【コラム】
中国単信(91)

中国茶文化紀行(28)花茶の世界

趙 慶春

 宋代の喫茶文化について紹介するなかで、「花茶」に触れるのは、この「花茶」なるものが宋代に始まったからである。宋代の「花茶」については後述するが、まずは「花茶」とは何かを見ておく。

 茶の分類については、分類基準によっていくつもの分類方法がある。その中でもっともよく使われる分類法は中国発で、世界的にも定着しつつある「発酵程度」(酸化程度)による分類である。それは「緑茶、白茶、黄茶、青茶(ウーロン茶)、紅茶、黒茶」の6種類に分類されている。
 日本は茶生産の大国だが、緑茶が大部分を占め、紅茶、青茶、黒茶の生産は僅かで白茶と黄茶は生産されていないようである。ただ、喫茶文化の国際化に伴い、この6種類の茶はすべて日本にも流入しており、知られるようになってきている。

 しかし、「6種類ですか、花茶はどの種類に入りますか?」「ジャスミン茶はどの種類?」「花茶は第7種類目の茶では?」という質問をたびたび耳にする。
 実は花茶は「再加工茶」と呼ばれるもので、上記6種類の茶をベースに花の香や花びらを加えた茶であり、緑茶ベースに加工した花茶は緑茶花茶、紅茶ベースに加工した花茶は紅茶花茶になる。ただし、緑茶花茶や紅茶花茶のような名称はおそらく存在せず、基本的には「茉莉花茶」(ジャスミン茶)のように個別銘柄で呼ばれ、使用された「花の名」を冠するものが多い。

 したがって、6種類の茶はすべて花茶にできるのだが、茶と花の相性や消費者の好みなどから、緑茶ベースの花茶がもっとも多く、花茶の絶対多数を占めている。「福建茉莉花茶」「茉莉牡丹繍球」「歙県珠蘭花茶」「碧潭飄雪」「蘇萌毫」「湖南茉莉花茶」「貴州針茉莉花茶」「猴王牌茉莉花茶」などがその代表的な銘柄である。
 紅茶ベースの花茶は数量的に遥かに緑茶に及ばないが、「玫瑰紅茶」「荔枝(ライチ)紅茶」などはその代表的な銘柄である。

 また、広西壮族自治区桂林市生産の「桂花茶」は金桂花(月桂、月桂冠)を使って製造した花茶だが、緑茶ベースもあれば、紅茶ベースもある。「柚子花茶」は柚子を使った花茶で、広西省、福建省、貴州省、広東省、湖南省、浙江省で生産されていて、やはり緑茶もあれば、紅茶もある。

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  「桂花九曲紅梅」。紅茶ベースの花茶

 ウーロン茶ベースの花茶もあるが、ウーロン茶の総数から見れば極めて少数派の珍しい存在である。

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  「蘭貴人」。ウーロン茶ベースの花茶

 白茶ベースの花茶もきわめて少なく、喫茶文化に強い関心を持つ筆者も白茶ベース花茶の存在を知らなかった。中国で茶販売を営む友人によると、最近「白毫銀針」ベースの花茶が出てきているとのこと。白茶は全般的に高価だが、「白毫銀針」は中でもトップクラスの高級品であり、それに高級な花を加えた再加工茶の「白毫銀針花茶」は味は言うまでもなく、高価である。

 黒茶は酸素発酵と微生物による後発酵の二重発酵で味が重厚であり、花の香との相乗効果は得にくいと言われていて、黒茶ベースの花茶もきわめて少ない。従来は花より香りの強い陳皮(乾燥したみかんの皮)との再加工茶はあったが、厳密に言えば、陳皮は果実なので、陳皮入りの黒茶は花茶ではない。下の写真「開明古韻茶葉有限会社」産の玫瑰(薔薇)プーアル黒茶は一つのチャレンジ作だと言えるだろう。

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  黒茶ベースの花茶

 黄茶ベースの花茶の存在を筆者は寡聞にして知らない。黄茶は高価で再加工茶にするのは「もったいない」とよく言われるのだが、実は黄茶の消費量が年々減少し、生産そのものが危うくなっていて、花茶への再加工がされていないのだろう。

 花茶は中国知識人の遊び心から生まれたもので、安定した品質や商品としてのクオリティなどを問わなければ、乾燥した花びらや新鮮な花びらで茶に花の香をつけるのはそれほど難しくはなく、個人でもできる。したがって商品としては流通していないが、黄茶ベースの花茶の存在は否定できない。これは黄茶に限らないだろう。

 日本で生活している筆者が桜の開花を待って、その花びらを茶の湯にいれてたびたび楽しむように、個人の楽しみ方も含めれば、花茶の世界は流通している商品より遥かに豊かだろう。このように考えれば、人間の創造力は思いもかけない花茶を世界のどこかで日々誕生させているのかもしれない。

 (大学教員)
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