【オルタの視点】

中国政治から米中ロ関係を考える

朱 建榮


 日本外相の4年ぶりの訪中と3時間半に及ぶ会談、李克強首相が岸田外相と会見した時に語った前向きで実務的な話。日中関係は再度真っ向からの衝突を起こしかねない深淵の手前で踏みとどまったような気がする。王毅外相がカメラの前で無表情を貫いたのは国内向けのポーズであろう。彼はまた日本側に4項目の「希望と要求」を出したが、「歴史の反省と『一つの中国』政策の厳守」「『中国脅威論』と『中国崩壊論』の自粛」「中国と対等な姿勢で協力推進」「国際社会で中国への対抗心を捨てよう」という内容を見ると、台湾の政権交代を前に、台湾問題を慎重にせよ、との牽制以外は「前提条件」を突きつけるのではなく、日中の真の改善は日本の対中観の修正がなければ、限界があるとの注文を付けたものと思われる。中国の日本観に歪みが多いが、日本の中国観にも偏見、時代遅れの固定観念が少なくない。確かに先入観を捨てた真の相互理解が信頼の基盤になる。

 この間、中国政治に多くの動きがあった。習近平主席を絶対的な指導者に押し上げようとする動きが活発化し、一方、習近平の辞任を要求する文書が連続2回、内外で発せられた。「パナマ文書」に、中国高官の親族の名も挙がっており、その影響はどうなのかも注目されている。米中関係について、南シナ海問題だけがクローズアップされ、間もなく戦争・衝突かとばかり騒がれる(ひそかにそれを期待する人も)が、実はその背後に、米中ロを巻き込んだ複雑な「三国志ゲーム」がここ数カ月繰り広げられており、米中間が相互の市場開放に大幅な進展を見せる可能性(BIT交渉)も現れた。米中関係をより大きなスパンで捉える必要がある。今回は中国政治関連の動きを中心に、米ロ中関係も加えて、日本国内からはなかなか見えにくいマクロと水面下の動きについて、注目記事を紹介しながら検証してみたい。

◆◆ 一、中国政治の風向きの大変化

●3月の全人代が変わり目

 正直に言って、つい最近までの中国政治の一連の動向を重苦しく見守っていた。「習大大」(習近平オヤジの意味)、「彭麻麻」(彭麗媛夫人をお母さんと呼ぶ地方の方言)といった表現が氾濫し、総書記を賛美する歌曲、毛、鄧、習の3人が並んだバッジまで出現し、個人崇拝の風潮と言われても仕方がない動きが次々と現れた。ところが、3月に開かれた全人代を境に、「風向き」は明らかに変わった。

(1)多維新聞網 160330 中国現個人崇拜苗頭 朝野反應激烈 http://china.dwnews.com/news/2016-03-30/59729076.html
 米国を拠点とするこの中文の時事問題サイトで、この注目される記事が掲載され、その中で、今年3月まで現れた一連の個人崇拝の「兆候」を挙げた上で、次のような分析が行われた。

 一、個人礼賛の背景:1、新しい指導者の権威を固める必要性、2、胡錦濤時代の意思決定の混乱と貫徹のなさに対する反動の行き過ぎ、3、宣伝部門の問題、4、社会的問題
 二、ストップがかかった原因:1、個人崇拝の動きが確かに現れたことへの警戒、2、核心意識の強調過ぎと党の報道機関の引き締めに対するブレーキがかかり、3、反腐敗闘争が国民の生活向上に結び付かなかったことにも不満が現れ、4、複数の要因がこの時期になって表面化し、それが個人崇拝の趨勢に対する「抑止力の合流」となった。
 三、この流れに沿って、3月末に出版された中央党校主宰の『学習時報』紙の記事では毛沢東時代の「個人崇拝」に対する批判の内容が掲載された。3月4日と29日、習近平批判の「怪文書」も出た。真相は分からないが、指導部内の権力闘争の産物ではないことは明らかになった。そこで、指導部は内外の批判や圧力を意識し、4月に入って、「団結」と「集団指導」を意図的に強調しつつ、一定の軌道修正を見せた模様だ。

 続いて次の記事を紹介したい。
(2)明報新聞網 160422 中宣部下令 「權威」表述要規範 禁稱習大大 遏個人 崇拜風 http://news.mingpao.com/pns/dailynews/web_tc/article/20160422/s00013/1461261465082
 これによると、4月に入って、党中央の指示文書が各部門に下達され、「習近平同志を総書記とする党中央」などの公式表現に対して、「勝手に」増減・修正を加えてはならないことが要求された。習近平主席を「習大大」と呼んではならないとの中央宣伝部の指令も出された、という。今年初めから、「習大大」の表現はよくないとの指示があったそうだが、ほかの礼賛の動きが続く中、その表現は継続された。4月に至って、中央宣伝部の明確な指示により、その表現は完全に姿を消した。今度は本気だ、とのニュアンスが伝わったようだ。

 確かに、4月に入って、中国国内では、「規則・ルール重視」を強調する動きが強まった。
(3)人民網 160419 王岐山出席加強中央紀委派駐機構建設工作培訓班開班式並 講話 http://politics.people.com.cn/n/2015/0419/c1024-26868513.html
 これは4月中旬に開かれた中央規律検査委員会の研修会開幕式で、「反腐敗闘争」の推進責任者であり、習近平氏の右腕でもある王岐山氏が長編演説を行った。その演説の録画が以下のサイトに出ている。
(4)“王岐山書記在加強中央紀委派駐機構建設工作培訓班開班式上的輔導報告”2015年4月13日 https://www.youtube.com/watch?v=yWJWCoVYF_Q
 その内容について、ネットで以下のように要約された。
 かつて我々に輝かしい時代があり、屈辱もあった。現在、我々が新しい輝かしい時代を迎えているが、危機も一番迫ってくる時期だと、歴史が教えてくれる。数年前の胡錦濤時代はやはり危なかった。今は反省を進めている。過去の過ちを二度と繰り返してはならない。今回の反腐敗闘争はキャンペーン(運動)方式ではなく、派閥権力闘争でもなく、長期戦略のために必要な地ならしだ。との趣旨だ。

●習近平氏は「包容と寛容」を提唱

 中国の著名な企業家で、大手不動産会社会長、北京市政協委員も務める任志強が2月末、自分のブログで習近平主席が語った「党媒姓党」に異議を提起した。一時期、すべての発言が封じ込められ、政府系メディアで1週間にわたって、彼に対する厳しい批判が行われた。しかし全人代が開幕後、批判はぴたりと止まった。王岐山氏が習近平氏にそれを進言したとも言われるが、「王岐山と関係なく、文化大革命方式の批判の停止を指示したのは習近平だ」と、以下の記事で伝えられた。
(5)世界新聞網 160309 大批判任志強 傳習近平震怒叫停 http://www.worldjournal.com/3810294/article-%E5%A4%A7%E6%89%B9%E5%88%A4%E4%BB%BB%E5%BF%97%E5%BC%B7-%E5%82%B3%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3%E9%9C%87%E6%80%92%E5%8F%AB%E5%81%9C/
 5月に入って、任氏に対して、「間違った言論で党の政治規律に反した」として「観察1年」の処分が下された。それも「言論封鎖」の現れだと海外で解釈されるが、共産党員の任氏が公の場で総書記を批判したものだから、一応、どこの国の組織・機関でも「けじめ」をつける必要があったのだろう。1カ月前の剣幕に比べ、よくもこれで済んだと言ったほうがいいのかもしれない。

 一方、4月に入って、習近平主席は相次いで、「善意に基づく批判なら歓迎する」「ネットの言論に寛容と忍耐で対処せよ」旨の発言をしている。たとえば、以下の動きである。
(6)新華網 150425 習近平 419 在網信工作座談會上的講話全文發表 http://news.xinhuanet.com/politics/2016-04/25/c_1118731175.htm
 4月19日に開かれた「ネットの安全と情報化」に関する座談会で習近平主席は長編講話を行い、それが一週間後、全文発表された。その趣旨について、習近平氏の考えをもっとも権威的に伝えている「学習小組」の微信は以下のように10の要点をまとめた。
(7)學習小組 160419 習近平主持網信工作座談會的10大信息點! http://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MjM5NTEyNjUwOA==&mid=2653011901&idx=1&sn=97782174e4e4cf6666e0fca96f723bb0&scene=1&srcid=0419AsiTn69IpQ7TgMqObP5q
 要約:
 1、創新、協調、グリーン、開放、共有の発展理念に基づいて我が国の経済と社会の発展を進めることは今後も「総要求」「大趨勢」である。
 2、党機関と幹部はネットでの「大衆路線」を進め、「頻繁にネット記事に接せよ」と要求。
 3、様々なネットユーザーに寛容と忍耐をもって対応し、建設的な意見の吸収、不満の解消、誤った見方を正しい方向へ誘導するなど六つの「迅速な対応」を要求。
 4、ネットによる体制への監督意見を「歓迎し、真剣に研究し、吸収せよ」。(以下略)

 続いて4月26日、習近平主席は安徽省の視察中に、知識人の代表などを集めて講話し、「堅持不抓辮子、不扣帽子、不打棍子」(難癖を付けず、レッテルを張らず、打撃をせず)と約束した。
(8)新華網 160429 習近平:緊跟時代肩負使命銳意進取 為共同理想和目標團結奮鬥 http://news.xinhuanet.com/politics/2016-04/29/c_1118774666.htm
 この講話は明らかに、少し前まで、知識人が普遍的に感じた心理的圧力と任志強事件を意識して、党幹部は知識人に対して、「より多くの包容と寛容を示し」、「知識人の多様化の思想を尊重」との方針を示したものだ。その軌道修正の意味を解説したのは以下の記事である。
(9)多維新聞網 160429 習近平為知識分子松綁 言論監督迎陽春 http://china.dwnews.com/news/2016-04-29/59735852.html
 もちろん、これらの講話があるだけで、中国の知識人はすぐそれをそのまま鵜呑みして信用することに至らない。習近平政権の政策転換は本物か、一時的なものか、みんな見極めようと注目している。

●様々な「異論」が表面化

 ただこの間、1カ月前までは考えられなかった「異論」が中国の学者から提起され、中国のネットで広く伝わっているのも事実だ。
(10)新浪博客 150411 張千帆 言論自由及其界限―張千帆老師談畢福劍事件 http://blog.sina.com.cn/s/blog_608b325b0102vsfx.html
 CCTVの名キャスターだった畢氏が友人同士の食事会で当局を批判したことが追究されたが、それは罪になるかとの1年前の問題提起だったが、ちょうど事件の1周年に際し、北京大学教授張千帆による「異論」はネットで広く伝わった。

(11)ブログ160401 賀衛方:王立軍庭審報道讓人很害怕 http://weibo.com/ttarticle/p/show?id=2309403963891376859375
 3月末、薄煕来事件の引き金になった王立軍に対する裁判が行われたが、それに関するこの新華社の報道に、同じ北京大学の賀衛方教授が噛みつき、「ぞっと」するとの違和感を隠さずに表現した。

(12)法制日報 160420 温州国土局不懂的並非只有物權法 http://www.legaldaily.com.cn/commentary/content/2016-04/20/content_6593770.htm?node=34252
 土地の使用権が一部期限切れの時期を迎え、温州市政府は高額の「契約継続金」を提示した。それは民衆の反発を呼び、中央政法委員会傘下の法制日報は温州国土局の対応を批判するこの論説を出した。

 一連の動きから見て、習近平氏は個性が強いが彼自身が個人崇拝を容認・推進しているとは言えないとのドイツ人学者の分析が出た。
(13)多維新聞網 160426 美媒:習近平搞個人崇拜?他只是更有個性 http://global.dwnews.com/news/2016-04-26/59734868.html
 英文:Is Xi Jinping Cultivating a Personality Cult? Or Just a Personality? http://www.forbes.com/sites/caseyhall/2016/04/26/is-xi-jinping-cultivating-a-personality-cult-or-just-a-personality/#6b55e8605a13

 北京の友人から、「習近平主席の治国理念はシンガポール・モデルを念頭に置いているのでは」との観察の結果を教えられた。確かに「スーパー・シンガポール」を構築しようとしているように思われるふしがある。一年前にBBCの中文サイトに掲載されたリー・クアンユーと習近平との比較の記事は最近になって、中国内外の中文メディア広く紹介されているので、ここでも付録しておく。
(14)多維新聞網 160410 從李光耀看習近平的執政風格 http://opinion.dwnews.com/news/2016-04-10/59731112.html
 有吧 160410 從李光耀看習近平的執政風格 http://news.have8.com/article/13380486.html

 文化大革命はこの5月で、勃発50周年を迎えた。それを美化する極左の幽霊は今日でもさまよっている。4月後半、文革の代表的人物戚本禹が死去したニュースが出ると、極左の人はネットで再び、文革賛美論を展開した。それを念頭に、外交問題で「タカ派」と呼ばれる清華大学の閻学通教授も講演で、「中国の台頭を阻害する国内の最大の問題は極左の思想だ」と語った。
(15)九派新聞 160423 閻學通:中国崛起最大的国内挑戰是極左思潮 http://www.jiupaicn.com/2016/0423/128607.html

◆◆ 二、「パナマ文書」のインパクト

●中国政府の対応は「拒否反応」から「内外を区別した対処」へ

 4月初め、世界各国の個人や企業が脱税天国を利用していることを暴露した「パナマ文書」が公表された。これをめぐる動きも、中国国内政治の風向きの変化に影響を及ぼしたようだ。中国の複数の高官の親族も絡んでいるとすることが海外でリークされると、中国外交部の洪磊報道官は当初、「憶測にコメントする価値がない」と一蹴し、政府系『環球時報』も「非欧米諸国の政治エリートに泥を塗る欧米の陰謀」と批判する社説を掲載した。国内のマスコミやSNSでは、「パナマ文書」は禁句になり、ネットでは当局を風刺する言説、漫画も出ては削除された。
 しかし、水面下で中国政治にも激震が及んだことは間違いない。
 4月8日になると、王毅外相は記者会見で、「中国は反腐敗闘争を進めており、パナマ文書に関してはまず確認する必要がある」と発言し、事実の確認と調査をしていることをほのめかした。
 実名が挙がった人のうち、故総書記胡耀邦の息子胡徳華だけが記者に対し、企業の香港上場と輸出入貿易を狙った運用を認め、すべて停止し、資金も残っていないことを説明した。習近平主席の姉の夫鄧家貴の名も連なったが、4月5日付香港紙『明報』は、中国企業家王健林の昨年の証言を引用し、かつて財産運用をした鄧氏は、習近平主席が就任前に家族や親類に出した厳しい要求に応じて、すべて関連企業を手放し、清算もしていることを報じた。
(1)明報新聞網 160405 領導人家屬被揭開離岸公司 習近平姊夫李鵬女兒 持港 人身分 http://news.mingpao.com/pns/dailynews/web_tc/article/20160405/s00013/145979226866

 これで習近平本人への批判につながらない方向が決まり、習近平指導部は一連の対策を主導することになった。

(2)世界新聞網 160408 巴拿馬文件延燒 習近平毫髮無傷 http://www.worldjournal.com/3891934/article-%E5%B7%B4%E6%8B%BF%E9%A6%AC%E6%96%87%E4%BB%B6%E5%BB%B6%E7%87%92-%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3%E6%AF%AB%E9%AB%AE%E7%84%A1%E5%82%B7/?ref=%E8%B6%85%E4%BA%BA%E6%B0%A3&ismobile=false

 中国国内の混乱を避け、「反腐敗闘争」の主導権を確保したい指導部はその後、パナマ文書関連の報道を依然抑えつつ、一連の対応措置を取り始めた。中央規律委員会の機関紙『中国紀検監察報』は4月12日と16日の連続2回で関連文章を掲載し、「党幹部の廉潔は家風(親族)にも及ぶべき」「家族も廉潔を保ち、腐敗防止の壁を構築せよ」と訴えた。

(3)中国紀検監察報160412 建設良好家風 促進黨風政風 http://www.ccdi.gov.cn/yw/201604/t20160412_77418.html

(4)中国紀検監察報 160416 家和萬事興 http://www.ccdi.gov.cn/lt/qfwy/201604/t20160416_77634.htm

 これは明らかに、パナマ文書で暴露された数人の大物政治家の親族問題を指し、お灸をすえたものと思われる。
 4月15日付の中国主要メディアは、李克強首相が先月の国務院反腐敗会議で行った談話を全文発表した。多くの新聞は「党指導幹部はよい家風を育てるべき」との見出しを付けて報道した。
(5)新華社 160415 李克強在国務院第四次廉政工作會議上的講話 http://www.ccdi.gov.cn/xwtt/201604/t20160415_77551.html

 海外中文メディアは、これらの動きは、李克強と王岐山が習近平主席を支持し、トロイカ体制を取って、政治運営を進めている現れだと、たとえば次の記事はそのように解説した。
(6)大紀元 160417 借巴拿馬文件 習李王壓倒劉雲山張高麗 http://www.epochtimes.com/gb/16/4/16/n7562184.htm

 4月18日に開かれた「改革の深化」に関する会議について、「李克強、劉雲山、張高麗も出席」との副題をつけて報道された。習近平指導部はパナマ文書を反腐敗闘争に慎重に利用しつつ、指導部内の分裂を招くような大規模な政治闘争に発展させたくない考えである、とのメッセージが伝わった。

●指導部は12項目の対策を決定

 その間の4月12日、上海市政府のサイトで、パナマ文書関連で習近平主席の家族対応を讃える「海外のブログ」を転載したが、直後、削除された。
(7)界面新聞 160412 境外博客:習總管教好子女和親戚沒? https://chinadigitaltimes.net/chinese/2016/04/%E7%95%8C%E9%9D%A2%E6%96%B0%E9%97%BB%EF%BD%9C%E5%A2%83%E5%A4%96%E5%8D%9A%E5%AE%A2%EF%BC%9A%E4%B9%A0%E6%80%BB%E7%AE%A1%E6%95%99%E5%A5%BD%E5%AD%90%E5%A5%B3%E5%92%8C%E4%BA%B2%E6%88%9A%E6%B2%A1%EF%BC%9F/

 削除の理由は説明されていないが、別のスクープ記事により、4月8日に二度目に召集された政治局常務委員会議で、「パナマ文書」への対応処置について海外と遮断し、自ら反腐敗闘争の主導権を握るとの方針が決定された。上海側の対処はそれに基づいたものであろう。
(8)環球實報 160408 巴拿馬文件震蕩未了 中共常委再議對策 https://hqsb53.wordpress.com/2016/04/08/%E5%B7%B4%E6%8B%BF%E9%A9%AC%E6%96%87%E4%BB%B6%E9%9C%87%E8%8D%A1%E6%9C%AA%E4%BA%86-%E4%B8%AD%E5%85%B1%E5%B8%B8%E5%A7%94%E5%86%8D%E8%AE%AE%E5%AF%B9%E7%AD%96-%E5%88%98%E4%BA%91%E5%B1%B1%E5%BC%A0/

 この記事は中国指導部内の考え方と対策を知るうえでかなり重要なので、その要旨を紹介しておく。
 まず、会議で劉雲山、張高麗が事情説明と自己批判を行い、続いて会議で以下のような12カ条の「近期緊急預案」が決定された。
 1.安定がすべてに優先する=軍隊の安定、人心の安定を図る
 2.パナマ文書の国内への流入を防ぐ
 3.国内の社会情勢に注意し、パナマ文書を使った社会の撹乱を防ぐ
 4.香港、マカオの安定を確保する
 5.海外の華僑、華人メディアへの働きを強め「アンチ中国」の活動を防ぐ
 6.反腐敗運動を強めて、党の方針に変わりがないことを民衆に信用させる
 7.党上層部の反腐敗運動を緩めず、「トラを叩く」テンポを適度に速める
 8.郭伯雄や令計画事件の審理を早め、早期に審理日程を定める
 9.メディア、特にネットメディアへの監視を強める
 10.国内の大手メディアの報道は「中国のイメージ再構築」に重点を置く
 11.政治局常務委員の活動や引退した常務委員の暮らしを報道させ、中国指導者のイメージアップを図る
 12.成り行きを見て、相応の措置をとる

 それ以後、現指導部主導の、指導幹部の家族のビジネス経営に対する厳しい措置が次々と打ち出された。
(9)人民網 160419 習近平主持召開中央全面深化改革領導小組第二十三次會議 http://cpc.people.com.cn/n1/2016/0419/c64094-28285555.html

 会議では、指導幹部の配偶者や子女とその配偶者のビジネス経営を規範化することは「全面的で厳格な共産党管理」の方針を貫徹する重要な一環であることが強調され、まず上海で「試点」(実験)を行い、続いて北京、広東、重慶、新疆に「試点」を広げる方針が決定された。この報道は地方政府のサイトでは「進一步規範領導幹部配偶子女經商行為」の見出しを付けて転載された。 http://lp.ss.gov.cn/zwgk/zfgg/201604/t20160419_5582445.html

 続いて指導幹部の家族のビジネス経営に対する規制に関する上海の「試点」の詳しい実施状況が伝えられた。
(10)人民網 160419 北京將規范官員配偶子女經商 上海去年已先試點 http://politics.people.com.cn/BIG5/n1/2016/0419/c1001-28286206.html

●習近平政権の弱体化はあり得ない

 筆者は実は昨年から、その関連で中国の指導幹部、役人の財産申告が強化された一連の措置とチェック体制の構築に関する動きを注目し、資料を集めてきた。ここで合わせて、関連の記事を紹介する。
(11)北京青年報 160127 抽查官員“家事”報告倒逼如實申報 http://epaper.ynet.com/html/2016-01/27/content_180488.htm?div=0

(12)北京青年報 160325 揭秘官員個人事項申報:少填20㎡房屋面積被退回重填 http://news.xinhuanet.com/politics/2015-03/25/c_127617209.htm

(13)現代快報 160223 官員個人事項申報“史上最嚴”一年抽查近44萬名幹部 http://news.sina.com.cn/o/2016-02-23/doc-ifxprupc9763877.shtml

(14)宋勝利的專欄的博客 160226 今年官員申報財産到底有多嚴 http://776830028.blogchina.com/2935588.html
(15)北京青年報 160324 全国領導幹部個人事項報告抽查比例提至10% http://politics.people.com.cn/n/2015/0324/c1001-26738354.html

 最近の風向き変化を踏まえ、来年秋の19回党大会に向けて、中国の政治と人事に一連の新しい動きと激しい駆け引きが予想される。ただその中で、習近平氏の指導力に関して言えば、筆者は「絶対的リーダー」になるのか、それとも「(集団指導体制の中の)相対的リーダー」になるのか、これをめぐる微妙な揺れ幅は依然存在しても、「習近平体制」そのものは動揺のしようがないと見る。日本国内ではいまだに、習近平体制の弱体化説ないし失脚説がまかり通り、それを前提に対中分析ないし政策決定を行う人が多いが、これまで何回もあったように、また希望的観測に終わるのが必至だ。それより、誤った情勢判断によって、企業レベルでも、外交レベルでも中国の勃興によるチャンスを再度見逃していいのかと聞きたい。
 4月25日、習近平主席は、40年近く前に農村改革が始まった安徽省の小崗村を視察した。VOAはその象徴的意義を重視し、習近平体制は再び、経済改革の深化に取り組む決意を示したと評した。
(16)VOA160427 習近平去小崗 釋放改革信號? http://www.voachinese.com/content/xi-signals-reform-20160426/3303975.html

◆◆ 三、共青団の落日

●批判の続出

 文革中、3分の2の幹部が打倒された。幹部と人材の空白を埋めるため、「第3梯隊」とともに、共青団が幹部育成(急造?)の揺りかごとして活用された。それによって「共青団人脈」が形成された。しかし、中国はすでに人材の断層期を乗り越え、各レベルの人材の育成、訓練、選抜のメカニズムもできた。そこで、共青団は幹部を輩出させてきた栄光についに終止符を打ち、近頃、転換点――落日の瞬間を迎えたようだ。
(1)大公網 160209 出身團系的這些高官暴露了問題 http://news.takungpao.com/mainland/focus/2016-02/3278390.html

 今年2月に中国政府系香港紙に掲載されたこの記事で、共青団幹部の「構造的欠陥」が次のように指摘された。
 要旨:共青団幹部の長所は若さと高学歴だが、欠陥は、現場の経験不足、足元がふらつき易いことだ。「ヘリコプター式の抜擢」により、その多くは大衆から乖離しているだけでなく、功を急ぎがちで、ないし投機的にそれを出世の近道と安易に考える人も一部いる。(中略)2012年の第18回党大会以来、共青団幹部の直接採用、抜擢の方針が変わった。

 そういえば、昨年夏、局長クラスの共青団幹部の「降格使用」が実施されたことに関する記事があった。
(2)大公網 150810 媒體:正廳級團幹“降格”使用釋放什麽信號? http://news.takungpao.com/mainland/topnews/2015-08/3112238.html

 この記事の中でも、共青団幹部の欠陥を意識した「降格」対策だったと説明されている。

 今年3月の全人代で、この動きを象徴するようなことが現れた。共青団の元中央第一書記で、黒竜江省長を務める陸昊氏は、記者会見で「黒竜江省の炭鉱で給料の遅払い、減俸は一切ない」と発言した直後、現地の有名な雙鴨山炭鉱の1萬人の労働者が4日間にわたって抗議のデモ行進を行い、「給料を払え」と要求する事件が起きた。これに対して陸氏は自己批判を余儀なくされた。彼の発言を弁護・同情する声は中国の要人やマスコミから一切出なかった。共青団人脈の構造的問題をシンボリックに示した一幕だとして、香港紙は以下のような厳しい解説を掲載した。
(3)東方日報 160315 不察下情說瞎話 陸昊仕途遇波折 http://orientaldaily.on.cc/cnt/china_world/20160315/00182_001.html。

 この中で、共青団幹部の普遍的な問題が指摘され、習近平主席は彼らに、「出世ばかり考えるな、後継者になる夢をもつな」と一喝した、とも披露した。

●共青団の命運を決めた「外科手術」の断行

 この4月に入ると、共青団に対する批判と対処の処置がついに公の動きになった。
(4)蘋果日報 20160423「割肉拆骨」式整治 團校取消招生 習近平斷共青團上位路 http://hk.apple.nextmedia.com/international/art/20160423/19582863

 その要旨は以下の通りである。
 共青団中央の編制を大幅に縮小し、中央(共青)団(学)校は今年、新入生を募集しないことが政治局常務委員会で決定された、という。(中略)胡春華が後継者になれるか、危うくなった。(中略)共青団は今後も存続するが、「共青団人脈」はもはや存在しなくなるだろう。

 共青団人脈のホープであり、次期政治局常務委員会入りが有力視されている、現広東省党書記の胡春華氏も最近、共青団の「官僚化、行政化、貴族化、娯楽化」などの諸問題を批判したと伝えられている。
(5)多維新聞網 160428 胡春華批共青團四化問題 要求看齊中央 http://china.dwnews.com/news/2016-04-28/59735487.html

 共青団の危機が生まれた背景、現状と行方に関いて、中国の著名なサイトでも分析記事が数日前に出た。
(6)中国選挙与治理 160430 北大:書記写書評 学生無稿発 http://www.chinaelections.org/article/202/241943.html

 この文の執筆最中、韓国紙の中文サイトに、共青団にメスが入れられたことに関する厚みある記事がアップされた。併せて紹介する。
(7)朝鮮日報網 160504 太子黨出身的習近平對共青團派拔刀 https://cnnews.chosun.com/client/news/viw.asp?cate=C01&mcate=M1002&nNewsNumb=20160544580&nidx=44581

 中国政治に関しても、経済同様、これまで30年間通用してきた見方、分析の方法論を変える時が来た。

◆◆ 四、米ロ中の「三国志ゲーム」

●中国は対米重視を再三に表明

 米中関係について、南シナ海問題、台湾問題などの対立点を抱えていること、同時に、経済、金融、温暖化、朝鮮半島問題などにおいて協力体制を組んでいることの二つの視点以外に、最近の動向からみて、別の二つの視点も提起したい。一つは中国が戦略的に米国をどのようにとらえ、対処しようとしているかを見極めること、もう一つは、米ロ中の三角関係による相互作用の視点の導入だ。

 中国は必死にロシアを抱き込んで反米しているとよく見られるが、実は、鄧小平が1979年に訪米した際、特別機の中で中国側幹部に対して語った言葉は今でも生きている。
 そのエピソードは多くのところで紹介されているが、ここでは中国の有名な学術サイトの記事を引用する。
(1)中國選挙與治理 120216 中國領導人訪美的五張經典照 http://www.chinaelections.com/article/649/223088.html

 鄧小平は、「これまで数十年の歴史を振り返ってみなさい。米国と関係がよい国々はいずれも豊かになった」、と語った。今、中国は世界二位の経済大国になり、GDPは米国の7割近く相当、購買力平価(PPP方式)では米国をすでに追い抜き、ドルベースでも急接近している。中国の猛烈な追い上げで米国はパニックに陥り、中国脅威論、中国陰謀論が盛んになっている。

 一方、何でも中国牽制に走る米国に対し、中国国内では連ロ反米の声が高い。米国に真意を伝えるべく、明らかに習近平指導部の指示を得て、2014年末に訪米した汪洋副首相が重要な対米メッセージを発した(新参考消息第20号で紹介したが、以下に再度引用する)。
(2)觀察者網 141218 汪洋:引領世界的是美國 http://m.guancha.cn/america/2014_12_18_303771

 「米国は世界をリードしており、米国が主導するシステムと規則に、中国は加入しており、それを尊重し、その中で建設的な役割を果たす立場である」という内容であり、「米国が主導する現存の国際秩序に、中国は挑戦する考えはない」とのメッセージである。

 ところが、米国はその後、中国に対して一段と疑心暗鬼に陥った。そこで、習近平主席の最も親しい外交ブレーンの一人傅瑩氏(元駐英大使、外務次官、現在は全人代外交委主任)は米国のエリートが読む「フォーリン・アフェアズ」誌の2016年1/2月号(15年12月発行)に、米ロ中の三角関係に関する注目の論文を寄稿した。
(3)参考消息網 151217 美國《外交》雜誌傅瑩署名文章:中俄結伴但非結盟 http://www.cankaoxiaoxi.com/china/20151217/1029959.shtml
 英文:How China Sees Russia Beijing and Moscow Are Close, but Not Allies https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2015-12-14/how-china-sees-russia

 この中で、「中ロ関係は安定した戦略的パートナーであるが、中国はロシアと正式に同盟を結ぶ考えはなく、いかなる形式の反米、反西側の連合も作るつもりはない」、「中ロ両国は今日もなお相違があり、外交の重点も外交スタイルも違う」と述べ、一方、「米中関係ははるかに幅が広く、また複雑である」と対比した。

●中国の米国寄りにロシアは不満を顕わに

 実はこの論文は米ロ中の三者の間で大きな波紋を呼んだ。ロシア側の学者ないし政府関係者は中国側に、傅瑩論文の意味するところを再三にわたって問いただし、不満もあらわにした。
 2月末、北朝鮮の核実験をめぐって米中両国は1カ月以上にわたって詰めた結果、国連安保理に空前に厳しい制裁決議の案を準備した。ところが、ロシアがイチャモンを付けた。中国側は慌ててロシア側を説得し、その主張の一部を決議案に取り入れ、全会一致の採決に持ち込んだ。全人代中の3月10日、王毅外相が異例にも突如北京を離れ、訪ロした。真相は分からないが、傅瑩論文に対するロシアの疑念の除去に中国が近頃、かなり気を使ったのは間違いない。それで3月初め、同じ傅瑩氏は、「中ロ間は高度に相互信頼しており、その関係は外部の要素に影響されることはない」とわざわざ表明した。
(4)中國人大網 160304 傅瑩:中俄深度互信 不會受到外界其他因素幹擾 http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/2016-03/04/content_1968290.htm

 続いて習近平主席は訪中したプーチン大統領の右腕イワノフと会見した。
(5)人民網 160326 習近平會見俄羅斯總統辦公廳主任 http://cpc.people.com.cn/BIG5/n1/2016/0326/c64094-28228450.html

 「中ロ間の全面的戦略協力パートナーシップを発展させるのは両国の共通した戦略的選択であり、それぞれの外交の優先方向である」と語った習近平氏は、すなわち、「中国外交は対米関係を優先にしてロシアとの関係を犠牲にすることはない」とのメッセージを送りたかった。

 それを背景に、ロシアはインドを説得して、中国に大きなプレゼント送った。3カ国外相会談で、ロシアとインドは、南シナ海における中国の立場を支持すると初めて明確な意思表示を行った。
(6)文匯網 160420 俄印聲明支持中國南海立場 http://trans.wenweipo.com/gb/news.wenweipo.com/2016/04/20/IN1604200004.htm

 更に、中ロ外相は、米軍のTHAAD配備への反対を含め朝鮮半島の諸問題に関する新たなコンセンサスを発表した。
(7)中華人民共和國外交部 160429 王毅:中俄雙方就朝鮮半島形勢形成新的共識 http://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/t1359733.shtml

 そしてここ数カ月、中国はロシアに対して大規模な経済支援を行った。中国国内では「ここまでお金を注ぎこんでいいのか」との疑問が出たぐらいである。
(8)和訊網 160504 中國有必要修正對俄羅斯的砸錢政策 http://opinion.hexun.com/2016-05-04/183660680.html

 かといって、中国がロシア寄りになったわけではない。中国の著名な米中関係専門家は、国内の反米ナショナリズムに対し、米国との関係は戦略的なもので、策略レベルのものではないと堂々と反論した。
(9)共識網 160226 牛軍:與美國合作是戰略,不是策略和權宜之計 http://www.21ccom.net/html/2016/zlwj_0226/1924.html

 4月に入って、中国中央軍事委員会総参謀長房峰輝将軍がカブールを訪れ、アフガン、中国、パキスタン、タジキスタンを含む「反テロ地域連合」の設立を提案した。ロシア勢力圏に食い込み、米国の中東、アフガン政策に事実上助けの船を出すこの提案はモスクワで憂慮を呼んでいると言われる。
(10)多維新聞網 160324 中美俄新三國演義 中國或處於最下風 http://opinion.dwnews.com/news/2016-03-24/59727734.html

●米中投資協定の交渉を注目せよ

 米中関係の行方を占うもう一つの重要なシグナルを絶対見落としてはならない。
(11)中國新聞網 160317 中國商務部:中美投資協定談判取得新的進展 http://www.cankaoxiaoxi.com/china/20160317/1102975.shtml

 李克強首相が3月5日に行った政府活動報告で、「中米、中欧投資協定の交渉を推進する」ことに言及し、3月17日、中国商務部は、米中の投資協定交渉(BIT)で新しい進展を見たと発表した。

 日本で発行する英字誌も、この動きを注目した。
(12)《外交家》160329 中美雙邊投資協定談判進展令人關註 http://us.cccfna.org.cn/article/%E7%BE%8E%E5%9B%BD,%E4%B8%AD%E5%9B%BD,%E7%BB%8F%E6%B5%8E/403.html
 原文:Are China and the US Close to Sealing an Investment Treaty? http://thediplomat.com/2016/03/are-china-and-the-us-close-to-sealing-an-investment-treaty/

 BIT交渉の重みは言うまでもない。TPPの水準に負けないぐらいの市場開放を目指すもので、中国国内の経済改革の深化を力強く促進する「外圧」にもなる。中国は米国とEUの双方に、思い切った市場開放を行う覚悟を決めた(日本は?)。そのため、「新しい進展」が発表され、もしかすると、年内の大筋合意もあるのかもしれない。

 これらの動きについて、オバマ政権は当然、合わせて見ている。そのため、南シナ海の黄岩島(スカボロー礁)で中国が新たに埋め立てをする可能性を牽制する一方、南シナ海での「航行の自由」巡航を公約の「3カ月に2回」のペースを大幅にスローダウンしている。実に「奇奇怪怪な情勢」であるが、より大きな背景も把握した上で米中関係を眺め、そして対中政策を考えるべきだ。

 (筆者は東洋学園大学教授・オルタ編集委員)

※この原稿は参考消息(新31号2016/05/04)を編集部が要約し著者の校閲を得たものですが文責は編集部にあります。


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