですし、また温泉やスーパー銭湯、スポーツジムなどの利
用も一般的です。そのため、我々日本人女性はそういう共同スペースでの着替え
に慣れていて、タオルや衣服、または開けたロッカーの扉などを上手く利用して、
なるべく肌を人目にさらすことなく着替えるすべを習得しています。

 しかし中国では、腰にタオルを巻いてこそっと着替えるような人はあまり見か
けません。学校で水泳授業を受けた人やスイミングスクールに通ったことがある
人はごく稀で、人前では隠しつつ着替えるという習慣がないのです。同性同士な
のに、何を恥らうのか?と思うようです。大らかというか豪快というか、自宅で
入浴するかのごとく、すっぽーん!と脱いで、堂々と着替えちゃいます。

 ところが不思議なことに、友人知人が一緒だと、豪快な中国人女性が途端に思
春期の少女と化することがあります(笑)。なぜだか温泉やトイレへ友達と一緒
に行くことを、妙に激しく拒否する人がけっこういるんですよね。そんな彼女ら
が出先でトイレに行きたくなったら、同行の友達とは順番に女子トイレに入りま
す。トイレの個室の前で待って順番に個室を使うのではなく、女子トイレという
空間自体に、友達と同時に入るのは恥ずかしくて嫌だという人が意外といて、驚
かされました。羞恥を感じるポイントは、どうやら日中では微妙に違っているよ
うです。

 余談ついでに、もう1つ。日本人男性たちから、中国の男性用サウナや銭湯な
どでの様子を何度も聞いたことがあります。なんでも中国人男性もやっぱり豪放
磊落で(笑)、タオルで前を押さえる人は皆無、むしろ堂々と誇示するかのよう
な歩き方をするんですって。なので、前を隠しているとすぐに日本人だと分かっ
てしまうそうです。

 実は私、もう7~8年ほど前のことなのですが、このスパを何度か利用したこ
とがあるのですよ。東莞市内に住んでいた当時、大きなスパがあるのを知り、ま
ず下見に出かけました。なにより私が一番気になるのは衛生レベルなので、プー
ル、各種温泉やジャグジー、サウナに更衣室を見せてもらいました。目視による
衛生レベルは、日本で言えば昔の公営の市民プールといった感じで、私的には合
格点とまではいかないまでもギリギリ許容範囲だったので、たしか3~4回ほど
泳ぎに行ったと思います。

 また、中国のロッカーでの盗難の多さもよく聞いていたので、私は予め確認し
ておいたスパ利用料プラス交通費程度の小銭だけ持って行きました。中国では、
コインロッカーのキーを黙って持ち帰ってしまう人がけっこういるのです。いつ
まで経っても空かないロッカーは、仕方がないので運営側がスペアキーを出して
きて、またそのロッカーを使えるようにします。

 そして後日、誰かが該当ロッカーを利用していると、以前キーを持ち帰った人
がやってきて、中の他人の荷物を誰に疑われることなく自然に盗んでいくのです。
私、実際にスーパー併設のコインロッカーで、その被害に遭ってもめている現場
に行き当たったこともあります。残念ながら、中国ではたとえ鍵をかけても、安
全とは言えないのです。

 当時の私はもちろん、監視カメラのことは知りませんでした。ところが、思わ
ぬところで監視カメラの存在を知りました。ある時、ウチの相方と一緒に泳ぎに
行ったときのことです。帰りの道すがら、相方が大爆笑しながらこんなことを言
っていたのです。
 
 「さっき更衣室で着替えていたら、なんか血相変えたスパの従業員が更衣室に
飛び込んできてさ。すごく迷惑そうな顔で、そこに立って着替えるのは辞めてく
ださい!って言うんだよ。丁度僕が立っていた位置の正面に防犯カメラがあるも
んで、さっきからずーっと僕の大事なところが大映しになっていたんだってさ。
監視モニターをチェックしている従業員、ずっとそんな画像を見せられていたん
じゃあ堪らないよな。更衣室の、しかもそんな微妙な位置にカメラが付いている
なんて、ほんとビックリだよ(笑)」

 聞いていた私にすれば、ありえない程の仰天事件でしたが、相方は顛末を話し
つつも、大爆笑。うーん、この辺は男性と女性の違いなんでしょうか?

 いずれにせよ、私は小さな頃からのスイミングスクール通いや学生時代は水泳
部に所属していたこともあり、水着の着替えは手馴れたもんです。たとえ女子更
衣室にもカメラが付いていたって、人様に見られる恐れはありませんが、やっぱ
り薄気味悪く感じてそれ以来、足を運ぶことはありませんでした。

 そしてあれから何年も経った今月、あのスパが今では更に、生着替え公開実況
中継とパワーアップしていることをニュースで知りました。よくこれまで何年も
の間、問題にならなかったものです。

 相方にそのニュースの話をしたところ、
 「あぁ、それでだったのかー。いやこの間、あのスパの前を通りかかった時、
やけにたくさんのパトカーが停まっていてさ、何があったのかと思っていたんだ。
え? 僕も昔、盗撮された? なにそれ、そんなことあったっけ?」

 相方は、自分も被害に遭っていたことを、綺麗サッパリ忘れていました。この
薄い反応といい、実体験の忘却といい、これって性差で済むハナシですかねぇ??

 その問題のスパですが、なんとわずか2日の営業停止ののち、すでに営業を再
開しているそうです。「TVモニターや監視カメラの録画記録は、公安(日本の
警察に相当)が押収していったから再開しても問題ない」って、そういう問題な
んでしょうか。

 監視カメラは撤去しないが、そのモニター映像を一般に公開するのは止めたと
のこと。そして映像はパソコンのハードディスクに記録しておくだけにとどめ、
トラブルがあった時のみ、録画したものを利用することにした――ハァ~、やっ
ぱり実況中継だけでなくて録画もしていたんですね……。そのうちインターネッ
ト上に録画したものが流出して、またこのスパはニュースネタを提供しそうな気
がします……。
           (筆者は中国・深セン在住・日本語教師)